音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ゴルトベルク変奏曲15変奏に、Bachの音楽、思想のすべてがある■

2016-09-02 10:46:34 | ■私のアナリーゼ講座■

■ゴルトベルク変奏曲15変奏に、Bachの音楽、思想のすべてがある
  ~ Boettcher ベッチャー先生と久しぶりに蕎麦ディナー~

            2016.9.2      中村洋子

 

 

Bach「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」は、

30の変奏曲の一つ一つが役割を担っており、

優劣をつけるものではありません。


★3日の「Goldbergアナリーゼ講座」で勉強いたします

13、14、15変奏は、前半15曲の最後の3曲という

重要な位置を占めています。

今週はずっと、その3曲の分析に集中しておりました。

敢えて申しますと、

「かくも偉大な作品を、人類が持ちえたこの幸せ」

と、心の底から喜びを感じております。


★「Variatio15」の「和声」につきましては、

21世紀の現在に至るまで、私の知る限りでは、

これほど高度な技法が駆使された曲はございません。

調性を用いるか、用いないかにかかわらずです。


★この「Variatio15」の中に、Bachは「Bachの音楽」、

「Bachの思想」のすべてを込め、そして表現した、

とも言えると、思います。


★その思想を読み解き、血肉化することが

できるような講座となるよう、願っております。

 

 


★今回は、この重量級の3曲を勉強するために、

講座の時間を30分、拡大しました。

それでも足りるでしょうか?


★講座の一端をお知らせいたしますと・・・

第15変奏1小節目上声に、Bachに親しんでいる方には、

「ああ、あのmotifモティーフ」とすぐにお分かりになる、

≪2度の嘆きのmotif≫が奏されています。

 

 


★そして、Bachには珍しく≪andanteアンダンテ≫=歩くような速さで、

という速度記号が、記されています。

「Wohltemperirte Clavier Ⅰ平均律クラヴィーア曲集 第1巻」の終曲、

第24番 Prelude(Bach自身はPraeludiumと書いています)にも、

≪andante≫が記され、速度を指定しています。

 

 


★この「Goldberg-Variationen」15Variatioと、

「Wohltemperirte Clavier Ⅰ」24番h-Moll ロ短調の

andante(walking pace)は、ゴルゴダの丘へと引かれる、

十字架を担いだイエスのイメージがあるかもしれません。


★そして、「Wohltemperirte Clavier Ⅰ」24番 Fuga には、

≪Largoラルゴ(英訳ではbroad)≫、つまり、

幅広くゆっくりとしたテンポが、記されています。

このテンポは、15Variatioと異なりますが、

使われているmotifは、15Variatioと同じ「2度motif」です。

 

 


★「Wohltemperirte Clavier Ⅰ」の中で、この24番h-Mollは、

特別な位置を占めています。

まず、 Preludeと Fugaにテンポの表示があるのは、

平均律1巻24曲の中で、たった1曲、この24番だけです


★ Preludeは、前半17小節を奏した後、もう一度、

1小節目から17小節目までを反復します。

後半18小節目から最後の47小節目までも、

一度奏した後、もう一度反復します。

「binary form」です。


平均律1巻で、「binary form」の Preludeは、

この24番だけです。

平均律2巻になりますと、

2番c-Moll  5番D-Dur  8番dis-Moll 9番E-Dur

10番e-Moll 12番f-Moll 15番G-Dur 18番gis-Moll

20番a-Moll 21番B-Dur と、

全24曲中、10曲の Preludeが、binary formです。


★「binary form」は、平均律第2巻 Preludeの、

特徴とも言えます。

 

 


