老人党リアルグループ「護憲+」ブログ

現憲法の基本理念(国民主権、平和、人権)の視点で「世直し」を志す「護憲+」メンバーのメッセージ

変わらないのか、変われないのか

2024-11-04 15:05:52 | 民主主義・人権
先月行われた衆議院議員総選挙では、女性の立候補者が過去最多となり、当選者全体に占める女性の割合もこれまでで最も高くなった。しかし、世界全体でみると、日本は今でも議員だけでなく閣僚にも首長にも女性が少ないことが特徴であると言わざるを得ない。

世界的に見ても、保守政党は女性の候補者擁立に比較的熱心ではない。クオータ(クオーター制)の導入にも消極的である。そして、日本の保守政党は世界の保守政党と比べても女性議員の割合が低い。パリテ(男女同数)やクオータ(割当制)などの導入が進んでいないことも、女性が意思決定の場に参加しづらい要因になっているのではないか。

男性や世襲など特定のカテゴリーに属する人たちが有利になるシステムでは、たとえひとりの女性がポストを得たとしても、政治体制を変えるには至らない。
構造の問題であり、ひとりでそれを変革することはできないからである。

このように考えていくと、個人が変化を望まないだけではなく、変化を望んでもそれを阻む仕組みがあり、変化のために行動を起こそうとしても断念させる基盤があると考えるのが適切だろう。

今のままではいけない、特権を持つ人だけではなく誰もが生きやすい社会を作りたい。このように考えている人たちが意見表明をして連帯できる公共空間を作ることが必要不可欠だ。せっかく意思を持った個人が行動を試みても、それをためらってしまう社会では抜本的な変革は望めない。

同じ社会で生活している様々な当事者が声を届けられるような仕組みを作ることがまず先決であろう。女性が参加しづらいうえに、参加を認められても男性と同じようには扱われない男性政治の構造や小選挙区制度など、改善点は多く見出だせる。

目の前にあることにひとつずつ向き合って取り組むことが第一歩なのではないか。

「護憲+コラム」より
見習い期間
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「おらがセンセ」はNo!「民の声を聴く」政治家にYes!

2024-10-28 16:42:37 | 選挙
選挙結果によっては思わぬ希望が見出せるかもしれないので、衆議院選挙の開票速報や報道特番を見ながら筆を進めている。

岸田氏から石破氏への政権交代は海面スレスレの政権支持率と裏金問題から論点をずらし、「国民が忘れる」タイミングを待ってからだろう・・・と思っていた解散総選挙。それがハイペースで進んだため、私には安倍⇒菅⇒岸田と説明責任も反省もなくリレーした政権を批判する時間的余裕がなかった。

とはいえ、今回の選挙では金メッキのはがれたアベ政治と加担して甘い汁を吸ったオトモダチ政治家が裁かれるべき・・・いや、裁かなければならない。それは私一人が騒いだとてどうにもならず、どれだけの有権者・国民が安倍長期政権で腐った政治を変えるために投票所へ行くか否かにかかっている。

例えば、安倍派5人衆の萩生田光一氏。この男は安倍晋三の番頭として加計学園問題・統一教会問題でも暗躍し、裏金問題で自民党の非公認になりながらも東京24区で立候補した。彼の政治の原点は八王子市議会議員だが、国政での疑惑・不正・不始末が小選挙区の地元でどのように影響するか。私は八王子市在住の心友Aさんから有権者の視点で話を聞いた。

とにかく萩生田氏は「国と地元は別次元」とばかり、悪びれる様子もなく堂々としている。裏金問題は不見識でした、不徳の致すところ、反省している。しかし、公共事業や大型プロジェクトの誘致、補助金等の予算配分など八王子市と国とのパイプ役として、自分はどれだけ地元・八王子のために尽くしたか。政治家の初心に帰り、これからも「市民のため」に頑張る・・・こんな街頭演説で走り回っている、との事。

そして、援護射撃に駆けつけたりメッセージを寄せたりした、厚顔無恥な面々。「男たちの悪だくみ」の注釈付きで加計学園トップ・安倍晋三・萩生田のパーティー写真を公開した安倍昭恵、「安倍先生の遺志を継いで、頼りになります」と非公認候補を持ち上げる高市早苗、業者を使い録音メッセージ電話をかけまくる小池百合子。萩生田氏が働いた悪事は問題なし、先日の党首選同様に国民不在の「身内の論理」全開だ。極めつけは、小池都知事の肝いりで先日当選した八王子市長・初宿(しあけ)氏。“八王子市の代表者”が公然と非公認の裏金議員を応援しているから、始末が悪い。心友Aさんは胸糞悪い(失礼)と嘆く。

さて、その選挙結果だが・・・残念ながら有田芳生氏との接戦を制した萩生田光一氏が当選確実となってしまった。野党候補者の乱立で萩生田氏への批判票が分散したと分析するメディアもあるが、私は結局「悪いヤツだけど、頼りになる。地元の利益になる」といった八王子の選挙民と経営者に染み付いた「おらがセンセ」意識が消えないのだと思う。

「自民党はダメだけど、野党に政権は・・・」と変化を望まない国民、事なかれで政治に無関心な有権者に支えられて続く自民党政権。今回の選挙結果は自公連立でも過半数割れになる見込みだが、国政では「民の声を聴く」政治家が活躍することを願っている。もちろん、日本の核兵器共有や海上自衛隊の空母、そして憲法改悪は許さない。

「護憲+コラム」より
猫家五六助
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猫に関する諺、言い伝え

2024-10-21 20:27:31 | 選挙
猫に関する諺、言伝えには、「猫ババ」、「泥棒猫」、「猫なで声」、、、とろくな物が無い。
このサイトの諸兄姉はご不満と思うし、私も子どもの頃から我が家に猫は絶えた亊がなく、猫は愛しくも可愛い動物であった。

猫談義は兎も角、政治の世界に目を向ければ、猫も真っ青なくらい、逃げ切り、嘘つき、で通ると思っている裏金議員達がいる。

石破総理は、最初は、裏金議員の1部を非公認と言っていたのに、一転して12人の非公認を決めた。それでも1部には違いないが、元々今回の選挙は「広く国民の声を聞く政権運営をする」と言っていたのに、戦後2番目の早期解散となった。手のひら返しで、発言が「猫の目の様に変わる」総理だ。

裏金議員は当選したら公認するという。「当選しても公認しない」くらいの政党としての気骨はないのか。罰を与える事も大事だが、裏金事件を何処まで真摯に追及出来るのだろうか?

今回の衆議院選挙は、自民党が自からどれだけの自浄能力を持てるか、そして国民の投票行動がその一翼を担う亊が出来るかが問われている選挙だと思う。

10/27日に投開票の衆議院選挙では、「猫いらず」、じゃなかった「裏金議員入らず」にしましょう。
新聞もテレビも「与党過半数の公算有り」なんて報道しているけれど、国民が「どうせ誰がやっても同じ」とか「自分1人が投票しても何も変わらない」なんて低投票率になったら、猫達だってちゃんと「猫の集会」やっているじゃありませんか?

「猫に小判」ならぬ、「日本人に投票権」なんて言い伝えが出来たら、恥ずかしいと思いませんか?

「護憲+コラム」より
パンドラ
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袴田事件の歴史的意義と本件の真相など(その1)

2024-10-19 14:44:50 | 民主主義・人権
1,はじめに
袴田巌さんが58年もかかって、ようやく無罪を獲得した意義は実は大きい。日本の司法の闇である冤罪大国という実体にメスを入れた再審無罪判決だったからだ。

法曹を志して、途中で断念した私は、冤罪事件の救援活動に奔走していた過去がある。遠藤誠弁護士(帝銀事件の最期の弁護人)との出会いも今では懐かしい。先生は大分前に他界されたからだ。

本稿の第1部では、静岡地裁の無罪判決の問題点である「捜査官の証拠の捏造」の問題と、「9時間に及ぶ自白の強制の違法性」に言及する。後は、次回に第2部で、日本の司法の法令である刑事法と憲法からの逸脱した捜査実務などに言及する。

2,憲法(第38条)に違反する司法官憲と裁判所
まず、順序は逆になるが、静岡地裁が判決で認定した、捜査官の「証拠の捏造」と言う、異例の違法捜査の問題から検証していく。

この物的証拠とされる衣類5点は1年半後に味噌樽から出てきたという信じられないような代物であった。袴田さんの衣類の実験でもズボンだけはとうてい履けるものではなかったという。
この問題の証拠は当初から問題視されていたのである。(以前の裁判;しかも死刑判決;では、裁判官の判断は節穴と言う他はない。)

ではなぜ、捜査官は法を犯してまで(職権乱用罪に該当する)衣類5点を捏造したのだろうか。
その答えは、憲法38条の3項にある。その規定には、こうある。
「何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、または刑罰を科されない。」

この規定は刑訴法にもあり、被告人の無罪推定を保障する人権規定であり、袴田事件では、袴田さんの自白以外には確たる状況証拠もないし、また物的証拠も確たるものがなく、自白しか存在していないという事件なのであった。
そこで、無罪となるわけにはいかないと思った捜査官は一計を案じて、1年半後に味噌樽に衣類5点を仕込んだのである。
それを静岡地裁の裁判官は、「証拠の捏造」があったとして、袴田死刑囚の無罪の決め手の一つにしたのである。

