過去にも本ブログで取り上げた抗NMDA受容体抗体陽性脳炎(1,2)は,主に小児や若年女性に生じる疾患である(稀ながら男性でも発症しうる).精神症状に引き続き,痙攣,意識障害,言語障害,口部,顔面を中心とする多彩な不随意運動を主徴とする.呼吸不全や自律神経障害も合併する.卵巣奇形腫の合併を認めることが多いが,合併率は年令によって異なり,14歳より若い場合では9%という報告があるのに対し,18歳より年上の女性では56%にのぼると報告されている(Ann Neurol 66; 11-18, 2009; Brain 133; 1655-1667, 2010).集中治療室での治療が必要になる非常に重篤な疾患であるが,免疫療法と適切な全身管理により完全に回復する例や軽度の後遺症のみ残して回復する症例が多く,神経内科医の腕の見せ所とも言える疾患の一つである.大変なおもいをして治療したあと,患者さん本人も主治医ももう再発しないようにと強く思うわけだが,上記の報告では,再発率について15%ないし25%と記載している.よって残念ながら再発しうる疾患ということになるのだが,どのような症状で再発するのか,どのような症例が再発するのかについてはよくわかっていない.
今回,スペインから上記の疑問について検討した臨床研究が報告された.25名の抗NMDA受容体抗体陽性脳炎について後方視的に検討を行っている.再発は,新たに(他の原因によらない)精神症状・神経症状を呈し,さらに免疫療法により改善(一部は自然に寛解)するものと定義した.
結果としては,中央値20ヶ月の経過観察において,25名中の6例(24%)において合計13回の再発を認めた.6人中2人は1回,残り4人は2~4回の再発をしていた.初回のエピソードから中央値で2年後に再発していた(0.5年から13年後の範囲).再発率の中央値は0.52再発/人・年であった.
再発のリスクについての検討では,唯一,初回エピソードの際に免疫療法を受けていない人は,受けている人と比較し有意にリスクが高かった(P=0.009).その他,髄液検査,MRI所見,初回エピソードの際の予後,卵巣腫瘍摘出は2群間で有意差を認めなかった.血清抗体価の変化にて再発が予測できるかについては現時点では不明であった.再発時に卵巣奇形腫を認めたのは1名のみであった(1/6人;17%).
再発の症状に関しては,初回エピソードと同様の典型的症状が揃った重篤なケースは稀で,半数以上(53%)が典型的な抗NMDA受容体抗体陽性脳炎の部分症状(partial syndrome)を呈した.具体的には言語障害(69%),精神症状(54%),意識・注意障害(38%),てんかん(31%)であった.また13回の再発のうち3回(23%)は,脳幹・小脳症状のみの非典型的症状であった.
結論として,抗NMDA受容体抗体陽性脳炎の再発は24%と少なからず認められることがわかった.初回エピソードからかなり時間が経過しても再発は起こりうる.再発の症状は必ずしも典型的ではない.いずれにしても初回における免疫療法をきちんと行うことが再発リスクを下げるためには重要であることがわかった.
Neurology 77; 996-999, 2011
今回,スペインから上記の疑問について検討した臨床研究が報告された.25名の抗NMDA受容体抗体陽性脳炎について後方視的に検討を行っている.再発は,新たに(他の原因によらない)精神症状・神経症状を呈し,さらに免疫療法により改善(一部は自然に寛解)するものと定義した.
結果としては,中央値20ヶ月の経過観察において,25名中の6例(24%)において合計13回の再発を認めた.6人中2人は1回,残り4人は2~4回の再発をしていた.初回のエピソードから中央値で2年後に再発していた(0.5年から13年後の範囲).再発率の中央値は0.52再発/人・年であった.
再発のリスクについての検討では,唯一,初回エピソードの際に免疫療法を受けていない人は,受けている人と比較し有意にリスクが高かった(P=0.009).その他,髄液検査,MRI所見,初回エピソードの際の予後,卵巣腫瘍摘出は2群間で有意差を認めなかった.血清抗体価の変化にて再発が予測できるかについては現時点では不明であった.再発時に卵巣奇形腫を認めたのは1名のみであった(1/6人;17%).
再発の症状に関しては,初回エピソードと同様の典型的症状が揃った重篤なケースは稀で,半数以上(53%)が典型的な抗NMDA受容体抗体陽性脳炎の部分症状(partial syndrome)を呈した.具体的には言語障害(69%),精神症状(54%),意識・注意障害(38%),てんかん(31%)であった.また13回の再発のうち3回(23%)は,脳幹・小脳症状のみの非典型的症状であった.
結論として,抗NMDA受容体抗体陽性脳炎の再発は24%と少なからず認められることがわかった.初回エピソードからかなり時間が経過しても再発は起こりうる.再発の症状は必ずしも典型的ではない.いずれにしても初回における免疫療法をきちんと行うことが再発リスクを下げるためには重要であることがわかった.
Neurology 77; 996-999, 2011
