ブログ うつと酒と小説な日々

躁うつ病に悩み、酒を飲みながらも、小説を読み、書く、おじさんの日記

楽園は兄妹を地獄に落とすか

2017年10月18日 | 文学

 昨夜、ずいぶん昔に読んだ夢野久作の「瓶詰の地獄」を読み直しました。

瓶詰の地獄 (角川文庫)
夢野 久作
角川グループパブリッシング


 ごく短いながら、強烈な印象を、少年の頃の私に残したことを覚えています。

 なぜか昨夜、急に読み返したくなって、パソコンを開き、青空文庫を検索したところ、アップされていたのを確認した時は、嬉しくなりました。

 内容はいたってシンプル。

 ある島の村に、ビール瓶が3本、流れ着いているのが発見されます。
 中にはそれぞれ鉛筆で書かれた手紙らしきものが入れられています。

 そのことを海洋研究所に報告し、提出する旨の村役場による候文が最初に置かれます。

 その後、難破してその島に流れ着いたと思しき兄と妹の2人の手紙が、それぞれに入っています。
 
 その島に流れ着いた時、兄は11歳、妹は7歳。
 島にはパイナップルやバナナ、鳥の卵などが豊富にあり、食うに困りません。
 難破した時に避難に使ったボートを建材にして、小屋を作り、2人は幸せに暮らします。
 そこはまさしく、二人だけの楽園でした。

 二人は聖書を大事にしていることから、クリスチャンであることが示されます。

 数年経つうちに、2人はたくましい若者と、美と若さにあふれる少女に育ちます。

 島に若い男女が二人きり。
 しかし二人は兄と妹。
 さらには、二人とも、敬虔なクリスチャン。

 普通に育てばあり得ない、しかし環境のゆえにこそ、互いが互いを求め合うことを望みながら、それを隠しあい、煩悶する。

 二人きりの楽園は、二人であるがゆえの、地獄と化していきます。

 最初に示される手紙は、おそらく物語のラスト、救いの船が近づいてくるのを目にした妹によって書かれています。
 その内容は、禁忌を犯してしまった二人は、救われて父母に会うことはできないのだから、救われる前に身投げするしかない、というもの。

 次に示されるのは、肉体の欲望に耐えに耐えながら、堪え切れずに、救助船が来た場合に備えて立てた目印の旗を降ろし、聖書を燃やして妹の元に向かう兄の告白。

 おそらくこの時、二人は禁忌をおかしてしまったのでしょう。


 最後に示されるのは、おそらくまだ幼かった兄が最初に出したと思われる、カタカナの短い手紙。

 オ父サマ。オ母サマ。ボクタチ兄ダイハ、ナカヨク、タッシャニ、クラシテイマス。
 ハヤク、タスケニ、キテクダサイ。

 まだ兄妹が性に目覚める前に出した幼い手紙を頼りに、両親は何年も経って、島を特定し、救助船で向かったのでしょう。
 しかしそれを見た二人は、人間の世界に還ることはできないと、死を決意するのです。

 二人がクリスチャンであることから、アダムとイブの失楽園を彷彿とさせる内容になっています。

 夢野久作といえば、とにかく長編「ドグラ・マグラ」が有名ですが、じつは短編にこそ、この作者の本領が発揮されていると思います。
 例えば、虚言癖のある少女が嘘に嘘を重ねた末に破滅に陥る「少女地獄」などは、短編ながら圧巻の迫力です。

ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)
夢野 久作
角川書店

 

ドグラ・マグラ (下) (角川文庫)
夢野 久作
角川書店



少女地獄 (角川文庫)
夢野 久作
KADOKAWA

 戦前に活躍した、怪奇な世界を描き続けた作家ですが、今なお、その魅力は薄れていない、と感じさせられます。


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