3,袴田さんの「取り調べ」は違憲、違法な自白の強制であった。
袴田巌さんは、元プロボクサーであり、やっていない犯罪の自白供述をするようなやわな人間ではない。それなのに、なぜ、自白をしたのだろうか。これもミステリー;謎と言ってよい。

だが、警察の取り調べは過酷を極め、連日8時間から10時間に及ぶ異例のものであった。
こうした「拷問に近い」長時間の取り調べは、憲法38条1項、2項に具体的に規定されている違法なものなのである。
一部引用すると、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」「、、、不当に長く抑留もしくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることはできない。」と規定されている。

袴田さんはギネスブックにも掲載されているほどに、不当に「長期間」拘束されていたのである。この規定を軽んじた司法官憲と裁判官の死刑判決は違憲なものと断じざるを得ない。

4,第1部の「終わりに」
次回の投稿では、袴田事件という、かくも長き冤罪事件がなぜ、日本で起こったのか、刑事法の「問題点」と捜査実務自体の違法性を検証する。特に、本件は国賠法の提起が可能なレベルであり、国賠訴訟で、司法の闇を明らかにする軌道修正は日本の司法の問題に風穴を開けることになるだろう。

「護憲+コラム」より
名無しの探偵
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農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(4)特に、肥料の問題に焦点を当てて考える

2024-10-14 20:33:39 | 環境問題
今回は、世界の農業が取り組む必要があるにも拘らずに、なおざりにされがちな土壌の健全性に係る問題を取り上げてみます。
2つの情報になります。

一つは、地域共同体の農民らからのボトムアップで提示されている肥料に係る情報であり、殊に典型的な有機肥料の一つ『ボカシ』にスポットライトをあてた情報です。
もう一つは、開発銀行や基金、欧州のいくつかの国、慈善団体等の外部機関・組織がアフリカ諸国とアフリカ連合を糾合する形で、トップダウン型でアフリカの肥料政策を決めていく状況に関する情報になります。

ここで、アフリカの農業に対する支援資金の大半は後者のトップダウン型システム内で使われており、前者のボトムアップ型システム(このボカシの普及だけの問題ではない)には資金的な支援はほとんど廻っていない、という状況の認識が非常に大切なことになる点を強調しておきます。

肥料の問題も、多方面にわたります。『農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(4)特に、肥料の問題に焦点を当てて考える』の表題で興味ある続きを展開したいと思っております。では始めます。

有機肥料として知られる「ボカシ」が、ケニア農民らが行う土壌の再生に役だっている
(原題:For Kenyan farmers, organic fertilizer bokashi brings the land back to life
Mongabay, 2021,November 16 Isaiah Esipisu氏記す

(要約)
・ケニアの乾燥したTharakaNithi郡に暮らす農民らは、「ボカシ」と称する有機肥料を使用することで新鮮野菜を育てている。
・農作地で発生する廃棄物の混合物から作ることができる「ボカシ」は、土壌に加えると栄養分と微生物叢との両方を土壌に供給することになる。一方、従来の合成肥料は、即効的に働く栄養成分は提供するが、投入した量の半分も利用されずに、作物に利用されなかった大半は流出し水系等環境劣化の原因を作り、そして従来の合成化学肥料は土壌の微生物叢を供給する能力もない。
・「ボカシ」を利用する耕作法は、「資源に着目する開発運動ケニア(the Resources Oriented Development Initiative Kenya, RODI Kenya)」から支援を受ける小規模農家らが共有しているアグロエコロジー技術の数多くの中の一つである。
・最初に施用する「ボカシ」のコストは多くの小規模農家にとって高額であるというハードルの存在が指摘されるが、次年度以降の施用コストは徐々に低下していくことと、併せて利用する農家に対しては「ボカシ」を購入するのでなく、自身で作ることを推奨しており、「ボカシ」採用を推進する運動のハードル低減化に努めている。

Karungaru,Kenya---ケニア西部TharakaNithi郡Karungaru村は非常に乾燥した土地柄であるが、そこに住むPeninah Muthoniさんは、そんな環境の中でアマランスやホウレンソウ等の野菜を栽培している。それが可能となっている理由は、農業生態学(アグロエコロジー)に適った技術を彼女が取り入れていることであり、ケニア各地の彼女以外の数百名の農民も同じように新鮮野菜の栽培を行っている。
「ボカシ」のお陰で土壌の栄養状態は既に良くなっているから、今行う必要のあることは土壌水分を保持するためのカバー作物の手入れと時々行う作物への水やりになる」と彼女は語る。

Muthoniさんは、2019年RODIケニアが主催するワークショップに参加して教わった多くの技術を自宅周辺にある3か所の菜園で実践している。Sack gardens(土を入れた麻袋を利用する野菜栽培法。一袋あたり約0.35平米の面積で毎日5リットルの水やりが必要であり、通常の畑4.4平米と同等の収穫量が期待できる), 洗面台に似たへこみの有る鉢を利用する耕作法(sunken basins), そして3か所目の 「ボカシ作り」の場を組み合わせて、Muthoniさんは3人の実子と11人の養子を養うのに必要な量以上の野菜を育てている。

彼女の農作業においては、鍵となるのは肥料である。ケニア農業家畜業研究機関の代表的な研究者であるPatrick Gicheruさんによれば、ケニア各地の農民らは重要な栄養素の幾つかを欠く土壌を利用して耕作を続けている。

Gicheruさんが行ったケニア各地の調査の結果、驚きと共に分かった点は、予想していた土壌の酸性化による農業生産性の悪化ではなく、土壌中の亜鉛(Zn)とカリ(K)が決定的に不足していたということの発見であった。
土壌劣化の主な原因は土壌の過剰使用であり、農耕地は休耕を間に取り入れることなく、繰り返し栽培が行われて、作物の生育で土壌から吸収され奪われる栄養分の補充は行われていないのである。
ここで栄養分の補充は化学肥料の投与が1つのやり方であるが、科学者らは化学肥料の投与が土壌中に生息する微生物叢に危害を及ぼす可能性を指摘している。
そしてケニアで推奨され多く使われている化学肥料には、カリ(K)のような鍵となる栄養素が欠けているのである。

RODI ケニアによると、これらの欠点の解決を目指し、すでに数千の農民らが「ボカシ」の利用に取り組んでいる。

RODIケニアは1989年設立の農民の所得向上と食料安全保障に取り組むNGOである。
RODIケニアの取締役Esther Bettさんは彼女自身の経験から、ボカシが合成化学肥料より優れていること、さらにボカシの調製に要する日数が2週間ほどと短期間であることから、他の有機糞尿系肥料と比べても優れていると語っている。
このバイオ肥料「ボカシ」の卓越性は、使用する農民自らが、彼らが暮らす地域で入手可能な素材を用いて作れるということである。幾つかの農家や事業体がこのバイオ肥料の生産と販売化を始めている。

Bettさんによると、既に著しく劣化した農地の回復には3年ほどの日時が掛かるという。

このバイオ肥料「ボカシ」の利点を全ての人が認めている訳ではない。Kakamega郡で1.6ha(4エーカー)の土地を使いトウモロコシを栽培しているPhilemon Olemboさんは、合成化学肥料の利用を優先している。理由は有効成分が高度に濃縮されており、トウモロコシの栄養不足状況の対応に即効的に利用でき、市場での入手性も良いという理由から優先しているという。彼はバイオ肥料の良さを認めてはいるが、彼にとっては即効性が最も重要な選択条件であり、彼のビジネスにおいては遅効性というバイオ肥料の持つ効能発現の時間を待ってはいられない、としている。

Bettさんによれば、化学合成肥料は土壌に栄養分を供給し、一部は作物に利用され、そして使われなかった分は直ちに流出していく。一方ボカシは栄養分と共に微生物叢も一緒に土壌に供給することになる。

化学合成肥料は毎年供給する必要があるが、ボカシは3~4年の間、有効性が維持される。従って次年度以降のボカシの追加量は低減させていくことが可能なのであり、計3回のボカシ供給の後は、土壌が本来持っていた良い状態に再生されたこととなる。

ボカシの施肥量は毎年低下させることになる。第一回目の施肥には1ha当たりほぼ2.4トン(1アール当たりは1トン)が必要である。50kg袋のボカシが約18ドルであり、1haあたり初年度のボカシ代は約864ドル(1アール当たり約360ドル)となり、地域の小規模農家にとってはかなりの初期費用である。
Bettさんは、ボカシを自身で生産することと、耕作規模は可能な大きさ、例えば1/4エーカー(1エーカーは約1224坪、よって1/4エーカーは約300坪)から手始めにやっていくやり方を推奨している。

