音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■音楽の中にはなんと沢山の大聖堂があることでしょう!■

2017-01-12 22:39:47 | ■私のアナリーゼ講座■

■音楽の中にはなんと沢山の大聖堂があることでしょう!■
~ことしもBachを勉強できる幸せ、1月21日「ゴルトベルク変奏曲」講座~
            2017.1.12   中村洋子

 


★2017年最初のブログになりました。

年末年始も忙しくしておりました。

大晦日は、仕事をしながら夜のしじまに響きわたる除夜の鐘を

心に刻み付けました。


ベルリンのWolfgang . Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー先生から、

新年のお祝いのカードをいただきました。

先生は、クリスマスをご家族と過ごされた後、弦楽三重奏とデュオの演奏旅行に

出掛けられたそうです。


★お手紙には、 Mozart(1756-1791)のディヴェルティメントKV563や、

Beethoven のOp.9、ハイドン、シューベルトなどを演奏しました。

≪なんと音楽には多くの大聖堂(ドーム)があることでしょう!≫」と、

書かれていました。

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MITTWOCH, 28.12.2016
JOSEPH HAYDN, Streichtrio in G-Dur, (Hob.XVI 40)
FRANZ SCHUBERT, Trio in B-Dur (D471)
LUDWIG VAN BEETHOVEN, Streichtrio op.9 No 1, Stephan Picard, Violine,
Julia-Rebekka Adler, Viola, Wolfgang Boettcher, Cello
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★これだけの傑作群(大聖堂)がひしめき合っているクラシック音楽の中で、

その根本となる作曲家「Bach」を、ことしも勉強できることは、幸せです。

新年は、1月13日(金)のカワイ金沢の       
「 Notenbüchlein für Anna Magdalena Bach

アンナ・マグダレーナ・バッハのためのクラヴィーア小曲集」アナリーゼ講座

1月21日の東京・シビックホールでの「ゴルトベルク変奏曲」

第2期第1回アナリーゼ講座で、Bachの勉強始めとなります。





★ Boettcher ベッチャー先生にお話を戻しますと、

12月30日のコンサートでは、 Mozartが編曲したBachの作品を

演奏されました。

Adagio & Fuge für Streichtrio gesetzt von W.A. Mozart

 (KV 404a Nr. IV)の

Adagioは、「Ⅲ.Orgelsonate(BWV527)」、

Fuga は、「Die Kunst der Fugue フーガの技法の、

Contrapunctus Ⅷ という二つの違う曲を組み合わせて一つの曲に

編曲しています。

大曲です。

 

★ちなみに、KV 404a Nr. Iのフーガは、平均律クラヴィーア曲集1巻8番

dis-Mollの編曲です。

Ⅱは、平均律クラヴィーア曲集第2巻14番fis-Mollの編曲です。

Ⅲは、平均律クラヴィーア曲集第2巻13番Fis-Durの編曲です。

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FREITAG, 30.12.2016
JOHANN SEBASTIAN BACH
Adagio & Fuge für Streichtrio gesetzt von W.A. Mozart
                          (KV 404a Nr. IV)
MAURICE RAVEL
Sonate
für Violine & Violoncello
WOLFGANG AMADEUS MOZART
Divertimento für Streichtrio
in Es -Dur (KV 563)
Stephan Picard, Violine
Julia-Rebekka Adler, Viola
Wolfgang Boettcher, Cello
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★この Mozart編曲の平均律クラヴィーア曲集については、

私の著書「クラシックの真実は大作曲家の自筆譜にあり!」の

Chapter7 「 MozartはBachの4声フーガを
                    弦楽四重奏に編曲して勉強」で、

詳しく書いてありますので、是非、お読みください。






★ Mozartの時代、Bach作品の出版物はまだ少なく、

Boettcher  ベッチャー先生から以前お聞きしましたお話によりますと、

MozartはBachの作品の楽譜を見るために、演奏旅行の日程を変更して、

わざわざ楽譜のある町を訪れたこともある」とのことです。

やはり Mozartは、Bachとその息子たちの土壌の上に、

すくすくと育った偉大な樹木であったと思います。


★ MozartがBachの作品を編曲することによって自分を育てたように、

Bachもイタリアの Antonio Vivaldiアントニオ・ヴィヴァルディ
                       (1678-1741)や、

Alessandro Marcelloアレッサンドロ・マルチェッロ(1669-1747)

