老人党リアルグループ「護憲+」ブログ

現憲法の基本理念(国民主権、平和、人権)の視点で「世直し」を志す「護憲+」メンバーのメッセージ

「戦争が廊下の奥に立ってゐた」

2025-04-07 10:32:40 | 戦争・平和
「戦争が廊下の奥に立ってゐた」
作者、渡辺白泉(1913〜69年、本名威徳たけのり)

この句は、2015年安全保障関連法を巡る議論が起きた際、市民団体が取り上げたことなどを切っ掛けに「、反戦句」として広く知られるようになった。
何と不気味な句であろうか。顔も輪郭も分からない不気味な何かが、薄暗い中でじっとこちらを見ている。

渡辺白泉は戦前はよく知られた俳人だったが、戦後は東京を離れ、俳壇から距離を置いたため、次第に忘れ去られる様になった。それでも白泉の、季語に拘る事なく口語体を取り入れるなど自由な俳句を高く評価する人々は今でも存在している。
私は無季俳句というのを渡辺白徳の俳句で初めて知った。

白水がこの句を作った1939年、日本は日中戦争の最中にあったが、国土が戦禍にみまわれる事なく、多くの国民はどこかこの戦争を対岸の火事のように捉えていた。そんな中で白泉は忍び寄る戦争の不気味さ恐さをいち早く捉えていた。
この頃、白泉は主に京大関係者が作った雑誌『京大俳句』に属していたが、治安維持法により逮捕され、東京の自宅から京都まで連行された。白泉は執行猶予とされたが、以後執筆活動禁止を言い渡された。
軍隊生活を経て戦後は沼津市沼津高校に社会科教師として赴任し、同僚と麻雀や囲碁、酒を嗜み、いつも穏やかな生活を送りながら、俳句に関しては家族に語る事も無かったという。

白泉は『反戦句人』や「銃後俳句」という枠で括れない人だった。「自由が奪われるのを嫌い戦争が嫌だったのではないか」と白泉の教え子で清水市在住の佐藤和成さんは述べている。
佐藤さんは母校の教師として一時白泉と節点があった。「俳句を作るというのは本当に怖いことなんだよ」という言葉を聞いたという。
白泉の京大俳句事件での深い傷を感じられる言葉である。

戦後は「手錠せし夏あり人の腕時計」という句も残し、戦争に関しての句には「憲兵の前で滑って転んじゃった」というのもある。そこはかとユーモアも感じられる句である。
自由を奪われる事を嫌い、拘束されてもなお戦争を嫌っていた俳人の句である。
戦争で日常と自由を奪われた人達、その中の1人だった白泉は、国や権力という大きな力に抗いながら、自由が奪われる怖ろしさを感じ取っていたのだろう。  

日本列島は今年も桜が満開の時期を迎えている。物価高で多くのストレスにさらされている人々は、せめて花見で憂さをはらそうと、今週末は多くの人達が桜の元に集まるだろう。
日本人の殆どは、イスラエルの戦禍、ガザの戦争を、どこか対岸の火事と捉えているのだろうか。

しかし日中戦争の最中に詠まれたこの句の1939年、世界恐慌が起きて2年後の日本は、第二次世界大戦へと突入していく。

私には花見で平和や娯楽を享受している人達の先には、戦禍に巻き込まれる準備が着々と成されているような気がしてならない。
戦争が不気味に眼を凝らしながら人々を見つめているような気がするのだ。

※ 毎日新聞3/26日夕刊の記事より引用しました。

「護憲+コラム」より
パンドラ
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「食の安全保障」の欠落した日本政府(その2)

2025-04-05 20:03:34 | 社会問題
1,(はじめに)
以前(2年前か)もコラムで投稿した問題ですが、現在の大きな問題として、コメ不足と米価の高騰があり、物価高に追い打ちをかける事態になっています。
東京には、各地から集まった農家の人たち約3000人が「令和の百姓一揆」デモを仕掛け、話題になっています。
どうやら、米価の高騰でもコメの生産は大赤字だと叫んでいるようです。

何故、再び、日本のコメの不足など、食料事情は悪化しているのでしょう。
これをもう一度検証してみたいというのがライトモチーフです。
参考文献は、以前と同じで、鈴木宜弘教授の「世界で最初に飢えるのは日本」という本(講談社新書)です。

2,鈴木教授はフェイスブックなどでも、日本の食料事情の悪化を具体的に検証して、投稿しています。上記の本は、「真相」を知りたい方にとっては、必読文献と言ってよいと思います。この本を頼りにコラム投稿を進めていきます。

①まず、一番の(日本の)問題点は、食料自給率37パーセントという「低さ」です。
しかも、鈴木教授によれば、この37パーセントも、実際には、もっと低い。10パーセントぐらいでしかないと言います。何故か。鈴木氏(以下教授は省く)曰く、「実際、37パーセントという自給率に種と肥料の海外依存度を考慮したら・・・、今でも10パーセントに届かないくらいなのである。」と。

なぜ、日本の食料事情はここまで、悪化したのでしょうか。
鈴木氏の著作を参考に、以下論述していきます。

この本では、その見出し自体がかなりショッキングです。以下、引用します。

「1日3食『イモ』の時代がやってくる」
「2022年4月19日に放送された、テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」は衝撃的な内容だった。
有事に食料輸入がストップした場合、日本の食卓がどうなるかを農水省が示しいるが、それに基づいて、3食がイモ中心という食事を再現して放送したのである。先進国最低の37パーセントという、日本の食料自給率を改めて問うことになった。」

さらに、次の「見出し」も凄いです。
「食料を自給できない人たちは奴隷である」
(かつてのキューバの著述家で革命家のホセ・マルティは、こう語ったという。)

それに加えて、次の「見出し」が絶望的です。
「日本には『食料安全保障』がない」
この「見出し」の文章などは、以前の投稿で掲載しているので、以下問題点だけを紹介します。

3,鈴木氏の論稿の「第2章」に進みます。
第2章 「最初に飢えるのは日本」
①日本の食料自給率は何故下がったのか。
要約して述べると、日本が戦後に敗戦で、食料を他国(ほとんどがアメリカ)に依存するほど、「食料難」が襲いました。(歴史学はこの問題を統計で示していません。餓死者が多数だったからだと疑っています。)
とりあえず、他国からの食料の援助に頼った時代でした。配給米だけでは、都市の市民は餓死に直面しています。山口判事の餓死事件もありました。(詳細は省きます。)
その関係からか、日本では米食を減らして、アメリカから輸入した小麦粉の食事、パン食などが普及していきました。学校給食もパンでした(団塊世代の私たちの時代は。)
こうしtて、アメリカの食料の「輸入」が激増したのです。
鈴木教授もそれを強調しています。

次の「見出し」がすごいです。
「食料は武器であり、標的は日本」となっています。
日本の「戦後史」を紐解いても、こういうアメリカの「戦略」は書いてありません。もっぱら、アメリカの米軍基地の問題が中心であり、憲法9条の「戦争の放棄」と、日本の非武装問題が俎上に上がっているだけです。

これが、今回のコラムの論点であり、アメリカ政府は、日本の非武装という軍事的な問題だけで、戦略をプランニングしていたわけでは毛頭ありません。もう一つの戦略である「食の安全保障」も、アメリカにとって重要な日本の支配の「武器」だったということです。

