日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

「幻のピアニスト レオン・フライシャーを聴いた」のだ!

2008-06-14 19:05:24 | 日々・音楽・BOOK

「レオン・フライシャーを知っている?」と電話が掛かってきた。さーて!
電話の主はジャーナリストの椎木輝實さんだ。「幻の巨匠(ピアニスト)と言われるのだけど、やっと日本に来てくれることになってね」。聴きに来ないかと言う。

レオン・フライシャーは1928年サンフランシスコに生まれ、9歳からシュナーベル(ああ、なんとも懐かしいピアニストだ。音の悪いLPでしか聴いたことがないのだが)に師事し24歳の54年、ベルギーのエリザベート王妃国際コンクールで優勝し、世界を舞台に活躍するようになった。
ところが65年、突然右手の二本の指が動かなくなり表舞台から消える。30年を経た95年疾患から回復してクリーヴランド管とのコンサートで復活する。既に67歳になっていた。幻の巨匠と言われる由縁だ。
椎木さんの講釈を聞いているうちに何だかレオン・フライシャーを知っているような気がしてきた。いや、でも知らない。

僕が聴いてみたいと思ったのは、チェロの堤剛たちとの共演だというからだ。ブラームスのピアノ五重奏曲はちょっと苦手だが、久しぶりに堤剛を聴いてみたい。サントリーホールから招待券を送らせるよという。
椎木さんとは六本木国際文化会館の保存を一緒にやり、年の上では(失礼)大先輩だけど仲良しになったのだ。音楽に造詣が深くサントリーホールの企画にも携わったことがある。館長の堤剛氏とも親しいわけだ。

翌朝僕がお礼の電話をする前に椎木さんから電話をもらってしまった。いたの?という。休憩時間に僕は一階のロビーでコヒーを飲みながらキョロキョロと見渡し、椎木さんは2階で大勢の人と挨拶を交わしながら来てるのかなあと探したのだと言う。いやね、終わってから楽屋に誘おうと思ってね。

昨夜のレオン・フライシャーの演奏をどう聴けばいいのですかね?と疑問符をつけて電話先で首を傾けると、まあ80歳になったし全盛期を過ぎてるのでね、心配したけど元気でよかった。楽屋でも機嫌がよくって話が弾んだのだという。僕を皆に紹介したかった!とのこと。残念なことをした。
堤さんはともかくヴァイオリンの竹澤恭子さんに会いたかった。演奏を聴いてぞっこんになったのだ。アグレッシブなその姿にも。竹澤さんはとてもいいよと椎木さんも言う。

今回の公演はサントリーホールの企画によってレオン・フライシャーを招いたもので、共演したのはヴァイオリンの竹澤恭子、ヴィオラの豊嶋泰嗣、チェロの堤剛を中心としたサントリーフェスティバル・ソロイスツだ。
そのブラームスと、最初のバッハの「フーガの技法」には、大阪フィルの首席コンサートマスターの長原幸太が加わるが、その長原が第二ヴァイオリンを担うと言う素晴らしいメンバー構成だ。

「フーガの技法」(第1曲/第19曲)には驚いた。僕がCDでよく聴くハンガリーのケラー弦楽四重奏団の演奏、これも独特の価値観で奏した名演だとライナーノーツには書いてあるが、異なる曲を聴いているようだった。
僕は音楽理論にはまったくの門外漢だが、様々なフーガにヴァイオリンやヴィオラやチェロが応答していくスリルのある対位法を実感したといいたくなった。弦がよく響く。電話先で感嘆したと言うと、サントリーホールはね、弦の音がいいのよと椎木さんはのたまう。だから感じるのだ。

二曲目のベートーベンのセレナーデニ長調op34(トリオだ)も楽しかった。明るく伸びやかで、第5楽章のシンコペーションの繰り出す躍動感に体が動き出した。楽章の合間に大勢の人からの拍手が沸いたりしたが、マナーを言う以前に素晴らしい演奏に引きずりこまれて思わず手が動いてしまったと言いたい。
いずれの曲も、弦奏者の自由奔放な演奏にはしびれた。そして僕の苦手なブラームス感が変わりそうな気がする。面白い。聴きこんでみよう。広大なブラームスの世界が開けそうな気がする。
演奏を楽しんでいるフライシャーの、よくやるなあというように時折竹澤恭子を見やる眼差しをみると、フライシャー何ものぞとのけぞりながらひく共演者のこの勢いを引き出したのはフライシャーかもしれないと思った。

<2008年5月15日サントリーホール 大ホールにて>


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