内房のマコガレイ、青森のメバル、長崎のイサキ、山形の天然真鯛どの魚にしようか。
魚を一本丸ごと皮目を軽く焼いてからアサリや白ワインなどを入れ魚を炊くようにして作るアクアパッツァというイタリア料理は豪快に旨い。
魚の骨の髄からも旨味を引き出すような料理だ。
そのアクアパッツァには、やはりイタリアのスパークリングワイン・スプマンテが良く合う。
青リンゴやミカンのような柑橘系の酸味を持ったスプマンテがこの魚料理に良く合う。
そして、グラスの底から立ち上がる泡は小さい方がよい。
ゴボゴホと上がってくるようなスプマンテは、お腹が張るだけだ。
細かい泡は、魚の旨味をきれいに包み込んでくれる気がする。
そして、アクアパッツァの醍醐味はスープだ。
スープにすべての旨味が凝縮されている料理だ。
バケットを注文してスープにバケットを浸してスープを飲むというより食べる、そしてまたスプマンテを飲む。
理想的なアクアパッツァの楽しみ方だ。
もちろん、お酒の飲めない方にも美味しいアクアパッツァである。
暑い!
こんな日こそカレーだろう。
頭の中からも汗が吹き出すような辛いカレーを食べたくなる。
カレーにも色々あるが、こういう暑い日はインド料理の本格カレーを食べたい。
今、自宅でそんな本格カレーを食べることを想像しているクアトロの父だ。
本格カレーともなるとカレースープとライスは別々に運ばれてくる。
それには何か訳があるのだろうか。
考えられるのは、まずカレースープの濃度である。
小麦粉によるトロミ付けに頼らない本格カレーは食べる分づつライスにカレースープを乗せるべきなのだろう。
堅めに炊いてあるライスにスープ系のカレーを食べる分だけかければライスの食感とカレーの風味を口の中で味わえるというものだ。
また、カレースープにはジャガイモが一個入っていることがある。
このジャガイモも単なる具ではない。
カレースープの辛さを確認し、個人の好みで辛すぎたらスープにじゃがいもをつぶして辛さを穏やかにする役割がある。
ちょうど良い辛さならば、じゃがいもはそのまま食べる。
この調整をしてからライスにカレーをかけるべきだ。
ライスにカレースープ、その配分に気を配りながら食べ進む。
額から流れ落ちる汗が心地よい。
そして食べ終わるまでは水を飲むような愚行は控える。
そんな想像をしていたら、なお暑さが気になってきたクアトロの父だ。
カレースープとライスが別々に運ばれてきても、カレースープをライスに一度にかけて、一気に食べるのが粋というものだという意見もあるだろう。
本格カレーの食べ方については、あくまでも個人的見解および妄想であって、何ら他人に強要するものではないことを付け加えておこう。
クアトロ自慢の季節野菜のスパゲッティが運ばれてくる。
たくさんの野菜がトマトソースに煮込まれたボリュームたっぷりのスパゲッティだ。
さて、10種類以上の野菜が入っているというが、嘘偽りがないかは食べ進みながら探ってみる。
フォークにスパゲッティを巻き付け、一緒に絡んできた野菜をアトランダムに食べていく。
一口大になっている野菜が順番に掘り出されていく。
ズッキーニ、インゲン、カボチャ、赤パブリカ、黄パプリカ、ニンジン、ホウレン草、オクラ、カブ、オニオン、・・・、大地の恵みをトマトソースの中から掘り出しているという表現が適切のように思えてくる。
ひとつとして煮崩れした野菜が無いのは素晴らしい。
このように食べ進んでいくと、野菜の名前を確認し、その数を数えることの無意味さを感じる。
そして気づくことがある。
野菜の美味しさもさることながら、そのそれぞれの野菜の旨味がトマトソースの中に渾然と一体となって調和していることだ。
控えめに加わっているパンチェッタ(生ベーコン)の脂がそれぞれの野菜の旨味を取りまとめているのだろうか。
スパゲッティにからめつつ食べるこのソースの味わいこそが、このスパゲッティの本質である。
素材の旨味が乳化したトマトソースの色あいは、明るいオレンジ色をしている。
食べ終わったお皿の底にも、キラキラ光るオレンジ色のソースを見て取れる。
『シェンセー、考えてはいけんジャケ、美味しいものは黙って食べればヨカ』
クアトロで男はピッツァとはどうやって食べるのが正しいのか、考え込んでいた。
今この時代にあるピッツァはどういう歴史を歩んで来たのだろうか。
自分はピッツァの歴史にどうかかわるのだろうか。
ピッツァの本場ナポリでは、ピッツァを美味しく食べるにはピッツァ窯に近い所に座り、いかに焼きたてを食べるかが重要だと云う。
そうだ、クアトロなら狭い店だから、どの席でも良いだろう。
クアトロの父の動きがにぶいのは気になるが、テーブルに焼きたてのピッツァが置きやすいようにスペースを作っておこう。
ピッツァが運ばれ、速やかにカットされたら、ここからが勝負だ。
三角にカットされたピッツァをふたつに畳んで口に運ぶ。
ピッツァの歴史は、このふたつに畳んだ時に具が多すぎてだらりとたれさがるピッツァはダメだと警告している。
また手に持つ部分、ピッツァの耳の部分は生地本来の味が楽しめるように具が乗っていなくてカリッと焼けている方が良い。
小麦粉のデンプン由来の香ばしさと旨味、トロリと溶けたチーズの豊潤な乳脂肪の旨味、それらがバランスよく口の中で一体となり、ハーブの香りが鼻に抜ける。
クアトロのピッツァは男の期待に応えられるのだろうか。
『シェンセー、クアトロならば大丈夫ジャケ』
頭の中の誰かが、語りかける。
「うちのかみさんがね、このワイナリーを欲しいって云うんでね」
イタリアの公式晩餐会で使われるイタリアを代表するワイン、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ。
そのモンタルチーノの中でも最も歴史のあるアルジャーノ。
モンタルチーノの丘の上に位置するアルジャーノのブドウ畑。
そのワイナリーの可能性に惚れたのはチンザノ伯爵のかみさん。
リキュールのチンザノのオーナー夫人だ。
チンザノの潤沢な資金をつぎ込んだアルジャーノのブルネッロ・ディ・モンタルチーノの品質は、今やブルネッロの中でもトップと云える。
そのアルジャーノのブルネッロの2005年ビンテージがクアトロに少量入荷。
2005年はクアトロの開店した年。
クアトロ公式晩餐会でも使われるのだろうか。