この盲点であり、死角となっていた「問題」を発見するなら、何故、日本政府(特に官僚集団である、財務省と農水省など)が、食料自給率37パーセントで事足りるとしてきたのかも、その「謎」が氷解します。
彼らにとって、日本の国民が飢餓に直面するだろうという危機感よりも、アメリカの「意向」である、米国産の食料の輸入への忖度が「優先」したのです。
鈴木氏の論稿にも書いてありますが、「何故、食料自給率37パーセントで大丈夫なのか」と問うと、官僚曰く「それは、海外からの輸入が十分あり、心配ない」と。

鈴木論文でも、冒頭に書いていますが、現在の世界の食料事情はかなり危機的であって、国連のレポートでも、世界の食料危機は深刻な結果であるとなっています。
特に、ロシアのウクライナ侵攻が一番の問題点であり、両国は小麦の生産地で、世界の産出量では3割を占めている穀倉地帯であると。

4、結論
かくして、日本の食料危機は間近に迫ってきています。米価の高騰は「偶然」ではありません。日本の「農業」は深刻な情勢を迎えています。
それでは、私たち市民はこの危機にどうしたらよいのでしょうか。
次回のコラムでは、その「処方」(一般論としての食の安全保障の取り組みに向けて)と「個人の生活防衛」(具体的な実践活動)を模索していきたいと思います。

「護憲+コラム」より
名無しの探偵
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『世の中のムチ打ち症』の悪化を憂える

2025-03-28 09:58:37 | 環境問題
ロス地域でひと月にわたる大火災があった。
UCLAのスウェイン氏は、原因に世界で進む『気候のムチ打ち症』の進行を挙げる。

昨日、ある駅前でこんな光景を見た。塾がハネ、解放された子供数人が多くの人が往来する舗道で追いかけゴッコを始めていた。お年寄りや幼児らもいる駅前の歩道での出来事。思わず連れ合いが注意をする程、危険な振る舞いに見えた。

『ムチ打ち症』には、異常な日照りと大雨が急に交代する気象だけの問題ではないと感じる。『世の中のムチ打ち症』とも言える困った症状が進み始めているのではないか?

例えばアシストされ、高速化した自転車で、時間に急かされ走り去る人々が歩道に溢れる。
上のゴッコ遊びと同じ危なさを感じる。

そして拡大する格差の放置や異常気象の進行の放置で、脆弱な人々の疲弊が一方で進む。
片や再開発と称し街に高層ビルを作り続け、それを持続可能な街作りに貢献する事業体の使命だ、と強調する企業や行政があり、多くの人々は彼らの提示する利便さや豊かさを安易に受け入れ、大都会への集中度は増し、喧騒さに輪が掛かる今の世の中。
その一方、取り残され忘れ去られる山谷がある。

今の世には、格差拡大による疲弊があり、見せかけの豊かさに安易に乗る喧騒があり、時間と管理に囚われた人々の忙しなさが舗道に溢れ、そして忘れ去られた山谷がある、という様々な極端が同居し、それぞれが進行を早めていると感じる。

『世の中にムチ打ち症』が蔓延し、世の危うさが拡大していると感じる。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan
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アメリカとどうつきあうかーその2

2025-03-26 14:28:03 | アメリカ
ドナルド・トランプ氏が大統領に就任して2ヵ月がたった。

就任時に危惧したとおり、トランプ氏は次々に大統領令に署名して、これまでまがりなりにも西側諸国間で合意されていた「自由と民主主義のリーダー」の役割を見事なまでに投げ捨て、今やアメリカは、金と力で他者を屈服・服従させる、独善的、攻撃的な国家に変貌した。

トランプ氏個人の(悪い意味で)際立った個性のなせる業かと思いきや、「政府効率化省(DOGE)」を通して人員削減(RIF)を迫るイーロン・マスク氏、ゼレンスキー・ウクライナ大統領に「感謝がない」と非難するバンス副大統領、「日本はコメに700%の関税を課している」「アメリカからガザ地区にコンドーム購入のため5000万ドルの税金が使われる予定だった・・・」等々、トンデモ発言を平然と発し、それを糺す記者に「侮辱的だ」と切れてみせるレビット報道官等々、“トランプの衣を借る”政府要人たちが一丸となって、国内的には人権や自由、多様性を、対外的には国家主権の原則を、平然と毀損し続けている。

これに対し、アメリカ国民の間から、多少の抗議の声は聞こえてくるものの、トランプ大統領が方針を見直さざるを得ないほどの有効な「NO!」の声が生まれてこないのは、権力による抑圧がよほど厳しいのかもしれないが、少々意外ではある。

一方、けんかを売られた形のカナダやEU諸国からは、スーパーマーケット上げてのアメリカ製品のボイコットや、「自由の女神」返還要求など、力に拠らずにアメリカにダメージを与える、ウィットに富んだ抗議の意思表示が聞こえてくる。

さて、日本だが、関税の問題は一旦おいておくとして、トランプ氏はかねてから日米同盟について「アメリカは日本を守るが、日本はアメリカを守る必要がない」と不満を表明してきた。

元々、「憲法9条」を持つ日本はアメリカのために軍事力を行使することは国是としてできない代わりに、米軍基地を提供し、「おもいやり予算」や「不要な武器購入」を強いられてきた。

そんな環境下でも、日米軍事一体化策の検討は進められ、その一環として、3月24日に、日本は陸海空の3自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」の発足を発表。今後米軍との調整をより緊密に行い、敵基地攻撃能力を持つ長距離ミサイルの運用、弾道ミサイル対処や大規模災害などが同時多発的に起こる「複合自体」への対応も受け持つという。

一方、現在トランプ大統領は、「世界の警察官」であることへの関心を失った米国民の民意を反映し、経費節減のため、在日米軍の強化計画の中止を検討している、とも報じられている。

アメリカが在日米軍の縮小を検討しているのなら、沖縄を始め全国各地で、散々迷惑を被ってきた私たちにとっては、むしろ朗報といえるのではないだろうか。

緊急事態に柔軟、迅速に対応する自衛力が整うことは、独立国家として、決して悪いことではない。日本政府には、これを契機に、他国を攻撃、侵略しない「憲法」を持つ国家として、アメリカべったりから脱却し、戦争回避の道を自律的に選択する、真の平和国家としての政治を推進してもらいたい。

「護憲+コラム」より
笹井明子
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映画「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」パレスチナの苦しみ

2025-03-21 16:06:30 | イスラエル・パレスチナ
半年ぶり位にドキュメンタリー映画を見ました。パレスチナ・ノルウェー合作。ヨルダン川西岸地区で撮影されています。
予告編↓
https://www.youtube.com/watch?v=ULqP4e3W7D0&t=2s
https://transformer.co.jp/m/nootherland/

パレスチナ人青年バーセル・アドラーにとっては、まさに「故郷」の地マサーフェル・ヤッタ。
2022年、イスラエル政府は軍の射撃訓練場にするから、約1000人の住民にマサーフェル・ヤッタを出て行けというのです。

そして、ブルドーザーを差し向け、住んでいるにもかかわらず家族を追い出し、バリバリと壊していく。なんという破壊、暴力。そして反対する人にはイスラエル兵が銃を向けて、発砲も躊躇いません。

