Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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西城秀樹さんと多系統萎縮症

2019年11月27日 | 脊髄小脳変性症
敬愛する先輩脳神経内科医から読むように勧められた本がある.「蒼い空へ 夫・西城との18年(小学館)」だ.2018年5月,63歳という早すぎる人生の幕を下ろした西城秀樹さんの妻,美紀さんが語った18年にも及ぶ壮絶な闘病,そして最後までステージをあきらめなかった西城秀樹さんの様子を記した本であった.読むように勧められた理由は,私が多系統萎縮症の臨床,とくに突然死の問題を専門としてきたためだ.

この本には「18年間,一切,表に出ないよう守られてきたこと」がたくさん書かれていた.結婚前より糖尿病を患い,インスリン治療をしていたこと,ヘビースモーカーであった上,サウナ入浴による脱水で脳梗塞を来したこと,脳梗塞の入院を実は8度も繰り返していたこと,そして何より驚いたことは,亡くなる4年ほど前から多系統萎縮症を罹患し,最終的に心拍停止の状況で発見され,蘇生したものの脳死状態となり,3週間ほど経て亡くなられたことである.つまり多系統萎縮症に伴う突然死が死因だった.私達は多系統萎縮症の突然死のメカニズムとして,中枢性呼吸障害や窒息(食物の逆流性誤嚥やCPAPによる喉頭蓋の押し込み),心臓自律神経障害などがあることを示したが(総説:Parkinsonism Relat Disord 2016;30:1-6),そのいずれが原因であったかは文章を読んだだけでは分からなかった.

この本は西城秀樹さんの死の真相を公にすることが目的ではなく,脳梗塞や多系統萎縮症という神経難病を世の中に知っていただき,「今も病気で戦ったり,リハビリを続けていらっしゃる方とそのご家族に,少しでも参考になることを伝えたい」という美紀さんの意図がある(このため主治医である鈴木則宏湘南慶育病院院長による脳梗塞や多系統萎縮症についての解説がある).とくに多系統萎縮症は,テレビやマスコミで取り上げられ注目されてきた筋萎縮性側索硬化症(ALS)より患者数が多いにも関わらず,世間の認知度は低く,かつ臨床倫理的問題が山積しているにも関わらず,ほとんど議論がなされてこなかった疾患である.この書籍がきっかけになり,多系統萎縮症への関心が高まり,多くの人からの理解や支援が得られ,治療,緩和ケアの取り組みがより向上することにつながれば本書の意義はより大きなものとなる.

子供の頃からファンであった西城秀樹さんが,幾度もの病魔に襲われる様子は,読んでいて辛かったが,その一方でほっとする場面もたくさんあった.意外な形で設定されたお見合いから始まった2人の爽やかな交際や,大スターの常人から少しずれた微笑ましい生活,47歳で子供を授かってからの秀樹さんの子煩悩ぶりなど,とても楽しかった.冒頭のページにある家族のアルバムや家族同士の手紙のやり取りも素敵だった.ただ1番印象的であったのは,病と闘いながらも,ステージに立ち続け,それが叶わなくなった後も,再び1人でステージに立つことを目標に,懸命にリハビリに励んだ秀樹さんの姿であろう.決して引退は口にしなかった.最後まで西城秀樹はスターだったのだ.

蒼い空へ 夫・西城との18年(小学館)






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