抗精神病薬を長期間,内服していると,顔,口周辺,顎,舌,さらに手足や体にジスキネジアが出現しうる.内服開始後数カ月,ときには数年以上経ってから現れることがあるため,遅発性ジスキネジア(tardive dyskinesia; TDD)と呼ばれる(動画).またジストニアとなることがあり,遅発性ジストニアと呼ばれる.両者は近年,tardive syndrome(TDS)とまとめて記載されている.難治性の病態であり,予防が一番重要である.最近,TDS患者さんを治療する機会があり,米国神経学会(AAN)治療ガイドラインを勉強したのでまとめてみたい.5つのclinical questionに答える形で記載されている.
AANガイドラインでのエビデンスレベル
Level A. Established effective/ineffective
Level B. Probably effective/ineffective
Level C. Possibly effective/ineffective
Level U. Inadequately or conflicting
Q1: 神経遮断薬(ドパミン受容体遮断薬)の中止はTDS治療に有益か?
A: エビデンス不十分で分からない(Level U).American Psychiatric Association Task Forceは,抗精神薬の中止は可能な患者のみに行うべきと推奨している.経験的には短期間での中断はジスキネジアを増悪させる可能性があるとのこと.精神症状の再発の予見因子としては,若年,もともとの抗精神薬の用量が多いこと,短い入院期間が知られている.
Q2: 定型抗精神薬から非定型抗精神薬への切り替えは,TDSの症状を軽減するか?
A: エビデンス不十分で分からない(Level U, Class IV studies).
Q3: TDSの治療に有効な薬剤はなにか?
以下,薬剤ごとにエビデンスを記載する.
1. Amantadine
神経遮断薬と併用した場合,最初の7週間以内においてTDSを軽減しうる (Level C,1 Class II study, 2 Class III studies).長期の効果は不明であるが,短期間であれば神経遮断薬との併用を考慮して良い.
2. Acetazolamide
AcetazolamideとチアミンがTDSを軽減したという1つのClass III研究があるが,エビデンス不足である(Level U).
3. 第一世代抗精神病薬
Level U.Haloperidolは2週間までの使用でTDSを軽減する可能性があるが (2 Class II studies, 1 Class III study),副作用としてakinetic-rigid syndromeを来しうる(1 Class II study). Thiopropazateが口ジスキネジアを軽減するかは十分なエビデンスがない (1 Class III study).thiopropazate, molindone, sulpiride, fluperlapine, flupenthixolについてもエビデンスはない.
→ haloperidolはTDSを軽減しうるが,長期間の使用のデータはなく,akinetic-rigid syndromeをきたしうるため推奨されない.
4. 第二世代抗精神病薬
Level U.Clozapineについては相反する2つのデータがある(Class III studies).Risperidone恐らくTDDの軽減に有効(2 Class II studies, 1 Class III study).Olanzapineも恐らくTDDの軽減に有効である(2 Class III studies).Risperidoneとolanzapineの安全性は48週までしか評価がなされていない.quetiapine, ziprasidone, aripiprazole, sertindoleの有用性は不明.しかしこれらの薬剤はそれ自体がTDSを引き起こしうるため,治療への推奨はできない.Risperidoneやolanzapineで治療を行う場合,注意を要する.
5. 電気けいれん療法
エビデンス不十分で分からない(Level U).
6. ドパミン枯渇薬
Tetrabenazine (TBZ)はTDS症状を軽減する可能性がある(Level C,2つの同じ結果のClass III研究).TBZはTDSの治療として考えて良いかもしれない.Reserpineやα-methyldopaがTDS治療に有効という研究があるが(Class III),エビデンスは不十分である(Level U).
→TBZの長期内服がTDSを引き起こすかについてはエビデンスがないが,パーキンソニズムを引き起こしうるので注意が必要.
7. ドパミン・アゴニスト
エビデンス不十分で分からない(Level U).