「自分の家だったら?」と問われた兵士は「命令だから」と返します。もしかすると、彼らの心も痛んでいる?としてもその姿は見せず、家の破壊行為は進みます。

大工道具は再建する道具になるので没収。発電機を返せと迫った男性は撃たれ、その男性を救急車で病院にという要請にもとり合わない。彼はその怪我がもとで死亡します。

家を壊された人々は洞窟に追いやられているのだから、発電機は必需品でしょう。車もパレスチナのカラーナンバーだと、途中で遮られます。

家だけでなく、子供たちの目の前で小学校が容赦なく壊されます。そんな中でも子供たちは駆け回って遊びますが、子供たちの小さな公園すら破壊されてしまうのです。

バーセルは、この破壊の様子を撮影しネットに上げます。それを見たイスラエル人ジャーナリストのユヴァル・アブラハームが、パーセルを訪ねてきます。彼はイスラエル政府のパレスチナ人地区の暴力的な占領に批判的です。

同年代のバーセルとユヴァルは、今の状況や将来を語り合い、打ち解けていきます。大学で法律を学んだバーセルに、ユヴァルは「弁護士になれば」と勧めるのですが、バーセルは「パレスチナでの仕事は建設業だけだ」。そして「何十年も繰り返されたこの争いを、すぐにも解決できるような気持ちは持たない方が良い」と諭します。

監督は、バーセルとユヴァルを含む2人のパレスチナ人と2人のイスラエル人。彼らは映像作家でもあり活動家でもあるとのこと。互いを尊重する姿に、少しの希望は見えるのですが。

この映画を観ると、イスラエル政府の大量破壊と大量殺戮の凄まじさが分かります。そんな中で(パレスチナ人を追い出して?)「ガザをリゾート地にする」と言ったトランプ大統領。彼にこの映画を見せたい!

「パレスチナを知るキーワード」というHPを紹介します。この地図を見ると、いかにパレスチナ人が追い詰められていったかが分かります。

元はと言えば、イギリスが押し付けた事態なのですよね。
https://note.com/palestine_key/n/n54d27b9a62da

「護憲+BBS」「明日へのビタミン!ちょっといい映画・本・音楽・美術」より
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参院選、地方選を前にして、兵庫県に限らず、今こそ、個人の尊重、国民主権、民主主義を取り戻そう!

2025-03-21 09:31:11 | 民主主義・人権
兵庫文書問題 知事のパワハラ認定 県の対応は違法 第三者委
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kobe/20250319/2020028166.html(3月19日 NHK NEWS WEB) 
○兵庫県の斎藤知事の内部告発文書をめぐり、県の委託を受けて事実関係を調査してきた第三者委員会は、19日 報告書を公表しました。
斎藤知事にはパワハラ行為があったと認め、文書をめぐる県の対応は、公益通報者保護の観点から違法や不当なものだったと指摘しました。

兵庫県の斎藤知事の内部告発文書をめぐっては、県議会の百条委員会とは別に、去年9月、県の委託を受けた弁護士6人による第三者委員会が設置され、19日、調査結果をまとめた報告書が県側に手渡されました。
それによりますと知事のパワハラの疑いについては、告発文書に記載された内容を含む10件の行為を「パワハラにあたる」と認めています。
このうち▽出張先のエントランスの20メートルほど手前で公用車を降りた際、出迎えた職員を激しく叱責したことや
▽机をたたいて叱責したことなどについては、「勤務環境を悪化させた」などと指摘しました。
そして公益通報者の保護をめぐる県の対応については、「告発文書に記載された内容の一部は公益通報の要件を満たし、文書の配布は不正な目的とは評価できない」とした上で、▽通報者の探索や▽文書を作成した元局長の公用パソコンを回収したことは、違法だと指摘しました。
さらに▽文書の作成と配布を理由にした元局長の懲戒処分は違法で無効だとしたほか、▽去年3月の斎藤知事の記者会見について「元局長を『公務員失格』とか『うそ八百』などのことばで非難したことは、本人に精神的苦痛を与えるなど、パワハラに該当する行為だった」として、極めて不適切だと評価しました。
そして斎藤知事について「多くの職員との間でコミュニケーションが不足し、認識のそごが 多くの事象でいらだちを生じさせた。告発文書に接した際には冷静に対応することができず、拙速な反発的対応につながったと考えられる」などと指摘しました。
その上で「組織の幹部は感情をコントロールし、特に公式の場では、人を傷つける発言や事態を混乱させるような発言は慎むべきだ」と提言しています。
告発文書をめぐっては、今月(3月)百条委員会の報告書も公表されていますが、第三者委員会の報告書は、パワハラの疑いや公益通報をめぐる県の対応について、より厳しい判断をしています。

【第三者委委員長 “聞く姿勢を持つべきだ”】
第三者委員会の藤本久俊 委員長は「いちばん問題なのは、コミュニケーションのギャップや不足だ。知事は就任後、新県政推進室のメンバーとのコミュニケーションが密で、部長級であっても、そのほかの職員とは十分にコミュニケーションがとれていなかった。職員は話を聞いてもらえないことで不満が蓄積され、知事の側も報告を受けていないことで問題が多数生じた。報告がないのであれば聞けばいいわけだが、それより先にいらだちが出て、それがパワハラの原因にもつながった可能性がある。文書を見たときに批判に耐える力の問題にも つながったのではないか」と指摘しました。
また「兵庫県の職員は総じてよく頑張って働くが、それは我慢しすぎにつながる。パワハラは自分が我慢すればいいということではない。これは組織を弱体化させることで、決して見逃してはならないものだ。パワハラに甘い組織風土は改善されるべきだ」と述べました。
その上で「調査に応じた職員は皆、県民に尽くしたい、県政を安定させたいという思いを持っていた。知事や幹部職員は、異なる意見に直面した場合、あるいは自分の意図しない事態が発生した場合、まずそれがなぜかを聞く姿勢をもつべきだ。感情をコントロールせず、いきなり叱責したり注意指導したりすることは適切ではない。幹部の方々は、複眼的な思考を行う姿勢を持って、どんなことがあっても 自らが正しいかどうかを検証し、県政を発展させてくれればと思う」と指摘しました。

【斎藤知事は】
第三者委員会の報告書を受けて、兵庫県の斎藤知事は県庁で記者団に対し「重く受け止めることが大事だ。内容はこれから精査し、その上で 県としての対応を検討していく」と述べました。
また、知事の言動がパワハラにあたると指摘されたことについて「業務上の範囲で必要な指導をした。指摘されたことはしっかり受け止めていく。反省すべきところは反省し、しっかり県政を前に進めていくことが私の責任の果たし方だ」と述べました。
一方、告発文書については「ひぼう中傷性の高い文書だったと考えている。県としての考え方はこれまでの記者会見で述べたとおりだ」と述べました。

【第三者委員会とは】
兵庫県の斎藤知事の内部告発文書の事実関係などを調査する第三者委員会は、元裁判官の3人の弁護士など あわせて6人の弁護士で構成されています。
告発文書をめぐって県は、去年5月、内部調査の結果「文書の核心的な部分が事実ではない」と結論づけ、文書を作成した元局長を停職3か月の懲戒処分にしました。
一方、県議会は「県民などから 独立した第三者による調査の必要性を指摘する意見が寄せられている」として斎藤知事に対し、中立性と客観性を担保した形で改めて調査を行うよう要請していました。
こうした状況を受けて、去年9月、県が委託した日本弁護士連合会の指針に基づく第三者委員会が設置されます。
調査はすべて非公開で行われ、斎藤知事のほか県職員など あわせて60人への聞き取りが行われたほか、知事室や知事応接室などの視察も行われたということです。
第三者委員会は、19日、報告書を公表し、斎藤知事の言動にパワハラがあったと認めた上で、問題に対する県の対応に公益通報者保護の見地から違法や不当なものがあったと結論づけましたが、県によりますと、こうした内容には法的拘束力はないということです。

