非国民通信

ノーモア・コイズミ

嘘が最高の調味料

2008-05-03 16:06:43 | ニュース

比内鶏社長ら今日にも逮捕へ 地鶏の偽装表示で秋田県警(共同通信)

 秋田県大館市の食肉加工製造会社、比内鶏による地元特産・比内地鶏の偽装表示事件で、県警は30日までに、詐欺と不正競争防止法違反(虚偽表示)の疑いで、藤原誠一社長(77)や幹部ら数人の逮捕状を取った。今日にも逮捕する方針。藤原社長らは、仕入れ価格が1羽数十円程度と安価な廃鶏の肉を薫製に加工。比内地鶏と偽って地元のスーパーなどに高値で販売、1000万円以上をだまし取った疑い。

 詐欺と不正競争防止法違反(虚偽表示)の疑いなのだそうですね。ふーん。

 人が「欺された」と思うのは、どんな時なのでしょうか? 例えば地元のスーパーなど小売店にとって「欺された!」となる場合ですが、小売店にとって価値のないもの、売れない商品を買わされたときでしょうかね。今回は順調に流通量を伸ばしていたようですから小売店の損にはなっていないはずです。メーカーが薦めた商品を仕入れ、それが順調に売りさばけたのですから、小売店からしてみれば「欺された」とは言えないかも知れません。

 消費者の場合はどうでしょうか? 購入価格に見合わない代物を掴まされたら「欺された!」となるでしょうか。美味しい地鶏と思って奮発したのに、それが不味かったら「欺された!」となるわけです。しかるに今回の場合、「これは比内地鶏の味ではない」という指摘で発覚したのではなく、あくまで内部告発によって明るみに出た事件です。紙面には載っていないようですが、テレビでは社長が「本物の比内地鶏より美味しい」と豪語していました。多分そうなのでしょう。消費者は価格に見合った味わいを求め、それに対する不満が問題になったわけではないのですから、この場合に消費者が「欺された」と言えるのかどうか。

 もちろん、人を非難したい衝動に駆られ股間を滾らせている人々は少なからずいるもので、そういう人たちにとっては何か非難できる理由さえあれば、「欺された!」と叫ぶ絶好の機会なのかも知れません。そうして積極的に被害妄想に浸ろうとするわけですが、しかしミートホープ社の牛挽肉偽装事件にせよ比内地鶏の偽装事件にせよ、だれが被害を被ったのかどうか、そこを考えてみるとどうでしょうか? 流通が売れない商品を掴まされたり、消費者が不味い食品を買わされたりしたものではないわけです。むしろ摘発されたことで、それによって生まれた不信感が同業他社に損失を与える可能性の方が遥かに濃厚です。

 何が何でも嘘はいけないと、そう考えることも出来ます。ただ「可愛い嘘」もあるもので、その「嘘」によって幸せになれるときもあります。「これは廃鶏です」と言って料理を出されるよりも「今日は特別に比内地鶏です」と言って料理を出されたとき、モノは一緒でも食べる人にとっては別かも知れません。比内地鶏だと思って食べれば堅めの肉質にもありがたみを感じるもので、たちまち廃鶏が高級食材に生まれ変わります。美味しく食べさせるための工夫、ですね。それは下手な調味料よりも有効です。何もないところに「可愛い嘘」を付け加えることで価値を生み出す、人を幸せにするとしたら、それはそんなに悪い話ではなさそうです。

 この場合はたぶん、嘘を吐いたことよりもそれで儲けたことの方が、世間としては許し難いことなのかも知れません。嘘を吐いて支持率を稼いだかつての総理大臣は今でも人気ですがね。そしてまぁ、原則的には消費者にも正しい情報が与えられるべき、そのことには変わりがないでしょう。とはいえ、モノが同じでもそれが比内地鶏と聞かされていたときには「美味しい」と感じ、廃鶏と知らされると「マズイ」と感じる、このような状況下で「それは比内地鶏ではなく廃鶏です」と伝えることは正しい情報を伝えていると言えるのかどうか、そこに釈然としないものを感じます。

 情報源は何もラベルやレッテルだけではありません。対象が食品であれば自分の五感だって頼れる情報源の一つです。その五感で正しく判断が出来ていれば、ラベルの張り替えなんて大した問題ではないのではないかと、そうも思うわけです。自分の五感でそれが良いモノだと判断できていれば、ラベルに比内地鶏と書いてあろうと廃鶏と明記してあろうと変わりがありません。しかしラベルに振り回される人にとっては重大な問題で、そこに比内地鶏と書かれていると「欺された!」と言うことになるのでしょう。そして「廃鶏」と書いてあれば見向きもしない、モノが同じでも? そうであるならば、それが比内地鶏と偽られたままであっても、それが廃鶏であると明らかにされても、消費者がラベルに振り回されている、惑わされている状況には変わりがないのではないか、そうも思うのです。