【RODIケニアの生産担当者Erastus Mainaさんのボカシの作り方の一例:家畜の糞尿を粉炭と混ぜ、空気を混ぜ込むような方式で混合して毒素分を除去する。次いでふすま(bran)とコメ・小麦・トウモロコシの実の外皮分を加えて分解を促進する。他の助材としては微生物の栄養源としての廃糖蜜(molasses)やコメの殻やコーヒーの殻等農業廃材が利用できる。これら廃材にはシリコン(Si)が含まれ、作物を大きく強靭にする働きがあり、そして害虫被害や悪天候等への抵抗力がつくという。土壌の表面部分もまたボカシに加えることで微生物叢を導入することも行い、合わせて近くの家畜向け物販店で入手可能な酵母類も発酵過程の促進のために加える。最後に卵の殻や灰を加えてCaの補給を行う。灰にはC・Mg・K・Pが含まれる。これらのものが投入され混和され、そして層状に積み重ねられ、ポリエチレンで覆う。発酵が直ちに始まり、内温が24時間以内に60℃以上になる。
毎日ボカシ層の切り返し作業を繰り返して、8日間温度管理を行う。そののち層状に拡げて7日間自然放冷を行う(この間は1日に1回の切り返しを行う)。
Mainaさんは、他の糞尿バイオ肥料の生産には3カ月の日数がかかるのに対して、ボカシの製造は通常2週間でできると指摘している】

RODIケニアは、国内35か所の刑務所が運営する農場にボカシの技術とその他のアグロエコロジー技術を導入している。また28の学校とも協力関係を結んでいる。
RODIケニアはボカシの包装品を農家に販売しており、農家の関心が高まっている、とBettさんは語る。

アフリカ食糧主権同盟(Alliance for Food Sovereignty in Africa:AFSA)のMillion Belayさんによると、ボカシの様な効能が証明されている技術がアフリカの農業と食糧システムの強化の鍵を担っていると指摘する。Belayさんはアグロエコロジー技術のアフリカでの採用には障害が存在していると指摘し、その障害として先進工業諸国の種子企業や肥料メーカーが、アフリカを彼らの作る化学合成肥料や農業用化学薬剤やハイブリット種子の大きな売り先・市場と見なしていることをあげている。

Belayさんは、アフリカの各国政府が農業の研究、殊にアグロエコロジー分野の研究にもっと投資する必要があると指摘する。

Belayさんは、更に、世界の大学において、アフリカの食糧安全保障を確保するには、西欧が実践する農耕法を採用する必要があるとの教えが、本流の考え方として代々教授されてきており、そう言った考えを信じ込んだ卒業生が各大学から卒業し、社会に出てきているのが実情なのであり、彼ら卒業生はアグロエコロジーが資金的支援に値するものとは思っていないのである。かかる現実・実態がアフリカへのアグロエコロジー技術の推進・浸透を妨げている面がある、とBelayさんは指摘する。

その上で、全ての物事は土壌の健康度合い及び健全な農耕技術から始まるものであり、気象状況が望ましいと言えない環境下でさえ、健康的な食料は、良く手入れされた健康な土壌から作り出される、ということをBelayさんは強調する。

アフリカ諸国は土壌の健康問題に取り組むことを決定している
(原題:African countries decide to tackle soil health challenges)
RURAL21 2024年 6月26日 Birthe Lappe氏とChristine Wolf氏が記す

2024年5月アフリカ連合(African Union)とケニア政府主催の「アフリカの肥料と土壌の健全性についてのサミット」がナイロビで開かれた。60名を超すアフリカ国家元首や大臣、政策担当者、民間セクター、NGO、学界、支援団体など約4000名が参加した。

「土壌を破壊させる国は、自らを破壊させる」とアフリカ連合副委員長のンサンザバガンワ氏が、米国ルーズベルトの過去の発言を引用して宣言を行っている。

アフリカ諸国では過去10年にわたり、食糧不安と栄養失調が拡大し、世界市場に食糧と肥料とを依存する割合も高まっている。

国際肥料開発センターによると、2021年の穀物生産が3000万トン不足すると見られている。殊にマリ・ブルキナファソ・タンザニア・ザンビア・マラウイ・モザンビーク・ジンバブエでは6000~9000万人が食料供給の危機に瀕するとされている。

この状況の背景には、アフリカの土壌の永年にわたる劣化の進行も影響しており、持続可能性の乏しい管理方法と継続する施肥不足が原因して、栄養枯渇と肥沃度の低下が起こっており、アフリカ農業の低収穫性の原因となっている。

ロシアのウクライナ侵略やコロナパンデミックも、アフリカの状況を悪化させており、肥料の入手性に重大な影響を及ぼしている。

サミットでは、総合的土壌肥沃度管理(integrated soil fertility management: ISFM)の観点から、肥料使用の改善策と土壌健康度合いの改善策の両面に焦点が当てられている。
肥料使用の改善策としては、無機合成肥料と有機肥料との両方の効率的利用の検討が必要と指摘された。

ナイロビ宣言が今回発効する以前に、アフリカで実践されていた肥料政策の基本原則は、2006年のアフリカ版緑の革命のための肥料に関するアブジャ宣言(Abuja Declaration on fertilizer for the African Green Revolution: 2006年、AGRAが活動を始めていた時期)であり、そこでは2006年当時に窒素換算で1ヘクタール当たり8kgだった化学合成肥料施肥量を2015年までに50kgへと拡大を目指すとの目標が記されていた。

今回のナイロビサミットにおいて、ナミビア大統領のムブンバ氏は、「土壌肥料の管理にはバランスを取ることが極めて重要だ」と指摘し、またマラウイの大統領チャクウェラ氏は、「無機化学合成肥料へのアクセス性と使用量を増やすという従来の目標を目指す努力の結果、農業生産高は増加しているが、その有益性・有効性は、期待した全ての課題の解決には未だ達しておらず、残された課題としては、土壌の健全性への緊急な対策が重要なものとして残っている」と指摘している。

肥料の課題に対して、ナイロビ宣言は、2006年の肥料に関するアブジャ宣言の考え方を大きく変更したものであり、パラダイムシフトが為されていると言える。

サミットの結果、アフリカ連合の加盟55カ国全てがナイロビ宣言・肥料と土壌の健全性に関する10ヵ年行動計画・包括的アフリカ土壌運動を採択している。

ナイロビ宣言では、2034年までに有機肥料そして無機化学合成肥料の国内生産量の3倍化を目指し、小規模農家がそれら肥料を入手しやすい価格と環境を作ることを目指している。

また各国は劣化した土壌を少なくとも30%は健全な状態に回復することを目指すという。

ナイロビ宣言の目標達成のため、アフリカ開発銀行(AfDB)、欧州委員会、フランス、ドイツ、オランダ、ノルウェー、国際農業開発基金(IFAD)、ビル&メリンダ・ゲイツ財団を含む14の援助国・機関が、ナイロビ宣言・肥料と土壌の健全性に関する10ヵ年行動計画・包括的アフリカ土壌運動の実施に対して協調的支援を行うことを約束している。

以上で情報の提供は終わりですが、最後にRODIケニアが主導する『ボカシ』の利用をアフリカの小規模農民に当てはめて、必要とされる年間のコストの計算をしてみると、

小規模農家数:3300万(出典:Celebrating small-scale farmers this World Food Day, 2023年10月12日、FARM AFRICA)
各農家が1アールの農地にボカシを施すことを仮定すると、
360ドルx 33,000,000=11,880,000,000ドル/年間(118.8億ドル、約1.7兆円)

ここで、RODIケニアのBettさんの推奨する手始めに1/4の0.25アールから始めることを組み込むと、約30億ドルとなり、円換算では4350億円となる。

COPで今も続く金満国が求められている年間支援金額は1000億ドルであり、この支援要求額の3%分であり、充分手が届くボカシ支援金額だろう。

後楽園を築地へという無駄な問題をやり玉にあげるとすれば、当時のドームの施工に350億円が掛かったという。築地では500億円は下らないと予想するが、500億円と仮定して上記円換算の4350億円との割合をみると11%程になる。
大阪の件もあるだろうし、NHKの年間7000~8000億円をかき集めるシステムもいつも通りに気に掛かります。NHKは1世帯あたり町会費のイメージの年2000円(5000万世帯として)1000億円程で回転する事業体を目指すべきだ、といつも思っています。

ドームの使い勝手が悪くなったとか何とか、といった風説をどうやら流し始めて、築地移転もやむを得ないとの世の流れを作ろうとし始めているきらいが見られる。

ドームや大阪の件は、スポットの1回の資金ねん出だが、NHKは毎年アフリカの小規模農家に必要な土壌改良という、とても有意義な活動支援を、例えばSDGsの良く目標にされる2050年までの期間の支援金原資として充分に充当できるものと思うのですが。

お金は活かして使いものだとつくづく思う所です。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan
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石破首相就任に思う

2024-10-08 16:59:42 | 政治
10月1日の衆院本会議で、自民党石破茂氏は首相に指名され、石破内閣が発足した。

それに先立つ9月27日の自民党総裁選挙では、1回目の投票で一位になった高市氏と二位になった石橋氏で決選投票が行われ、結果、石破氏が215票、高市氏が194票と、石破氏が逆転勝利し新しい総裁に選出された。

アベ政治の継承を最大の武器とし、極右姿勢を隠そうとしない高市氏が総理大臣になった日本は、想像しただけで耐え難かっただけに、「裏金議員」に厳しい姿勢で臨むことを示唆し、「ルールを守り、国民を信じて逃げることなく正面から語る自民党をつくる」とする石破首相の誕生には、正直安堵感を覚えた。

