以前、夢日記をつけていたことがあります。
筒井康隆が夢日記をつけている、と知り、その真似をしたのです。
しかし、一カ月ほどでやめました。
夢日記をつけ始めて5日ほどで、毎夜見る夢が、極めて鮮明になりました。
その後、日を追うごとに夢は現実を侵食し、起きているのか、眠っているのか、夢と現実の境界が曖昧になってきて、怖ろしくなってやめたのです。
やめると、すぐに現実は力強く蘇り、夢は勢力を失いました。
その後、私は宮城音弥の「夢」や、ルドルフ・シュタイナーの「神秘学概論」などを読み、夢日記は危険であることを知りました。
ショウペンハウアーは、夢は短い狂気、狂気は長い夢、と評しています。
夢に関しては、予知夢、白昼夢、夢遊病、夢想、性的抑圧と、様々に分析されていますが、その実態は謎のままです。
面白いのは、断夢実験、というレム睡眠が起きた途端に起こす実験です。これを行うと、レム睡眠が後に過剰に増えるそうです。
つまりレム睡眠による夢が不足すると、脳はそれを補おうとするわけで、これは夢が人間が生きていくうえでぜひとも必要だということを表しています。
私は毎朝、夢日記をつけてみようか、という欲望にかられます。
しかしそれが、底なしの退行欲求に繋がっていると知ってしまった以上、決して手を出してはならない劇的な麻薬なのです。
明日の朝も、私はアルコール中毒患者が震える手で酒瓶から酒を捨てるように、見た夢を放置しなければなりません。
夢 (1972年) (岩波新書) | |
宮城 音弥 | |
岩波書店 |
神秘学概論 (ちくま学芸文庫) | |
Rudolf Steiner,高橋 巖 | |
筑摩書房 |