【公益通報者保護法違反と認定】
第三者委員会の報告書で厳しく指摘されているのが、告発文書をめぐる県の対応で、公益通報者保護法に違反していると認定しています。
具体的には、まず、▼元局長が告発文書を作成して配布した行為について、公益通報に該当すると指摘しました。
理由としては、▽文書に記載されている「贈答品の受け取り」や「阪神・オリックス優勝パレードの寄付金集め」、「パワハラ」に関する疑いは、公益通報の要件を満たしているほか、▽元局長の行為に知事や幹部らを失脚させる目的があったとまでは認められず、文書の配布が不正な目的とは評価できないためとしています。
次に、▼文書の調査や処分の決定に知事本人などの利害関係者が関与したことは、「極めて不当」だとしています。
▼通報者を探索した行為をめぐっては、▽元局長への聞き取りや▽公用パソコンを回収した行為について「違法」だと指摘しています。
また、▼元局長の懲戒処分については、処分の4つの理由のうち、▽告発文書の作成と配布を理由にした処分は「違法で無効」だとしました。
一方で、▽それ以外の理由で行った処分は「適法で有効」だとしています。
▼内部通報の調査結果を待たずに懲戒処分を行ったことについては、「不相当」としました。
さらに、▼去年3月に斎藤知事が記者会見で元局長を『公務員失格』や『うそ八百』などのことばで非難したことは、本人に精神的苦痛を与えるなどパワハラに該当する行為だったとして、「極めて不適切」と評価しました。


第三者委 県の公益通報者保護法違反と斎藤知事のパワハラ認定  ☆斎藤知事「重く受け止めることが大事」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250319/k10014754571000.html(3月19日 NHK NEWS) 
☆第三者委 藤本委員長「問題はコミュニケーション」  
☆百条委 奥谷委員長「知事の対応を注視したい」  
☆維新の会「知事の対応を見守りたい」  
☆自民党県議団「しっかりと受け止めを」   
☆公明党県議団「民意を融和していくきっかけに」  
☆ひょうご県民連合「元局長への処分撤回含め対応に注目」  
☆躍動の会「今後どういった方針でいくのか会派内で検討」 ※躍動の会の増山誠幹事長

▶維新が処分した3県議が新会派「躍動の会」を設立
立花氏へ 情報提供
https://www.asahi.com/articles/AST3B34VDT3BPIHB011M.html(3月10日 朝日新聞)
☆兵庫県議会の増山誠、岸口実、白井孝明の3県議=いずれも無所属=は10日、県議会に新会派「躍動の会」を立ち上げた。第2会派の維新の会に所属していたが、昨秋の知事選期間中に政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首に情報提供をしたなどとして、日本維新の会の兵庫県組織「兵庫維新の会」から除名や離党勧告の処分を受けていた。

【解説】「パワハラあった」「告発者捜し違法」第三者委が ...
https://news.yahoo.co.jp/articles/189f9cce138e78ddd6483d5992bb5dab48b74b81(3月19日 YAHOO!ニュース)
○第三者委員会の調査報告の会見が、こちらの私の後ろの部屋で先ほど午後4時から始まりました。第三者委員会のメンバーですが、日本弁護士連合会の指針に基づき、兵庫県の弁護士会が「県との利害関係が無い」などの条件をもとに推薦した弁護士6人で構成されています。

★確か、事の起こりは、知事が公益通報者保護法違反を犯して、副知事らをして、通報者を探索、内部通報の調査結果を待たずに懲戒処分、斎藤知事が記者会見で元局長を『公務員失格』や『うそ八百』などのことばで非難した。これを処断せずして、元に戻る、政治の常道、人権、人道に還ることはあるまい。
 
維新は、大阪限定の“地域政党”から脱皮、西に拡張しようとしていた。…その残党、職責に叛いた増山誠、岸口実、白井孝明の3県議、立花孝志党首に情報提供、議員辞職もせず(主権者に信義誠実、忠誠心なし)に、「躍動の会」結成、未だ、恥もせずに、悪巧み!? 我ら主権者は、仕切り直し、市民の良識、常識に、元に戻ろう、混乱を招いた無法者排除!?

「護憲+コラム」より
蔵龍隠士
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酷暑が如何に危険であるか、を説明する考え方が提供される

2025-03-20 13:15:46 | 環境問題
超加工食品の記事探しをしている際、興味ある記事を見つけたので、ここに紹介します。
「猛暑が老化スピードを加速する」事実を裏付ける考え方を提示する研究報告になります。

こまめに水分を取らないと熱中症が心配、暑さで寝不足になるのが心配、といった考えを持っていることから、猛暑・酷暑が危険であることは薄々感じていたとは思いますが、何故危険なのかの本質を上手く説明することは、結構難しかったのではないかと思います。

今回紹介する記事は、猛暑・酷暑が、事実として私たちの体に危険な刻印を押す実態を示すものであり、猛暑・酷暑の危険性の認識を更に深め、対処を自身の問題として、また家族・地域社会・国として、更に行政・政治家・政党として考る際に必要な道しるべとなる事柄を示唆してくれているものとして、非常に重要な研究だと思います。

紹介する記事は、次の2つ。詳細な訳出はせず、要点のみの紹介になります。

「喫煙が原因で実質年齢が高齢化していくのと同じように、熱暑が人びとの老齢化を促進している(原題:Heat can age you as much as smoking, a new study finds)」npr、2025年3月17日、Alejandra Borunda氏記す
「熱暑が老齢化のスピードを早める可能性がある(原題:Extreme heat may speed up aging)」 NEWS MEDICAL LIFE SCIENCES、2025年3月5日、Priyom Bose博士記す

またこれら2つの紹介記事のもととなる最近報告の学術研究は、次のものになります。

”遺伝子レベルの測定から、屋外の気温がアメリカの高齢者の生物学的年齢の老齢化を加速している(原題:Ambient outdoor heat and accelerated epigenetic aging among older adults in the US、Science Advances,vol.11,No.9,2025、Feb.26)”

1. 今回の研究の要点
研究者らは、全米各地から選んだ3600人以上の高齢者からの採取血液を分析して、それぞれの被検高齢者の『エピジェネティック年齢(epigenetic aging)』を算出している。
合わせて、研究者らは、血液採血前の6年間にわたり、それぞれの被験者が受けていた熱履歴を示す『暑さ指数(Heat Index)』を、『気候と天候モデル』をもとに算出し、それら得られた『各被験者の受けていた暑さ指数』と『各被験者のエピジェネティック年齢』とを付け合わせて、それらの間にある相関性を検討している。
即ち、今回、研究者らは屋外の気温と湿度とが如何に人々の生物学的な年齢に影響するかの確認を、高温に曝された人々のDNA上に起こる微小な変化の調査と付け合わせることで行ったわけである。

得られた結果は、明白であり、厳しい『暑さ指数』の地域に暮らす人々の『エピジェネティク年齢』が、『暑さ指数』が小さい冷涼な地域に暮らす人々の『エピジェネティク年齢』に比べて、14カ月程高齢化・老齢化が進行していることを示したという。

2.『エピジェネティック年齢(epigenetic aging)』とは何か?
人が持つ遺伝子DNA鎖というものは、人が齢を重ねるにつれて、DNA鎖の配列に変更はなくとも、DNA鎖のある部分に後天的に様々な修飾が起こり、そしてその修飾が蓄積されていくさまが、即ち、人が老いていく様子とプラスの比例関係になっているとされている。この修飾が年齢とともに増大していくことはごく自然なことで避けられないことであり、即ち暦の上での年齢にふさわしい老齢の兆候をごく自然に積み重ねていくのが人間だと言えよう。但し、ある人は暦の上での年齢より老けて見えたりすることがままあるのも、また反対に年より若く見えたりすることも、良くある事実でしょう。

