菜の花座前回公演『予兆 女たちの昭和序奏』団員配布用ビデオ、ようやくできた。苦難の海を漕ぎ渡り、逆境の山巓を乗り越えて、ついに完成!って、まっ、大げさだが、神経細胞100個程度はすり減らしたな。
ことの起こりは、自前のビデオ撮影に失敗したこと。こりゃ単純にアホなだけだったが、幸い地元ケーブルテレビが録画中継してくれるってんで、その気の緩みってやつだろう。放映されたら、それ録画してダビングすりゃいいさ、ってね。
ところが、ここも迂闊、放映された映像は、ダビング禁止だった。まっ、考えてみりゃそりゃそうだ。テレビ番組、勝手に録って次々焼き増しされちゃかなわんものな。それも分からず悪戦苦闘にまる2日、録画形式のせいじゃないかと変換ソフトを買い、さんざん試すも効果なし、ようやくコピー禁に気付き、それじゃコピー禁解除のフリーソフト入れてなんとかと、さらにも無駄骨何本も折って、すべては徒労の数日間が過ぎた。その間、PCにコーヒーをぶちまけて書き込みドライブぱぁ!外付けドライブを急遽購入してしのぐなんて、要らぬおまけまで付いた。
そうか、だったら、最初からテレビ会社にもらえばよかったのよ、コピー禁かかってない録画ビデオ。さっそく、テレビ局に電話した。
「菜の花座の公演ビデオ、欲しいんだけど、・・・」
「わかりました。有料でお分けします。」
「えっ!?ちょ、ちょっ、ちょっと待て!有料?なんで、自分たちの公演だぜ。」
「社内規定なので、6000円いただきます。」
「待てよ、待てって。3時間もの大作、放映料とかいっさいもらわずに提供してあげたよね。」
「ビデオは放送局の著作物ですから。販売いたします、6000円。」
「こっちの著作権はどうなるの?」
「社内規定なので。6000円」
「そりゃそっちも撮影したり編集したりと手間はかけてるだろうけど、こっちは3か月以上、20人の人間が心血注いで作り上げたんだぜ。いや、台本書きから言ったら半年の時間が詰め込まれてるんだ。」
「6000円でお分けします。」
「菜の花座の作品なけりゃできなかった番組なわけだろ?金、よこせとは言わない。せめてダビングビデオの1本くらいくれたっていいでしょ。」
「上役とも相談いたしまして、6000円で。」
「そっちも創作に携わってるわけだろ、作品の著作権へのリスペクトはどこにあるの!!」
「どちらの団体様にも6000円、頂戴しています。」
「他団体のことは知らないよ。その人たちは、自分たちの創造物の価値、わかってないんじないの?文化、芸術団体の貴重な創作活動あってのテレビ放映だろうが。」
「それでは、上司と相談いたしまして、後日お返事差し上げます。」
数日後の会話。上記の繰り返し。さらに、数日後。
「上司と相談いたしまして、今回に限り無料で差し上げます。」
「おいおい、なんかそれ、クレーマー対応じゃないか。もう、うるせえから、今度だけってことで話しつけよう、って。」
「いえ、事前の話し合いが不十分だったとの理由からです。」
「て、ことは?」
「次回からは、規定に従い6000円いただきます。」
「それねぇ、違うでしょ。こちらの著作権を尊重してくれって言ってんのよ。なんも6000円出すのが惜しくて食い下がってんじゃないの。6000円払えないほど貧乏じゃないよ、菜の花座、いや、貧乏だけど。ビデオ1本の提供にも値しないってことなのか、あの作品は?せめてね、お陰で良い放映ソフトいただきました、これつまらないものですが、菓子折り代わりにビデオです、って、それが常識なんじゃないの?以前は、そうしてたでしょ?」
「社の方針が変わりましたので。」
「だったらねぇ、上役の人に伝えてよ。その社内規定、見直しが必要だって。今の時代、著作権は重要なんだって。地元の文化、芸術育てるためにも、創作者にリスペクトが必要なんだって。撮ってやる、放映してやるって態度、もう古いから。」
「今回に限り、無料で。」
「わかったよ、もらうよ、ただで。」
6000円叩きつけてやろうか、と、ムラっと思ったが、無意味な怒りだとすぐに撤回。よしっ、いいさ、次に録画中継する時にゃ、こっちもビデオしっかり録って、弱み失くして、また一悶着してやろうじゃないの。
「いいかい、上司に伝えてよ。その社内規定の見直しね。それと、あんたが出世したら、なんかクレーマージジイが騒いでたな、なんて思い出さずに、作り手の労苦に心する上役になってね。」
「は、はい。それでは、準備できましたら、お電話いたします。」
「何日も、長い時間、ご苦労さん。」
と、数々の苦難を乗り越えて、出来上がったビデオだ。2枚組、菜の花座として記念すべき公演だものね。
それにしても、地元の芸術団体、弱気過ぎるぜ。もっと、自分たちの活動に自信持たなくっちゃ。放映してくれて嬉しい!はいはい、テレビ局様の仰せのままにいたします。そんな揉み手すり寄りしてってから、足元見られるんだって。舞台も演奏も、作り手が主体!そこんとこ、しっかり腹に据えようぜ!