音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■Bach自筆譜の各小節の長さどおりに写譜すると、続々と新たな発見が■

2016-10-25 00:51:49 | ■私のアナリーゼ講座■

■Bach自筆譜の各小節の長さどおりに写譜すると、続々と新たな発見が■
~平均律1巻4番前奏曲がなぜ、3番フーガの後に続けて書かれているか~
  =KAWAI名古屋「平均律1巻4番 cis-Moll」アナリーゼ講座=
                     2016.10.24  中村洋子

 

 

★26日は、KAWAI名古屋での「平均律クラヴィーア曲集 第1巻 4番」の

アナリーゼ講座です。

忙しい時ほど、本が読みたくなります。

Vincent van Goghフィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890)の、

「ゴッホの手紙」を少し、つまみ読みいたしました。


★この本の訳は、みすず書房と岩波文庫から出ていますが、

訳文がいま一つ読みにくいので、双方を見比べ、

大意を推し量ります。


★1888年5月20日ごろ、ゴッホが弟Theoテオに出した手紙の

最後の部分が、印象に残りました。

病気のTheoテオを気遣い、早く健康を取り戻すよう、

愛情あふれるアドバイスを細々と書いた後、

おおよそ、次のようなことを言っています。

≪肉体の若さが衰えても、別の若さが芸術作品に現れれば、

若さを失ったことにはならない。

作品を創る若さは、別の若さである≫。

 

 


★8月末、草津温泉で Wolfgang Boettcher

ヴォルフガング・ベッチャー先生と、お蕎麦ディナーをしながら

歓談しました際も、「若さ」が話題になりました。


★先生は、足や膝を指さしながら「older and olderになっていく」と

おっしゃっていました。

「先生の演奏は、微塵も老いを感じさせません。

先生の心は、毎日若くなりますね」と、私が申しますと、

先生は「その通り」と、微笑まれました。

その時の、先生の得心された笑顔を、

ゴッホの手紙を読みながら、思い出しました。

http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/d/20160902


★私は既に東京、横浜で「平均律アナリーゼ講座」を開催しました。

しかし、ゴッホの顰に倣い、この作品の永遠の命を、

さらに探求すべく、もう一度、Bach自筆譜をFaximileを参照しながら、

書き写しました。

 

 


★今回は、自筆譜の各1小節の長さをそのまま正確に測り、

それに基づき、写譜し、テキストを作り直しました。

東京と横浜のテキストは、レイアウトを自筆譜通りにして、

書いたつもりでした。

例えば、1段目は4小節、2段目は4小節半で記譜されていますが、

その小節を均等に同じ長さにして写していました。

しかし、Bachの自筆譜は、各小節の長さが「絶妙に」

異なっています。


★それを実際に物差しで測り、その通りに写してみました。

陳腐な表現ですが、自分の目から鱗が剥がれ落ちていくのが

分かりました。

新しい発見が、続々と出てきました。


★偉大な Pablo Casals パブロ・カザルス(1876-1973)は、

毎朝毎朝、Bachを勉強するたび、

”Bachという花園の色彩”が、さらに色濃く、鮮やかになっていくのを、

発見していたのでしょう。

 

 


★今回のテキスト一新に伴い、講座では、

Bach自筆譜から分かること、

Julius Röntgen ユリウス・レントゲン(1855-1932)版と、

Bartók Béla バルトーク(1881-1945)版のフィンガリングから、

それをどう演奏に結び付けるか、さらに、

Frederic Chopin ショパン(1810-1849)の解釈はどうであったかを、

お話いたします。


★平均律1巻4番 Preludeは、3番 Fugaが4段目で書き終えられた後、

ページを改めることなく、引き続き5段目から書き始められています。

その理由が明確に分かりました。

講座で詳しくお話いたします。


★Röntgen版とBartók版のFingeringは、酷似している所が

多々あります。

それは、Röntgen版と、Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー

(1886-1960)版との間でも、同じことが言えます。


★Röntgen版を源泉として、Bartók版、Edwin Fischer版が

成立していると言えます。

しかし、日本でよくみられる、いろいろな版の“つまみ食い”、

“パッチワーク”というものではなく、

Röntgen版という優れた源泉が、さらにBartók、Edwin Fischer

という天才に滋養を与え、美しく秀逸な校訂版を育んでいった、

と見るのが妥当でしょう。

 

 


★この4番 Preludeにつきまして、Bartók版のレイアウトは、

Röntgen版に酷似しており、5小節目からのFingeringが、

 

Bartók版は   

 

 

Röntgen版は  

 


★Röntgen版が「5 1」と書いたところを、Bartók版は「5 4」と

写し間違えたようで、微笑ましいFingeringとなっています。


★しかし、Bartók版独自のFingeringも数か所見られます。

例えば、1小節目の   

 

 

これは、演奏するうえで、大変優れたFingeringです。

この「2」がなぜ素晴らしいのか、是非、ピアノで弾いて

体験し、考えて下さい。

演奏の根幹に関わります。

 

 

