音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ Invention最後の15番を、Bachが描いたであろう「四声体」で分析する■

2014-10-26 01:21:43 | ■私のアナリーゼ講座■

■ Invention最後の15番を、Bachが描いたであろう「四声体」で分析する■

                2014.10.26 中村洋子

 

 

11月25日に、 KAWAI 表参道で開催します

「平均律アナリーゼ講座第2巻20番」のため、

Bach Clavier Übung クラヴィーアユーブンク第3巻のDuettoを、

勉強中です。

この4曲のDuettoの第1曲目と、平均律2巻20番 Prélude のどちらにも、

全音階と半音階が、組合わせられて出現するところがあります。


Sviatoslav  Richterスヴャトスラフ・リヒテル(1915-1997)の、

素晴らしいDuettoを、CDで聴いていますが、

このCD(PHCPー10571)は、

1991年、ドイツでの演奏会ライブレコーディングです。


★このような曲が、リサイタルプログラムに載ることは、

幸せな時代であったと、いえるかもしれません。

現在では、ほとんど演奏されないでしょう。


★それを弾けないピアニストが悪いのか、

それを求めない聴衆が悪いのか・・・。

 

 


★ Richter リヒテルの立派な演奏とは裏腹に、

毎度のことですが、CD添付の日本語解説の素人ぶりには、

悲しい思いで一杯です。

それを読まれた方が、誤った認識を持たれるからです。

Duettoについて、『この4曲は、その「デュエット」という名称からも

理解されるように、2声部で書かれており、その内容は、

有名な《2声 インヴェンション》を思わせるが、ここでは、

さらにそれを上回る円熟したポリフォニックな技巧が

駆使されている』と、書かれています。


この解説には、二重の意味で誤りがあります。

一つは、“作曲家は年齢とともに技法が進化し、

より価値の高い作曲になる”という思い込みです。

もう一つは、“ Inventionは教育用の作品”という認識です。


★Bach、 Mozart、 Beethovenなど、どんな大作曲家でも、

その年代ごとに、特有の様式があるものですが、

どの時代の作品が優れているとか、若いから未熟である、

ということは、ほぼないのです。


★特に、Bach については、ごく若い頃から晩年に至るまで、

その質の高さは、ほぼ完全に一貫して同じ水準を保っています。

様式の差が見られるだけです。

 

 


Inventionにつきましては、当ブログで何度も何度も、

言及しています。

平均律クラヴィーア曲集第1巻の、エッセンスを抽出した、

恐ろしいまでの凝縮度と、簡潔さ。

その中にBach のすべてが含まれているともいえるほどの、

集中度です。

さらに、平均律第1巻から第2巻へと、橋渡しをする

扇の要の役割を果たしている曲集です。


★日本の音楽文筆業の浅薄な解説は、日本語という

離れ小島のような、隔離された言語で書かれているため、

批判されることがないだけなのです。


10月29日の KAWAI名古屋「Inventionアナリーゼ講座」は、

いよいよ、最終の15番です。

9月から、 KAWAI 金沢で新たに Inventionアナリーゼ講座を、

始め、私は再び Inventionを1番から勉強しております。


★その結果、私はいま、 Invention1番と15番、そして、

平均律第2巻20番の神々しくも、恐ろしいまでに凝縮された

二声のPrelude、の計3曲を、同時に勉強する機会を、

与えられました。


★これは、Bach 先生の深い深い配慮である、

とまで思いたくなるほど、

嬉しさを感じています。

 

 


この三曲を、同時に学ぶことにより、

今回の Invention15番から、いままで見えなかった相貌が、

見えてきたのです。

「Inventionen und Sinfonien 」全30曲の、

全体像が点描ながらも、見えてきた、

ともいえるかもしれません。


KAWAI 名古屋での Invention15番講座では、

今回は特に、金沢で始めた試みを披露いたします。

つまり、Bach が二声 の Inventionを作曲した際、

頭の中では、どのような四声体を描いていたか、

そして、最終的に、最も重要な骨格であるところの

「二声」をそこから抽出し、現在の曲として完成させたかを、

辿る試みです。


★「二声 」を「四声」に“戻し”、それをピアノで音に出し、

皆さまに体験していただきます。

それにより、二声 の Inventionが、

その背後に、豊かな四声体の音楽を背負っていること、

どう演奏したらよいのかが、

明確に、認識できると思います。

 

