■シューマンの“ インヴェンション ”が、「 子供のためのアルバム 」■
2011.3.3 中村洋子
★ 前回のブログで、触れましたように、Schumann シューマンの、
「 Album fur die Jugent 子供のためのアルバム 」 Op.68 は、
バッハの 「 Inventionen インヴェンション 」 に、
匹敵するような、素晴らしい 「 形式と内容 」 をもっています。
★ 第 1番の 「 Melodie = メロディー 」 をもとに、
次々と、曲が紡ぎだされていくのです。
「 インヴェンション 」 と、同じ構造です。
1小節目の曲頭「 E 」から始まる、上声のフレーズは、
一般に使われている 「 実用譜 」 では、
2小節目の最後の音 「 G 」 で、閉じています。
★ しかし、自筆譜を見ますと、 「 G 」 を、
軽やかに飛び越え、 2小節目と 3小節目との間の、
小節線に向かって、たなびくように、伸びています。
★ その後、3小節目の 第 1音は、この曲の前半の頂点である、
1オクターブ高い 「 G 」 から、また新しくフレーズを、
始めています。
★ これは、なにを意味しているのでしょうか?
この上声を、実際に歌ってみますと、
答えは、簡単に得られます。
★ 最初のフレーズが終わった 2小節目と、次のフレーズが始まる
3小節目の間で、 ≪ ブレスをしてはいけない ≫ 、
ということ、なのです。
2小節目 最後の「 G 」では、フレーズを閉じずに、
その後、 ほんの一瞬、 声をひそめ、
1オクターブ高い、 3小節目 1拍目の 「 G 」 へ、
≪ 跳躍しなさい ≫ 、 ということになります。
★ 私は、この曲をピアノの弾いていますと、
あの大歌手 Lotte Lehmann ロッテ・レーマンの声が、
本当に、聴こえてくるような気がします。
なぜ、この曲の題が 「 Melodie = メロディー 」 なのか、
実に、よく、分かるのです。
★ ≪ 歌うように弾きなさい ≫ というのは、
言うは易し、実際は難しいのです。
シューマンの歌曲を、深く勉強しますと、
この 4小節の弾き方が、ようやく、分かってくるのです。
シューマンという天才の曲は、小さく単純そうに見えても、
決して、侮ることのできない、一筋縄ではいかないのです。
それが、天才の曲という、ことでもあるのです。
★このフレーズでの、記譜の仕方について、
「 単なる偶然で、筆が滑っただけではないか 」 と、
思われる方も、いらっしゃるかもしれません。
★しかし、似たような例として、シューマンの
歌曲集 「 Dichterliebe 詩人の恋 」 Op.48 ,
第 1番 「 美しき五月に 」 が、あります。
★ 曲頭、ピアノの開始音 「 Cis 」 から、
当然、フレーズが始まるはずなのですが、
フレーズの線は、その前、つまり、曲の始まる前から、
たなびくように、描かれており、
「 Cis 」 の上空を、あたかも浮遊するように、流れていきます。
これは、ピアニストにこの曲は 「 Cis 」 から始まるのではなく、
ピアノで、音を出す前から、
「 美しい五月 」 の音楽が始まっている、
その音楽を、心で奏でてから、弾き始めなさい、
という指示です。
★ そうしますと、この 「 Cis 」 を、
どのような音色、タッチで弾くべきか、
自ずと、分かってきます。
★ 「 子供のためのアルバム 」 の、
第 1番 「 Melodie = メロディー 」 の自筆譜からは、
このほかにも、たくさんの発見があります。
それが、第 10番「 楽しき農夫 」 に、
どのように、つながっていくのか、
「 楽しき農夫 」 下声のフレーズを、
シューマンが、どのようにとらえて、作曲したか・・・、
それについては、3月7日 「 横浜みなとみらい・カワイ 」 での
「 第 4回 インヴェンション・アナリーゼ講座 」 で、
詳しく、お話いたします。
(名古屋・ 亀末広:お干菓子「ひな祭り」、万作、土佐ミズキ花芽、紅梅 )
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