その後石橋氏は、解散総選挙について、「予算委員会で十分議論してから」と言っていた言葉を覆し、「10月9日に衆院解散、27日に投開票」を表明。

10月5日の所信表明演説では、「日米地位協定の見直し」「アジア版NATOの創設」「原発ゼロに近づける努力」「選択的夫婦別姓」「マイナ保険証と紙の保険証の併用」など独自の見解を封印、または先送りして、野党やマスコミから「手のひら返し」との批判が上がった。

私自身は、例えば、石破氏の持論の中でも、憲法の上に位置付けられ、在日米軍関係者の犯罪を裁くこともできない「日米地位協定」の見直しには賛成だが、敵国を想定した「米軍基地の自衛隊との共同管理」「憲法9条2項の削除を含む憲法改正」などには反対だし、年々複雑化する安全保障の在り方については、「各国との対話」「外交」を中心に据えた姿勢で臨んで欲しいと思っている。

一方、石破氏が「人命最優先の防災立国」として提示した「防災庁」の設置については、世界有数の地震発生国であり地球規模で自然環境が悪化する現在、最優先課題として、是非早急に実現するよう応援したい。

また、「マイナ保険証の見直し」は、今からでも見直し、実現して欲しい。

自民党派閥の裏金議員、旧統一教会関係議員については、来る衆院選で私たち有権者が明確に「決別」の断を下し、党派を超えてよりましな議員を選ぶことが最重要なのは、言うまでもない。

一方、石破首相が提示し、進めようとするあれやこれやの政策については、まずは与野党議員共に、党利党略や既得権益の思惑を乗り越えて、日本に暮らす私たちの今と未来のために、不安定な世界情勢に向き合いながら、国会で真摯な議論を積み重ねてもらいたい。

そして、私たち自身も、今一度しっかり政治の在り方、行方を監視し、考え、発言していきたい。その思いをいま新たにしている。

「護憲+コラム」より
笹井明子
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農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(3-3)

2024-10-05 09:47:20 | 環境問題
前回の『農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(3-2)』において、『遺伝子という山を越えた先にあるもの:アフリカの遺伝子組み換え作物の実態と遺伝子編集技術の暗示するもの』という文献の(要旨)と(序論)部分のみの紹介を行い、次回はGE技術擁護者の訴える3つの特徴に関する擁護側と懐疑派側の論点を紹介する旨を記して前回は終えました。以下にこの擁護側と懐疑派側の3つの特徴に関する議論を今回は紹介します。

GE技術を成功裏にアフリカ大陸に普及させたいのであれば、どのような条件が必要なのかに関する議論は、今回も見送りました。また別の機会に紹介するつもりです。

では、以下に紹介を始めます。

3つの特徴(精密性・コスト・迅速性)が、遺伝子編集技術と遺伝子組み換え技術の両技術の潜在能力の説明に長く使われてきている。
これら3つの特徴を継続的に主張し続けたが為に、多くのアフリカ農民の利益が妨げられてきていたと言える。よって、これら3つの長所とされた主張を精査して調べることは意義有ることであろう。そして、制度的構造と評価基準に焦点をあてることで、アフリカにおけるGM作物の複雑な遺産から得られる教訓について学ぶことができると考える。

そして、今後GE技術に焦点が当てられるであろう今後の育種プログラムの中にGM作物から得られた教訓をどのように組み込んでいくかに関する、我々の推奨事項を最後に述べることとする。
そのためにも、遺伝子だけに焦点を絞り込み過ぎることなく、遺伝子も含めての全体的視野に立ってアフリカの農業施策全般を考えていくことの重要性を、資金提供者らや政策決定担当者らに提案したい。

【遺伝子組み換え(Genetically Modified;GM)からゲノム編集(Genome Editing;GE)へ】

1980年代後半そして1990年代初めから始まった分子内マッピング技術の発展により、科学者らは、価値ある形質に繋がる遺伝子の特定が可能となった。一方で、遺伝子の組み換え(genetic modification)技術の発展により、育種業者はある生命体の遺伝子を別の生命体へと移すことが可能となり、生殖の概念の壁が取り払われてしまった(Stone,2021)。
遺伝子技術者らは、土壌中に常在する菌であるバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus Thuringiensis,Bt菌)の遺伝子を切り取り、栽培植物に組み込むことが可能となった。
GM作物の推進者らは、この新たに達成された技術の成果は、単に作物の改質が達成できただけではなく、この新技術により貧困が削減でき、食料安全保障が改善され、経済と人類の発展が約束されることになる、との評価を広めていった(Bouis,2007;Qaim&Kouser, 2013)。
初期のバイオ技術の大半を開拓したアメリカでは、GM作物が急速に市場を拡大した。今日ではトウモロコシ・大豆・綿花の90%以上がGM作物である(USDA,2020)。
世界全体で見ても、GM作物は26の国々で2億haに近い耕作面積で栽培されている(ISAAA、2019)。
しかし栽培されているGM作物の種類は4つ(大豆・トウモロコシ・綿花・キャノーラ)のいずれかであることがほとんどである。GM作物栽培に割り当てられている耕作地の88%は、除草剤耐性機能を組み込んだ作物向けであり、その中の45%は除草剤耐性機能とともに害虫抵抗性機能を同時に組み込んだ作物である(ISAAA,2019)。

【除草剤耐性機能は、世界的に最も汎用されているモンサント社(現在はバイエル)除草剤glyphosateの散布でも枯れることがない特質をもつ種子。害虫抵抗性機能はバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus Thuringiensis,Bt菌:生物農薬として30年以上の実績を持つ)が持つ作物の葉を食べる毛虫に対し殺虫効果を持つBt菌からの形質を組み込んだ種子】

GM推進者らが、GM技術の利点を強調する例として、果物や野菜栽培を行うに当たってウイルス抵抗性の形質を導入することが有益であると主張しているが、実際に応用され利用されているケースの規模は小さい。
潜在的な価値があると見られる別の形質として日照りに強い形質や栄養成分強化に繋がる形質があるが、これらの開発は充分に為されていないのが現状である。

GM作物の研究・開発は今も続いているが、新たなバイオ技術が出現してきている。
それがゲノム編集(GE)技術であり、この技術はDNAの繋がりであるヌクレオチド連鎖上で、加える・削除する・変換する、または置き換えるといったことを行って、作物の遺伝子構造を変換する技術である。
ゲノム編集技術には幾つかの異なったやり方・道具がある(Glover et al、2020)。

これまでのGM技術では、ヌクレオチド鎖の変換はランダムに行うことしかできない状況であったのに対して、GE技術においては、ゲノム連鎖内のヌクレオチドの繋がりのターゲットとする部分に対し編集が行える、という特徴がある。

GM技術と比べて、GE技術には3つの大きな特徴があるとGE技術の推進者らは指摘する。
1 精密さ:ゲノム内のターゲットとする箇所を、高い精密度・大きい制御力で編集ができる。
2 コスト:必要なインフラ装置・設備は極めて少なく、GE処理のコストは低い。従ってGE技術は「民主的であり、ハードルの低い技術」である。
3 迅速性:GM技術と異なりGE作物には別種生命体からの外来性遺伝子物質は組み込まれない。従って、研究室レベルから上市レベルまでにクリアしなければならないハードルは、GM作物に比べて低いことから、商品化までに要する時間とコストは低いだろうとの主張である(Macnagthten&Habets,2020;Smyth,2020)。

これらGE技術を擁護し、GE技術から生れるビジネス機会の最大化を目指す人々の主張する特徴の妥当性とその主張に疑念を持つ人々の考え方・意見を、以下に詳細に検討してみたい。

第一の主張:精密さ
Charpentier氏とDoudna氏の2020年ノーベル化学賞受賞の際、スウェーデン王立科学アカデミーは彼らの開発したCRISPR-Cas9遺伝子編集技術が「極めて精密性が高い」点を強調した。植物の品種改良を行う専門家らも、この技術が従来の遺伝子組み換えの抱えていた課題を克服する「超精巧」なもの、として歓迎した。

しかしながら、CRISPR-Cas9遺伝子編集技術には、実際に利用する場面において多くの複雑さが存在していることが明らかになってきている。
即ち育種家らはCRISPR-Cas9遺伝子編集技術を利用するにあたって、多くの他の技術も合わせて一緒に利用しており、例えば、最近Corteva Agriscience社は、グリフォサート耐性トウモロコシと害虫耐性トウモロコシの認可申請を欧州の食料安全機関に行っているが、これらの新しい種子は、CRISPR-Cas9遺伝子編集技術と共に旧来の遺伝子組み換え(GM)技術も利用して作られているのである。更に、利用される遺伝子編集技術の種類並びに対象とする植物の種類によっては、GE技術ではあっても外来のDNAの挿入に繋がる可能性が否定できないとされる。
即ち、新たに導入を考える形質に対応するゲノムが対象とする植物に存在しない場合には意図的に外来DNAを挿入する可能性があり、またそれとは別に遺伝子編集技術の工程中、意図はしないものの副次的に挿入が起こってしまう可能性がある。例えば国際熱帯農業研究所の科学者らは、プラスミド伝達(plasmid delivery)を用いてバナナの遺伝子編集を行っているが、編集に用いた「選択マーカー(selectable marker)」がバナナのゲノムに挿入されてしまい、結果として外来DNAが組み込まれたトランスジェニック植物が作り出されたと指摘している。

