日々・from an architect

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「東京中央郵便局」を保存するための、超党派国会議員による、容積移転法改正検討と重要文化財指定

2008-06-22 21:45:01 | 東京中央郵便局など(保存)

「東京中央郵便局庁舎」を保存するための、超党派国会議員による活動が急ピッチで行われている。長くなるが中郵の保存にとって大きな支えになるこの国会議員の活動を報告しておきたい。

昨2007年6月6日、「東京中央郵便局を国指定重要文化財とし、首都東京の顔として将来世代の為に、永く保存・活用を進める国会議員の会」が第1回勉強会を開催してスタートした。
この日の勉強会には、鈴木博之東大教授と僕が講師を務め、中郵の歴史的な位置付けや設計した吉田鉄郎についての解説を鈴木教授が行い、僕からは日本建築家協会(JIA)、日本建築学会、DOCOMOMO Japanからの要望書提出などの保存活動経緯を説明した。
民営化のずっと前、既に9年も前のことになる1999年(平成11年)、当時JIAの保存問題委員会委員長だった僕は、時の郵政大臣野田聖子氏(提出直前に八代英太氏に変わり、名前を変更をした)や文化庁長官林英樹氏に、この庁舎を重要文化財、或いは登録文化財として指定或いは登録して欲しいと要望書を提出しているからだ。当時から、郵政で建て替えの検討がなされていると言う風説のようなものが流れていて、委員会では危機感をもったのだ。

超党派国会議員の会の名称は長くて覚えにくいが、この建築の位置付けや価値を明快に伝え、日本の文化の行く末を担う国会議員の想いが籠もっているいい名称だと思う。
発起人(国会議員への呼びかけ人)には、森山真弓氏、河村健夫氏など元大臣を含む21人(その直後22人になった)の議員の名があり、自民党の平沢勝栄議員と、民主党の河村たかし議員が事務局を勤めている。賛同者は60人を越えている。

いままでに5回行われた勉強会で、講師として招かれた文化庁文化財部(建造物担当)参事官からは、この建築は「重要文化財」としての価値を有するとの表明があり、東京都都市整備局の担当官からは、大手町、丸の内、有楽町地域(いわゆる大丸有)の特定街区制度は、「価値ある建築を存続させるために容積率割り増し」を制定としたものと説明があった。
市街地の都市景観形成のためには時を経た建築の存在が欠かせないという認識だ。いずれの会にも郵政株式会社の担当部長が同席した。

この経緯を踏まえ、2007年12月13日の国会の委員会で、増田総務大臣、郵政株式会社の西川善文社長などが出席する中で、文化庁の次長が「重要文化財として指定を検討する価値を有している」との見解を述べ、公文書として記録され公開された。

2008年5月27日(火)午後3時より、第6回の会合が衆議院第1議員会館会議室で行われた。
重要文化財としての価値があると認知された建築を壊すのは犯罪だと国会の委員会において河村たかし議員は述べていて共感するが、僕は経済という視点からも何ができるかと考えてみるのも必要だと思っていた。

この日の会合は、国家議員の要請を受けて衆議院法制局が検討した容積(空中権)移転に関する法改正提言の検討である。
特定街区内の容積割り増しは、重要文化財の例えば明治生命館のように同一敷地内、或いは東京駅の場合のように復元に向けて法改正を行って隣接地への移転は可能となっていて、東京駅の場合は空中権の売却益で改修・復元工事費を捻出している。ところが街区内であっても遠隔地へ飛ばす場合にはこの割り増しは適用されない。法の趣旨からいっても関係法を改正するのは整合性があると国会議員との会合で僕も述べた。しかし同席した国交省の住宅局、都市・地域整備局の課長からは異論が出た。

