T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

1290回 [ 「この嘘がばれないうちに」を読み終えて 10/? ] 4/29・土曜(晴・曇)

2017-04-28 15:48:06 | 読書

そのⅡ―[倉田の依頼で、二美子は倉田が来ている喫茶店に麻美を誘う]―

 2年半前の夏……。

 倉田は、急性骨髄性白血病と診断され、治療次第で助かるかもしれないが、放っておけば余命半年と宣言を受けた。麻美との交際が始まって2年目の夏のことだった。

 密かに結婚指輪も準備し、プロポーズしようと決めていた矢先のことだった。

 この喫茶店では、過去に戻れるだけでなく、未来にも行けるということは、二美子から聞いてはいた。だが、いざ、自分の計画を実行するとなると、二美子から得た情報だけでは心もとない。そこで、倉田はこの喫茶店に出かけ、自分の考えた計画が実行可能か直接聞いてみることにした。

 ここには、二美子に連れられて二度ほど来たことがあったので、(医師から余命半年の宣告を受けてすぐに)迷うことなく喫茶店を訪れた。

 倉田は挨拶もそこそこに、すぐさま、数に自分の計画を話し始めた。

 未来に行った場合のルールの説明を受けて、内容は理解できたが、ひとつだけ困ったことは、麻美は、この喫茶店を訪れたことがなかったのだ。しかし、訪れたことがある人が案内した場合は、この限りでないとのことで、二美子を案内の協力者に選んだ。

 ―中略―

 倉田は、相談があると言って二美子を呼び出し、こう切り出した。

「僕はおそらく半年後にはこの世にいません」

 驚く二美子に、倉田は診断書を見せ、医者からの見解診断を説明し、1週間後には入院することになる、と。そして、

「僕は、例の喫茶店へ2年後(2年も経てば麻美の心も落ち着いていることだろうとの倉田の計算だろう)の未来に行きます。2年後、僕が死んでいたら、麻美をそこに連れてきてもらえませんか」と告げた。

 二美子は、倉田の「死んだら」という言葉を聞いて複雑な表情を見せた。

「ただし、麻美を呼ばなくてもいい場合の条件が二つあります。まず、僕が死ななかった場合は連れて来なくても結構です。それと、僕が死んだ後、麻美が結婚をして幸せになっている場合は、連れてこないでください

「え? 言っている意味が分からないんだけど……」

未来に行って、麻美に会えなければ、麻美が結婚して幸せになっているんだと判断して、戻ってきます。でも、もしそうでない場合には、麻美に伝えておきたいことがあるんです(流産した後に言った、麻美が幸せなることが僕の幸せにもなるという信条)……だから……」

 倉田はどこまでも麻美の幸せを願っていた。

 最後に、倉田は、「この計画を麻美に話すかどうかは、二美子の采配にお任せしたい」と告げて、深々とと頭を下げた。

   

 倉田の死後、二美子は、どのタイミングで、どのように麻美にこの話をしていいのかを直前まで悩んでいた。

 二美子が倉田から出された、麻美を連れて来なくてもいい条件は、

  一、倉田が死ななかった場合

  二、倉田が亡くなった後、麻美が結婚をして幸せになっている場合

 この二つで、一の場合は当然のことと理解できるが、二の場合、二美子の解釈で言えば、

「倉田のことを引きずって、麻美が結婚できないでいる場合は連れてきてほしい」ということになる。しかし、麻美が倉田を忘れようと努力しているのに、結婚していないという理由だけで倉田に会わせるのは避けたい。

 麻美はというと、倉田の死後、しばらくは悲しみに暮れていたが、半年も経った頃にはいつも通りの生活に戻っていた。二美子からは、倉田の死を引きずっているようには見えなかった。そけだけに、会わせない方がいいのではないかと、約束の日に麻美を連れて行くかどうか、判断が難しかった。

 気がつけば、約束の日は1週間後に迫っていた。

 二美子は悩みぬいた末、夫の五郎に相談した。五郎は、

「おそらく、これは君以上に彼女をよく知っている彼が、彼女のなんらかのトラウマから導き出した絶対条件なんだと思うよ。だからシステムエンジニアとして論理的に判断したらどうか」と言われた。

