スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

自然権への固執&適性な食欲

2018-12-20 19:12:11 | 哲学
 自己の有に固執するということは,自己の現実的存在に固執するということであると同時に,自己のpotentia,現実的な力に固執するという意味でもあります。そのふたつは大抵の場合には両立するのですが,ときとして対立してしまう場合も生じます。その場合には,現実的存在の維持を重視するのも自己の有に固執することであるが,現実的な力の方を維持しようとすること,他面からいえばそのために現実的存在の維持については部分的に放棄することも,自己の有に固執することであると僕は考えます。したがって,現実的に存在する人間のコナトゥスconatusは,存在existentiaと力という両面から把握されなければならないと僕は考えるということです。
                                
 スピノザの哲学では,力というのは可能的なものではなく常に現実的なものを意味します。つまり現になし得ることが力であり,なし得ないことはいかなる意味でも力ではありません。このとき,このなし得る事柄が,その人間にとっての自然権jus naturaleであると規定されます。つまり,力に固執するということは自然権に固執するということと同じ意味を有するのです。
 このように考えれば,現実的存在の方を部分的に放棄し,現実的な力の方に固執することもまた,自己の有に固執することであり,第三部定理七でいわれていることに反しないということは分かりやすくなるのではないでしょうか。自己の力に固執するとは,自己の自然権に固執するという意味になるからです。したがって,現実的存在の維持を部分的に放棄したとしても,確かに自己の自然権には固執しているのですから,それが自己の有に固執していることになっておかしくありません。自然権なしに現実的に存在するということはあり得ないことだからです。
 逆にいえば,自己の現実的存在の方に固執するということは,自己の自然権を部分的に放棄していることになります。このことが自己の有への固執を意味し得るのなら,自然権の方に固執し,存在の維持を部分的に放棄するのも,同様に自己の有への固執であると僕は考えます。

 適性な食欲は現実的に存在する個々の人間によって異なります。だからAという人間にとっては適正な食欲であったとしても,Aと同じだけの食欲を感じるBという人間にとってはそれは過剰な食欲である,いい換えれば美味欲luxuriaであるという場合が生じ得ます。何度かいっているように,食欲というのは自然の秩序ordo naturaeが人間に対して要求する,人間にとっては絶対的な意味で受動passioに属する欲望cupiditasです。第三部諸感情の定義一は,この種の欲望は人間の現実的本性actualis essentiaであるといっています。したがってAという人間とBという人間は,現実的本性が異なる別の人間であるわけですから,必要とされる,すなわち自然の秩序によって要求されている食欲は異ならなければなりません。第四部定義八は,徳virtusが能動actioという状態における人間の現実的本性であることを示し,第四部定理三五はその限りで人間の現実的本性は一致するといっていますが,だからといってすべての人間が同じ量の食物を必要とするわけではなく,したがって適正とされる食欲まで一致するというものではないのです。
 なお,この点については次のことも注意してください。Aという人間の現実的本性というのは,Aという人間が産まれてから死ぬまでずっと同じであるというものではありません。Aという人間が現実的に存在するなら,その現実的本性は第二部定理八系でいうところの,Deusの属性attributumの中に包容される限りでも存在しますし,時間tempusのうちに持続するdurareといわれる限りでも存在します。このとき,神の属性に包容されている限りでのAの現実的本性は不変のものであり,このゆえに僕たちはAのことをAと確定することができます。ですが時間的に持続するような現実的本性は,その持続duratioのうちで変遷します。食欲についていうなら,Aが子どものころに適性である食欲と青年時代の適正な食欲,また老年期の適正な食欲というのは異なります。これが現実的本性は持続のうちでは変化すると僕がいうところの意味です。ですから単にAとBの適正な食欲が異なるというだけでなく,Aの適正な食欲は,Aの持続のうちでも異なるのです。
 これらのことは食欲だけでなく,睡眠欲にも妥当しなければなりません。
コメント
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