この「暦の上での年齢」では推し量れないことがままある実質的な年齢のことを、「生物学的年齢」とも言い、また今回紹介する『エピジェネティック年齢』とも言っております。

3.『エピジェネティック年齢』の算出の方法
先に触れた修飾の仕方の一つとしてDNA鎖の構造中のシトシン部分の水素がメチル基で置き換わることに注目が集まっている。具体的には、グアニンが隣接するシトシン部位にメチル化が起こることが認められており、そしてDNAのメチル化修飾度合いが、分析機器的に技術的に定量可能となったことから、この技術を用いて研究が進められ、分析的に求めたDNAのメチル基修飾度合いの定量測定値が『生物学的年齢』『エピジェネティック年齢』と極めて良く相関することが判明したことがあり、それを利用しての老齢化や逆に若返り化に関する研究が近年盛んに行われているのであろう。

幾つか他の修飾がある中でメチル基修飾に注目が集まっている理由は、分析機器的に取り組みやすく、この分野の分析機器の開発が先行したことに原因があるのではと思います。

4.『エピジェネティック年齢』に影響を与える要因ならびに懸念すべき情報
生物学的観点からみた私たちの実質年齢の高齢化・老齢化を促進する動因として熱波・熱暑が働くことは今回の研究から明らかにされたと言えます。

ここで、併せて注意すべき点として、高齢になるにつれ、老人は熱に対する防御能力が低下していくことが避けられないという事実でしょう。
即ち発汗能力の低下であり、血流の能力の低下であり、結果としての血液温度を下げるのに必要な体の表面への血液送達力の低下であり、また老齢になると服薬するある種の薬剤が人の熱耐性を妨害する等のことも要因とされている。そもそも老齢化するほど熱暑に弱い状況に老人は置かれることに留意することが重要と言える。

そして異常気象の現状はというと、例えば、猛暑で名高く熱中症や心臓疾患が頻発している米・フェニックスでは、昨年32.2℃(90度F)越えが記録となる188日に達し、その内の140日以上が37.8℃(100度F)越えとなったとされる。
また、気象評価を行っているアメリカの国立機関によると、2050年頃のアメリカでは、熱暑日の日数が更に20日から30日増大すると見積もられると報道されている。
即ち、熱中症の恐れを心配する必要のある熱暑日や熱帯夜が、更に1カ月分追加されることになるのである。

また熱暑や熱波が、高齢者の老齢化を促進するという研究結果は人々の心臓機能の老化をも促進することを意味しており、心臓疾患の悪化といった危惧すべき事態の進行が懸念される所です。しかも、危惧すべき対象となる人は、高齢者だけではなく、若い人にも同じく、熱暑・熱波は人々のDNA上に悪い刻印を押していくことになります。

ボストン大学の高齢医学者のCarrさんによると、例えば今回の研究が示す早期老齢化の状況は、認知症・糖尿病・心臓血管系疾患といった疾患の早期発症に結び付くものであり、これら発症の早期化が早く起これば起こるほど、人々の健康と仕事の生産性に影響を及ぼし、地域共同体に大きな影響を与えることになると指摘している。

『エピジェネティック年齢』に影響を与える要因には、熱波や熱暑以外にも多くの要因がストレスとして働くとされ、例えばタバコの喫煙や食習慣や運動の多寡そして生活水準や教育水準、更に精神的ストレスや物理的ストレスもストレスになると指摘している。

ここで、食習慣のストレスに、超加工食品が拡大している現状も加えるべき、と考えます。
超加工食品の拡大を懸念する理由は、簡単に言えば、工業界が期待するがままに、超加工食品への依存を高めていくと、私たちの胃袋にはそもそも限界があり、拡大する超加工食品で既に満たされた私たちの胃袋には、伝統的な食べものに向ける隙間・余地が無くなっている、と表現すれば容易に理解していただけると思います。

それら伝統的な食べものに、実は健康に役立つ『良さ』があると言われているのですから。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
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農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(5-1)

2025-03-12 10:22:30 | 環境問題
農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(5-1)
超加工食品の市場拡大とNOVA分類化。その対比を通して、私たちの食の流れを考える

超加工食品(Ultra-Processed Foods; UPFs)の話を続ける。

前回のポイントを再掲すると、
1. 「食べもの」のシステムに、「工業的生産化」を推進するという考えが急速に拡大し、その結果、超加工食品の市場規模も急拡大し、今や超加工食品は「地球ブランドの食べもの」になっている。
2. その結果、世界各国に古くから伝わる伝統的食べものは衰退している。
そして、「食べものの工業的生産化」には、工業型農業(集約的工業型畜産業も含む)がセットされており、よって「工業的生産化」の特徴として、少数の限られた栽培種(イネ・小麦・トウモロコシ・大豆・綿花等のGM種)や選ばれた動物のみが優先されることがあり、他の多くの植物種や動物種は数を減らしている。即ち「食べものの工業的生産化」の方向性は、生物多様性に多大な悪影響を及ぼしているのである。
3. 超加工食品の現在地として、米国や英国では市民の日々の摂取カロリーの50%以上が超加工食品から摂取しており、オーストラリアやフランスでも1/3以上、そしてアジア・アフリカ・ラテンアメリカでも急速に拡大している。
4. しかも、超加工食品の持つ影響力について国際間で大いに議論する流れは、今までのところ醸成されていないのである。

これから、食との付き合いの流れの一つとして超加工食品が急拡大している意味を、NOVA分類システムとの対比をもとに更に考えて見たい。

人々と「食べもの」との付き合い方やその向う先を決める「世の中のシステム」においては、複数のエンジンや複数の進路・回路が用意され、それぞれが様々に機能し、様々な方向に進んでいくことができることが望ましい「世の中のシステム」の筈なのに、一つのエンジンのみが優先され、向かう道筋も一つのみが優先され、それらが世の中を支配するまでに至ることが許容されている今の「世の中のシステム」に根本的な違和感を抱いている。

この優先され世の中を支配する唯一のエンジンを動かし、向かう先を一つのみに決めているのは、無論、現在「人・モノ・金」を抑え、世の流れを作りだす上で優先権を確保し抑えている社会の支配層であり、彼らの優越性が強くなりすぎていること、換言すればエリート層が提示する、エリート層にとっては都合のよいシステムを市民層にトップダウン的に下していく構造・システムが極端に優先されている、ということにあると思う。

世の中にあるトップダウン構造・システムが優先されていることにより起こっている超加工食品の急速拡大する構図に、彼らが意識していたかどうかは別にして、見方によっては『竿を指す』研究が2009年、ブラジルのサンパウロ大学のモンテイロ教授らにより行なわれた。彼らは、全ての食べものを彼らが設定する基準(「食べもの」を作る際、家庭では入手できない食品素材が使われているかどうかと共に、台所の調理手段とは全く異質の工業的製造手段が用いられているかどうか、をも基準の中に勘案している)の下、4つのグループに分ける試みを行った。彼らの行った分類、即ち『NOVA分類システム』を先ずは紹介する。

紹介する出典先は次になります。
『NOVA分類システムから見た超加工食品と食事の質と健康』
国連食糧農業機関(Food and Agriculture Organization of the United Nations)
原題:Ultra-processed foods, diet quality, and health using the NOVA classification system

