昨夜、貫井徳郎の「追憶のかけら」を読了しました。
追憶のかけら (文春文庫) | |
貫井 徳郎 | |
文藝春秋 |
不思議な小説です。
最愛の妻を事故で亡くした国文学者の大学講師が、ふとしことから、短編をわずか5作残しただけの、忘れられた作家の手記を手に入れます。
この作家が死を前にして、自殺にいたる経緯をつづったものです。
この作中作品、たいへん読み応えがあります。
これだけで、十分一個の作品と言ってよいでしょう。
この手記では、友人の瀕死の復員兵から、かつての愛人に会い、自分の代わりに詫びを入れてほしいと作家が頼まれます。
作家は善意で元愛人を探すのですが、その過程で様々な悪意に出会い、ついには自殺に追い込まれます。
で、その手記を手に入れた大学講師。
彼はなかなか業績が上げられず、このままでは研究者としてやっていけないと感じていますが、手記を手に入れたことで、金鉱を見つけた気分になります。
未発表の手記をもとに論文を書けば、十分な評価が得られるはずだ、と。
しかし、大学講師にも、悪意が忍び寄ります。
大学講師の研究者生命を断とうとまでする悪意。
大学講師の運命は二転三転し、というお話。
貫井徳郎の作品としては、やや冗漫で、破綻している箇所があるようにも感じられますが、悪意の根源が、とても邪悪とは程遠いと思われる人物だったと判明し、ぞっとさせられます。
人間というもの、強い恨みつらみを持てば、どこまでも邪悪になれるもののようです。
その動機が、客観的に見てどんなに些細なものであっても。
私や、近しい人々もまた、一歩間違えれば、強い悪意をもって他人を陥れようとする存在なのだと痛感させられて、慄然としたところです。