音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■第5回 カワイアナリーゼ講座「前奏曲とは何か~」を、開催しました■

2009-06-07 23:56:05 | ■私のアナリーゼ講座■
■第5回 カワイアナリーゼ講座「前奏曲とは何か~」を、開催しました■
                  09.6.7    中村洋子


★紫陽花の花が、家々のお庭から顔をのぞかせています。

日曜日のきょう、午後3時から、カワイアナリーゼ講座の

「前奏曲とは何か~」を、開催いたしました。

バッハ、ベートーヴェン、ショパン、ドビュッシーの4曲を、

私が要約して、「手書き」しました「テキスト」を、

皆さまに、お配りしました。


★毎日見慣れた楽譜ですと、つい、新鮮味がなくなり、

ルーティンな仕事、演奏になり勝ちですが、

バッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻、

第1番プレリュードの全35小節を、

一段目は5小節、あとは6小節ずつ、計6段に割り振って、

ご自分の手で、実際に、書き写してみてください。


★「1段目、2段目」、「3段目、4段目」、「5段目、6段目」の

≪3部構成≫で出来ていることが、明確に理解できることでしょう。

この≪3部構成≫こそが、

バッハの「前奏曲」の、根幹を成すものです。

ゆるぎない、力強い構成なのです。

35小節を、「6段」で手書きされることを、お薦めいたします。


★ベートーヴェンの「月光ソナタ」第1楽章の、

構成を分析しますと、まさに、ベートーヴェンは、

独自のモティーフ展開を、絡ませながら、

バッハの前奏曲の≪3部構成≫を、取り入れていることが、

よく、分かります。

ベートーヴェンが、いかにバッハをよく学び、そして、

発展させていったか、それが見えてきます。


★「月光ソナタ」全3楽章の、調性の配置方法も、

バッハが起源ですが、それは、

ショパンの前奏曲「雨だれ」に、引き継がれていきます。

さらに、「月光ソナタ」第1楽章の「前奏曲」としての構成原理は、

ショパンの練習曲Op.25 の1番に、そのまま、

踏襲されていることが、分かるはずです。


★バッハを源流とする「前奏曲」の流れは、20世紀初頭の、

ドビュッシーの前奏曲集、特に第1巻の第1番にも、

滔々と、流れ込んでいくことを、

皆さまにご説明し、充実した講座となりました。


★アンケートに、「前奏曲」と作曲家ラフマニノフとの関連を、

知りたい、と書かれた方が、いらっしゃいました。

月2回水曜日に、カワイ表参道で開いております

「アナリーゼ・グループレッスン」で、ちょうど、

ラフマニノフの歌曲「ヴォカリーズ」を、取り上げたばかりです。

この「ヴォカリーズ」にも、バッハの「前奏曲」の構成原理が、

巧みに、応用して取り込まれています。

20世紀の、「フランス」のドビュッシーに限らず、

ラフマニノフの「ロシア」にも、

バッハの “小川” が、伏流水のように、

静かに広く、浸透していたのです。


★バルトークの校訂した「バッハ平均律クラヴィーア曲集」、

シュナーベルの校訂した「ベートーヴェン・ピアノソナタ全集」の、

素晴らしさと、演奏への生かし方も、お話いたしました。


★どの楽譜を使ったらいいか?、というご質問を、

いつも、受けます。

以前のブログで、書きしましたように、

「Urtext」は、決して「原典版」とはいえない現状ですので、

なるべく、最新の「Urtext」と、その脚注を、

細心の注意をもって、読みつつ、

さらに、作曲家の手稿譜を、入手できれば、

それを可能な限り、照らし合わせて、

研究することが、ベストである、といえます。


★学生時代に買った楽譜を、ずっと、ボロボロになるまで、

使い続けることは、決して、美談ではありません。


★同時に、「校訂譜」は、バルトーク、シュナーベル、

フィッシャー、アラウ などの歴史的な、

真の大家、マエストロのエディションを、

座右の楽譜として、絶えず、学び続けてください。

あたかも、巨匠から、個人レッスンを受けているかのように、

得られるものが、たくさんあることでしょう。

これらの楽譜が、一部、入手困難になっていることは、

とても、残念です。

本当の芸術は、決して、古びることはありません。


★きょうも講座で、平均律クラヴィーア曲集の

「バルトーク校訂版」を、演奏しながら、考察しましたが、

バルトークが、「1番前奏曲」の、22小節以降に付けました、

神秘的ともいえる、エスプレッションに、

改めて、感動いたしました。

身震いするような、美しさです。

バッハを素材に、バルトークが“創作した”作品と、

言うことも、できるでしょう。

「ピアノ」で、バッハをどう弾くかについての、

一つの美しい、解答例です。


★訂正です。

講座でお配りしましたテキスト7ページの、最下段にあります

≪★★「ドリア旋法 Faの旋法」≫を、

≪★★「ドリア旋法 Reの旋法」≫に、訂正いたします。

よろしくお願いいたします。

                      (紫陽花の花)
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲
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