■22番 b-Moll Prelude、「短2度」不協和音が発する重みと凄み■
~平均律第2巻・アナリーゼ講座 第22番 b-Moll のお知らせ~
2015.1.18 中村洋子
★平均律第2巻22番 b-Moll Prelude は、
頬を涙が伝ってくるような、悲しみに満ちた曲です。
曲頭は、soprano ソプラノ が旋律を奏で、
bass バス が和声を決定し、内声の alto アルト や
tenor テノール が、和声を豊かに充填していくのが、
通常です。
★しかし、22番 b-Moll Prelude冒頭は、そうではありません。
聴き始めますと、 soprano ソプラノで始まるように聴こえますが、
冒頭2小節の上声は、 soprano ソプラノ ではなく、実は、
alto アルトなのです。
★3小節目後半になって、1小節目の motif モティーフを、
6度高い音で“模倣”して出てくるのが、
soprano ソプラノです。
そこで初めて、出だしが alto アルトであったと、
気付くのです。
★ alto アルトの“女声”が、くぐもった深い音色で歌い出し、
その後を、 soprano ソプラノ の澄んだ“女声”が追うという、
“女声”による二声 のAriaなのです。
★冒頭1、2小節から3小節の前半までは、
soprano ソプラノ が不在。
その後の alto アルト声部は、冒頭1小節目の主題が延長され、
その後半とみなすか、あるいは、「対主題」として、
別の主題と捉えるか、
その両方の考え方が、可能です。
★ここで重要なのは、5小節目第1拍の「c2 2点ハ音」です。
この「c2」は、 soprano ソプラノの「des2」と、
同時に奏されるため、
その二つの音が出す響きは、驚くほど著しい不協和音となります。
それは、「短2度」という音程のもつ性格から来ています。
★なぜ、Bach はこのような“耳障り”な音程を、あえて、
ここで、出してきたのでしょうか。
4小節4拍目の「c2」と、この5小節目第1拍の「c2」を、
タイで結びますと、この厳しすぎる音が和らぎ、
とても美しく響きます。
★この場合、5小節目1拍目の「c2」は、suspension 掛留音
となり、Bach がよく使う手法です。
しかし、ここでは、Bachは suspension 掛留音を、
あえて、使っていません。
★それは、次のような理由からでしょう。
ぶつかり合うような不協和の「短2度」を出すことにより、
演奏者、そして、聴く人に、
鋭く、注意を促したいからでしょう。
★では、Bach は何に注目して欲しかったのでしょうか?
この5小節目を、もう一度よく見てください。
1拍目で、「des2」と「c2」を同時に弾きますと、
耳と心に、鋭い痕跡が刻み込まれます。
そして、その後に出てくる2拍目の「b1」と「a1」とを、
合わせますと、
なんと、1小節目1拍目の主題の冒頭になるのです。
★つまり、不協和な「短2度」音程が鳴り響き、
次の音が出た瞬間、1小節目の主題が、
あの辛く悲しい主題が、顔を覗かせるのです。
悲しみが、更に深まります。
★Bach の構成力、創造力の深さ、凄味に圧倒されます。
平均律第2巻22番 b-Moll は、平均律のなかでも、
特に長大、広大な曲です。
★講座では、Bach の構想の深さ、深慮遠謀の一端を
分かりやすく、お話いたします。
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第 19 回 第 22 番 b-Moll BWV891 Prelude & Fuga
~ 悲しみの下行音階 Prelude 、101小節にも上る大伽藍八声 Fuga ~
日 時 : 2015年 1月22日(木) 午前 10時 ~ 12時 30分
会 場 : カワイ表参道 2F コンサートサロン・パウゼ
予 約 : Tel.03-3409-1958
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■ 講師 : 作曲家 中村 洋子 Yoko Nakamura
東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。
2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。
07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。
08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。
08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
Analysis インヴェンション・アナリーゼ講座 」
全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。
09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。
10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
「 Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集 」の楽譜を、
ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。
11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
チェロ二重奏のための 10の曲集 」の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」の楽譜を、
Musikverlag Hauke Hack Dortmund 社から出版。
13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
14年:「 Suite Nr.2、4、5、6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 2、4、5、6番 」 の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
SACD 『 Suite Nr.1、2、3、4、5、6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 1, 2, 3, 4, 5, 6番 』 を、
「disk UNION 」社から、≪GOLDEN RULE≫ レーベルで発表。
スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
自作品が演奏される。
★上記の 楽譜 & CDは、
「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/
「アカデミア・ミュージック 」 https://www.academia-music.com/ で
販売中
★私の作品の SACD 「 無伴奏チェロ組曲 第 1 ~ 6番 」
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
disk Union や全国のCDショップ、ネットショップで、購入できます。
※copyright © Yoko Nakamura
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