 二美子は、「結婚していても幸せではないという場合もあるが、その場合は、条件を満たしていないから、連れて行くことになるのね」と了解した。

 約束の日は、1週間後の12月25日(この日は、倉田が二美子に依頼した日から、2年と数か月後の未来になる)のクリスマス。19時。

 もちろん、条件の話は内緒にして、その時間に倉田が過去からやってくると告げると、麻美は消え入るような声で「わかりました」と呟いた。

 ―中略―

 倉田が来る当日、麻美は会社を無断欠勤していた。誰が連絡してもつながらない。

 麻美自身も、会うか会わないかを悩んでいるのかもしれない。

 二美子は、(今日、19時に例の喫茶店の前で待っているからね)とだけ、メールを打った。

 ―中略―

 その日の夜。時刻は倉田との約束を少し過ぎたところだった。しかし、麻美は現れない。

 二美子は、麻美に携帯を入れたがつながらない。

 仕方なく、喫茶店で待っているだろう倉田に電話で現状を伝えた。

 電話を切った後も、なんとなく後味の悪さを感じながら、帰ろうと思い足を一歩踏み出した。

 そのときだった。

「先輩、倉田君、まだ、いますか」と麻美が息を切らせて立っていた。

 二美子は腕時計を確かめた。19時ぴったりに来ていたとして、今は19時8分。

「行こう」と、二美子は麻美の背中を押して階段を駆け下りていた。

 地下一階。麻美は喫茶店の扉の前まで来ると、二美子に、

「先輩の指輪を貸してもらえますか」と願い出た。去年貰ったばかりの大事な指輪である。

(訳は後から聞こう)、二美子は迷うことなく麻美に差し出した。

   

  そのⅢ―[倉田が待つ喫茶店に麻美が現れる]―に続く 

 

 

 

 

 

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1289回 [ 「この嘘がばれないうちに」を読み終えて 9/? ] 4/29・金曜(晴)

2017-04-28 10:55:06 | 読書

『第三話「恋人」』

 ※薄黄色の蛍光ペンのところは、心理や情景等の描写で感動させられた文章。

 ※薄青色の蛍光ペンのところは、私が補筆したところ。

 ※下線を付けたところは、ポイントになる文章。

「第三話の登場人物」

 倉田克樹→ 主人公。

        2年半前、病気で余命半年と診断され、その通りに亡くなった男。

 森 麻美→ 克樹の恋人で会社の同僚。清川二美子の後輩。

 賀多田五郎→二美子の恋人で、数年後に彼女と結婚する。

「本作の文章を抜粋しての粗筋」

 そのⅠー[恋人の麻美に会うため、未来の例の喫茶店にやってきた主人公・倉田]―

 例の席に、過去から(2年後の未来に、)やってきたという男が座っている。

 この喫茶店では、過去に戻るだけでなく、未来に行くこともできる。

 しかし、未来に行くものは殆どいない。なぜなら、向かった未来での会いたい人のルーチンな行動が不明で、都合よく、この喫茶店に来ているかどうか分からないからだ。

 それでも、過去からやってきた男がいた。男は倉田克樹と名乗った。半袖のTシャツにハーフパンツ、ピーチサンダルという真夏の装いである。

 しかし、店内には天井に向かって聳え立つ大きなクリスマスツリーが飾られていた。

 今日は12月25日、クリスマスである。

「その恰好、寒くないですか」

 カウンターでミキの隣に座っている木嶋京子が倉田に声をかけた。

「何か、羽織るものを貸しましょうか」と、流がキッチンから顔を出した。

 倉田はすぐに小さく手を振って、「お冷を一杯いただけますか」と数に声をかけた。

 ―中略―

「お父さんの足がいい匂いになりますように」

 ミキが自分が書いた短冊を元気よく読み上げると、京子は「ぶっ」と声を上げて噴き出した。

 ミキは字の練習のために、クリスマスツリーに願い事を書いた短冊を括り付けているのだ。まるで、クリスマスと七夕が一緒に来たようなものである。

「馬鹿なこと書いてんじゃねーよ」と言って、流がケーキの箱を持ってキッチンから現れ、京子に渡した。京子に頼まれていたクリスマスケーキで、流の手作りである。

「これは絹代さんに……」と言って、持ち帰り用にコーヒーをひとつ添えた。

「本当に、ありがとう」と言って、京子は喫茶店を後にした。

 カランコロン。

「書けた?」と言って、ミキは倉田の前のテーブルの上を覗いた。

 倉田の手元には、ミキの使っているものと同じ短冊とペンが置かれている。これは、ミキが倉田にもお願い事を書かせようと渡したものだった。

「あ、ごめん、まだ、ちょっと……」と言って、倉田は、天井を見つめ少し考えて、ペンを走らせた。

 ―中略―

「二美子さんにもう一度連絡してみましょうか ?」

 流が、キッチンから顔を出して倉田に話しかけた。

 数分前にも、二美子の携帯に連絡しているのだが、二美子は出なかったのだ。

 二美子は、旧姓が清川といい、7年前に、この喫茶店で過去に戻って恋人に会った客で、今はその恋人の賀多田五郎と結婚し、今でもちょくちょくこの喫茶店に出入りしている常連客である。

 倉田は、「お気遣いありがとうございます」とだけ言って頭を下げた。

「二美子お姉ちゃんのこと、待ってるの?」と言って、ミキが倉田の顔を覗き込んだ。

「あ、いや、清川先輩ではなく……」と濁した倉田の言葉を聞いて、流が、

「二美子さんは、昨年、賀多田五郎さんと結婚されて、姓も変わられました。二美子さんとばかり思ってましたが、一体誰をお待ちなんですか?」と尋ねる。

「先輩、結婚できたんですね。本当によかった」と、驚いた倉田は、

「待っているのは同僚の、森麻美という女です。清川先輩には、彼女をここに連れてきてもらうようお願いしていました」と戸惑いながら答えた。

 倉田が、過去から会いに来たのは、森麻美という二美子の後輩で、倉田とは同期入社である。

 その同僚の麻美に、どんな理由があって、過去から会いに来たのか分からない。流も、それ以上は聞くつもりはないのだろう。

「なるほど……。早く来てくれるといいですね」と呟いた。

 すると、倉田は、少し微笑んで、

「来なければ来ないで、それはそれでいいんです」と返した。

「どういうことです?」と、流が聞くと、

「結婚の約束はしていたのですが、おそらく叶えてあげられないと思うので……」と、気まずそうに俯いた。

(別れた彼女のことが心配で会いに来たのか)と、流も、倉田の沈んだ表情を見て、なんとなく事情を察したのだろう、「そうですか」と言ったまま、それ以上何も言わなかった。

 るるるる、るるるる……。

 奥の部屋で電話が鳴ったので、流が奥へと姿を消した。

   

 倉田と麻美は同期メンバーでよく飲みに行った。そういう飲み会では、仕事上の愚痴などが多くなりがちだが、倉田は、一度も会社や上司を悪く言うことはなかった。

 麻美はそんな倉田を「超ポジティブな人」と評価はしていたが、入社当時は付き合っている彼氏もいたので、倉田を男性として意識することはなかった。

 そんな倉田と麻美の距離が縮まったのは、麻美が別れた彼氏との間にできた子を流産したことを話したのがきっかけだった。

 もちろん、妊娠が分かったのは別れた後であったし、別れたショックから流産してしまったというのでもない。麻美は、もともと流産しやすい体質だった。

 しかし、どんな事情であれ、妊娠を知った麻美はひとりでも産んで育てるつもりだった。だから、検査の結果、自分の体質が原因で流産してしまったことを知った麻美のショックは大きかった。赤ちゃんを殺したのは自分だと思いつめていた。

 麻美はこのままではいけないと、職場以外の女友達や家族などにも相談したが、心が晴れるような言葉をくれる人はいなかった。

 そんなとき、「何か悩んでいる?」と声をかけてくれたのが倉田だった。

 麻美は、倉田は男だからとは思ったが、誰でもいいから聞いてほしいという気持ちもあり、思いの丈を正直に話した。

 倉田は、赤ちゃんがお腹の中にいたのは何日間だったのかと尋ねた。麻美が10週だと答えると、

「じゃ、その70日間、お腹の子は一体何をするためにこの世に命を授かったんだろうね?」と問いかけた。

 これには麻美も怒りを覚え、「私が悪いっていうの?」と反論した。

 麻美は、子供を産んであげられなかったのは自分のせいだと思っている。

「お腹の子は何もできなかったわ。生まれてくることさえできなかった、私のせいで。私はこの子に70日の命しかあげることができなかったのよ。たった70日しか……」

 倉田は落ち着いた表情で、取り乱した麻美が泣き止むのを待って、こう言った。

「その子はね、70日という命を使って、麻美ちゃんを幸せにしようとしたんだよ」

 それは優しく、迷いのない、革新のある言葉だった。

「もし、このまま、君が不幸になったら、その子は70日という命を使って君を不幸にしたことになる」

 倉田の言葉は同情などではなかった。

でも、君がこれから幸せになれば、、その子は君を幸せにするために 70日という命を使ったことになるんだ。そのとき、その命に意味が生まれる。その子が授かった意味を作るのは君なんだよ。だから、君は絶対に幸せにならないといけないんだ。それを一番望んでいるのは、その子なんだよ……」

(私が幸せになることで、この子の命の意味を作ることができる)

 それは明確な答えだった。

 麻美にとって、倉田がただの「超ポジティブな人」ではなくなった瞬間であった。

   

 電話をとって、奥の部屋から戻ってきた流は、

「倉田……さん? 二美子さんからです」と言って、倉田に電話の子機を差し出した。

 倉田は、礼を言って電話を受け取った。

「あ、はい、そうですか……なるほど、いえ、とんでもない……ありがとうございました」

 電話の内容は分からないが、倉田が落ち込んでいる様子はない。

 倉田は流に子機を返し、「帰ります」と囁いた。笑顔ではあったが、消え入るような声だった。やはり、未来まで来たのに、麻美に会えなかったのは残念だったに違いない。

「これ、飾っといてもらえるかな」と、さっき願い事を書いた、短冊をミキに差し出した

 倉田は、「お世話になりました」と言って数に頭を下げると、目の前のカップを手に取った。

   

  そのⅡ―[倉田の依頼で、二美子は倉田が来ている喫茶店に麻美を誘う]―に続く

 

 

 

 

 

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