さて先日は3つの選挙区で衆議院補欠選挙が行われました。結果は「自民党全敗」などと伝えられるケースも見受けられますが、ただ実際に自民党が候補を立てたのは1選挙区だけ、他は不戦敗ですから大相撲風に書けば「1敗2休」みたいなものでしょうか。2選挙区に候補を立てることすら出来なかった自民党側は危機意識を持つべきと言えますけれど、反対に野党側は慢心すべきではないとも言えるところです。
立民は関東、維新は関西 野田元首相、すみ分け提唱(共同通信)
立憲民主党の野田佳彦元首相は24日放送のBSテレ東番組で、次期衆院選に向け日本維新の会との候補者調整を提唱した。「地域的に強い弱いがある。すみ分けは仕方がない」と指摘し、関西を維新、関東を立民で調整すれば「接戦区でも自民党に勝てるかもしれない」と述べた。
自民派閥の裏金事件を受けた政治改革では、野党の方向性は一致していると指摘。「大同団結できるかどうかが問われている。ぎりぎりまで交渉を続け、10でも20でも議席を上積みできれば全然違う」と語った。
長崎3区では、立憲民主党候補が維新候補を下して当選する結果になりました。野田の構想では関西は維新に譲りたいようですが、九州など西日本全般はどういう扱いなのでしょうね。維新と民主で方向性が一致しているのはその通りとして、一方では野党内の主導権争いが続いている印象です。ただ結果として島根1区でも東京15区でも立憲民主党の候補が勝利を収めたことで、揺らぎつつあった野党第一党の地位は再び堅固になったと言えるのかも知れません。
なお共産党は立候補者0と、順調に埋没への道を歩んでいます。連合の会長は共産党を敵視する発言を繰り返しているわけですが、野党共闘の名の下に候補を取り下げさせること、社民党と同じルートを辿らせること以上に効率的な共産党潰しはないでしょう。前回の衆議院議員総選挙でも共闘路線の結果、共産党は着実に議席と得票の双方を減らしています。自分たちは社民党とは違うと共産党執行部が驕り高ぶっている内に共闘路線を固める、そうして社民党と同じ末路を辿らせる、共産党が憎いならその路線を突き進めるのが一番です。
「小泉構造改革路線を忠実にやっているのは民主党だ」とは、小泉純一郎本人の言葉です。自民党政治家の多くが民主党に対してバイアスのかかった査定を下すことが多い中で、小泉純一郎は民主党政治を客観的に評価していたと言うことが出来ます。他に自民党議員でも河野太郎などは民主党に「正直うらやましい。もっと厳しくやって」「オレにやらせろという気持ち」と総じて賛意を示すコメントを残しており、この辺りが好き嫌いを抜きにした正当な民主党評価なのではないでしょうか。
自民党に籍を置きながら例外的に民主党政治に肯定的であった小泉純一郎と河野太郎のいずれも、自民党内よりも党外の支持に強みがある点は興味深いところです。小泉政治──民主党政治──河野太郎の政治は常に一定の支持があり、それを望む人は特定に政党に縛られずに存在していると考えられ、これが与党への失望が積み重なった時に顔を出してくる、というのが日本の政治の流れなのかも知れません。
今回の補選で自民党が議席を失ったのは、「カネの問題」で当然の批判を受けたことが大きいわけです。もちろんカネの問題は良くないことですけれど、しかしカネの問題が片付けば国民の生活が上向くかと言えば、それはまた別の問題だったりします。カネの問題で与党が議席を失って、カネの問題を抱えていない「クリーンな」政治家が権力を握るようになったところで、政策面が変わらなければ国民の生活には何ら改善されるものはないでしょう。政治家の懐に入る金が減るだけでは、何の意味もありません。
直近では2009年に自民党が下野して民主党が政権の座に就きましたけれど、これは純粋に「与党が別の党に変わっただけ」で、政策面で変わるところは決して大きくなかった、むしろ元総理大臣から小泉構造改革路線の忠実な継承者と認定されてしまったほどです。国民の自民党への怒りが与党を権力の座から引きずり下ろしたものの、担い手が変わるだけで政治を変えるものではなかった、それが2009年の政権交代だったのではないでしょうか。
今の岸田内閣は内政・外交ともに最悪です。カネの問題なとなくとも自民党が選挙に負けるのは残念でもないし当然と言えます。しかし「別の党が与党になる」だけで、政策面で変わることがなければ政権交代など何の意味もありません。むしろ自民党政権が維持されたまま「与党が政策を転換する」方が好ましいとすら考えられます。しかるに現状で最大公約数的な批判を受けているのは「政治と金」の問題であり、改められる箇所がそこに止まるようであれば、国民にとって期待できるものはなさそうです。
では野党が、特に野党第一党である立憲民主党が現在の与党である自民党と政策面で異なるかと言えば、それはかつて民主党が政権交代を成し遂げた当時から変わっていないのではないでしょうか。外に向けては親米保守、内に向けては緊縮財政、自民と民主は党は違っても志は同じ、どちらが与党の座についても政治が変わるものではありません。だから自民とも民主とも方向性の異なる野党が急伸するか、あるいは立憲民主党が消費税増税を決めた当時の党幹部を追放して政策を全面的に転換するかしないと期待が持てないところなのですが──今回の補選の結果は立憲民主の3戦全勝です。立憲民主が今の路線に自信を付けてしまう可能性の方が高い、自民と同じ方向を向いたまま議席を増やす未来が予想されます。