■■ シューベルトのテンポについて ■■
09.9.7 中村洋子
★ヴォルフガング・ベッチャー先生とのCD録音が、
やっと終わり、ほっとしております。
本日は「白露」。
一昨日は、美しい「満月」でした。
涼風が、部屋を吹き抜け、
次第に、秋らしくなってきました。
月の光を背に、夜の散歩も楽しいものです。
★ヨーロッパのクラシック音楽でも、「歩行」を模した音型が、
しばしば、出てきます。
以前、お能の月刊誌「観世」の、巻頭随筆に、
バッハの平均律クラヴィーア曲集1巻、24番(前奏曲&フーガ)と、
お能の「歩み」との相関について、書いたことがあります。
(「観世」平成16年7月号【シテとワキとの照応は、フーガにも似る】)
★W.ベッチャー先生に、シューベルトのテンポについて、お尋ねしました。
「私の経験では、シューベルトのアンダンテは、
普通のアンダンテより、やや早いようだ」と、テーブルの上で、
右手の人差し指と中指を、人の足のように、器用に動かし、
実際にアンダンテで、歩く速度を、教えてくださいました。
★ここからは、私の考えですが、
シューベルト「冬の旅」の、第1曲目「お休み」の冒頭、
「左手8分音符の刻み」は、明らかに、
主人公の青年が、歩いているリズムを、模しています。
シューベルトの自筆譜には「Maessig,in gehender Bewegung」
= 中庸の速さ、歩くような動きで」、と、書いてあります。
アンダンテを、「歩く速さ」と、とるのであれば、
ベッチャー先生の考えのように、シューベルトのアンダンテは、
私たちがもつイメージより、やや速いのかもしれません。
★シューベルト、「即興曲Op 90 の1番」2小節目、
「レ」音が、連続して3回奏される部分も、
「お休み」1小節目の、4回連続奏される「レ」の音と、
同じ歩行のテンポであると、私は思います。
作曲年も「1827年」で、同じです。
この即興曲は、アレグロ・モルト・モデラートと、
速度が、表示されています。
★シューベルトの「歩く速さ」と、アンダンテの関係を、
考えるうえで、重要なポイントでしょう。
★また、先生は、「ディミヌエンド」と「デクレッシェンド」との違い、
「フォルテピアノ」と、「スフォルツァンド」との違いについても、
ご自身の体験に基づき、詳しく、説明してくださいました。
9月13日のカワイ・アナリーゼ講座では、
「シューベルト、即興曲Op 90」2番と4番を、
取り上げますが、そこで、お伝えしたいと思います。
★シューベルトの、後期の「弦楽四重奏曲」には、
ベートーヴェンの影響を、色濃く受けているものと、
逆に、ブルックナーなど、その後の作曲家へと、
つながっていくものとが、あります。
シューベルトが、対位法を習った先生は、
ブルックナーの師でも、ありました。
先生は、両手を、大きく広げ、
「シューベルトの曲は、大きく未来に開かれていた。」
★冗談で、「先生、ピアノを弾いてください」と、
申しましたら、即座に「OK」。
そして、太い指で、力強く、弾き始めました。
シューベルト、弦楽四重奏「死と乙女」でした。
四重奏のすべてのパートを、ピアノの鍵盤上で、
二本の腕を使って、完全に弾かれました。
★それには、本当に驚きました。
4人の奏者の譜面が、完全に、頭に入っているからこそ、
それは、可能なことなのです。
こんなに、シューベルトらしいシューベルトは、
初めてでした。
★壮大な伽藍の骨組みを、見ているようでした。
鋼のような音、骨太で、逞しいリズム。
先生のチェロのピッチカートは、大ホール中に鳴り響きます。
その先生が、弾かれるのですから、
当然ですね。
★先生の師・クレム Klemm も、オーケストラで演奏されていた時、
総譜を、すべて暗譜されていたそうです。
木管楽器奏者の一人が、自分のパートを忘れたとき、
クレムは、チェロでそのパートを、即座に弾き、補ったそうです。
(ピアニスト・ベッチャー先生)
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲
09.9.7 中村洋子
★ヴォルフガング・ベッチャー先生とのCD録音が、
やっと終わり、ほっとしております。
本日は「白露」。
一昨日は、美しい「満月」でした。
涼風が、部屋を吹き抜け、
次第に、秋らしくなってきました。
月の光を背に、夜の散歩も楽しいものです。
★ヨーロッパのクラシック音楽でも、「歩行」を模した音型が、
しばしば、出てきます。
以前、お能の月刊誌「観世」の、巻頭随筆に、
バッハの平均律クラヴィーア曲集1巻、24番(前奏曲&フーガ)と、
お能の「歩み」との相関について、書いたことがあります。
(「観世」平成16年7月号【シテとワキとの照応は、フーガにも似る】)
★W.ベッチャー先生に、シューベルトのテンポについて、お尋ねしました。
「私の経験では、シューベルトのアンダンテは、
普通のアンダンテより、やや早いようだ」と、テーブルの上で、
右手の人差し指と中指を、人の足のように、器用に動かし、
実際にアンダンテで、歩く速度を、教えてくださいました。
★ここからは、私の考えですが、
シューベルト「冬の旅」の、第1曲目「お休み」の冒頭、
「左手8分音符の刻み」は、明らかに、
主人公の青年が、歩いているリズムを、模しています。
シューベルトの自筆譜には「Maessig,in gehender Bewegung」
= 中庸の速さ、歩くような動きで」、と、書いてあります。
アンダンテを、「歩く速さ」と、とるのであれば、
ベッチャー先生の考えのように、シューベルトのアンダンテは、
私たちがもつイメージより、やや速いのかもしれません。
★シューベルト、「即興曲Op 90 の1番」2小節目、
「レ」音が、連続して3回奏される部分も、
「お休み」1小節目の、4回連続奏される「レ」の音と、
同じ歩行のテンポであると、私は思います。
作曲年も「1827年」で、同じです。
この即興曲は、アレグロ・モルト・モデラートと、
速度が、表示されています。
★シューベルトの「歩く速さ」と、アンダンテの関係を、
考えるうえで、重要なポイントでしょう。
★また、先生は、「ディミヌエンド」と「デクレッシェンド」との違い、
「フォルテピアノ」と、「スフォルツァンド」との違いについても、
ご自身の体験に基づき、詳しく、説明してくださいました。
9月13日のカワイ・アナリーゼ講座では、
「シューベルト、即興曲Op 90」2番と4番を、
取り上げますが、そこで、お伝えしたいと思います。
★シューベルトの、後期の「弦楽四重奏曲」には、
ベートーヴェンの影響を、色濃く受けているものと、
逆に、ブルックナーなど、その後の作曲家へと、
つながっていくものとが、あります。
シューベルトが、対位法を習った先生は、
ブルックナーの師でも、ありました。
先生は、両手を、大きく広げ、
「シューベルトの曲は、大きく未来に開かれていた。」
★冗談で、「先生、ピアノを弾いてください」と、
申しましたら、即座に「OK」。
そして、太い指で、力強く、弾き始めました。
シューベルト、弦楽四重奏「死と乙女」でした。
四重奏のすべてのパートを、ピアノの鍵盤上で、
二本の腕を使って、完全に弾かれました。
★それには、本当に驚きました。
4人の奏者の譜面が、完全に、頭に入っているからこそ、
それは、可能なことなのです。
こんなに、シューベルトらしいシューベルトは、
初めてでした。
★壮大な伽藍の骨組みを、見ているようでした。
鋼のような音、骨太で、逞しいリズム。
先生のチェロのピッチカートは、大ホール中に鳴り響きます。
その先生が、弾かれるのですから、
当然ですね。
★先生の師・クレム Klemm も、オーケストラで演奏されていた時、
総譜を、すべて暗譜されていたそうです。
木管楽器奏者の一人が、自分のパートを忘れたとき、
クレムは、チェロでそのパートを、即座に弾き、補ったそうです。
(ピアニスト・ベッチャー先生)
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