■深く失望した Afanassiev の Beethoven ピアノソナタ演奏■
2014.6.14 中村洋子
★16日 開催の、 KAWAI横浜 「 みなとみらい 」
≪ Chopin が見た平均律アナリーゼ講座≫ は、第 1巻 19番ですが、
19番 Fuga との関連で、Beethoven の Piano Sonata 31番
Op.110 As-Dur についても、お話しする予定です。
★この Sonata を勉強していましたところ、ちょうど、 来日中の、
Valery Afanassiev ヴァレリー・アファナシエフ ( 1947~ ) が、
30、31、32番の 三曲 を弾く演奏会を開くのを知り、
聴きに行ってまいりました。
★結論から申しますと、その演奏に、深く失望いたしました。
昨年 6月から 7月にかけ、当ブログで、 Afanassiev の
「 ピアニストのノート 」 という著書を、ご紹介いたしました。
その本の中で、 Afanassiev が鋭く批判していたピアニストと、
そっくりなピアニストに、 Afanassiev 自身がなってしまっていた、
のです。
★コンサートのパンフレットに書かれた、大げさな宣伝文句を、
見ました時、多分、彼が知らないところで書かれているのでしょう、
と思いながら、演奏会に出かけました。
★私は、 20年以上前から、彼の演奏会を、たびたび聴いて来ました。
特に、「 東京の夏音楽祭 」 での、 Beethoven のピアノ三重奏「大公」の
演奏は、いまでも思い出すほど、見事な演奏でした。
疾走したいチェロの Brunello ブルネロ、
一音ずつ、ゆっくりと味わいたい Afanassiev 、
その二人を、巧みに制御するヴァイオリンの Ehnesエーネス。
ピアノトリオの醍醐味が、味わえました。
★ずいぶん前のことですが、 Beethoven Piano Sonata
" Tempest " No.17 d-Moll Op.31- 2 の演奏も、
忘れられない名演でした。
冒頭部分での、精緻なペダルの技術を解明したいと思い、
最前列で見ていましたが、あまりよく分かりませんでした。
優れた、超一流のペダルでした。
えもいわれぬ神秘的な、詩的な、
まさに、 Beethoven の世界が繰り広げられました。
★という訳で、 Beethoven 最後の Piano Sonata 三曲に、
期待を込めて、演奏会に臨みました。
三つのソナタの調性、 E-Dur、 As-Dur、 c-Moll の関連性は、
Beethoven が意図して選択したものであることは、
言うまでもありません。
その三曲を、一晩で弾くことは、素晴らしいアイデアです。
★七、八年ぶりに見ました Afanassiev の容貌に、まず、驚きました。
顔はむくみ気味、体形も布袋様のようでした。
その様変わりに、動転しました。
舞台袖から、Pianoまで、つかつかと歩き、そのまま弾き始める
ピアニストは少なからずいますが、彼の場合は、心の準備をして、
Piano に歩み寄るのではなく、座ると同時に、
なげやり、とでも言いたくなるような弾き方で、
実にぞんざいに、演奏を始めました。
★30番 の冒頭は、 Pachelbel パッヘルベルや、
Bach に源流をもち、Verdi ヴェルディ (1813-1901) の
「 La traviata 椿姫 」 にもつながるような、
≪ 和声の美の極致 ≫ とも言うべき、進行なのです。
かつて、あの 「 Tempest 」 を弾いた Afanassiev でしたら、
どれだけ、秘術を尽くして、この冒頭を弾くであろうか、
と期待していました。
★しかし、そうした期待は、無残に打ち砕かれました。
荒れ狂ったような、乱雑な、乱暴な演奏でした。
彼の、叩きつけるだけの forte に、音楽的意味は、
見出せませんでした。
★Beethoven の煉瓦を積み重ねていくような、構築性も、
悲しいことに、全く、見えませんでした。
★暗譜も、不正確でした。
★ペダルも大変に雑で、ペダルを離す際、「 ギー 」 という音すら、
何度も聞こえました。
それは、楽器のせいか、調律のせいか、ピアニストのせいか、
分かりませんが、名演奏家と言われる人は、たとえ、どんなに
悪い状態の楽器でも、それをコントロールし、
最善を尽くすことが、できる人なのです。
自分の著書で批判していたピアニストと、同じようなピアニストに、
自分がなっていた、と言わざるをえません。
★日本全国、どのホールでもいえることですが、
日本にある Steinway スタインウェイピアノは、
かつての人類の至宝のような、マエストロたちが弾いていた、
あの Steinway スタインウェイとは別物でしょう。
★これは、Arthur Rubinstein ルービンシュタイン(1887~1982)や、
Horowitz ホロヴィッツの調律をした調律師が、指摘しているように、
時として、“ ガラスの割れる ” ような、
堪えがたい音すら出すピアノでも、あるようです。
★そのような理由から、私は最近、 Piano recital には、
あまり、近づきません。
その代わり、往年のマエストロの CDを、家で聴いています。
★ Afanassiev の演奏会では、偶然に知人のピアニストが隣席でした。
私は、彼女に
「 あなたの若い生徒さんが、この演奏を聴いていたとしたら、
ピアノはいいな!!、音楽はなんと素晴らしいだろう!!
と、果たして感じたでしょうか? 」 と、尋ねました。
★前回のブログで、ご紹介しましたように、
Wilhelm Furtwängler ヴィルヘルム・フルトヴェングラー
(1886 - 1954)は、亡くなった1954年に、
≪ Matthäus-Passionマタイ受難曲 ≫ を、録音しています。
この録音は、彼の集大成であると同時に、
西洋音楽史が凝縮されている、と言えるほどの、
珠玉の演奏です。
★ Furtwängler は、死の数年前から、
耳の病や、体の不調が続いていました。
しかし、この ≪ Matthäus-Passionマタイ受難曲 ≫ の演奏で、
一切の妥協がない、至高の世界を創造しました。
★そして、68歳で亡くなりました。
Afanassiev はいま 66歳、たとえ体調不良だったとしても、
この二人の落差の大きさには、嘆息せざるをえません。
■第19回 Chopin が見た「平均律アナリーゼ講座」第1巻「 第 19番イ長調」
日 時 : 2014年 6月 16日 (月) 午前 10 時00分 ~ 12 時 30分
会 場 : カワイミュージックスクールみなとみらい
横浜市西区みなとみらい4-7-1 M.M.MID.SQUARE 3F
( みなとみらい駅『出口 1番』出て目の前の高層ビル3F )
予 約 : Tel.045-261-7323 横浜事務所
Tel.045-227-1051 みなとみらい直通
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