この制度は高さの限度を決めたもので容積割り増しが法の趣旨ではない。割り増しを制度化することによって更に容積が増え、都市景観が損なわれると言うのだ。僕はそれはおかしな論理だと反論した。大丸有の地区では、これから数十年間は中央郵便局を除いて重要文化財になる建築が無い。全て再開発されたからだ。先達が培ってきた歴史的建築に対する敬意と、過去と現在と将来をつないでいく建築と人の記憶に対する都市感が違う。なぜなのだろうか。
法制局と国交省サイドの調整を行うことにはなったが、平沢議員からは重文指定に向けての活動にも積極的に目を向けようと意向が伝えられた。前例がないとは言え、法律上指定については所有者の同意がなくても可能なのだ。

引き続いて6月11日、首相問責決議案などや会期終了前の慌しい中、衆議院第1議員会館、議員会議室において、日本郵政(株)、郵便局(株)への緊急要請会(第7回勉強会)が行われた。
国会議員からの質問に対して出席した日本郵政(株)の担当部長からは「文化財としての価値は認識しており、それを踏まえて検討中でまだ最終判断はなされていない」と回答された。
同席した鈴木博之東大教授からは、ご自身が委員である「歴史検討委員会」の答申内容が委員にも伝えられておらず、「本来ならその回答を公表して広く建築界や市民に意見を問い、その意見を受けて検討するべきではないか」との考えが述べられた。郵政の部長から持ち帰って検討するとの回答を得た。
伊藤滋氏を委員長とした歴史検討委員会は非公開とされているが、文化庁が述べたこの庁舎が重文に値することは広く伝えられているし、もともとこの建築は公共建築、つまり広く市民のものだったからだ。

西川善文日本郵政(株)社長と川茂夫郵便局(株)会長に提出された国会議員の「要請書」を記載しておく。土地と建物は郵便局株式会社の所有になっている。

『私たちは、歴史を後世に伝え、都市の心象風景を守るために、歴史的検地区の保存を目指す超党派の衆・参両議院の会です。
貴社の所有される建築物には、その後の近代建築の規範となった名建築が数多く、なかでも東京中央郵便局と大阪中央郵便局は、昭和初期を今に伝える歴史的名建築と言われています。また、東京中央郵便局は、丸の内の東京駅舎とあいまって、東京を訪れる人に、在りし日の東京の姿を語りかけてくるシンボルでもあります。
昨年12月13日の衆議院決算行政監視委員会では、文化庁は「戦前の我が国の近代建築のすぐれた作品の一つと考えておりまして、国の重要文化財として指定を検討する価値を有しているものと認識」と答弁しています。
日本を文化立国とする観点から、こうした貴重な文化財を、必要な改修のみで保存・活用しながら後世に受け継ぐことが、強く望まれます。
もちろん、重要文化財の所有者に、財産上の特別の負担を強いることのなきよう、重要文化財の特例として、しかるべき手当てを行うような議員立法も検討中です。
なにとぞ、歴史的名建築を後世に伝えるため、この素晴らしい郵便局庁舎の保存・活用にご理解賜り、文化財保護法27条の規定による国の重要文化財の指定を受けるのに必要な、貴社の同意を賜りますよう、お願い申し上げます』

意見交換の後、平沢勝栄氏は、積極的に国会議員に声を掛け、この趣旨の賛同者を増やして署名をもらうことにすると言明された。

建築の専門家と市民によってつくった「東京中央郵便局を重要文化財にする会」では、3月31日、千代田区に陳情書を提出した。
これを受けて区議会議員による総務委員会では、行政担当官同席のもとで懇談会(ヒヤリング)を開催してくださった。
僕は事務局長の多児さんと共に出席し、PPを使ってこの庁舎の歴史的な位置付けや建築の魅力を伝えた。議員の方々は、その前週放映されたテレビ朝日のスーパーモーニングで、僕が中郵を前にして述べた番組の録画を見た後懇談会に臨んでくれたとのこと。6月30日の朝、総務委員会で行う東京中央郵便局の見学会に数名が同行する。


