Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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創薬研究の「死の谷」を乗り越えるために何が必要か?

2015年08月08日 | 脳血管障害
【我々の行っている脳梗塞の創薬研究】
脳梗塞に対する血栓溶解薬tPAを用いた血栓溶解療法は,発症から4.5時間を超えて行った場合,脳出血を合併するリスクが高くなる.脳出血合併症を防止する治療の開発は,予後の改善と,tPA療法の治療可能時間域の延長をもたらす可能性がある.我々は,血管リモデリング(脳虚血後の血管の構造上の変化)に関与する血管内皮増殖因子(VEGF)やアンギオポイエチン1(Ang1)を標的とした血管保護療法の可能性について検討し,ラット脳塞栓モデルにおいて,①VEGF抑制薬,および②組み換えAng1の投与が脳出血合併症を防止し,予後を改善することを明らかにした(JCBFM 2011; PLOS ONE 2014).tPAとVEGF抗体療法については,国内での産学連携はうまく行かず断念,しかし米国での特許の権利化とベンチャー企業ShimoJani LLCの設立を行い,現在,米国での臨床試験の実現を目指している.また血管保護作用に加え,神経細胞保護,抗炎症作用を併せ持つ「脳保護薬」を探索し,成長因子プログラニュリンが候補として有望であることを報告し(Brain 2015),現在,橋渡し研究のステージにある.

【創薬研究の死の谷】
我々の研究の目的は,基礎研究から産まれた創薬シーズ(seeds:種)を臨床応用できるところまで大切に育て,実際に脳梗塞患者さんに届けることである.しかし創薬シーズが動物実験の段階から,治験,承認,販売に至る間には大きな谷がある.この谷を超えることが極めて困難なことから,「創薬研究の死の谷」と例えられることもある.日本では基礎研究と本格的開発(治験・申請)をつなぐ創薬ベンチャーが発達しておらず,大きなギャップとなり,創薬研究の障害になってきた(図1).

【死の谷を乗り越えるために何が必要か】
我々のこれまでの創薬研究での経験から,アカデミア研究者が,創薬研究の「死の谷」を乗り越えるためには,以下の3つが少なくとも必要であると考えている.詳細はリンク先の論文に記載するが,以下,エッセンスをまとめる.

1.動物実験の質の改善
動物実験の質をヒトにおける臨床試験レベルまで高めること,動物モデルをヒトに近づける努力をすることが必要である.動物実験の評価が甘いと,ヒトでの治験でその結果を再現することは難しくなる.
2)知的財産権の確保(図)
創薬を目指すためには特許は不可欠であるが,アカデミア研究者が特許を確保するには2つの大きな問題を実感している.大学院生教育に及ぼす影響と特許費用の問題である.特許の要件として,新規性,非公知があるため出現が完了するまで,研究を行う大学院生は学会・論文発表ができないことになり,モチベーションを保つことが難しくなる.特許費用については創薬の場合,国内及び海外出願は不可欠であり,複数の出願が必要なため,その費用はかなりの高額になる(図2).大学やJSTによる支援を期待するがかなりの狭き門である.
3)産学連携の推進
創薬は産学連携を要するが,この実現のためにはNABC,すなわちN(Need,顧客と市場のニーズ),A(Approach,ニーズに応えるための独自のアプローチ),B(Benefits per costs,アプローチの費用対効果),C(Competition,費用対効果は競合品と比較してどのくらい優れているか)を考える必要があり,これを基礎研究の段階から考えておかないと産学連携がスムーズに進まない.

以上の内容は脳循環代謝学会雑誌オンラインから自由にダウンロードできるので,ぜひご覧いただきたい.

tPA 療法後の脳出血防止を目指したトランスレーショナルリサーチ
下畑 享良, 金澤 雅人, 川村 邦雄, 高橋 哲哉, 西澤 正豊(脳循環代謝26:93-97, 2015)





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