音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■半音階が絶えず現れる第20番前奏曲は七声、エネルギーに満ち溢れる■

2014-11-23 19:45:54 | ■私のアナリーゼ講座■

■半音階が絶えず現れる第20番前奏曲は七声、エネルギーに満ち溢れる■
             ~平均律第2巻・アナリーゼ講座 第20番 a-Moll ~
                      2014.11.23               中村洋子

 

 


★紅葉が燃え盛るようです。

冬の足音が、もうそこまで来ています。

25日は、 KAWAI 表参道「平均律第2巻20番a-Moll」

アナリーゼ講座です。


★その準備で、「Die Kunst der Fuge フーガの技法」を、

毎朝、ピアノで少しずつ弾いています。

Bach の「 Die Kunst der Fuge フーガの技法」の、

 「Manuscript Autograph  自筆譜 」facsimile は、

soprano、 alto、tenor、bass記号の四段譜で書かれています。


★Bach は、choral コラールを記譜する際も、この四段譜です。

この四段譜を読むことに慣れますと、

ト音記号とバス記号(ヘ音記号) の二段譜、いわゆる

「大譜表」に書き直された実用譜よりも、かえって読みやすく、

頭に入りやすくなります。

 

 


★私が、 ピアノでDie Kunst der Fuge を弾いて、

楽しんでいるように、

Die Kunst der Fugeは、全部とはいいませんが、大部分は、

ピアノ(鍵盤楽器)で、弾くことができます。


★私が考えましたことは、

Bach が、鍵盤楽器用に「二段譜」で書いた作品が、

Bach の頭の中では、実は、「四声による四段譜」で、

練られていたのではないか、ということです。


★「 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集」は、

実用譜のように、「大譜表」では、書かれていません。

二段譜ですが、上段は、ほとんどsoprano記号、

下段は、ほとんどがbass記号で、書かれています。


Bach は平均律を四声で作曲し、

それを二段譜で記譜するに当たり、

上段は、四声の中で最も高いsoprano記号、

下段は、最も低いbass記号を選んだと、思います。

そのsoprano、bass の上下枠の中に、

alto 、tenor が存在するという、認識だったのでしょう。


★Bach は、ト音記号を使わなかった訳ではなく、

Clavier Übung クラヴィーア ユーブンク 第二巻のいわゆる

「 Concerto nach Italienischen Gusto イタリア協奏曲 」 では、

ト音記号と bass記号の二段譜(大譜表)で、書いています。

ここでト音記号を使ったのは、人の声より高い音域を、

想定して、作曲したからでしょう。

 

 


★ Wohltemperirte Clavier での、例外としては、

上声および下声で、 alto 記号を使うことが、たびたびあります。

上声= altoは、文字通り alto の声部、

下声= alto は、 alto声部ではなく、tenor声部と、

とらえますと、大変明確に、四声体を読み取ることが

可能となります。


★しかし、これは大原則であって、Wohltemperirte Clavier は、

たくさんの例外に満ちていることは、言うまでもありません。


★例えば、12月のアナリーゼ講座で勉強します、

第2巻21番 B-Dur は、驚くべきことに「ト音記号」まで、

“出演”させています。

 Wohltemperirte Clavier で、ト音記号が出現するのは、

青天の霹靂です。


第二巻全24曲を、6曲ずつにグループ分けした場合、

最後のグループ(19~24番)は、

音楽史上空前絶後といえるほどの、

エネルギーと広がりをもった“生命体”ような存在であると、

思います。

 

 


20番 a-Moll  Prelude は、17小節目と32小節目に、

反復記号をもつ、バイナリ―フォーム binary form の、

終始、二声で書かれた、大変に短い曲です。


★しかし、「半音階」が絶え間なく現れ、これほどまでに

エネルギーに満ちた曲が、あるのであろうか!と、

感嘆するほどの曲です。


★この二声 は、いうまでもなく、四声体に分割して、

理解すべきものでしょう。

講座では、四声体化したスコア―を、皆さまにお示しし、

その底知れないエネルギーが、どこから湧き上がってくるのか、

どう演奏すべきかを、お話いたします。


四声といいましても、各声部が、また二声 に分割されることも多く、

特に、sopranoやbass声部を、さらに二分割しますと、

非常に理解しやすくなる部分が、たくさんあります。

譬えて言いますと、オーケストラの弦楽部分の第1ヴァイオリンを、

div. 分割する、Celloをdiv. 分割するというイメージです。


この20番 a-Moll  Prelude は、soprano、bassだけでなく、

 alto アルト 声部も、二分割できるため、最低でも、

七声部で、考えるべきでしょう。

 