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7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
建替え案 ()
2008-06-26 12:33:54
今朝の読売朝刊の短い記事で建替え案発表を知りました。 200m級オフィスの低層部に現在の外壁を残す(実物を残す?イミテーション?)とか・・・。
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再開発計画の公表 (中尾嘉孝@神戸)
2008-06-26 22:33:08
 今朝の神戸新聞の小さな記事で再開発計画の公表を知りました。日本郵政のHPに概要がPDFで
アップされていましたが現庁舎を「できる限り保存・再現」するとは、一帯どういうことなので
しょうね。さっぱり判りません。3年後に仮囲いが
取れてみたら「GRCの塊=紛い物」だった、というのは止めてもらいたいものです。
 設計はドイツ人建築家と三菱地所設計がやって
いるようですが・・・。高層と低層部のつりあいも
今ひとつですね。

 東京の方向性が示されたとなると、次は大阪中郵
の行方が気がかりになります。
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やりかたにいい気持ちがしません (penkou)
2008-06-27 10:17:34
mさん、中尾さん
25日にプレスリリースが行われテレビや新聞で報道されましたが、新聞掲載は全て経済欄で新聞記者は郵政サイドの発表をそのまま受け止めて、名建築・残った外観、など何か郵政の姿勢を評価する報道がされたりしています。
実はプレスリリースでは平面図や配置図は添付されておらず、東京駅側ら見た現庁舎をいかにも残したというパース(絵)に、「景観に配慮して、できる限り保存、再現する計画」とうたっています。最悪の場合、レプリカになりかねません。どこまで残すのか(つくりなおすのか〉ということは巧妙に隠しています。
7月4日には入札公告を官報で行うのですよ!
国会終了後の反論がしにくいときを狙い上手く情報操作をしているさまが伺え、あまりいい気持ちがしませんね。
東京がクリアされれば、大阪はたやすいという思惑もあるのでしょうね。
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また思い出が・・・ (九ちゃんのママ)
2008-06-27 21:10:25
思い余ってお訪ねしました。日本橋浜町生まれで、深川育ちの私。丸の内線沿線の幼稚園に通っていたため、子どものころは母に連れられ毎日、八重洲南口バス停を使っていました。当時、東雲都橋行きと門前仲町行きがあったと記憶しています。帰りの車中では、バスが発車してすぐ、中央郵便局の曲線にそってぐーっと大きくカーブするため「ちゃんとつかまっていなさい」とよくしかられました。地下鉄が今のように整備されていないころ育った私の目の前には、どこに出かける時でも、いつも大きな中央郵便局がそびえていました。母との大切な思い出の建物が、またひとつ消えようとしている。。。中央郵便局は東京駅周辺の最後の砦。是非お力のある皆さんで、最後まで呼びかけください。どうぞ、よろしくお願いいたします。
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中央郵便局は東京駅周辺の最後の砦 (penkou)
2008-06-29 15:37:26
九ちゃんのママ様
コメント有難うございます。
「中央郵便局は東京駅周辺の最後の砦」そうなんですね。重要文化財の価値があるとお墨付きの建築を、民営化されたとはいえ、国が関わっている組織、つまり国が壊してもいいものでしょうか。
僕たちは民営化を批判しているのではなく、日本の建築文化を大切にしたいのです。おっしゃるように、一人ひとりの心の中に忘れ得ない思い出が宿っている建築を残したい。
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お疲れ様です。 ()
2008-08-01 12:35:16
penkouさんからお誘い頂き、名前だけ(汗)参加させて頂いている「東京中央郵便局を重要文化財にする会」は凄い活発な活動をされていますね!(配信メールは毎回拝読)
暑い中、ビラ配りに参加された会員皆さんには頭が下がります。
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ビラ配り (penkou)
2008-08-02 12:30:37
mさん
初めて経験したビラ配り。記事にしてUPしますが教えられることが沢山ありました。中郵、なんとかなりませんかねえ!
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