なんだか台風を思わせるような風雨に閉じ込められ、いっそ自虐的に、閉じ込められる恐怖を描いたDVDを鑑賞しました。
「エレベーター」です。
世に密室劇と呼ばれるジャンルがありますね。
多くは警察の取調室などで、2、3人の登場人物がセリフのみで描き出す心理劇です。
今日観たのは、おそらく世界で最も狭く、しかも登場人物が多い密室劇ではないでしょうか。
ある高層ビルの最上階で行われる投資会社のパーティに向かうエレベーターに閉じ込められた9人の物語です。
9人の関係性が複雑です。
引退を決意した投資会社の会長とその孫娘、会社の現役社員の男2人と女1人、現役社員の婚約者でニュースキャスターの女、投資家の老婆、それに余興で呼ばれた売れないコメディアンと警備員です。
で、まずは人種的背景から言って米国らしい多様さ。
コメディアンはユダヤ系、警備員は中東系、ニュースキャスターはインド系、他は外見から言って、いわゆるWASPかと思われます。
コメディアンがいきなり人種差別的ジョークを飛ばします。
すなわち、中東系の警備員をテロリスト呼ばわり。
しかし、自ら「5,000年虐げられてきた」とほざき、ユダヤ系だとばれてしまい、今度はインド系の女がインド系にはどんな差別をするのかと詰め寄ります。
エレベーターが動き出すと、閉所恐怖症だというコメディアンが震えだし、面白がって会長の孫娘がなんと非常停止ボタンを押してしまいます。
驚きながらも、すぐに復旧するだろうと、警備室に連絡し、しばし待つことに。
しかしなかなか動き出さず、次第にそれぞれのバックボーンが明らかになります。
まず、社員の女は妊娠しており、しかも父親はインド系のニュースキャスターと婚約した男。
それを知ったニュースキャスターは激怒。
人前、しかも狭いエレベーターの中で痴話喧嘩になってしまいます。
また、投資家の老婆は息子をイラク戦争で失い、夫婦2人でクルーザーを買って慰めあおうとなけなしの金を投資会社につぎ込んだところ一文無しになり、数ヶ月前に夫が自殺していたというのです。
で、この老婆、「パーティにはメッセージを届けにきた」と言った後、心臓発作を起こし、最後に「私には時間がないの。爆弾・・・」とつぶやいてエレベーターの中で亡くなってしまいます。
老婆の遺体を探ると、腹にワイヤーで小型爆弾らしきものが巻いてあります。
ここからはパニックを起こしつつ必死で助かろうとするハリウッドによくあるパターン。
密室劇を心理劇ではなくパニック映画として描くのは珍しく、珍しいだけあってやや無理があります。
茫然自失して座り込んでいた老いた会長が、にわかに元気になって他の者に指示を与えつつ、自ら小さなナイフで老婆の遺体を分解して爆弾を外そうとする様は不気味な迫力があります。
大会社の会長にまで上り詰める過程では、おそらく危ない橋を渡ってきたものと思われ、その経験が非常事態に会って老いた男の魂に火をつけた模様です。
最後まで冷静さを失わなかった肥満の社員、結局何もせずに意見を言うだけでしたが、彼の最後のセリフが「僕がヒーローだ」というもの。
その意味するところは映画をご覧になっていただければわかります。
米国社会の人種差別や貧富の格差、ブロンドとはお遊びで人気キャスターのインド系と結婚しようというWASPのエリートサラリーマンの女性観など、ステレオタイプ過ぎるほどに型にはまった描かれ方で、途中から風刺映画のように見え、そう思うとやたらと危機感を煽ってそれを乗り越え、ヒーローになろうとする米国人気質そのものをおちょくっているようで、なんだか笑ってしまいました。
パニック映画やホラー映画というもの、一歩間違えるとコメディになってしまうのじゃなと、変に納得したしだいです。
エレベーター [DVD] | |
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