老人党リアルグループ「護憲+」ブログ

現憲法の基本理念(国民主権、平和、人権)の視点で「世直し」を志す「護憲+」メンバーのメッセージ

映画「ほかげ」

2023-12-21 13:33:00 | 戦争・平和
クリスマス直前の12月20日、渋谷シアターフォーラムで映画「ほかげ」を観ました。
https://eiga.com/movie/99802/

戦後の焼け跡で廃屋の様な居酒屋に住む1人の女性。樹里が演じる彼女は売春をしながら何とか生活しています。そこに家族を失った1人の少年(塚尾桜雅)が来て一緒に暮らすようになります。

この頃のこどもは、映画「ホタルの墓」にも描かれていた様に、大人が生きるのさえもままならない環境で、かっぱらいをしたり悪さをする邪魔な存在でした。

樹里と偶々訪れた元兵隊と少年で、疑似家族の様な日々が続きます。が、それも長くは続かず、元兵士が暴力的に樹里を犯そうとして、少年は花瓶で彼を殴り付け、元兵士は出て行きます。

やがて樹里も長い売春生活から性病に侵され、自分の変わりつつある姿を見せたくないのと、当時性病(梅毒?)は近付いただけで感染すると恐れられていたため、少年を廃屋から遠ざけます。

行き場を失った少年は以前から顔見知りだった、片腕を失った元兵士(森山未來)の下に身を寄せ、2人で旅に出ます。

森山未來のパートまではやや単調な描写が続いていましたが、それも食べる物もなくただ臥せっているしかない国民の姿だったのでしょう。

片腕の元兵士は飄々とした中にも恐ろしい程の恨み憎しみを持ち、ある男に対しある目的を遂げるために、少年が隠し持っている拳銃を使います。この場面が鳥肌が立つほど恐かったです。

樹里が居た廃屋という閉じた空間から確かに見えた戦争の記憶と戦後の荒れ果てた日本の姿、打ち捨てられ心を壊された人達が何とか生き延びようとして蠢く姿。食べる物も無く餓死するしかない人々。これが「戦後」も知れません。

上官に命令されればどんな酷い所業でも実行せざるを得ない兵士達、上官に命令を下し残酷な政策をした国の責任は、何故問われないのか。

この映画は、塚本晋也監督が幼い頃戦争で壊され傷付いた人々を目にして、その記憶から作った映画だと語っていました。私はこれ程静かで心に染み渡る反戦映画を観た事がありません。

この映画の特徴は、登場人物に名前が無い事。女、こども、片腕の無い男、とだけが分かり、お互いが名乗る事もありません。

最後は闇市を歩くこどもの行く先に希望はあるのか?最後の一発の銃声は何を意味しているのか?と、色々謎が残ります。

今もパレスチナ、ウクライナで起きている戦争。塚本監督は、インタビューで「人は追い詰められたら暴力への一歩を踏み越える事は簡単に出来る」と言っていました。

だとしたら、国家も追い詰められ、憎しみに満ちたら、「戦争」という暴力に支配された一歩を踏み越えてしまうのではないでしょうか。

何時も、犠牲になるのは幼い子達、お年寄り、障害者等、戦争では役に立たない人達。

映画館を出て冬枯れの公園を歩きながら、静かで平穏な地に身を置いている私も、世界で起きつつある戦争に心を痛めながら、世界中の「戦場では役に立たない人達」が何とか平穏に生きて行けたらと願わずにはいられませんでした。

「護憲+BBS」「明日へのビタミン!ちょっといい映画・本・音楽・美術」より
パンドラ

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