8. コリン作動性薬剤・抗コリン薬
GalantamineはおそらくTDS治療には無効で (Level C negative,1 Class II study),治療として考えない方が良いかもしれない.その他のコリン作動薬,ないし抗コリン薬についてはエビデンス不十分で分からない(Level U).
9. Biperiden (Akineton)中止
エビデンス不十分で分からない(Level U,1 Class III study).
10. 抗酸化薬
イチョウ葉エキス(EGb-761) は恐らく有効だが(Level B,1 Class I study),統合失調症の入院患者に限定したデータである. エイコサペンタエン酸は恐らく無効である(Level C negative,1 Class II study).ビタミンEの有効性に関しては相反するデータが出ている(Level U,4 Class II and numerous Class III studies).Melatoninは2-mg/d doseでは無効だが (1 Class II study),10-mg/d doseでは有効 (1 Class II study)で,相反するデータが出ている(Level U).他の抗酸化剤であるビタミンB6 , selegiline, yi-gan san, in treating TDSについてはデータ不十分である(Level U).
11. GABAアゴニスト
clonazepam は短期間(約3ヶ月)であれば恐らく有効(Level B,1 Class I study).baclofenエビデンス不十分で分からない(Level U).
12. Levetiracetam
エビデンス不十分で分からない(Level U, 1 Class III study).
13. カルシウム・チャネル拮抗薬
Diltiazemは恐らくTDDを軽減しないので,治療として考えないほうが良い(Level B negative,1 Class I study).Nifedipineについてはデータ不十分(Level U).
14. Buspirone
エビデンス不十分で分からない(Level U,1 Class III study).
Q4: ボツリヌス毒素によるchemodenervationは有効か?
A: エビデンス不十分で分からない(Level U).
Q5: 手術は有効か?
A: 淡蒼球深部刺激療法についてはエビデンス不十分で分からない (Level U,Class IV studies).
以上,本ガイドラインに則って治療を行うとすると,まずClonazepamで治療を始める(ただし長期投与の影響については不明).イチョウ葉エキスは,日本で購入できるサプリメントとは成分が違うため,日本のサプリメントは薦めにくい.よって次はAmantadine,Tetrabenazine (TBZ)が候補になる(ただじいずれも保険適応なし).
Neurology 81; 463-469, 2013
AANガイドラインでのエビデンスレベル
Level A. Established effective/ineffective
Level B. Probably effective/ineffective
Level C. Possibly effective/ineffective
Level U. Inadequately or conflicting
Q1: 神経遮断薬(ドパミン受容体遮断薬)の中止はTDS治療に有益か?
A: エビデンス不十分で分からない(Level U).American Psychiatric Association Task Forceは,抗精神薬の中止は可能な患者のみに行うべきと推奨している.経験的には短期間での中断はジスキネジアを増悪させる可能性があるとのこと.精神症状の再発の予見因子としては,若年,もともとの抗精神薬の用量が多いこと,短い入院期間が知られている.
Q2: 定型抗精神薬から非定型抗精神薬への切り替えは,TDSの症状を軽減するか?
A: エビデンス不十分で分からない(Level U, Class IV studies).
Q3: TDSの治療に有効な薬剤はなにか?
以下,薬剤ごとにエビデンスを記載する.
1. Amantadine
神経遮断薬と併用した場合,最初の7週間以内においてTDSを軽減しうる (Level C,1 Class II study, 2 Class III studies).長期の効果は不明であるが,短期間であれば神経遮断薬との併用を考慮して良い.
2. Acetazolamide
AcetazolamideとチアミンがTDSを軽減したという1つのClass III研究があるが,エビデンス不足である(Level U).
3. 第一世代抗精神病薬
Level U.Haloperidolは2週間までの使用でTDSを軽減する可能性があるが (2 Class II studies, 1 Class III study),副作用としてakinetic-rigid syndromeを来しうる(1 Class II study). Thiopropazateが口ジスキネジアを軽減するかは十分なエビデンスがない (1 Class III study).thiopropazate, molindone, sulpiride, fluperlapine, flupenthixolについてもエビデンスはない.