★同様に、「三声」の Sinfonia を 「四声体」から見る試み。

つまり、「三声」とみえても、必ず、

「soprano、 tenor 、 alto、 bass の四声」

のうちの、ある声部を、担っています。

それがどこに当たるかを、深く考え、

解明することにより、一見華やかで、

全30曲のカデンツァのようにみえるこの曲が、

底知れぬ深さと、豊饒さの世界を体現しているということが、

お分かりになると、思います。

 

 

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■中村洋子 バッハ インヴェンション・アナリーゼ講座■
第15回 インヴェンション&シンフォニア 第15番 h-Moll
~15番は、Inventionen & Sinfonien 全 30曲の Coda ~

■日時 : 2014年 10月 29 日(水) 10:00 ~ 12:30
■会場 : カワイ名古屋2F コンサートサロン「ブーレ」
■参加ご予約・お問い合わせは・・・  
 〒460-0003 名古屋市中区錦3-15-15 カワイ名古屋
      Tel 052-962-3939 Fax 052-972-642
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■今後のスケジュール  
・イタリア協奏曲 第1楽章
           2015年 2/25(水)10:00~12:30
・イタリア協奏曲 第2・3楽章
           2015年 3/25(水)10:00~12:30

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★ Inventio 15曲と、 Sinfonia 15曲の 計 30曲は、
Inventio Nr.1 を Thema 主題とする 29の変奏曲と、
考えられます。
この 30曲から成る 「 Inventionen & Sinfonien 」 は、1723年と、
序文に記されています。
「平均律クラヴィーア曲集 第 1巻」 は、1722年。
つまり、平均律第 1巻のほうが、一年前なのです。

★相次いで成立した 「 人類の宝 」 ともいうべき、
二つの曲集は、お互いが、深く、関連付けられています。

★Sinfonia 15番の Thema 主題は、
Inventio 15番を土台にして、生まれ、
両者は一心同体であり、
「 Inventionen & Sinfonien 」 全 30曲の、
Coda コーダ、あるいは Kadenz カデンツ と、
見ることができます。

★逆に、この15番の高みから、
1年前の平均律 第1巻全体を、眺めることもできるのです。
平均律 第1巻の最終曲24番が、
平均律 第2巻を 予兆しているのと、同じような関係です。
つまり、この三つの曲集が、縦横無尽に絡み合っているのです。
講座では、この大きな流れをお話するとともに、
15番の素晴らしい和声についても、
詳しく解説いたします。

 

★また、 Invention & Sinfonia15番の記譜について、
ヨーロッパの有名なUrtext 原典版が、
どうして各々異なっているか、それをどのように
取捨選択すべきか、具体的にお話いたします。

★さらに、15番の repeated notes 同音連奏と、
Bach と同時代のScarlatti スカルラッティ(1685-1757 ) の repeated notes がどう違うのかも、ご説明いたします。
これが、≪ Bach をどう弾くべきか ≫、
という問いへの、回答になります。

 

★汲めども尽きない 15番の二曲から、exercise を抽出し、etude とすることも出来ます。
Bach が、この作品により、息子やお弟子さんたちを、
いかに深く豊かな音楽世界へといざなったか、
目に浮かぶようです。
ご一緒に、探求いたしましょう。

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■ 講師 : 作曲家 中村 洋子 Yoko Nakamura

 

 東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

   2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。

   07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
         無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
         Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
    CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
                         ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。

   08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
       CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。

   08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
                  Analysis  インヴェンション・アナリーゼ講座 」
                    全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。

   09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
             10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
                  Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
                全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。

   10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
       「 Regenbogen-Cellotrios  虹のチェロ三重奏曲集 」 を、
             ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
      Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。

   11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
                         チェロ二重奏のための 10の曲集 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

   12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
    チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」を、
      Musikverlag Hauke Hack  Dortmund 社から出版。

   13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
           「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

         スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
    自作品が演奏される。

 

 ★上記の 楽譜 & CDは、
「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/ 
「アカデミア・ミュージック 」 https://www.academia-music.com/ で
販売中

 ★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 第 1 ~ 6番 」
   Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
  disk Union クラシック館で、購入できます。

 

 

 

 


※copyright © Yoko Nakamura  
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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