(第一グループ:未加工の食べものと最小限に加工された食べもの)
未加工の食べもの(自然な食べもの)は、果物や葉野菜や茎・種子・根といった可食部の植物を指し、また動物由来のものとして、筋肉部や臓物や卵・ミルク等を指し、更に自然界のキノコ等の菌類や藻類・水等を指す。

最小限に加工された食べものは、上の未加工の自然な食べものを、貯蔵性を高めたり、食べる際の安全性を高めたり、より美味しく食べる目的で、以下に示す様々な方法で加工を加えたものであり、方法としては非可食部位や望ましくない部位の除去、乾燥化・押しつぶし・擂りつぶし・粉末化・部位別に分けること・濾過・蒸し焼き・燻製化・煮沸化・非アルコール型発酵・パスツール殺菌処理・冷却化や真空包装化等の加工処理が挙げられる。
ここで、未加工の食べものと最小限に加工された食べものとの区分けを厳格にする必要性はないとしている。

未加工の食べものと最小限に加工された食べもののエネルギー密度【簡単に言うと一口分の食べものが持っているカロリーの大きさ;一口分のカロリーが大きい食べものは、エネルギー密度が大きい食べものということになる、例えば油で揚げたスナック菓子や砂糖・脂肪分をふんだんに使った洋菓子等はエネルギー密度の大きい食べものの代表といえる;食べものと健康との関係性を考える際、この食べものが持っているエネルギー密度の大きさは、重要な考慮すべき因子とされている】は様々であり、脂質・炭水化物・蛋白の含量とそれらの含有割合も様々である。ビタミンやミネラル分やその他の生理活性物質についても同様である。

大まかに言うと、動物由来の食べものは種々のアミノ酸やビタミン・ミネラルの良い供給源であるが、エネルギー密度は通常高く、健康に問題のある動物性脂肪を多く持っており、そして食物繊維はほとんどないという特徴を持つ。
植物由来の食べものは、通常エネルギー密度は低く、食物繊維の良い供給源となる。そして多くが様々な微量栄養素・生理活性物質に富み、アミノ酸供給源としても良好な性質を持っている。

これらの状況は、種としての人間が雑食性の生き物として生れてきた来歴と結びつくことであり、古くから伝わる伝統的食べものが、同じような雑食性的組み合わせからなっている理由でもある。例えば穀物(grains and cereals)と豆類(legumes and pulses)との組み合わせ;根菜類(roots)と豆類の組み合わせ;穀物と野菜の組み合わせ;そしてそれら組み合わせへの適量の動物由来の食べものの追加である。

これらを主体にした食事というものが、健康な食事の基本となってきていたのであり、残していきたい考え方であり、食べ方であり、生き方である。

(第二グループ:台所向け・調理向けに加工された食品材料)
このグループには、油・バター・ラード・砂糖や塩が含まれる。
これらの食品材料は、第一グループの食べものや自然界から次に示す方法で製造されたもので、方法としては、圧縮・精製・擂りつぶし・製粉・乾燥などがある。

これら方法のあるものは、古い歴史を持つものであるが、現在では通常、家庭やレストラン等での食べものの調理に使いやすいよう、工業的に生産されている。

当然、このグループの食品材料は栄養性のバランスは欠いており、また塩を除いてエネルギー密度は高い(1g当たり砂糖4kcal、油脂類は9kcal)。
因みに、調理した豆類のエネルギー密度は、1g当たり1.3kcal程、調理した野菜は0.4kcal程である。

家庭で、レストランで、これらの食品材料を加え、第一グループの食べものを調理して、食べものが出来上がる。
多くの第二グループの食品材料は安価なことから、過剰使用に気を付けることが必要。

(第三グループ:加工した食べもの)
このグループには塩漬け調理した野菜や豆類の缶詰やビン詰、果物のシロップ詰・魚介類のオイル漬け缶詰・ハムやベーコン、パストラミやスモークした魚介類等の動物性食品・大半の焼き立てのパン製品・塩だけが加えられているシンプルなチーズ等が含まれる。

これらの加工した食べものは、第一グループの食べものに塩・油・砂糖・その他の第二グループの食品材料が加えられ作られており、これら加工処理によって作られた食べものは保存性が向上し、嗜好性も向上している。

多くの加工した食べものには、第一グループの食べものに2~3種の第二グループの食品材料が加えられており、家庭やレストランにおける食べものの中に混ぜられて食べられるのが普通で、時にそのままの形でスナックとして食べられることもある、非常に嗜好性を高めた食べものである。

第二グループの食品材料を使って第一グループの食べものを加工するやり方は、古くから自家製造されてきたものであり、今も残っているものではあるが、現在は大半が通常工業的に生産されている。

加工された食べもののエネルギー密度は、野菜缶詰を除いて多くの食べものは1g当たり1.5~2.5kcalの妥当なものもあれば、3~4kcalといった高いものもある。

(第四グループ:超加工食品”Ultra-Processed Foods; UPFs”が属する)
超加工食品(UPFs)は、大量生産を目標に、工業的手法や工程を使って調製し用意した食品素材を調合・混合・組み合わせ、工業的手法を用いて作りあげたものと規定している。

超加工食品の典型例は、炭酸入りソフトドリンク類・甘味のある油っこい袋入りスナック類や塩味袋入りスナック類・キャンディ類・大量生産した袋入りパンやバン類・クッキーやビスケット類・ペイストリー類(焼き菓子類)・ケーキ類・ケーキミックス・マーガリンやその他のスプレッド類・甘みを付けた朝食用シリアル類・フルーツヨーグルト類・エネルギードリンク・調理済み畜肉食品・チーズ・パスタやピザ・魚やチキンのナゲッツやスティック類・ソーセージ類・バーガー類・ホットドッグ等々である。換言すると、ファーストフード店やコンビニの棚で極めて良く見かける『食べものたち』だといえる。

超加工食品には、製造面の特徴、用いる食品素材の特徴、その配合・調合の仕方の特徴、そして製造する超加工食品の嗜好性UPを目指す細工上の特徴等において、以下に示す特徴があり、第1~3のグループの食べものと超加工食品とを判別する際に役立つことになる。

1. 第一グループの食べものを材料とし、それらを細分化・分画化し、糖質・油脂・蛋白質・澱粉・食物繊維その他ビタミンやミネラル等の各成分に分けてそれぞれを別々に利用するという思想がある。
【家庭の台所ではあり得ない工業的製造ならではの発想である】

2. そして、第一グループの食べものも、何でも良い訳ではなく、選ばれたごく少数の作物が上記発想の分画に供せられる。ここに大きな特徴がある。
選ばれる植物性の食べものは高収量作物(多収穫性・病害虫抵抗性を持たせた所謂GM作物であるトウモロコシや小麦やコメや大豆やサトウキビ・テンサイ糖)であり、動物性の食べものは集約型工業型飼育システムで育成された家畜からのものが選ばれる。
【ここでも、台所とは異なる工業的ならではの発想があり、生物多様性の減少化の問題や多肥料・多農薬・多量用水・農地の多量占有といった問題が内在していることから、水系の劣化や富栄養化そして土壌・水系の酸性化とともに、そもそも人新世時代の望ましくないサイクルを促進する材料が一杯詰まった環境を生みだすことになる】

3. 細分された各分画食品素材(糖質・油脂・蛋白質・澱粉・食物繊維・ビタミンやミネラル等)は、あるものは加水分解処理を行い、油脂類については水素添加還元処理を施し、その他化学修飾処理(澱粉の処理が典型例)を行うことも、大きな特徴である。

