■半音階が絶えず現れる第20番前奏曲は七声、エネルギーに満ち溢れる■
~平均律第2巻・アナリーゼ講座 第20番 a-Moll ~
2014.11.23 中村洋子
★紅葉が燃え盛るようです。
冬の足音が、もうそこまで来ています。
25日は、 KAWAI 表参道「平均律第2巻20番a-Moll」
アナリーゼ講座です。
★その準備で、「Die Kunst der Fuge フーガの技法」を、
毎朝、ピアノで少しずつ弾いています。
Bach の「 Die Kunst der Fuge フーガの技法」の、
「Manuscript Autograph 自筆譜 」facsimile は、
soprano、 alto、tenor、bass記号の四段譜で書かれています。
★Bach は、choral コラールを記譜する際も、この四段譜です。
この四段譜を読むことに慣れますと、
ト音記号とバス記号(ヘ音記号) の二段譜、いわゆる
「大譜表」に書き直された実用譜よりも、かえって読みやすく、
頭に入りやすくなります。
★私が、 ピアノでDie Kunst der Fuge を弾いて、
楽しんでいるように、
Die Kunst der Fugeは、全部とはいいませんが、大部分は、
ピアノ(鍵盤楽器)で、弾くことができます。
★私が考えましたことは、
Bach が、鍵盤楽器用に「二段譜」で書いた作品が、
Bach の頭の中では、実は、「四声による四段譜」で、
練られていたのではないか、ということです。
★「 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集」は、
実用譜のように、「大譜表」では、書かれていません。
二段譜ですが、上段は、ほとんどsoprano記号、
下段は、ほとんどがbass記号で、書かれています。
★Bach は平均律を四声で作曲し、
それを二段譜で記譜するに当たり、
上段は、四声の中で最も高いsoprano記号、
下段は、最も低いbass記号を選んだと、思います。
そのsoprano、bass の上下枠の中に、
alto 、tenor が存在するという、認識だったのでしょう。
★Bach は、ト音記号を使わなかった訳ではなく、
Clavier Übung クラヴィーア ユーブンク 第二巻のいわゆる
「 Concerto nach Italienischen Gusto イタリア協奏曲 」 では、
ト音記号と bass記号の二段譜(大譜表)で、書いています。
ここでト音記号を使ったのは、人の声より高い音域を、
想定して、作曲したからでしょう。
★ Wohltemperirte Clavier での、例外としては、
上声および下声で、 alto 記号を使うことが、たびたびあります。
上声= altoは、文字通り alto の声部、
下声= alto は、 alto声部ではなく、tenor声部と、
とらえますと、大変明確に、四声体を読み取ることが
可能となります。
★しかし、これは大原則であって、Wohltemperirte Clavier は、
たくさんの例外に満ちていることは、言うまでもありません。
★例えば、12月のアナリーゼ講座で勉強します、
第2巻21番 B-Dur は、驚くべきことに「ト音記号」まで、
“出演”させています。
Wohltemperirte Clavier で、ト音記号が出現するのは、
青天の霹靂です。
★第二巻全24曲を、6曲ずつにグループ分けした場合、
最後のグループ(19~24番)は、
音楽史上空前絶後といえるほどの、
エネルギーと広がりをもった“生命体”ような存在であると、
思います。
★20番 a-Moll Prelude は、17小節目と32小節目に、
反復記号をもつ、バイナリ―フォーム binary form の、
終始、二声で書かれた、大変に短い曲です。
★しかし、「半音階」が絶え間なく現れ、これほどまでに
エネルギーに満ちた曲が、あるのであろうか!と、
感嘆するほどの曲です。
★この二声 は、いうまでもなく、四声体に分割して、
理解すべきものでしょう。
講座では、四声体化したスコア―を、皆さまにお示しし、
その底知れないエネルギーが、どこから湧き上がってくるのか、
どう演奏すべきかを、お話いたします。
★四声といいましても、各声部が、また二声 に分割されることも多く、
特に、sopranoやbass声部を、さらに二分割しますと、
非常に理解しやすくなる部分が、たくさんあります。
譬えて言いますと、オーケストラの弦楽部分の第1ヴァイオリンを、
div. 分割する、Celloをdiv. 分割するというイメージです。
★この20番 a-Moll Prelude は、soprano、bassだけでなく、
alto アルト 声部も、二分割できるため、最低でも、
七声部で、考えるべきでしょう。
★25日のアナリーゼ講座では、 Bach の偉大な「半音階」が、
使われている一例として、 Clavier Übung クラヴィーア ユーブンク
第3巻 (1739年出版 )の Duetto や、 前述の Die Kunst der Fuge
フーガの技法にも、触れる予定です。
★ Die Kunst der Fuge を、弦楽器で聴きたくなり、
Collegium Aureum コレギウム・アウレウム合奏団の
CD(1962年録音)を、聴いています。
とてもいい演奏であると、思います。
★20番 Prelude の第1小節を見ますと、bassは、
a - gis - g - fis - f - e と、半音階下行しますが、
上声の冒頭は、 c2 - d2 - e2 - f2 (ド レ ミ ファ)という、
