八幡浜市(愛媛県)の中心地を右折すると、街道は港を背にして山麓に向う。しばらく走り、カーナビにしたがって右折し車がやっとすれ違うことができる狭い道をハンドルを握って登りながら、僕は感慨にふけていた。
十年ほど前に訪れたこととはあったものの、こんな辺鄙な(地元の人に叱られそうだが)場所だったのか。そこに建った建築が日本の木造モダニズムを代表する建築としてDOCOMOMOで選定して世界に知られていく。
建築って不思議だ。そして建築家の存在ってもっと不思議だ。この日土小学校を設計した松村正恒(1913-1993)は、八幡浜市土木建築係の一職員だった。やればできる。そうだろうか。土浦亀城に学んだ松村正恒だからできたのだ。いや! 思考が錯綜する。
五十数年前、地方都市の市街地を離れた山の中のこの木造校舎が、日本の小学校の代表作として建築学会が編纂した建築学体系や資料集成に掲載され、建築雑誌に取り上げられて世に知られた。
クラスタースタイル(葡萄の房)と言われる廊下と教室の間に小さな中庭をとって両面採光を採り光豊かな空間を作り上げた。
階段の一角にはぶら下がった倉庫を作り、多分子供たちは不思議空間を意識しないで体験する。期せずして教師も建築の面白さを、同じように意識しないで受け止めているかもしれない。
20日ほど前、神戸芸術工科大学の花田佳明教授から電話があった。「ピンクなんですよ。建築当初の様を調べたら白い校舎でなくピンク、今でも本当かと、塗っていて気になって・・」
この改修プロジェクトに関わった花田さんの一言は、見事に僕の好奇心を引きずり出した。よし行こう。そして建築家藤本幸充さんを引っ張り出した。
大勢の見学者(午前中だけ開放された見学会に訪れた人は800人を越えた。数十年前の在学時代を懐かしむ声や、ここへ子供通わせたいという30代と覚しき夫婦の声が聞こえてくる)の中で佇みながら、僕は改めて感銘を受けていた。手を伸ばせば届いてしまう昇降口辺りの天井高さ。子供のための建築だ。新学期を迎えるとここに子供の声と足音が響く。
耐震対策がなされ、オーセンティシティを検証して塗られた色は、淡いピンクだけでなく、淡いブルーとモスグリーン。その色が、開放的な木造空間によく似合う。僕が驚いたのは、東校舎の外壁や内部の廊下にも塗られたモスグリーンだ。
僕は学生時代、建築にグリーンを使うものではない。自然の樹木や草のグリーンを殺してしまうからだと教え込まれた。僕はその教えを頑なに四十数年間守ってきたのだ。それが、なんとも品のいい姿で周辺の緑に囲まれて建っている。優雅なのだ。
<小川に張り出したバルコニーを支える柱は、かつて僕が見たときはブルーに塗られていた。それはそれで味わい深かったが、塗られた塗料を丹念に調べ、文献を検索したらピンクだったという>
どういう提案がなされるか楽しみです。
見ていない建築をを取り上げるとき若き学生は、調べた資料(日土小の場合など、建築の姿だけでなく、建っているその村落の様も調べてみてほしい・・)
実は最盛期に240名いた生徒(いわゆる団塊の世代です)がいまは60名弱。(もう少し経つと複式学級にしなくてはいけないのではないかとの悩みあり)それでも教室や今のカリクラムに対応するよう増設が求められました。多少の違和感もない事はないのですが、
学生の想像力(空想であっても)が大切ですね。
坂出の提案(田中君でしたっけ)が今でも頭にあるのは、人工土地に思いを馳せた彼の想像力とその感性でした。
伸び伸びと課題にトライをしてほしいものです。