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■中村洋子「バッハ 平均律 第1巻 4番 cis-Moll
           P
relude& Fuga アナリーゼ講座」
  ~軽やかで繊細な平均律第1巻4番前奏曲は、
            子供にこそ弾いて欲しい曲
 
 ~Beethoven 月光ソナタは、4番が源泉~
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★憂愁の霧に閉ざされたような、メランコリックな平均律第1巻
「4番前奏曲」は、実は、Bachの Französische Suiteフランス組曲の
優美な舞曲と深く、関連しています。この4番前奏曲と表裏一体の
関係にある「3番フーガ」は、明るく、軽やか、屈託がありません。

★このことからも、「4番前奏曲」を深刻に、重々しく弾く必要がない、
ことが分かります。Bachは、この前奏曲 を、当時10歳前後だった
長男のフリーデマンに弾かせるため、1720年「フリーデマンバッハの
ためのクラヴィーア小曲集」に、この前奏曲を、ほぼそのまま収
録しています。

 
★軽やかにして繊細な、この4番前奏曲は、子供さんにこそ、
弾いていただきたい曲です。演奏法についても、分かりやすく
お話いたします。

 
★解説書などには、“4番フーガの主題は、十字架の形をしている”
などと、もったいぶって“あなたには難しすぎる”と言わんばかりの、
衒学的な解説がなされているようです。
しかし、それに囚われる必要は全くありません。

 

★Bachの意図を理解するために、自筆譜の勉強が欠かせません。
また、Beethovenの月光ソナタ「Klavier sonate cis-Moll
Op.27 Nr.2」は、この平均律1巻4番を源泉としています。
月光ソナタの繊細な美しさこそ、この4番フーガの魅力の一面でも
あるのです。月光ソナタの自筆譜から読み取れることを、
4番フーガに逆照射いたしますと、さらに両曲の理解が、
深まります。

 

 

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■日 時 : 2016年 10月 26日(水) 10:00 ~ 12:30
■会 場 : カワイ名古屋2F コンサートサロン「ブーレ」
■予 約 :〒460-0003 名古屋市中区錦3-15-15 カワイ名古屋
     Tel 052-962-3939 Fax 052-972-6427

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■ 講師:作曲家 中村 洋子
東京芸術大学作曲科卒。日本作曲家協議会・会員。
ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数を発表。
2003年~05年:アリオン音楽財団《東京の夏音楽祭》で新作を発表。

07年:自作品「Suite Nr.1 fϋr 無伴奏チェロ組曲 第1番」などをチェロの巨匠
         Woiggang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏したCD
      『 W.Boettcher Plays JAPAN ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』を発表。

08年:CD『龍笛&ピアノのためのデュオ』、CD『星の林に月の船』
         (ソプラノとギター)を発表。

08~09年:「Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien Analysis
               インヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を、KAWAI表参道で開催。

09年:「Suite Nr.1 fϋr Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第1番」を、
           ベルリン・リース&エアラー社「Ries & Erler Berlin」から出版。

10~12年:「Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ Analysis
               平均律クラヴィーア曲集 第1巻 アナリーゼ講座」全24回を、
                                                                      KAWAI表参道で開催。

10年:CD『Suite Nr.3 & 2 fϋr Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第3番、2番』
         Wolfgang Boettcher演奏を発表。
       「Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集」をドイツ・ドルトムントの
         ハウケハック社 Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。

11年:「10 Duette fϋr 2 Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」を、
           ベルリン・リース&エアラー社「Ries & Erler Berlin」から出版。

12年:「Zehn Phantasien fϋr Celloquartett(Band1,Nr.1-5)
          チェロ四重奏のための10のファンタジー(第1巻、1~5番)を 
           Musikverlag Hauke Hack Dortmund 社から出版」

13年:CD『Suite Nr.4 & 5 & 6 fϋr Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第4,5,6番』
         Wolfgang Boettcher演奏を発表。
      「Suite Nr.3 fϋr Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第3番」を、
        ベルリン・リース&エアラー社「 Ries & Erler Berlin」から出版。

14年:「 Suite Nr.2、4、5、6 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 2、4、5、6番 」
           の楽譜を、ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」から出版。
    SACD 『 Suite Nr.1、2、3、4、5、6 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲
    第 1, 2, 3, 4, 5, 6番 』を、「disk UNION 」社から、
    ≪GOLDEN RULE≫ レーベルで発表。
    スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で
    自作品が演奏される。

16年:ドイツの「ベーレンライター出版社」が刊行した J.S.バッハ(原典版)
   「ゴルトベルグ変奏曲」など、バッハ鍵盤作品の「序文」の日本語訳と
   「訳者による注釈」を担当。

    著書『クラシック音楽の真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!』
                       (DU BOOKS)を出版。

     CD『 Mars 夏日星』(ギター)を発表。

★SACD「無伴奏チェロ組曲 第1~6番」Wolfgang Boettcher
       ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、disk Union や
     全国のCDショップ、ネットショップで、購入できます。
   http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/2208/

 

 

 

※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
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