→ haloperidolはTDSを軽減しうるが,長期間の使用のデータはなく,akinetic-rigid syndromeをきたしうるため推奨されない.
4. 第二世代抗精神病薬
Level U.Clozapineについては相反する2つのデータがある(Class III studies).Risperidone恐らくTDDの軽減に有効(2 Class II studies, 1 Class III study).Olanzapineも恐らくTDDの軽減に有効である(2 Class III studies).Risperidoneとolanzapineの安全性は48週までしか評価がなされていない.quetiapine, ziprasidone, aripiprazole, sertindoleの有用性は不明.しかしこれらの薬剤はそれ自体がTDSを引き起こしうるため,治療への推奨はできない.Risperidoneやolanzapineで治療を行う場合,注意を要する.
5. 電気けいれん療法
エビデンス不十分で分からない(Level U).
6. ドパミン枯渇薬
Tetrabenazine (TBZ)はTDS症状を軽減する可能性がある(Level C,2つの同じ結果のClass III研究).TBZはTDSの治療として考えて良いかもしれない.Reserpineやα-methyldopaがTDS治療に有効という研究があるが(Class III),エビデンスは不十分である(Level U).
→TBZの長期内服がTDSを引き起こすかについてはエビデンスがないが,パーキンソニズムを引き起こしうるので注意が必要.
7. ドパミン・アゴニスト
エビデンス不十分で分からない(Level U).
8. コリン作動性薬剤・抗コリン薬
GalantamineはおそらくTDS治療には無効で (Level C negative,1 Class II study),治療として考えない方が良いかもしれない.その他のコリン作動薬,ないし抗コリン薬についてはエビデンス不十分で分からない(Level U).
9. Biperiden (Akineton)中止
エビデンス不十分で分からない(Level U,1 Class III study).
10. 抗酸化薬
イチョウ葉エキス(EGb-761) は恐らく有効だが(Level B,1 Class I study),統合失調症の入院患者に限定したデータである. エイコサペンタエン酸は恐らく無効である(Level C negative,1 Class II study).ビタミンEの有効性に関しては相反するデータが出ている(Level U,4 Class II and numerous Class III studies).Melatoninは2-mg/d doseでは無効だが (1 Class II study),10-mg/d doseでは有効 (1 Class II study)で,相反するデータが出ている(Level U).他の抗酸化剤であるビタミンB6 , selegiline, yi-gan san, in treating TDSについてはデータ不十分である(Level U).
11. GABAアゴニスト
clonazepam は短期間(約3ヶ月)であれば恐らく有効(Level B,1 Class I study).baclofenエビデンス不十分で分からない(Level U).
12. Levetiracetam
エビデンス不十分で分からない(Level U, 1 Class III study).
13. カルシウム・チャネル拮抗薬
Diltiazemは恐らくTDDを軽減しないので,治療として考えないほうが良い(Level B negative,1 Class I study).Nifedipineについてはデータ不十分(Level U).
14. Buspirone
エビデンス不十分で分からない(Level U,1 Class III study).
Q4: ボツリヌス毒素によるchemodenervationは有効か?
A: エビデンス不十分で分からない(Level U).
Q5: 手術は有効か?
A: 淡蒼球深部刺激療法についてはエビデンス不十分で分からない (Level U,Class IV studies).
以上,本ガイドラインに則って治療を行うとすると,まずClonazepamで治療を始める(ただし長期投与の影響については不明).イチョウ葉エキスは,日本で購入できるサプリメントとは成分が違うため,日本のサプリメントは薦めにくい.よって次はAmantadine,Tetrabenazine (TBZ)が候補になる(ただじいずれも保険適応なし).
Neurology 81; 463-469, 2013