 


★25日のアナリーゼ講座では、 Bach の偉大な「半音階」が、

使われている一例として、 Clavier Übung クラヴィーア ユーブンク

第3巻 (1739年出版 )の Duetto や、 前述の Die Kunst der Fuge

フーガの技法にも、触れる予定です。


★ Die Kunst der Fuge を、弦楽器で聴きたくなり、

Collegium Aureum コレギウム・アウレウム合奏団の

CD(1962年録音)を、聴いています。

とてもいい演奏であると、思います。


20番 Prelude の第1小節を見ますと、bassは、

a - gis - g - fis - f - e  と、半音階下行しますが、

上声の冒頭は、 c2 - d2 - e2 - f2  (ド レ ミ ファ)という、

四度の上行順次進行で、始まります。


★ この ≪ c2 - d2 - e2 - f2  (ド レ ミ ファ)≫ に、

記憶はございませんか?


★そうです、「 Invention 第1番 C- Dur 」の冒頭と、

 「 Wohltemperirte Clavier Ⅰ  平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 」

第1番 C- Dur Fuga の冒頭と、同じ motif モティーフなのです。

 

 

 


★これはBach が、時折使います手法ですが、

この20番 Prelude は、a-Moll、

Invention第1番と 平均律第1巻 第1番 Fuga は C- Dur 、

異なる調であるのに、共通の motif モティーフ を使っています。


★これは、いわば、飛び切りの≪離れ技≫です。

異なる調といっても 実は、 a-Moll と C- Dur  は、

平行調の関係にあります。

即ち、20番 Prelude  a-Moll は、 

Wohltemperirte Clavier 第1巻 第1番の曲頭と、

とても深い関係、発展させたものであることを、

Bach が示唆しているのです。


★さらに、4小節目の上声開始音は、前の3小節目からタイで、

結ばれています。

「a」 の後、 「 gis  a1  h1  c2 ソ ラ シ ド」 で始まりますが、

これは、 Sinfonia 第1番 上声冒頭と、一致しています。

 

 


Wohltemperirte Clavier Ⅱ の終曲6曲からは、

Bach の、≪Invention、 Sinfonia 、Wohltemperirte Clavier Ⅰ

全部を、統合していく・・・≫、という強い意志が、

ヒシヒシと、伝わってきます。

“大きなエネルギー”と言いましたのは、このことも、指します。


★ちなみに、次の第2巻21番は、 Invention第2番と、

見事に、符牒が合っています。

 

 

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  平均律 第 2巻 アナリーゼ講座

第 17回 : 第 20番 a-Moll BWV889 Prelude & Fuga

■日  時 :  2014年 11月25日(火) 午前 10時 ~ 12時 30分

■会  場 :  カワイ表参道  2F コンサートサロン・パウゼ

■予 約 :    Tel.03-3409-1958

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■ 講師 :   作曲家  中村 洋子  Yoko Nakamura

東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

    2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。

    07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
         無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
         Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
    CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
                         ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。

    08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
        CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。

    08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
                  Analysis  インヴェンション・アナリーゼ講座 」
                    全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。

    09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
         

    10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
                  Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
                全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。

    10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
       「 Regenbogen-Cellotrios  虹のチェロ三重奏曲集 」 を、
             ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
      Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。

    11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
                         チェロ二重奏のための 10の曲集 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

    12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
    チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」を、
      Musikverlag Hauke Hack  Dortmund 社から出版。

    13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
           「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

          スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
    自作品が演奏される。

  ★上記の 楽譜 & CDは、
カワイ・表参道http://shop.kawai.co.jp/omotesando/ 
アカデミア・ミュージックhttps://www.academia-music.com/販売中

  ★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 第 1 ~ 6番 」
   Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
  disk Union クラシック館で、購入できます。

 

 

 

※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲


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