Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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良性遺伝性舞踏病2型(BHC2)はタウオパチー?

2012年01月23日 | 舞踏病
2007年に新潟大学脳研究所が中心となり,良性遺伝性舞踏病2型(benign hereditary chorea type 2;BHC2)という新しい疾患の存在を明らかにした(Brain. 2007).常染色体優性遺伝形式を呈する疾患で,神経学的には舞踏運動のみを成人期以降に発症する.認知症や精神症状など,その他の神経学的異常を呈さないことから「良性」と名付けられた.良性遺伝性舞踏病としては,TITF-1(thyroid transcription factor-1 gene)遺伝子が原因で,幼児期ないし小児期に発症する疾患が報告されていたが,それとは臨床像も原因遺伝子も異なっている.むじろ古くから存在が知られる,いわゆる「老人性舞踏病」と臨床像が類似している.原因遺伝子座は同定されたが(8q21,3-q23.3),原因遺伝子までは未同定であるため,BHC2と診断されたのは連鎖解析が行われた本邦2家系のみである(下記の記事参照).

新しい遺伝性舞踏病が日本から報告された

今回,そのうちの1家系内の罹患者の剖検所見が報告された.症例は剖検時83歳の方で,およそ40歳時に両上肢の舞踏運動にて発症した.舞踏運動は60歳頃までに体幹から下肢にまで認めるようになった.全身の筋トーヌス低下が認められた.その後,お亡くなりになるまで症状の増悪はみられなかった.

神経病理学的には,脳の萎縮は亡くなる31年までの画像所見と比較し,明らかではなかった.線条体(とくに尾状核)における軽度から中等度の神経細胞脱落とアストロサイトーシスが認められた.また両側大脳白質におけるアストロサイトーシスを伴う萎縮が認められた.加えて,まばらながらびまん性に4リピートタウ陽性のneurofibrillary tangle(神経細胞体でのタウの蓄積),argyrophilic thread(オリゴデンドロサイトでの蓄積),そしてtufted astrocyte(アストロサイトでの蓄積)が大脳,脳幹,小脳に認められた.また動眼神経核の神経細胞の細胞質には特徴的なエオジン好性の封入体が認められた.この封入体は ubiquitinやp62,タウ,リン酸化タウ,ポリグルタミン,TDP43,αシヌクレインでは染色されなかった.

臨床病理学的に,舞踏運動・筋トーヌス低下は線条体と大脳白質の変性に伴う症状と考えられた.PSP様の病理学的変化の意義は不明であるが,本疾患が進行性核上性麻痺(PSP)と同じく4リピートタウオパチーである可能性と,もしくはPSPを併発した可能性がある.ただし本例ではPSPを示唆する神経症状(核上性眼球運動障害,無動など)は認めなかったことから,後者は積極的には考えにくく,本疾患は4リピートタウオパチーである可能性を高いように現時点で考えている.

Neuropathology. 2012 Jan 12. [Epub ahead of print]
Benign hereditary chorea 2: Pathological findings in an autopsy case.
 

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