今日は晴れていましたが、北風が強かったため、終日自宅にこもり、小説を読んで過ごしました。
読んだのは、平野啓一郎の「顔のない裸体たち」です。
顔のない裸体たち (新潮文庫) | |
平野 啓一郎 | |
新潮社 |
小説には、一人称、三人称の文体が多く、二人称もごくまれにあります。
三人称の場合、作者が全体を俯瞰する、神の目線で描かれることが多いですが、この作品は、一種のフェイク・ドキュメンタリーの形を取っており、ジャーナリストが語る、ということになっていたため、神の目線は取られていません。
それが小説に真実味を与えているかは、ちょっと判断しかねるところです。
小学校から高校までイジメにあっていた市役所職員の片原と、中学教師で平凡な思春期を送った希美子が出会い系サイトで出会い、激しい性交を重ね、ついには野外露出、さらに動画をインターネットの動画サイトに投稿するなど、性的逸脱とも言うべき行為に走り、ある小学校でこっそり野外露出の動画を撮影中に教師らにみつかり、片原は持っていたジャックナイフで教師らを刺し、怪我を負わせるまでの経過が、淡々とつづられます。
これはおそらく、性を描いた文学ではなく、世間が認知する自分と、本当の自分(そんなものがあるとすれば)、さらには性欲に没頭する自分など、人格の乖離を切り取ってみせたものかと思います。
しかしそれが成功しているとは言いがたいのもまた事実です。
平野啓一郎というビッグネームでなければ、この作品は評価されなかったのではないか、と思わせるような、破綻を感じさせます。
それでも、文庫本で180ページあまりと短いこと、この作者にしては表現が難解ではないことなどのせいか、一気に読んでしまいました。
読ませる力はさすがに平野啓一郎です。