CRISPR技術は、外来遺伝子の挿入が無い点で従来のGM技術とは異なるとしばしば指摘されるが、遺伝子編集(GE)作物には外来性DNAの小断片が導入され含まれてしまう可能性があり、現在良く宣伝に利用されている言説・説明は誤解を招く危険を内在していると言える。

外来からDNAの挿入は無いと主張することで、遺伝子編集作物が遺伝子組み換え作物とは別種のものだとする説明は、これら2つの技術の間に存在する不都合な類似点や重なり状況を都合よく隠ぺいしたい利害関係者らが行いがちな「目標・結果ありき」の言説戦略だと言えるのである。

第二の主張:コスト
GE技術の秀逸性を強調する主張の第二番目は、コスト面であり、この技術が植物の育種に関わる多くの人々に利用できる『民主的な技術』であるとする点である。
例えば、2015年のNature誌には、CRISPR技術が簡便であり、必要な資材の入手が容易であり、研究者が実際に行う必要のあることは、研究目的に合致するRNA断片を注文することだけで、他の資材は、通常の在庫から容易に入手でき、要するコストは30ドル未満であり、アフリカ農民らが直面する課題に対し解答を模索する開発者や技術擁護者らに対してもコスト的に参入可能な障壁の低い「民主的な育種技術」だと指摘している。
上に述べられたGE技術の特徴、例えばハードルの低さや様々な地域でも利用可能な『民主的』技術であるといったGE技術がばらまいた夢は、しかし高度の技術集約型を特徴とするバイオ技術企業が勃興し、これら大企業が取りくんだ厳格な知的所有権戦略によって残念ながら打ち砕かれてしまった。
米国における1980年のDiamond対Chakrabartyの裁判の判決により、GM作物を含む生きた生命体にまで知的所有権は効力の範囲が拡げられる事となった。
この判決により、企業間の知的所有権競争が激化し、発明競争と共に法令順守に係るコストの拡大が発生してしまった。
コスト上昇により企業間に合併の動きが起こり、1990年代前半時分には800件ほどの合併や買収やその他の戦略的合同化が農業各種資源供給企業からなる業界で見られ、10年前の1/5の企業数に減少したのである。
企業合同化の波は、知的所有権の効力を強化することに繋がり、この潮流が21世紀にはいっても継続しており、今日では4社の巨大企業(バイエル-モンサント;ケムチャイナ-シンジェンタ;BASF;コルテバアグリサイエンス)が世界の種子ビジネスの65%を支配している状況となっている。
1990年代後半、これらの多国籍企業はGM技術から得られる種子の持つ潜在能力の大きさに沸き立ち、これら種子がアフリカの貧困と飢えの解決に役立つと考え、彼らは知的所有権で守られた彼らが作成の種子をアフリカに送り込んだのである。
GM種子の第一陣は、種子ならびに必要とされる外部投入資材と一緒にアフリカの農民たちに販売された。販売された種子の価格は、アフリカの農民が扱っていた従来の種子に比べて30~40%高いものであったが、GM種子を利用する栽培法を採用すれば充分収穫高の向上でコスト的問題は無いと説明されたのである(Schnurr, 2012)。
南アフリカにおける初期のデータ(害虫耐性形質を組み込んだ綿花並びにトウモロコシ)によると、初期投資の増額以上の収穫量のアップと投入殺虫剤量低減によるコストダウン効果が出た(Keetch et al., 2005; Thirtle et al., 2003)としているがその後の長期間にわたり検討を継続した所、初期に打ち出された成功事例は、補助金並びに特恵協定による下駄を履かせたことによる結果だったと指摘されている。即ち、これら補助金や特恵協定が無い状況では、GM種子に付随するコスト高はアフリカ農民にとっては採用を躊躇する事態に繋がることが証明されている(Schnurr, 2012)。
2008年Fischer らは、南アで販売の害虫耐性Btトウモロコシが、当時小規模農家が通常購入していた認可済み種子に比べて5倍高いことを認めている。一方、2019年のデータによると、GMトウモロコシ種子が通常手に入る種子に比べて10倍高いとしている(Fischer,2022)。
知的所有権の制約と種子の高いコストが第一世代のGM種子の採用の妨害になっている。
この状況の下、これら採用の障害となっている制約に縛られないアフリカの主要作物のアフリカ版遺伝子組み換え作物の作成に向けた協調的な取り組みが発生している(Schnurr,2015)。21世紀に入りロックフェラー財団は巨大バイオ企業と提携してアフリカ農業技術財団(the African Agricultural Technology Foundation, AATF)を設立し、民間の種子会社とアフリカの科学者の間の協定を仲介し、これら協定のもとでアフリカの農家が知的所有権の制約から利用が妨げられている技術を利用できるようになることを目指したのである(Schnurr, 2017)。
AATFとその支援者らは、害虫・疾病・干ばつに強いイネ・ササゲ・トウモロコシなどのアフリカの主要穀物の遺伝子組み換えの開発に着手している。しかし、ビル&メリンダ・ゲイツ財団(BMGF)を始めとする強力な援助機関の支援にも関わらず、アフリカ農家向けに特別に設計され、アフリカ農家が利用可能な遺伝子組み換え作物の作成を目指す運動の結果はまだ実現していない。
AATFは巨大アグリ企業とロイヤリティー無しのライセンス契約を交渉しているが、AATFが仲介するPPP(官民連携)の動向は鈍い。
2022年時点で、これらプロジェクトのうち商業化の段階に達したのはナイジェリアのBtササゲの一つだけであり、化学的及び規制上の障害物に足を取られているプロジェクトは、アフリカ向け節水トウモロコシ・ウガンダの栄養強化バナナ・ウイルス耐性キャッサバなどである。
こうした継続的遅延は、アフリカの科学者らや農民の利益を優先するのでなく多国籍企業の利益を優先する姿勢であり、国際的資金供与団体からの資金供給の不安定さであり、バイオ技術に対する寛容な法律の存在であり、そしてPPP事業を遂行する国家が適切な規制政策を欠いているもとでのPPP事業遂行がプロジェクトの停滞を生んでいると考えられる(Schnurr, 2018)。
1990年代の企業統合化の流れと既存のGM技術をアフリカ諸国に適応しようと試みた過去の歴史を顧みれば、GE技術の持つ低コスト性という特質がアフリカの農民らの手ごろな利用に結び付くだろうと主張する技術擁護者らは、立ち止まって考えるべき時だと考える。
現在、展開中のアフリカ固有の作物のGE版作物のなかで、アフリカの研究機関や高度学術団体内で検討されているプロジェクトはほとんどないのである。
更に問題な点であるのは、各種組織がGE技術の様々な場面で知的所有権争いを展開している環境のもとで、知的所有権の規則が製品のコストや利用法にどう影響をするのか、研究や研究のデザインにどのように影響するのか、ゲノム編集に必要な材料・機材・材料への入手性にどのように影響があるのか、等で様々な疑問が残されているのであり、これらさまざまな疑問というものはそもそもGM技術の開発展開時にも存在していたものなのだ(Martin-Laffon et al., 2019; Montenrgro de Wit, 2020)。
GE技術の特許出願は、2005年以降15倍以上に増加している(Brinegar et al., 2017; Graff and Sherkow, 2020)。学術機関と企業組織が急速に知的所有権を申請していることは、「基本的な研究手段と考えられるものが、成立する知的所有権の支配下に置かれ、それにより技術の展開や利用性に障害が出る可能性の有ることを科学者らや法律専門家らは危惧している(Egelie et al., 2016)。
GM技術をめぐる知的所有権制度の時と同様は、GE技術の知的所有権化は、ゲノム編集における将来の人道的及び公共の利益のための活動領域を限定することになる。
コルテバ・アグリサイエンス社所有のCRISPR関連の知的所有権の占める領域は広範であることから、今後この領域の技術や構築物の知的所有権を追求する如何なる活動組織もコルテバ・アグリサイエンス社との間でライセンス協議の必要性がある(Egelie et al., 2016)。
現在進行中の知的所有権取得の動向は、GM技術の利用時に生じたことと同様に、GE技術に関しての企業支配の集中化を引き起こす可能性がある。
CRISPR技術の知的所有権化の動向と本技術の利用性が、今後「衝突を引き起こすか、または協調化が起こるか」は、今後の動向を見ないと判断できない状況ではある(Sherkow, 2018)。GeorgesとRay(2017)は、「大企業が利益最大化のために課す知的所有権による支配という構造に対する心からの怒りというものが、GE作物を社会的に受け入れる際の最大の障害物となる」として、「政府は、知的所有権の権利に対する合理的な規制をもとにGE作物をコントロールしていくことが求められる」と指摘している。より規制を強めた対応を政府が取らなければ、GE作物はコストの高さや知的所有権に係る協定上の制約からその利用性は限定的なものになるだろう。