 

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7 コメント

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Unknown (ノエルザブレイヴ)
2008-05-03 22:34:14
こういう時に、どうも「行き着くところまで行く」のを見届けないと(死刑しか罪の償いにならないと考えるような種類の)世論が納得しない気がするのですが、そういうのは果たしてどうなのかな、と思うのです。「正義は我々にあり」と思うのがまずいのかもしれませんが…。
Unknown (非国民通信管理人)
2008-05-04 00:52:23
>ノエルザブレイヴさん

 健康被害が出たような事件でもないわけですが、偽装を隠蔽しようするなど業者側の対応も相俟ってイメージが悪くなったところもありますね。でも、「欺された!」と思う被害者の側は、この業者の可愛い嘘のおかげで廃鶏を美味しく食べられたわけで、その辺を考えると責められるべきは業者ばかりでもないような、そんなところでしょうか。
目から鱗 (guchan37)
2008-05-04 11:29:03
最近、よく、寄らさせて頂いております。
鋭い視点にいつも目から鱗な気持ちで読ませて頂いております。
嘘も方便と昔からいわれますが、何(誰)の為の嘘なのかというところではないでしょうか。
まぁ消費者の見た目やブランドを優先してしまうことに問題がありますが、その商品を買う、買った人々にとっては、それを食すわけで、食べることは、生きることに直結していますから、ことさら大げさになってしまうのかな?なんて思ったりしています。
うまいもん食って死ねるなら幸せだっ!という太りに太った母を見ながら、人間ってなんだかなぁと思う日々です。
信用とブランドイメージの大切さ (とおる)
2008-05-04 19:26:44
この件については、管理人さんの意見はちょっとおかしいと思います。

この業者の行為は、他の比内地鶏業者が築き上げた信用やブランドイメージにただ乗りする行為です。

商売に限りませんが、信用というものは非常に大事です。その一点のみでも、擁護の余地はありません。

また、少々品質が悪くてもすぐには消費者は気付かないでしょうが、「比内地鶏も大したことはない」という印象が蓄積されれば、信用・ブランドイメージは確実に既存されます。

しかも、こうやって事件が表面化されることで、比内地鶏の信用・ブランドイメージに多大な損害が出ています。

失礼ながら、管理人さんの今回の意見は、そういう信用やブランドイメージを軽視したものだと思います。
Unknown (非国民通信管理人)
2008-05-04 22:02:58
>guchan37さん

 親が子どもに今回の嘘を吐いたのであれば、まさに嘘も方便という感じですよね。それによって美味しく食べられるのなら、むしろそうすべきなのかもしれません。とは言え、ラベルやブランドを信じて、それにお金を出した人から見ると腹立たしい、大事になってしまうのでしょうね。

>とおるさん

 はっきり言ってしまえば、とおるさんの仰る信用やブランドイメージなど屁とも思っちゃおりません。パッケージに比内地鶏と書かれているからと、それをありがたがるつもりはありませんし、廃鶏と書かれているからと拒否するような気もさらさらありませんので。廃鶏であろうと自分の五感で確かめて、上等であればそれは上等です。しかし自分で中身を判断することを放棄してラベルやレッテル、ブランドで判断する人が多いからこそ、そこにつけ込んで商売する人もいるわけで、私に言わせれば割れ鍋に綴じ蓋なのです。
地元秋田の恥で申し訳ない (修一狼)
2008-05-05 01:59:22
こんばんわ 非国民通信殿
この度は小生の地元秋田県での出来事で、皆様に多大なご迷惑をお掛けした事を変わってお詫び致します。

ただ事実として
オレンジジュースは果汁0%でもオレンジジュースを名乗れると言う事。
某国等から流入している「海賊版」等・・
ホンモノに似ているorコピーしているが、実は似て非なる物と言うのは結構あったりする。
と言う事なんです。
Unknown (非国民通信管理人)
2008-05-05 12:58:29
>修一狼さん

 これはこれは、秋田の方でございましたか。今回はたまたま秋田県の業者の不祥事でしたが、とは言えラベルだけ比内地鶏の廃鶏をありがたがって食べていたのは全国の消費者でもあります。何でも鵜呑みにせず自分の目や舌で判断できるようであれば、業者も襟を正すのでしょうけれど。

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