★では、どうしてBachは平均律1巻24番だけ、

2巻の性格を宿すように、作曲したのでしょうか


★私の考えでは「Bachは1巻を作曲中、すでに、

2巻を作曲する構想があった、あるいは、

2巻の構想が出来ていた」、そして、

「1、2巻合わせて全48曲のちょうど前半最後の曲が、

1巻24番である」ということです。


★これを「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」に、

当てはめて考えますと、

15Variatio第15変奏は、ちょうど前半最後の曲で、

平均律1巻の24番に対応する曲である、と

結論付けることができます。


★「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」の

初版譜は、もちろんengraver彫師のミスも散見されますが、

Bachが所持していた初版譜には、

Bach自身による貴重な「書き込み」があります。


★例えば、15Variatio第15変奏の1小節目は、

譜例で書きましたように、「2度motif」に、

スラーが書かれています。

しかし、2小節目にはスラーはありません。

 

 


★しかし、「Bärenreiterベーレンライター版」では、

この2小節目に点線でスラーが、書き加えられています。

「Henleヘンレ版」では、スラーは書かれていません。


★ここでの「和声」の意味を考えますと、

スラーがないのが、正しいのです。

Bachが初版譜にスラーを書いていないのには、

当然のことながら、深い理由があるのです。

講座で詳しく、ご説明いたします。

 

 


★私は、このところとても忙しい毎日ですが、

30日まで開催された「草津音楽祭」のために、

来日されていたCelloのWolfgang Boettcher 

ヴォルフガング・ベッチャー先生に、お会いするため、

草津まで行ってまいりました。


★久しぶりの再会でしたが、とてもお元気で、

いつも通り、明るく、矍鑠とされていました。

音楽に集中するために無駄なことは一切しない、

自らを厳しく律する生活を、貫かれていらっしゃいます。

あらためて、その生き方に打たれました。


★先生は「お蕎麦」がことのほかお好きです。

「蕎麦」という日本語が出ますと、顔をほころばせ、

「ゾバ、ゾバ」とドイツ語訛りで言い返されます。

台風の接近で、篠突くような雨でしたが、

草津温泉の中心「湯畑」まで行き、一緒に、

美味しいお蕎麦屋さんに入り、

蕎麦ディナーと歓談を楽しみました。

「私はolder and olderになる」と先生、

「しかし、先生の心は、毎日若くなりますね」と、

申しますと、先生は「その通り」とにっこり。

 

 


★今回の草津音楽祭では、Empress Michiko皇后美智子さまとの

合奏を、ことのほか楽しみにされていました。

TV newsでは、SchubertのPiano、Violin、

Celloによる三重奏の様子が放映されましたが、

美智子さまと一緒に演奏された何曲かのうち、

最も力を注がれたのが、

ChopinのCello Sonata, Op.65 でした。

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■皇后さまがピアノ披露、静養先で 群馬・草津
 
2016年8月27日 17時37分

 長野県軽井沢町で20日から静養中だった天皇、皇后両陛下は27日、群馬県草津町に移り、引き続き静養された。皇后さまは同町で開催中の音楽祭「草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル」に参加するため来日した海外の音楽家とワークショップに臨み、ピアノの演奏を披露した。

 課題曲に選ばれたのは、シューベルトのセレナーデなど数曲。皇后さまはベルリン・フィルハーモニー管弦楽団で首席チェロ奏者を務めたウォルフガング・ベッチャーさんらと共演し、「まだ弾き方を理解できていない部分があるので教えてくださいね」などと英語で話しながら、約1時間20分にわたって練習に励んだ。(共同)
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(中村洋子作曲「無伴奏チェロ組曲」1~6番Wolfgang Boettcher 演奏
 GDRL 1001,1002  :disk UNION
)

 

★TV画像を見ながら、

先生のチェロを弾く姿に感動している自分に、

気付きました。


★あらゆる動きが、しなやかにして伸びやか、軽やかで美しい。

溜息が出ます。

Boettcher ベッチャー先生は、美智子さまと同い年です。

先生の口癖「毎日毎日が勉強、勉強、努力、努力」、

それが昇華され、演奏中のどの断面からも、

滲み出てきます。

それが先生の音楽です。

私も先生を一つの規範として、音楽を学んでいきたいと、

思っております。

http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20160827-00000036-ann-soci

http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2854912.html

 

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