第三の主張:迅速性
ゲノム編集を支える3番目の主張は、技術的設備と実験室的研究段階から市場に上市するまでの時間が、GM技術に比べて早いとする点である。
従来の植物育種は通常「本質的にランダムであり、近縁種に望ましい形質があるかどうかに制約されていた」と考えられている(Barrows et al., 2014)。
20世紀後半にGM技術が登場した時、従来の育種では「最低でも7年から10年」かかっていた形質改良プロセスをGM技術では5~6年に短縮できると称賛された(Sharma et al.,2002)。
しかし、GE技術の登場によってGM技術は今では遅い・扱いにくい・面倒だと言われるものになっている。目的の遺伝子の特定と分離、そして特定評価が多くの場合「時間がかかるもの」とされ(Jacobsen et al., 2013)、一方、戻し交配と選択による標的形質の導入は、育種プロセスを遅らせるもう一つの「制限要因」である(Wolter et al.,2019)。
それとは異なり、GE技術は「一世代の中で、複数の有益な形質を選別した遺伝子鎖の中でピラミッド化することが可能となる」、よって育種工程の必要時間は半減することができるとされる(Gao,2021)。
GE技術擁護者たちの二番目に主張する点は、GE作物には対象とする作物とは別の種類の外来生命体からのDNAの導入が避けられていることであり、この外来生命体からのDNAが取り込まれていないことから、いわゆるトランスジェックDNAが含まれているとされたGM作物の市場化が非常に煩雑な規制上のハードルをクリアしなければならないことから遅れたという事実を、GE作物は回避できると指摘しているのである
バイオ技術擁護者らに広く行きわたる意見として、GM作物はアフリカ大陸において過剰に規制を受けており、技術の利用化や革新化を妨げるものである、という考えがある(Qaim 2020;Smyth,2020;Thomson, 2021)。
擁護者らの不満は、バイオ技術に対する安全規制法が禁止的であり慎重な側面を持っていること、安全規制を司る組織の資金不足の点と植物育種と規制監督の両方の能力構築の不足が原因しているとされる(Nang’avo et al., 2014)。
しかし擁護者らは希望は捨てておらず、ゲノム編集技術が先のGM技術の轍を踏むことなく、ハードルをクリアできるものと考えている(Lassoued et al,2019; Waltz,2019)。
このことはどの位信憑性があるか?
GM技術が登場した初期のころ、擁護者らはGM技術に対し起こるであろう懐疑論の大きさを過少に評価していた。
2000年債の初めごろ、アフリカ諸国でバイオ技術を規制する如何なる法律も、また国内に規制する組織を持っている国もほとんどなかったのである。
各国政府・BMGF・ロックフェラー財団や米国国際開発庁を含む世界の開発資金供給機関は、直ちに地球環境ファシリティー(the Global Environmental Facility)やバイオセーフティーアフリカ専門家ネットワーク(African Biosafety Network of Experrise)やバイオセーフティ-システムプログラム(Programme for Biosafety Systems)等の専用プログラムを立ち上げることで、各国の法制整備・国家バイオセーフティ-機関の設立・規制当局者たちの訓練の支援活動を進めていった。
バイオセーフティ-に関連する規制当局は中立性が求められるものであるが、推進されたバイオセーフティ-法や機関は遺伝子技術を擁護する性格を持つことを要請されたことから、バイオ技術の規制と推進と間の線引きがあいまいになるという事態が起こった。
資金供与国や供与団体らは、これらの活発な活動や遺伝子組み換え作物(GMO)プロジェクトへ資金提供や熱心な戦略的情報操作を駆使することで、アフリカ大陸全体にバイオ技術を受け入れる政権を持つ国家を作りだすことができるとの信念を持っていた。
だが、事態はそんな単純なものではなかったのである。
アフリカ各国政府は開発を推進していく上で、そしてバイオセーフティ-規制を運用していく上で、主権の行使を行い、例えばエチオピアやウガンダではバイオ技術を推進するのでなく、むしろ規制をかける方向の法律を施行していった。
それに加えて、アフリカ大陸全体で生物多様性アフリカセンターやアフリカ食料主権同盟が実践する社会運動が推進され、それらの社会運動ではGM作物の利用だけでなく、これら革新技術が内蔵する開発や自由化自体の構造的問題そして革新技術の世界規模への拡大化に内在する世界規模で存在する格差問題にも疑念を提示するのである(Rock 2019)。

この論文執筆時点では、ゲノム編集技術を既存の法律または新しい法律に組み込むことを考えているアフリカの国はほとんどないと言える。
ゲノム編集に焦点をあてた規制を策定しようとした国は3カ国のみであった。
ケニアとナイジェリアはどちらも、「新規の遺伝子の組み合わせを持っていない製品に対してはバイオセーフティ-規制から除外するとかケースバイケースに審査するといった」より寛容的なアプローチを選択している(Komen et al., 2020)。一方、南アフリカは2021年10月に以前のGM作物と同様の危険性評価を遺伝子編集作物に課すことを宣言している。
規制制度・規制体系がアフリカ大陸ではバイオ技術の推進に役立つのではなく、むしろ推進を妨げていると、多くのバイオ技術推進派が信じているということを前提にすると、多くのGM作物が陥ってしまった落とし穴を避けて、承認プロセスを推進するためには、外来性DNAを含有するものと含有しないものを明確に分別する規制体系を、バイオ技術推進派は擁護するだろうことは充分あり得ると思われる。
かかる規制体系がアフリカ諸国の政治家や市民らに受け入れられるかどうかは、また別の話ではある。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan
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国のメタボ対策の現状、並びにメタボ予防・改善に役立つだろうBRIの考え方、並びにBRIを利用すれば国のメタボ運動の推進状況の見える化が出来るのではないか

2024-10-03 22:05:15 | 暮らし
「農業と食」関連の話題提供を行っているが、今回は健康に関連する「BMI値」の代わりに「より妥当性がある」と目される「BRI値」の話題を提示したい。

先ずは医療機関を巻き込んだ国の脱メタボを目指した運動の背景や動向あたりから始めて、我が国の健康づくりに関する現状のおさらいをしてみたい。

21世紀に入りそれを契機に、国は国民の健康づくり運動の取り組みを始めている。
既に第一次並びに第二次の運動期間を終了しており、現在は今年から始まった第三次国民健康づくり運動(健康日本21:第三次)の最中である。第一次から第三次までの履歴を纏めると以下になる。

健康日本(第一次):2000年から開始の国民健康づくり運動。健康増進と疾病の予防に重点を置いた運動であり、この運動を推進すべく2003年に健康増進法が施行された。
健康日本(第二次):第一次の結果を踏まえて、2013年からの10年間の計画でスタート。
健康日本(第三次):2024~2035年度を実施期間としてスタート。第二次運動終了時点でも目標に未達の項目がある状況の下、第三次運動の取り組みを推進するために、特に以下の4項目を定めて国民の健康づくり推進を図るとしている。
1. 健康寿命の延伸と健康格差の縮小
2. 個人の行動と健康状態の改善
3. 社会環境の質の向上
4. ライフコースアプローチを踏まえた健康づくり

この国民健康づくり運動の主な眼目は幾つかあるだろうが、やはり最大の眼目であり興味の対象でもあるものは、4つの取り組みの中にある2番目の『個人の行動と健康状態の改善』であろう。この目標は運動開始時点からの懸案であっただろう。

今回紹介したいBMI値とそれに代わり登場してきたBRI値の話題も、この『個人の行動と健康状態の改善』に関連する事柄であり、モノサシである。よって、これ以降は国民健康づくり運動全体を語るのでなく、最も大きな運動の目標である『個人の行動と健康状態の改善』、即ち個々人の健康状態を如何に把握することが、個々人の健康の増進に役立つか、に関して国が現在取っている具体的な行動に先ずは焦点を当てて見ていくこととする。

国が取っている具体的行動を見ていく上で、地域の医療法人のホームページの情報が結構役立つ。今回は「立川相互ふれあいクリニック」のホームページに紹介されている情報をも参考にしながら紹介を続けていきます。この医療法人のホームページには以下の記載があります。

2008年(平成20年)4月から「高齢者の医療の確保に関する法律」により、生活習慣病予防の徹底のために、メタボリックシンドロームに着目した特定健診・特定保健指導という新しい健診・保健指導が始まりました。
生活習慣病で亡くなる人は死亡原因全体の6割を占めるほどです。生活習慣病や重症な病気を発症する前に、今ご自分の生活習慣を見直して健康な生活を送れるように意識していくことがとても大切です。

