音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■バルトーク校訂・平均律曲集は、なぜ Bachとは曲順が異なるのか■

2011-06-10 17:06:53 | ■私のアナリーゼ講座■

■バルトーク校訂・平均律曲集は、なぜ Bachとは曲順が異なるのか■
                     2011.6.10  中村洋子

 


★重く立ち込めた梅雨空、なかなか明るいニュースは見つかりません。

こういうときに、繰り返して聴く CD は、

George Enescu  ジョルジュ・エネスコ (1881~1955) と、

Yehudi  Menuhin  ユーディ・メニューイン (1916~1999) との、

師弟による、Bach バッハの

「 二つのためのヴァイオリン協奏曲 ニ短調  」 です。


★この CD は、1932年録音ですから、メニューインは、まだ16歳でした。

しかし、人間が歌うのと同じように、ヴァイオリンを演奏すべきである、

という、当たり前のことを、当たり前に演奏した、

「 最高の演奏 」 であると、私は、思います。

いま、盛んにもてはやされている、

合成甘味料のように、甘ったるいだけの演奏や、

最新の研究論文の成果を、盛り込んだとされる、

干物のような演奏とは、対極です。


★バッハの天才を、真に表現できるのは、

エネスコやメニューインなどの、天才にしかできず、

年齢も、時代も、関係ないでしょう。

このCDは、「 J.S.Bach Violin Concerto Nos.1 and Nos.2
                      Concerto for Two Violins 」

           「NAXOS Historical  8.110965」です。

 


★平均律クラヴィーア曲集の、校訂にも、同じことが言えるでしょう。

Bartók Béla ベラ・バルトーク (1881~1945) の、

Editio Musica Budapesto = EMB  の 「 平均律校訂版 」 を、

勉強するよう、お薦めいたします。


★平均律クラヴィーア曲集は、第 1巻が、24曲のプレリュード&フーガ、

第 2巻も、同様に、24曲のプレリュード&フーガで、できています。

1、2巻とも、1番は ハ長調、2番は ハ短調、3番は 嬰ハ長調、

4番は 嬰ハ短調、5番は ニ長調、6番は ニ短調、というように、

主音が、ハ音から半音ずつ上がり、長調と短調が、交互に配置されています。


★バルトークは、平均律クラヴィーア曲集 1巻、2巻の全 48曲を、

≪ 大きな 1曲 ≫ と捉え、曲の配列も、彼の発想で組み換え、

1巻 24曲、2巻 24曲として、編んでいます


★これを、勉強しますと、バッハをより深く理解できると同時に、

バルトークを理解する手掛かりと、なります。

6月21日に、表参道カワイで勉強いたします

「 平均律アナリーゼ講座 」の、≪1巻13番 嬰へ長調 ≫ は、

バルトーク版では、≪1巻 9番 ≫ と、なっています。


★バルトーク版の配列は、

1巻  7番  =   Bach original: 1巻 2番 ハ短調

1巻  8番  =   Bach original: 1巻 9番 ホ長調

1巻 9番  =  Bach original:  1巻 13番 嬰へ長調

と、なっています。

 


★バルトークは、Bach original 9番と13番の共通点として、

以下のような指示を、与えています。

≪ 9番ホ長調と13番嬰へ長調 のプレリュードは、P dolce  sempre legato

Piano で優しく、常にレガートで、演奏すべき ≫。

≪ 私が指示したところ以外は、フレーズを分断しないように ≫。


★例えば、13番 嬰へ長調プレリュードの上声、

2小節目から 4小節目の頭部にかけ、 2小節にわたる、

≪ 息の長いレガート ≫ を、バルトークは、独自に記入しています。

各拍に、掛留音 (  suspention  )  が使われているために、

この息の長さが、生まれてくるのです。


★さらに、バルトークは、

2番 ハ短調 のフーガと、13番 嬰へ長調 プレリュードの共通点として、

≪ Taktverschiebungen = 拍の移動 ≫  を、挙げています。

2番フーガは、4分の 4拍子で、本来は 1拍目から始めるべき主題が、

26小節目の 3拍目 ( 後半 ) から、演奏されます。


★13番 プレリュードの 6小節目から 7小節目にかけても、

2番 フーガと同様に、 小節の後半から、主題が演奏されます。

小節の後半から開始しますと、強拍も移動することになり、

テーマの表情が、ガラリと変化します


★さらに、拍子も変わってきます

2番フーガ 4分の 4拍子のなかに、2分の 3拍子が出現したり、

13番プレリュードの 16分の 12拍子のなかに、16分の 18拍子が、

出現する、という効果が、生まれてきます。

≪ 一曲の中で、単調に同じ拍子が続くわけではない ≫

ということを、バルトークは、言いたいのです。


★バルトークは、この効果を、

 ≪ Taktverschiebungen = 拍の移動 ≫ と、表現し、

曲の配列を Bach original とは、違ったものにした理由の一つ、

としているのです。


★以上のことを、講座で、詳しくご説明いたします。

 


▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

 

 

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