各種処理で得られる代表的なものに、糖類ではフラクトース・高フラクトースコーンシロップ・果汁濃縮物・転化糖・マルトデキストリン・デキストロース・ラクトース(乳糖)があり、油脂分では水素添加油脂【例えば飽和脂肪酸が一例でこれにより液状油脂を固体にしたり、油やけの心配のない油脂が提供できるという利点があり、焼き菓子等に重用されている。一方、油脂中にある全ての不飽和結合の完全水素添加を敢えて行わなかった時期には健康被害の原因となることが後に判明し使用禁止となったトランス脂肪酸がここに登場していた】やエステル交換油脂【食用油脂の融点を上げたり下げたり調整する目的で利用されているようだ】があり、蛋白では蛋白加水分解物・大豆たんぱく分画物・グルテン・カゼイン・乳性蛋白・骨から機械的に切り離された肉(mechanically separated meats)等がある。

4.そして、上記の諸作業で生産した家庭の台所では入手不可能な、各食品素材を目的性能が最大限に発揮されるよう配合し、その混合物を、例えばエクストルーダー(射出成型)処理やその他の成型加工機を使って製品を作りだしている。
【3,4共に家庭の台所では為し得ない工業的製造ならではの発想がここにもある】

5.更に大きな特徴として、商品の嗜好性や販売力を高めることを目的に、着色料やフレーバー剤やフレーバー増強剤や人工甘味料や乳化剤・増粘剤・発泡剤や消泡剤・賦形剤・炭酸化剤・ゲル化剤・つや出し剤等の食品添加物を加えることで、製造する超加工食品にお化粧を施す努力をしていることが挙げられる。加えてパッケージングも購買意欲を高める目的で工夫を凝らしていることは言うまでもない。
また、従来から言われている、嗜好性拡大のための塩分や糖分・油脂分の過剰使用による健康被害が、超加工食品の販売力の高さと相まって高まる恐れを秘めている。

6.超加工食品は、その簡便さ・利便性ならびに賞味期限の長さ、過食さえ心配な美味しさ、そして繰り返し購入が懸念される常習性といった性能をも秘めた商品と言える。
そして、これら超加工食品は、安価であり、そして至る所でもっとも購入しやすい状態で販売され、更に今風の独特の新規販売戦略も世の中に組み込まれつつあり、先に示したように、世界の各地で市場規模を急速に拡大しているのもうなずける状況がどうやら確立してきているのが、現在の世の中の大きな特徴である。
【この辺りは、非常に興味があるとともに懸念される部分でもあり、別の機会に紹介する予定です】

次に、超加工食品を他の食べものと見分ける際に役立つ情報を紹介する。

製造メーカーは、販売する商品のラベルに製造工程の情報は記載することはなく、ましてやその製造工程を採用している目的についての情報等の記載はない。このことが、時に購入時に紛らわしさ、不明確さが生れる原因となる。
無論、例えば新鮮野菜や果物・根菜類やジャガイモの様なもの、そしてパスツール殺菌処理牛乳や冷蔵販売の肉製品、さらに台所用の食用油や砂糖・塩等といったものは、明らかに超加工食品ではない。

しかし、容易に判別が付けにくいものも多くあり、例えばパン類であり、朝食向けのシリアル類である。

判別に役立つ一つに、”あらかじめ包装されている出来合いの食べもの(pre-packaged food)”やドリンク類に対し、法令で定められているラベル表示の確認を行うやり方がある。

工業的生産であるが、使用材料が小麦粉・水・塩とイーストだけから作られているパンは第三グループの加工された食べものになる。しかし、ラベル表示に乳化剤または着色剤かのいずれかが付け加わっていれば、それは超加工食品となる。

ひき割りオーツ麦(steel-cut oats)のプレーンタイプやコーンフレークのプレーンタイプや裁断された小麦(shredded wheat)は第一グループの最小限に加工した食べものになるが、同じ食べものであっても砂糖が加わっていれば、第三グループの加工された食べものとなり、さらにフレーバー剤や着色料が使われていたら超加工食品となる。

一般化すると、購入する食べものが超加工食品であるのか、異なるのかの判別は、ラベルの使用添加物に家庭の台所では見ることのない、既に上記した超加工食品向けの工業的に生産された食品材料を一つでも含んでいれば、その食べものは超加工食品とみなすことになる。

ここで、一つ注意しておく必要のある問題が、添加剤のラベル表示には、国際間で統一されていない状況があるということである。

例えば、フレーバー剤(flavours)やフレーバー増強剤(flavor enhancers)の表示については、着香剤(flavourings)や天然フレーバー(natural flavours)や人工フレーバー(artificial flavours)、更には具体的にグルタミン酸ナトリウム(monosodium glutamate)と記載されるケースもある。着色剤については、カラメル色(caramel colour)の表示もあり、乳化剤の場合には、大豆レシチン(soya lecithin as emulsifier)と記載される場合もある。
国連食糧農業機関が定期的に添加剤のリストの更新サービスを行っており、参考になる。

今回の情報はここまでとしたい。

超加工食品をめぐるMonteiro教授らのNOVA分類の動きに合わせて、超加工食品が潜在的に持っている健康への影響を調査する研究の報告例が相次ぎ出されている。

そして、超加工食品を大きな商機として拡大化を図るビジネス界の動き、殊に私たちには付いていけそうもない新たなバーチャルな広告販売戦略の動向や、Monteiro教授らのNOVA分類システムの問題点を指摘し、分類システムの改定を目指すNOVO Nordisk Foundationが資金を提供する2年をかけてのNOVA2.0の展開の動向等々、ビジネス界と学界等とのやり取りの状況の紹介は最近の重要なテーマの一つであろう。次回以降これらの紹介を展開したい。

超加工食品が大きな利益を生む商機ととらえるビジネス界のトップダウン的な上からの圧力の拡大と、結果としての超加工食品の市場の興隆を見るにつけ、これらビジネス界のエンジン推進力を、Monteiro教授らの提示したNOVA分類システムがブレーキ役として働く機能を持っていそうなことが垣間見える点が殊に興味深い。

エリート層のトップダウンの圧力が、どの分野でも幅を利かせすぎているのが、現代の特徴とすれば、これに『棹差す』動きには大いに注目したい。

山火事の頻発を目にして、参考となる考え方を提示した。
ブレーキは不充分、アクセルは踏み続ける結果、人新世時代は進み、自然界からの解答が、地球の温暖化・沸騰化の現出であり、世界は今、ある地域は異常な乾燥、別の地域は異常な豪雨。そして異常な乾燥と異常な豪雨が予測不能に急に激変する所謂「気候のムチ打ち症(climate whiplash)」または「水に着目した気候のムチ打ち症(hydroclimate whiplash)」が現出していると述べた。

『人新世時代』の進行とともに発生する災厄は『人災』であり、しかもその『人災』は、『格差の拡大を不公正・不公平な形』で私たちに強いてきているのであり、その上更に、その『人災』の発生は、今までは私たちの意識の外、無縁のものと思ってきていたものが、今や私たちはその『災厄という人災』の発生が、確率の問題と考えざるを得ないまでに私たちの目の前に浮上してきているのである。

『人新世時代』の進行につれ派生して起こる『災厄という人災』は、異常気象の進行だけではないのであり、例えば超加工食品の隆盛もその一つではないか,という思いからこの話題を取り上げております。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan
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命を守るための制度を守る

