Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

眩しい時,くしゃみが出ますか? ―光くしゃみ反射―

2016年08月24日 | 医学と医療
「グ・ラ・メ!~総理の料理番~」というドラマを見ていたら,ヒロインの剛力彩芽さんが神経内科の雑誌(写真右)を眺めていた!総理とその担当記者が,実の親子であることを剛力さんが気がつく場面である.どうして気がついたかというと,ふたりとも「光を見て,くしゃみをしていたから」.つまり,遺伝する『光くしゃみ反射』がみられるからというのだ・・・え,何それ?

検索すると「光くしゃみ反射」は,屋内から晴天下の屋外に出た時や太陽の光が直接目に入った時など,まぶしさを感じた瞬間に起こる生理的反射らしい.東北地方のアンケート調査で,749人中187人(25%)の人にみられたそうだ(日常的に起こる人はその半分程度).くしゃみを起こす光の強さ(閾値)には著しい個人差がある.また家族集積性が高く,常染色体優性遺伝が疑われる.大好きなアニメ映画「となりのトトロ」の冒頭,主人公の妹のメイちゃんが,大きな楠の木を見上げて,くしゃみをする印象的な場面があるが(写真左),これも「光くしゃみ反射」の描写らしい.「トトロ」の生みの親,宮﨑駿さんが「光くしゃみ反射」の持ち主らしいのだ.

光くしゃみ反射は,その名の通り,光刺激が誘因となり反射的にくしゃみが起こる現象である.文献を調べると,海外では1978年にACHOO syndromeとして報告されている.これは“Autosomal Dominant Compelling Helio-Ophthalmic Outburst Syndrome”の略で,「常染色体優性遺伝性の,強制的な,光と目が関わる突発症候群」である.くしゃみは英語でsneezeだが,擬声語ではハクションではなくachooというので,ユニークなこじつけネーミングである(笑).

メカニズムに関しては,鹿児島大学形態科学の先生方の研究が有名なようだ.以下のようにまとめられる.
・くしゃみ(鼻腔に入り込んだ異物を鼻汁ごと激しく鼻息で吹き飛ばす反射)は,異物が直接鼻粘膜を刺激し,ヒスタミンを分泌させることで生じるが,鼻汁を分泌させる翼口蓋神経節が刺激されても生じうる.
・目に入ったまぶしい光情報は,Edinger-Westphal核(EW核)に伝えられ,さらに対光反射(瞳孔の収縮)を起こすのと同時に,翼口蓋神経節の鼻汁分泌細胞群を刺激し,くしゃみを誘発する(詳しい神経回路は下図).
・翼口蓋神経節の上流には情動中枢もあり,心の激しい動きが鼻汁を分泌させることもある.稀だそうだが,性的興奮やオルガズムでくしゃみが出る人もいるらしい.

くしゃみとはいえバカにはできないようだ.球後視神経炎に対する眼球周囲ブロック(peribulbar block)のための針刺入時に,この神経回路が刺激され,くしゃみが誘発されるという報告があり,眼科,麻酔科の先生は眼窩内のブロックに注意が必要のようだ(本当でしょうか?).また自動車のトンネル事故で,出口での事故が多いという指摘がある.この一部に光くしゃみ反射が関与している可能性もあるらしい.つまりくしゃみ中枢は顔面神経も刺激し,約0.5秒の閉眼をもらすが,その間,運転手の視界が遮られている間に,通常の走行スピードで車両は約15メートル近く前進すると指摘されている.この反射を持つ人はトンネル出口に注意したほうが良いかもしれない.

Birth Defects Orig Artic Ser. 14(6B):361-363, 1978
Journal of Comparative Neurology 300;301-308, 1990
医学と生物学125(6);215-219, 1992
Can J Anaesth 42(8):740-743, 1995
鹿児島大学形態科学ホームページ 




この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 神経内科医が考えた相模原障... | TOP | 神経内科医の音叉の使い方(... »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 医学と医療