この情報中のいくつかのキーワードについて詳細を更に紹介すると、
1.生活習慣病には:脂質異常症・糖尿病・高血圧・心筋梗塞や狭心症等の虚血性心疾患・脳梗塞等の脳血管疾患
2.生活習慣病に係る医療費の状況:医科診療医療費総額(29.3兆円)の約30%(9兆円)
内訳(入院と外来両方を合算した額)
悪性新生物:3.4兆円
心疾患(高血圧性を除外):1.9兆円
脳血管疾患:1.8兆円
高血圧性疾患:1.8兆円
糖尿病:1.2兆円 (医療費データの出典:平成26年度国民医療費)
3.生活習慣病に係る死亡割合
悪性新生物:28.7%
心疾患:15.2%
脳血管疾患:8.7%
COPD:1.2%
糖尿病:1.0%
高血圧性疾患:0.5% 合計55.3% (出典:平成27年度人口動態統計)
5. メタボリックシンドロームとは:腹囲85cm以上の男性および腹囲90cm以上の女性
といった内臓脂肪型肥満の状態に加えて、脂質異常・高血糖・高血圧の3つのうち2つ以上を併せ持つ人をメタボリックシンドローム状態の人とする。
メタボリックシンドローム及びその予備軍は、40~74歳の男性では2人に1人、女性では5人に1人存在していると言われている。
メタボリックシンドローム状態を放置したり、更に高進したりすれば、糖尿病・高血圧症・脂質異常症を発症して薬に頼る生活が始まり、生活習慣を見直し改善を行わない場合には心筋梗塞や脳卒中といった重篤な症状へと転帰していく恐れが出てくる。
従ってこのような経過をたどっていくことを避けるべく、健康診断で健康状況をチェックし生活習慣を見直し改善していくことが求められることになる。

そこで、医療機関が行うメタボリックシンドロームに着目した生活習慣病予防のための健康診断である特定健診の意義があり、特定保健指導の意義があることになる。
今回紹介するBMI値もここに登場しております。

その特定健診の検査項目を見てみると、

必須項目として:伸長の計測・体重の計測そして腹囲の計測
尿蛋白・HDLコレステロール・GOT・GPT・γ-GTP・空腹時血糖・HbA1c・尿糖測定

上の特定健診の検査項目の中には、個人でも容易に測定できる項目がある点に着目して欲しい。 即ち、「伸長の計測」と「体重の計測」そして「腹囲の計測」の3つであり、今回紹介する情報に出てくるBMI値は「伸長の計測」と「体重の計測値」から算出されるものであり、もう一つのBRI値の方は、敢えて大雑把に捉えれば「伸長の計測」・「体重の計測」そして「腹囲の計測」の3つの計測値をもとに算出が出来るのであり、結論的に言うと、このBRI値が『人の健康状態』の良きモノサシとなる、と言えることから、現行の特定健診は、個々人の健康状態を個々人で判断する上で、かなり的を得ている健診だと言える。
但し、後半で述べるように、厳密なBRI値は「伸長の計測」・「体重の計測」「腹囲の計測」に加えて『尻廻り』の計測値も計算に必要としている点を指摘しておきます。

BMIとBRIの情報の紹介に進む前に、2000年頃から始まった我が国の国民健康づくり運動の推移の実態を示す情報を纏めとして紹介しておきます。
1.特定健診受診者数と受診率:2008年度の受診者数が約2000万人で始まり、2014年度には約2600万人。2008年の導入から毎年受診者は100万人増。2014年時点で全保険者の50%が受診。しかし目標とした70%には到達していない。他方、特定保健指導の2014年時点の全保険者平均実施率は18%。目標とする全保険者の45%を上回る優良な保険者は極めて少ない。ここで保険者とは医療保健担当機関のことを指す。国が医療保健担当機関の「尻を叩くも、目標には未達」の状況が継続しているのが目に浮かぶ。
2.メタボリックシンドローム人数:2008年度から2021年度にかけて、メタボ該当者及び予備軍は約1480万人から約1700万人へと220万人程増加。特に男性の増加が顕著。
3.大分県立看護科学大学からの情報に、「10年間の生活習慣が医療費に与える影響についての検討(小野治子氏記す)」があり、そこに以下の記載がある。
2018年の総医療費は年間43兆円、そのうち肥満を含む生活習慣病に関連する医療費は9.4兆円にのぼり、医療費の適正化のために生活習慣病の予防は喫契の課題です。

すなわち、特定健診や特定保健指導を10年間継続して行っているが、生活習慣病に関連する医療費の低減化の結果を出す、という大目標の観点ではほとんどその効果が出ていないと結論付けられると思う所です。

このことは、例えば運動の進捗状況を『見える化』して、市民に如何に興味とこの課題の重要性を絶えず意識の内に持ってもらうか、に掛かっているのではないかと感じており、この点での運動の不十分さが残念に思われるところです。この点はまた最後に触れて見たいと思います。

ではBMIとBRIの話題に移ります。

健康状態を見定めるのにBMI値を利用する。このやり方を捨てる時期に来ているのか?
(原題:Time to say Goodbye to the B.M.I.)
The New York Times、2024、9月6日、 Roni Caryn Rabin氏記す

BMI(body mass index)値には欠陥がある、と永年にわたり批判が為されている。BMIに代わるBRI値(Body Roundness Index)に注目が集まっている。

BMI値は、伸長と体重とを測定することで算出でき、その値から人々を過体重・肥満・極度に肥満と類別化出来ることから、永らく健康状況を広範に調査する際に利用されている。しかしBMI値は、批判を最も受けている指標値でもある。

BMI値による類別化は、永らく疑問視されており、例えばBMI値が30であり、BMIによる類別化から言えば肥満の最前線にいるとされたアメリカのラグビーオリンピック代表のIlona Maherさんの例が挙げられる。Ilonaさんは、彼女のインスタグラムの中で彼女の体重でもって彼女を貶めるオンライン荒らしを行う人々に対して、「でも私はオリンピック代表に選ばれ出場できるのであって、あなた達は違う」と指摘しているのである。

過体重の人や白人以外の人に対してそれらの人々を擁護する考え方として、BMI指数は200年程も前に作られたものであり、大半が白人男性を対象に集められたデータからという来歴を有するものであり、医療における篩い分け・類別化を目的にBMI値算出法が作られたわけではないという考えがある。

医者達もBMIには欠点があることを指摘しており、昨年アメリカ医学会はBMIが人種・民族・年齢・性別・性の多様性等の考慮にかける不完全な指標だと指摘し、BMI値では筋肉質の人々や余計な部分に脂肪を多くためる人々を類別化することが出来ないとしている。

例えば「BMI値の観点からすれば、ボディビルダーでもあったシュワルツネッガーさんは肥満と診断され、減量を求められただろう」とイェール大学のMehal教授は指摘している。
「でも彼のウェストサイズは、32インチ(約81cm)だったのである」

かかる状況がBMI値の解釈とモノサシとしての利用には存在していたことから、新しいモノサシの出現が求められる状況があった。 従って「体の丸さ加減」にも着目するという新たな指標値(body roundness index; BRI)が2013年に提示されることとなった訳である。即ち、BRI値の算出は、伸長と体重をもとに算出するBMIとは異なり、伸長と体重と共にウェスト廻りと尻廻りにも着目して計測しているのである。

BRI値を求める計算式では、臀部や太ももに蓄積される脂肪分に着目するのでなく、2型糖尿病や高血圧・心臓病の発症リスク増大に密接に関連する体の中心部分や腹廻りの脂肪分の役割をより正しく評価することが可能となる工夫が為されている。

6月にJAMA Network Open に掲載された論文は、BRIが死亡率の有望な予測尺度になるとする一連の研究論文の最新の結果を報告するものである。(原報文中では、計算式に関連する議論が展開されており、数学に興味ある人は原報文に当たって下さい。またオンライン上でBRI値を簡単に算出してくれるサービスがあります。BODY ROUNDNESS INDEX CALCULATORに入り、単位をMetricに指定した上で、Kgとcmで伸長や体重、そして腹廻りと尻廻りを測って入力すればBRI値を提示してくれます。因みに私はBRI 4.5と表示されました。)

BRI値は通常1~15の範囲で、ほとんどの人は1~10に収まる。1999年から2018年の期間、代表的なアメリカ人32995人を対象に調査したところ、BRI値の平均値が20年間で4.80から5.62へと上昇したことを6月の文献では報告している。また32995人の調査から得られたBRI測定値の中央領域の範囲は4.5~5.5であったという。

ここでBRI値が6.9以上の人は丸みを帯びた体型とされ、ガンや心疾患や他の疾病によって死亡するリスクが、上記の中央領域の範囲の4.5~5.5の人と比べて、ほぼ50%リスクが高まるとされる。 またBRI値が5.46から6.9の範囲の人は、中央領域の4.5~5.5の人と比べてリスクが25%高まるという。
逆にBRI値の低い人も死亡リスクが高まるとされ、BRI値が3.42以下の人は中央領域の人に比べて25%リスクが高まるという。
論文の著者らは、65才以上の人によく見られる低いBRI値は栄養失調・筋委縮または運動不足を反映していると見ている。

「BMI値では体脂肪と筋肉量との区別は出来ない」とこの論文の主任研究員の北京小児科学研究所のWenquan Niuさんは述べ、「BMI値がどのような数値であれ、脂肪の分布状況や体組成の状況には大きなフリ幅の変動の幅があることを認識する必要がある」と指摘している。

事実、Niu博士は「BMIを健康リスク評価のモノサシとして利用すると、筋肉質のアスリートたちに対しては健康リスクを過大に見積もることになり、一方、筋肉が脂肪に置き換わっている高齢者の健康リスクは過小に評価する可能性がある」と指摘する。