四度の上行順次進行で、始まります。
★ この ≪ c2 - d2 - e2 - f2 (ド レ ミ ファ)≫ に、
記憶はございませんか?
★そうです、「 Invention 第1番 C- Dur 」の冒頭と、
「 Wohltemperirte Clavier Ⅰ 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 」
第1番 C- Dur Fuga の冒頭と、同じ motif モティーフなのです。
★これはBach が、時折使います手法ですが、
この20番 Prelude は、a-Moll、
Invention第1番と 平均律第1巻 第1番 Fuga は C- Dur 、
異なる調であるのに、共通の motif モティーフ を使っています。
★これは、いわば、飛び切りの≪離れ技≫です。
異なる調といっても 実は、 a-Moll と C- Dur は、
平行調の関係にあります。
即ち、20番 Prelude a-Moll は、
Wohltemperirte Clavier 第1巻 第1番の曲頭と、
とても深い関係、発展させたものであることを、
Bach が示唆しているのです。
★さらに、4小節目の上声開始音は、前の3小節目からタイで、
結ばれています。
「a」 の後、 「 gis a1 h1 c2 ソ ラ シ ド」 で始まりますが、
これは、 Sinfonia 第1番 上声冒頭と、一致しています。
★ Wohltemperirte Clavier Ⅱ の終曲6曲からは、
Bach の、≪Invention、 Sinfonia 、Wohltemperirte Clavier Ⅰ
全部を、統合していく・・・≫、という強い意志が、
ヒシヒシと、伝わってきます。
“大きなエネルギー”と言いましたのは、このことも、指します。
★ちなみに、次の第2巻21番は、 Invention第2番と、
見事に、符牒が合っています。
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■ 平均律 第 2巻 アナリーゼ講座
第 17回 : 第 20番 a-Moll BWV889 Prelude & Fuga
■日 時 : 2014年 11月25日(火) 午前 10時 ~ 12時 30分
■会 場 : カワイ表参道 2F コンサートサロン・パウゼ
■予 約 : Tel.03-3409-1958
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■ 講師 : 作曲家 中村 洋子 Yoko Nakamura
東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。
2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。
07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。
08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。
08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
Analysis インヴェンション・アナリーゼ講座 」
全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。
09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。
10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
「 Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集 」 を、
ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。
11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
チェロ二重奏のための 10の曲集 」 を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」を、
Musikverlag Hauke Hack Dortmund 社から出版。
13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」 を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
自作品が演奏される。
★上記の 楽譜 & CDは、
「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/
「アカデミア・ミュージック 」 https://www.academia-music.com/ で販売中
★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 第 1 ~ 6番 」
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
disk Union クラシック館で、購入できます。
※copyright © Yoko Nakamura
All Rights Reserved
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