2025-03-09 20:31:15 | 医療・介護
もう10年以上前の話になるが、健康上の理由で就労できず収入がそれほど多くない友人が外科手術を受けることになった。本人だけで費用を負担できるのか、そもそも医療費が払えるかどうかわからない人が医療を受けることができるのかと当初は疑問に思っていた。当時はいわゆるセーフティネットについての知識をほとんど持っておらず、個人で貯金をしておくか保険に入るくらいしか、もしもの時に備える方法はないと考えていたからだ。
 
続けて友人から「高額医療費制度」なるものを使用し、費用負担は最小限に抑えられ、その後の生活を圧迫することもないと教えてもらい、広く知られていないだけで制度としてのセーフティネットは存在するのだと初めて知った。
 
誰もが常に元気でいられるわけではなく、時には医療の力を借りることもある。自分も友人のようになったらどうしようと最初に話を聞いた時には不安しかなかったが、過度に怖がる必要はないとわかった。

ところが、昨年12月から政府が「高額医療費制度」の患者の自己負担上限額を引き上げる方針を明らかにした。健康保険料を負担する世代の人口が減っている点を問題視しているのだろうが、引き上げる措置を取れば制度を利用しづらくなるのではないだろうか。
 
思いがけず病気やけがをすることは誰にだって起こりうることであり、本人だけに責任転嫁することはできない。ましてや「原因はすべて自分にある」と自責する必要もない。しかし、こうした制度の要件引き上げで、自分が病気になり、しかも医療を受けるだけの収入がないのは自分が悪いと考えさせてしまう可能性がある。
 
具体的な引き上げ額も重要ではあるが、額を問わず「引き上げ」と聞いただけで「財源が足りないのかも」「自分が負担を増やしてしまう(あるいは現に増やしている)かも」と利用をためらってしまう人もいるかもしれない。

今年に入り、段階的な自己負担額引き上げについて話が二転三転し、ついに3月7日になってようやく首相が引き上げを凍結すると表明した。
 
この決定には、がんや難病の患者の方たちが必死に声を上げたことが少なからず関わっているだろう。闘病中でただでさえ精神的にも身体的にも負荷がかかっている人たちに抗議運動をさせること自体が問題ではあるが、市民の側があきらめずに訴えれば変えられることもあると勇気づけられた。また、国会には野党議員もいて、野党側が見直しを求めてくれたことも凍結へとつながったはずだ。

一方で、政府は今年の秋以降に制度の在り方について改めて検討・見直しを行う方針も示している。現時点で引き上げを完全に凍結させたのは今夏の参院選を意識しているだけかもしれない。引き続き、皆保険制度も含めたセーフティネットが壊されないように注視する必要がある。

「護憲+コラム」より
見習い期間
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商売人に政治を任せて、大丈夫なのか?

2025-03-03 09:47:01 | アメリカ
米国は良くも悪しくも、ダイナミックな政治を見せてくれる。大統領に返り咲いたドナルド・トランプ氏はある意味公約通り、思いっきり、好き勝手にアメリカ合衆国の舵きりを始めた。しかも、太いスポンサー(資金源)で決断力の速い、イーロン・マスク氏を取り込んで。この二人に共通しているのは、アメリカ第一主義に名を借りた“自分第一主義”という部分だ。

民意を反映しているか否かは別にして、トランプ氏の政策や方針は単純明快である。自分に反対し、批判する者は“You are fired!(おまえはクビだ!)”と切り捨て、大統領権限下の政府組織にもそれを駆使する。歴代大統領や前政権が築いてきた価値観や法的整合性(それが違法か否か)など検討もせず、大統領令を優先させる。まるで、アメックスの決済無制限プラチナカードを与えられたワンマン経営者が「オレって最強じゃん!」とクレジットカードを使いまくっているように見える。その支払い(ツケ)はアメリカ国民だというのに・・・それでも、彼は言うだろう。「その国民がオレを選んだのだから、ナニが悪いんだ?」と。

そして遂に、彼は世界中の金持ちに対して500万ドル(約7億5千万円)でグリーンカード(米国永住権)を販売すると言い出した。その名も「トランプ・ゴールドカード」!私の友人はグリーンカードを取得するために米国へ渡り、ネイティヴな英語をマスターし、弁護士を伴う手続きに多額の費用を払い、3年以上の歳月をかけて取得したという。9.11同時多発テロ以降、外国人には厳格な審査を伴う“狭き門”だったというのに。つまり「アメリカに大金が転がり込む」という大胆かつ単純な発想である。その効果は「歳入の増加と雇用の創出」というが、これはアメリカをカネで売るようなものではないか。悪いジョークにもほどが・・・いや、彼は本気である。トランプ氏はアメリカの大統領ではなく、株式会社アメリカの経営者に見える。

そう、彼はビジネスマンなのだ。もちろん、マスク氏も。おそらく、彼らは善悪ではなく「損得」「カネ」で国際政治を「経営」しようとしている。そう考えると、二人の言動は理解しやすい。ネット記事を参照して、その具体的なテクニックを例示する。

① 大きな商取引・契約(ディール)においては、初めに突拍子もない無理難解な交渉条件を吹っかける。それで怯んだ相手に、少しだけ譲歩した現実的な交渉条件を提示して呑ませる。
② 自分がディールしたい本命をB案として、交渉相手にA~Cの3案を提示する。A案は大変魅力的だが高価なもの、C案は安価だが魅力に乏しいもの、B案はA案を少しだけ安くしたもの。すると多くの場合、交渉相手はB案を選ぶ。
③ ディールの当初は自分から友好的かつ温厚に話を進める。話が具体的になり熱気を帯びてきたところで突然、何の脈絡もなく怒り出し、難癖をつけ始める。交渉相手は面食らい、慌てて自分に非があったのではないかと疑心暗鬼に陥り、思考が混乱する。そこで交渉のペースを自分に引き寄せ、話を有利に進める。これはヤクザやそのフロント企業がよく使う手法である。

トランプ氏は不動産業界において強引で巧みな交渉術と合法的な脅し(?)を駆使し、大金持ちになったと言われている。彼はそのスタイルを米国内と国際政治に持ち込み、善悪・礼儀・協調・弱者への思いやりなどは置き去りにしているのだろう。

国際政治学者や評論家の中には「ウクライナ紛争を含め、停滞した状況ではトランプ氏のようにダイナミックかつ迅速に言動する人が必要」「彼は強欲で単純な人間ではない。したたかに計算して“演出”しているのだ」という人もいる。今回、ゼレンスキー大統領との会談でも前述したビジネス・テクニックを使ってウクライナを懐柔し、ロシア寄りのメッセージを発信したように思える。それを「ロシアと友好関係を築き、中国を分断させるトランプ流の交渉術」だと大局的な見方と捉える識者もいた。世界は米国vsロシアからvs中国にシフトする、と。

しかし、理不尽にウクライナを侵略するロシアを棚上げし、NATOとロシア共栄圏との緊張・均衡状態を無視し、EUとの協調関係を壊すことはどうなのか。全て更地にして、スクラップ&ビルド・・・国際政治は不動産業のような一方的で強引な進め方は通用しない。ゼレンスキー大統領が冷静に対処して折れないので、トランプ氏は立腹して会談を打ち切ったように見える。

共和党と民主党の皆さん、ビジネスマン大統領&「トラの威を借る」副大統領に米国を、国際政治を任せていいのか?とうに過ぎた話だが、「ノストラダムスの大予言」にある“恐怖の大魔王”、実はドナルド・トランプ・・・と妙なこじつけを考えてしまった。

「護憲+コラム」より
猫家五六助
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