音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■Bachの magic 「Ⅲの和音」の凄さ、分析なくして名演はありえない■

2015-06-14 18:57:50 | ■私のアナリーゼ講座■

■Bachの magic 「Ⅲの和音」の凄さ、分析なくして名演はありえない■
      ~平均律第2巻アナリーゼ講座・5番 D-Dur~

                  2015.6.14 中村洋子

 

 


★当ブログでたびたびお話していますように、

Bach は counterpoint 対位法のみならず、harmony 和声も

極め尽した作曲家です。


★その和声の影響は、フランスの Claude  Debussy  クロード・ドビュッシー

(1862-1918)、 Maurice Ravel モーリス・ラヴェル(1875-1937) にも、

深く深く浸透しています。

クラシック音楽が、ヨーロッパの地域音楽ではなく、普遍性をもって

世界中の人々をこれまで魅了し続けてきたのも、 counterpoint 対位法、

harmony 和声の理論に立脚しているからです。


16日の KAWAI 表参道「Bach 平均律第2巻アナリーゼ講座」で、

勉強します「第5番 D-Dur」 の Fuga は、全50小節ですが、

「8分音符」の絶えることない動きで、作曲されています。


★countepoint 対位法 の秘術を尽くしているとも言えますが、

それだけでは、これだけ心をとらえて離さない傑作となるのは、

難しいでしょう。

 

 


★前回のブログで、「Mozart magic」という言葉を使いましたが、

逆にいいますと、

Mozart が学んだ大元である Bach の「Bach magic」 について、

触れざるを得ません。


★その一例を挙げますと・・・

Bach 以降の200年以上、大作曲家をとらえて離さなかった、

「Ⅲの和音」の凄さ、です。


第2巻5番の Fuga では、9か所以上で、Bach の典型的な

「Ⅲの和音」が、存在します。


★7小節目から8小節目に移る和声進行を詳しく見てみますと、

7小節目4拍目は、属和音から属七の和音に進行しており、

8小節目1拍目は、理論上「和音Ⅰ」となるべきです


★ところがBach は、7小節目4拍目のアルト声部導音「cis¹」を、

8小節目1拍目で、主音「d¹」に進行させず、そのまま、

「cis¹」をタイで延ばしています。

そうしますと、8小節目1拍目は、主和音「Ⅰ」にならず、

「Ⅲ」の和音になってしまいます。

 

 

D-Dur の主和音「Ⅰ」は、長三和音です。

しかし、D-Dur の主和音「Ⅲ」の和音は、短三和音ですので、

それまで、長調の明るい陽光に照らされていた世界に、

一瞬、「Ⅲ」の和音が憂鬱な翳を落とすのです。


この7小節目4拍目の「cis¹」は、

主音「d¹」に、解決しなければならないのですが、

 

 

「掛留音」によって、解決が遅らされます。


★この「Ⅲ」の和音は、一時的にできた「偶成和音」といいます。

またこの場合、主和音の代わりを偶然に果たすことになったため、

「代用トニック」とも、いいます。

 
★いずれにせよ、主和音が短三和音になったかのような印象を

与えますので、長調の明るい雰囲気が一転し、

その瞬間「はて、ここは長調なのか、あるいは短調?」と、

奏者や聴く人の心と耳に、疑問を生じさせるのです。

 

 


この「Ⅲ」の和音を多用しますと、

≪調性の根幹が揺らいでしまう≫とも、言えます。

これこそが、その後の19世紀、20世紀音楽に、

深く、影響を及ぼしたのです。

新しい世界への扉も、Bach が用意していたのです。

 

 


感覚だけで Bach を弾く勉強法や、

ムード音楽のように Bach を聴くだけでは、

Bach 音楽、クラシック音楽の本質には到達しないでしょう。


★日本は、ピアノ教育が盛んで、ピアノ人口も多いのですが、

残念ながら、歴史に残る大ピアニストはまだ出現していません。

音楽を、理論的に考えようとする生徒さんに対し、

「頭で考えすぎると、頭でっかちになってしまう、

なにも考えないで、とにかく弾きなさい、弾き込みなさい」と、

逆に、反発する先生方も、まだまだ多いようです。


奏者の研ぎ澄まされた感覚が、完全に発揮されるのは、

曲を理論的に分析し、理解した後です。

分析なくして感覚だけに頼る演奏では、

どんな優れた感性、感覚、知性の持ち主でも、

それを、完全に発揮できないでしょう。

いくら弾き込んでも、徒労に終わるでしょう。


★人類最高の芸術を前にして、

その果実を享受できるのは、単純で簡単なお話ですが、

上記のような勉強を、実践するだけのことです。

 

 

--------------------------------------------------------------------

● 中村洋子・平均律第2巻・アナリーゼ講座、第5番 D-Dur 


■日  時 :  2015年 6月16日(火) 午前 10時 ~ 12時 30分
■会  場 :  カワイ表参道  2F コンサートサロン・パウゼ
■予  約  :    Tel.03-3409-1958

● 今後のスケジュール :第24回  7/14(火) 第12番 ヘ短調

-------------------------------------------------------------------------------

■講師 :   作曲家  中村 洋子  Yoko Nakamura

     東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
     日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

         2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。

         07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
         無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
         Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
    CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
                         ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。

         08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
        CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。

         08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
                  Analysis  インヴェンション・アナリーゼ講座 」
                    全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。

         09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」の楽譜を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」  から出版。
 
         10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
                  Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
                    全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。

         10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
       「 Regenbogen-Cellotrios  虹のチェロ三重奏曲集 」の楽譜を、
             ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
       Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。

         11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
                         チェロ二重奏のための 10の曲集 」の楽譜を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

         12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
      チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」の楽譜を、
      Musikverlag Hauke Hack  Dortmund 社から出版。

         13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
         「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」の楽譜を、
      ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

         14年:「 Suite Nr.2、4、5、6 für Violoncello
        無伴奏チェロ組曲 第 2、4、5、6番 」 の楽譜を、
       ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

          SACD 『 Suite Nr.1、2、3、4、5、6 für Violoncello
                            無伴奏チェロ組曲 第 1, 2, 3, 4, 5, 6番 』 を、
     「disk UNION 」社から、≪GOLDEN RULE≫ レーベルで発表。

           スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
      自作品が演奏される。

        ★上記の 楽譜 & CDは、
「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/ 
「アカデミア・ミュージック 」         https://www.academia-music.com/academia/s.php?mode=list&author=Nakamura,Y.&gname=%A5%C1%A5%A7%A5%ED
 https://www.academia-music.com/                           で販売中。

       ★私の作品の  SACD 「 無伴奏チェロ組曲 第 1 ~ 6番 」
   Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
  disk Union や全国のCDショップ、ネットショップで、購入できます。
http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/2208/

 

 

 

 

※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする