昨夜は恒川光太郎の短編集、「金色の獣、彼方に向かう」を読みました。
金色の獣、彼方に向かう (双葉文庫) | |
恒川 光太郎 | |
双葉社 |
「異神千夜」・「風天孔参り」・「森の神、夢に還る」・「金色の獣、彼方に向かう」の4作品が掲載されています。
それぞれ独立した短編ですが、唯一、イタチに似た妖しい獣が登場するところに共通点があります。
「異界千夜」は元寇の前後を描いた時代作品。
南宋、対馬、博多あたりを舞台にした壮大な作品で、内容的には長編時代ファンタジーのような読後感です。
この作者の作品は、切なく美しい幻想文学がほとんどなのですが、この作品は、元の蛮行を恨む女の怨念や、彼らと行動をともにしながら、ついには裏切らざるを得ない男の苦悩などが怖ろしく、ゾッとさせられました。
「風天孔参り」は、ある山の登山口近くでレストランを営む50代の男が遭遇する不思議な物語。
ある時女子大生が客としてやってきて、従業員として居つき、彼女の口から風天孔参りの話を聞きます。
山中に突如小さな竜巻が起き、そこに飛び込んだ人間は天に消えてしまうとかで、限りなく自殺に近い、風天孔参りをする集団がある、と。
そして女子大生は風天孔参りに参加してしまい、それを追った50代の男の運命やいかに、というお話。
「森の神、夢に還る」は、あらゆる生き物に憑くことができる森に住む「私」が、森の近くの駅でナツコという女性に憑き、上京して様々な経験をする物語。
ナツコと「私」の関係性が哀れを誘います。
「金色の獣、彼方に向かう」は、川っぺりの家で暮らす少年がイタチに似た奇妙な生き物を見つけ、それを飼い始めるところから物語は始まります。
イタチに興味津々の川向うに住む少女との交流が描かれますが、恋心とかそういうものとは無縁です。
少女はイタチを使って、暴力をふるう義父を亡き者にしようと企んでいるのです。
また、川原のあちこちに墓を掘る、猫の墓堀人と呼ばれる老人、イタチを操る鼬行者など、興味深い存在について語られます。
これで7冊連続で恒川光太郎作品を読んでいます。
今刊行されている恒川作品で未読なのは3冊のみ。
すでに購入してあります。
あと3冊読んだら新刊を待つしかないというのは寂しい感じがします。
この作者の作品にはハズレがなく、どれも楽しい読書体験であるとともに、どの作品にも、この世の存在、異界の存在、ありとあらゆる存在そのものが根源的に持つ切なさみたいなものが感じられ、それは一種の痛みでもあるわけですが、心地よい痛みとでも呼ぶべきものです。
私は心地よい痛みを感じたくて、この作者の幻想的な作品群を読み続けているのかもしれません。