毎朝、クアトロを掃除しているのが、僕の母だ。昭和一桁の生まれで、すこぶる体は丈夫だが、耳は遠くなった。
柏に、「すずめ」という料亭が今のそごうの奥の方にあった。その料亭の仲居をして、母は僕を育てた。小学校低学年の頃の僕は、その料亭でよく遊んでいた。その料亭のお嬢さんは、ちょうど僕と同い年で一緒に遊んでいた。
沢山の宴会がここで開かれた。議員さん、学校の先生、警察の人たち、消防署の人たち、商店会の人たちと色々な人達の宴会があった。結婚式もあった。お金持ちが芸者さんを侍らせて遊んでいることも多々あった。
子供心に、色々な人達が集まっては散っていく、そんな光景が面白かった。「学校の先生は酒癖が悪くてやっかいだね」仲居さんや芸者さんの話を僕は脇で聞いている。「トイレから帰ったとき、お客さんに温かい言葉をかけると良いんだよ」トイレに行くと人は寂しくなるらしい。先輩の芸者さんが後輩に教えている。
そして、僕も同じ職業に就いてしまった。親戚には、「あの愛想の無い子が、客商売するとはおもわなかったわねぇ」と云われている。
今日は母の日だが、優しい言葉をかけたりするのは苦手だ。以心伝心で勘弁してもらおう。
クアトロの入口に「ニオイバンマツリ」の鉢を置いた。花が咲くととても良い香りが漂う。これから二週間くらい楽しめるはずだ。