の曲を、編曲することにより、彼らの音楽をさらに豊かにしたことは、

間違いありません。


★これについては、21日の「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」

講座でも、お話いたします。

今回は、ゴルトベルク変奏曲の第16、17、18変奏です。

第16変奏曲は、ゴルトベルク変奏曲の後半の幕開けとなる重要な変奏曲です


★一見しますと、フランス風序曲の形式、即ち、

前半は付点のリズムを伴った荘重な序曲、後半は、軽やかな小フーガです。

後半には、Vivaldiヴィヴァルディ(1678-1741)の影響や、

さらには、スカルラッティとの共通点が見られるのは一目瞭然です。


★私は、この第16変奏曲の後半部分を勉強しますと、

これらの音楽がいつも、頭の中で甘美な声楽曲として鳴り響きます。

それは何故なのでしょうか。

 

 


★クリスマスから新年にかけての音楽を聴きましょう、と思い立ち、

まず、Bach「Weihnachts-Oratoriumクリスマスオラトリオ」の

CDを聴きました。

名盤は沢山ありますが、今回は、Kuijkenクイケン(1944-)指揮の

演奏を楽しみました。


★カール・リヒターのモダンなピッチに慣れていますと、

クイケンの演奏は、バロック時代のピリオド楽器ですので、

当然ピッチも約半音低くなっています。

大雑把に言いますと、リヒターを「D-Dur」 として聴きますと、

クイケンの演奏は、「Des-Dur」に聴こえます。

これが、イエスの生誕を祝う喜びや、幼子を謳い上げるのに、

大変に柔らかく、心地よく聴こえます。








★「Weihnachts-Oratorium」の第4曲目に差し掛かりますと、

「ああ、これはゴルトベルク変奏曲の第16変奏曲!!!」なのです。


★第16変奏曲は、前半16小節を二回反復します。

16小節目の二回目反復から、後半が始まります。

 

 

後半の小さなフーガの主題の中にある、“ジグザグモティーフ”が、

まず18小節目の上声、19小節目の下声に出現します。

 

 

★実は、このモティーフは「Weihnachts-Oratoriumクリスマスオラトリオ」の

第4曲「Aria」でも、たびたび使われています。

クリスマスオラトリオ第108小節は、ゴルトベルク変奏曲18小節目と

全く同じ音(1オクターブの差はありますが)です。

 

 


★Bachの自筆譜を見ますと、この「Aria」を、3段譜で書いています。

ソロのAriaを歌うアルトは、真ん中の段です。

最下段は通奏低音です。

最上段は、oboeとviolinです。




★その108小節の最上段を、もう一度ご覧下さい。




“ジグザグモティーフ”に話を戻しますと、

次の第17変奏のややおどけた“ジグザグモティーフ”につなげるために、

第16変奏曲の“ジグザグモティーフ”は、明るく軽やかです。

“ジグザグモティーフ”の面白さは、和声の面白さである、とも言えます。


★ケーズバイケーズですが、例えば、18小節目の場合、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ 




のように、和声の「平行進行」が生まれることがあります。

ある意味、機能和声の厳格な法則の頸木から解き放たれている意味も

ありますので、それが軽やかさの一因かもしれません。


★そうのようなことを考えながら、16変奏曲を勉強し、

クリスマスオラトリオの第4曲「Aria」を聴きますと、

共通する motif モティーフが他にも見つかり、

理解が深まりますので、是非、お聴きください。


★アルトのAriaですので、歌の冒頭部分を自筆譜通りに「アルト譜表」で

写譜します。

 

 

アルトに慣れていない方のために、「ト音譜表」に直します。

 

 

これも、お弾きになってください

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■「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」アナリーゼ講座

https://www.academia-music.com/academia/m.php/20161026-0

 

 


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