腹腔内に貯えられている脂肪分は、肝臓などの内臓を取り囲んでおり2型糖尿病の前兆であるインスリン抵抗性や血糖値を正常に保持するための糖分の処理能力に脂肪分が影響することが認められており、腹腔内に貯えられている脂肪分というものは極めて重要な健康リスク要因になることである。また腹腔内に貯えられている脂肪分は、高血圧や脂質異常を助長することから心臓疾患や死亡に繋がるとされる。
「内臓脂肪の過剰な蓄積は、体内に潜むサイレントキラーであり、殊に一見痩せている人の場合は何年もほとんど目立った症状もなく健康リスクが忍び寄ってくることがある」とNiu博士は語る。

BRIは現在ニューヨークのウェストポイントにあるアメリカ陸軍士官学校教授の数学者Diana Thomas氏発案によるもので、2013年に学術誌Obesityに掲載の論文で発表された。

BMIは人の体を円筒形に見立てて数値化しているが、Thomas博士は自身の体型は円筒形でなく、しいて言えば卵の形に似ているとの認識から、BMIの算出の基準のもとで自身の体型とBMIの算出基準との折り合いをどのように付けたら良いか、を考える方向へと彼女は思考を進めて行ったのである。

「 微積分学の導入部分で、学生は離心率(eccentricity)、即ち自分がどれだけ円に近づいているのかを、学ぶことから始める事になります。これを人の体型に当てはめると、球体に近い人もいれば、円に近い人もおり、そして円からかけ離れたスリムでたくましい人もいるという、様々な体型が存在していることになります。」

論文では、典型例として3人の男性が提示されており、一人は身長が5フィート8インチでウェスト27インチの痩せ型、2人目は伸長5フィート6インチでウェスト29インチの人、そして3人目は伸長5フィート6インチでウェスト36.6インチの脂肪が多い人で、3人三様の体型であるものの、BMIの値はみな同じ27なのである。

これに類似の考え方で調査を進めている研究者もいる。2016年の研究ではBMI値と血圧や血液検査の結果との比較が為され、BMI値と健康状態との間にはあまり相関性が無いことが認められている。

BMIが25から29.9の太りすぎと判断される人の半数が、そしてBMIが30以上で肥満と評価される人のほぼ1/3が実際は代謝的に見て良好な健康状態だったとされている。
そして健康的なBMI値とされる、BMI18.5~24.9の人の30%が、実際には代謝的に見て健康状態が悪かったとされている。

民族性に基因する多様性の存在が、医療専門家の間でBMI値の不確実性の要因だとの認識が高まっている。即ちアジア系民族やアジアに祖先を持つ人々は、体の中央部に肥満があり、2型糖尿病に対する高い健康リスクを抱えており、しかも彼らのBMI値はより小さな値として算出され勝ちなのである。従って幾つかの医療機関では、これらの患者に対しては太り過ぎと判定するBMI基準値を従来の25以上から23以上へと変更することを、また肥満と判定するBMI基準値を従来の30から27からへ、と変更することを推奨している。

【BMI値と肥満度合いとの判定基準(日本肥満学会):18.5~25未満が普通体重、25~30未満が肥満度1、30~35未満が肥満度2、35~40未満が肥満度3、40以上が肥満度4、18.5以下を低体重としている。「BMIと適正体重」のホームページに入り、自身の身長と体重を入力すれば簡単にBMI値が判ります。】

医師らは、BMIが体型・体組成・筋肉量・骨密度の変化を正確に捉える事が出来ない粗雑な指標だとする考えに同調する方向になっている。
「例え体重が同じ人々の間でも、人々の筋肉の付き方やその程度には非常に大きなバラツキがあり、同じBMI・同じ年齢・同じ性別であっても体脂肪の%には10%から40%の間でバラツキがあるものだ」とルイジアナ大学ぺニントン生物医学研究センターのHeymsfield博士は指摘する。その上で、「BMIでは避けられないバラツキの状況の中に、BRI値の考え方は踏み込んでいくことが可能であり、人々の体型の指標としてのBRI値と彼らの健康状況との関連性をより正確に説明していくことができる」と指摘している。

BMIとBRIとの説明情報は以上です。

最後に、運動の不十分さが残念に思われるところであり、この点は後に触れて見たい、と記載した部分の説明をします。

BMIに比べて最近提示されたBRI値が、個々人の体型と個々人の健康状況とをより正確に説明できる、と紹介しました。そして国の指導のもと地域医療機関が行っている現行の特定健診の内容は、個々人の健康状態を個々人で判断する上で、かなり的を得たものになっている(抜けている尻廻りの測定値さえ追加で組み込めば現行の特定健診内容は、BRI値と同じものになる)とも紹介しました。

かなり的を得た健診運動を10年間にわたり行ってきたにも拘らず、残念ながら結果としては、生活習慣病に該当する人の数の削減は出来ておらず、生活習慣病に要する年間の医療費の削減化も願う方向には進んでいない状況であることは、明らかだと言えます。

せっかく良い生活習慣病対策運動を用意して、しかも10年にもわたり活動しているにも拘らず、願う効果を発揮できない要因は、市民の個々人が運動の効果を「簡単につかむ」ことが難しい点にあるのでは考えます。

BRI値と健康状況との関係性は、アメリカでは約3万人を対象に20年にわたり追跡調査を行った研究が出され、生活習慣病による典型的な疾病の発生状況とBRI値との関係がデータとして蓄積されております。
生活習慣病による疾病の恐れが最少となるBRI値の幅が設定され、そのレンジからどれだけ離れると、どれだけ疾病にかかる危険性が高まるか、死亡の恐れが高まるかが『見える化』できる土俵を作ることが、原理的に出来る状況が生まれていると言えます。

現在の【国民健康づくり運動(健康日本21)】には、運動の進捗状況を市民に簡単に分かってもらうことの重要性が抜けていると考えます。簡単に運動の進捗状況が判る我が国市民向けの『見える化』が求められているのであり、しかもその見える化のシステム構築はそれほど難しいものではない、と判断しております。

サービス心の有る無しの問題と思っています。

市民にとっても、自身の健康状況を簡便に認識できるモノサシの存在は自身の健康維持に非常に重要な武器になると考えております。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan
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能登半島地震、復旧、復興 こんな遅効、低レベルで良い筈はない

2024-10-03 10:03:21 | 災害
抜本的な見直しが必要ではないか。
集団的な生存権の回復であれ、国民防衛のためのそれであれ。

日本と台湾との災害対応への 違いから見える今後の課題">日本と台湾との災害対応への 違いから見える今後の課題

地球規模の自然災害の増大に対する 安全・安心社会の構築 
平成19年(2007年)5月30日
日 本 学 術 会 議
地球規模の自然災害に対して
安全・安心な社会基盤の構築委員会
https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-20-t38-4.pdf
この対外報告は、日本学術会議地球規模の自然災害に対して安全・安心な社会基盤の構築
委員会の審議結果を取りまとめ公表するものである。
  ★随分以前、平成19年(2007年)5月30日から、日本学術会議は、勧告していたんだねー

気候変動の影響 国連広報センター 
https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/climate_change_un/climate_change_effects/
・気温の上昇 ・嵐の被害の増大 ・干ばつの増加 ・海の温暖化と海面の上昇 ・生物種の喪失 ・食料不足 ・健康リスクの増大 ・貧困と強制移住 ・

特集1 第2章 第1節 自然災害の激甚化・頻発化等 内閣府防災情報
令和5年版 防災白書|特集1 第2章 第1節 自然災害の激甚化・頻発化等
第2章 我が国を取り巻く環境の変化と課題
第1節 自然災害の激甚化・頻発化等
https://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/r05/honbun/t1_2s_01_00.html

激甚化する風水害と巨大地震に備える 日本教育新聞 2022年3月7日
https://www.kyoiku-press.com/post-241454/
・公立校の3割が浸水想定区域・土砂災害警戒区域内

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【台湾地震】発生後3時間で避難所…スピード開設が

「護憲+コラム」より
蔵龍隠士
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原発事故の後始末 オンライントーク

2024-09-27 16:46:00 | 原発
フクシマ第一原発の後始末はいったいどうなっているのか? 燃料デブリの取り出しは失敗、果たしてできるのか? しかも取り出したデブリはどこへ? 
皆様も気になっていらっしゃることと思います。

国際環境NGO FoE Japan主催の、オンライン開催連続トークはいかがでしょう? 
FoE Japanは、→https://foejapan.org/

今日の15時からになっていますが、幸い今回も、過去のトークも後から見ることができます。

●2024.9.27(金)15:00~16:30 オンライン開催(ウェビナー)Zoom
連続オンライントーク第11回:原発事故の後始末~「燃料デブリ取り出し」ありきではない、もう一つの選択肢とは
https://foejapan.org/issue/20240910/20272/

・燃料デブリの試験取り出しは今どうなっているのか…まさのあつこ(ジャーナリスト)
・「長期遮蔽管理」という選択肢…川井康郎(原子力市民委員会技術・規制部会)

主催:国際環境NGO FoE Japan 協力:原子力市民委員会
詳細・お申込みは→ https://foejapan.org/issue/20240910/20272/

「護憲+BBS」「イベントの紹介」より
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