音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■「Melodie旋律」とは音による≪DNA遺伝子リボン≫のようなもの■

2021-02-11 19:43:28 | ■私のアナリーゼ講座■

■「Melodie旋律」とは音による≪DNA遺伝子リボン≫のようなもの■
              ~シューマン「子供のためのアルバム」 Vol.4~
                 2021年2月11日     中村洋子

 

 


★寒さは続きますが、日の入りがどんどん遅くなります。

旧暦のお正月は2月12日。

今日は大晦日なのですね。

お正月を「初春」という意味を、実感します。

ぼけ(木瓜)の小枝、備前焼の花瓶にさして楽しんでいます。


★紅の花に目を奪われ、活けたのですが、

緑の蕾の可愛らしいこと。

蕾と花の鮮やかな色彩に、春の命が凝縮されています。


★今回は、Robert Schumann ロベルト・シューマン

(1810-1856)作曲「子供のためのアルバム」Vol.4 です。

Vol.1は2020.12.9、Vol.2は1.22、Vol3は1.31です。


★まず、前回ブログのおさらいです。

「子供のためのアルバム」決定稿の第1曲「Melodie」は、

初稿「マリーのためのクラヴィーア小曲集」(以下:Marie と略)

存在しません。

決定稿の順番は、1番=「Marie 3番」、2番=「Marie 2番」、

3番=「Marie 4番」、4番=「Marie 5番」です。


Marie の調性をみますと、C-Dur→ G-Dur→ G-Dur→ C-Dur

の順です。

それが決定稿(Jugend)となりますと、C-Dur→ G-Dur→ 

C-Dur→G-Dur→ C-Dur というように、C-Dur とその属調の

G-Dur が、交互に配置されます。

 

 


初稿Marie では、4曲の両端をC-Durが固め、その中身である

2、3番目の曲は、G-Dur でした。

決定稿(Jugend)では、5曲の両端をC-Dur で固めるのは

同じですが、中身の2、3、4曲目は、G-Dur、C-Dur、G-Dur

というように、より豊かに発展しています。


★今回は、第2曲目「Soldatenmarsch 兵隊さんの行進曲」

について、少し書いてみます。

この曲は、初稿(Marie )と決定稿(Jugend)の両方で、

第2曲目の位置を占め、曲名も変化していません。

ただ、Marie の後半は、決定稿とはだいぶ異なっています。

Schumannの推敲の跡を辿るのは、とても興味深いのですが、

Marie の楽譜をお持ちにならない方も多い、と思いますので、

決定稿に則り、書いて見ます。


★一番大きな違いは、Marie は、4分の4拍子ですが、

決定稿は、4分の2に変更されていることでしょう。

Marie の1小節分が、決定稿では、2小節分に相当します。


★私達がいま、目にしている決定稿の後半は、とても簡潔に、

シンプルに作曲されているようにみえますが、

ここに辿り着くまでには、Schumannは大変な努力をしています。

簡潔なフォルムほど、作曲するのに難しいことはないのです。

ヒラヒラと無駄な音で飾り立てるのは、とても簡単なことです。

 

 


★それでは、第2曲「Soldatenmarsch 兵隊さんの行進曲」

について、詳しく見ていきましょう。

兵隊さんといっても、おそらく子供が喜ぶ玩具の兵隊さんでしょう。

私が小さい時、ピアノ用毛ばたきは、木製の兵隊さんの帽子が

はたきになっていたのを思い出します。

それはさておき、冒頭1小節目上声(右手)と下声(左手)に、

まず驚かされます。

幸いなことに、決定稿の自筆譜も出版されていますので、

それを写譜してみます。


上声の「h¹- c²- d² シ ド レ」は、

第4曲「choral コラール」の後半の冒頭17、18小節の

「h¹- c²- d²」と同じモティーフです。



下声の「g a h ソ ラ シ」は、同じ第4曲「choral」の

冒頭第1小節目と、同じモティーフです。

 

 

これだけでも、第2曲と第4曲がいかに強く、

有機的に結びついているか分かりますが、

それだけではありません。

 

 


「兵隊さんの行進曲」2、3小節目も、

上声と下声も、実に計算されつくして、

作曲されています。

 

 

2、3小節目上声の「e²-d²-c²-h¹ ミ レ ド シ」は、

決定稿に追加作曲された第1曲「Melodie」の

1小節目「e²- d²- c²- h」と、

がっちり手をつないでいます。

 

 


2、3小節目の下声「c¹-h-a-g ド シ ラ ソ」は、

第1曲「Melodie」の3小節目4拍目から4小節目にかけての

「c²-h¹-a¹-g¹ ド シ ラ ソ」と、対応しています。

 




このように、「兵隊さんの行進曲」の3、4小節目は、

上声も下声も第1曲「Melodie」と、がっちり結び付いている

ことになります。


★まとめますと、第2曲「兵隊さんの行進曲」1小節目は、

第4曲「choral」と有機的に結合し、「兵隊さんの行進曲」の

2、3小節目も、第1曲「Melodie」と有機的結合です

 




★それだけでしょうか?

「兵隊さんの行進曲」の1小節目は、

第4曲「choral」だけでなく、実は、第3曲「Trällerliedchen

ハミング」の10小節目右手にも、しっかり姿を現しています。



★それは更に発展し、「Trällerliedchen ハミング」

14小節目の、この曲の頂点をも形成していくことになります。

 

 

Marieでも決定稿でも、第2曲目の位置を占めた

「兵隊さんの行進曲」は、第1曲「Melodie」と、

3曲目「Trällerliedchen ハミング」、4曲目「choral」の

強力な接着剤の役割を果たしていることが、分かります。

その接着剤の正体こそ、「Motif モティーフ」としての、

「Melodie旋律」なのです。


「旋律」とは、Schumannが好まなかったイタリアオペラ

のように、感情を甘くくすぐる為だけの、「音の連なり」

ではないのです。

これにつきましては、私の著書「クラシックの真実は

大作曲家の自筆譜にあり」(DU BOOKS)の

p256「シューマンの音楽評論」を、お読み下さい。


★Schumannは、自分の子供だけでなく、すべての子供たちに、

こう書き残しています。

「新しいイタリアオペラのメロディに、願わくば、君が直ぐに

飽き飽きするように」。

「Melodie 旋律」とは、一つ一つの音に、

固有の役割と各々の命をもった、

音による≪DNA遺伝子リボン≫のようなものなのです。

 

 

 

 

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