■Brahmsの弘法の一筆のような推敲で、Händelヴァリエーションが劇的に変化■
2014.6.4 中村洋子
★ドイツの 「 Jugend Musiziert 」 www.jugend-musiziert.org
「 青少年音楽コンクール 」 で、私の ≪ 10 Duette für 2 Violoncelli
2台チェロのための10のデュエット ≫ や、
≪ Zehn Phantasien für Celloquartett
チェロ四重奏のための10のファンタジー ≫ が、演奏されています。
このコンクールは、ドイツ国内のみならず、
国際的にも、高く評価されています。
★ことし 5月 5日、Boettcher先生から頂きましたお手紙には、
By chance I saw two young cellists going to
the competition:Jugend musiziert:
and asked them, what are you going to play?
Nakamura, they answered.
と、書かれていました。
★5月 13日の、Hauke Hack さんからのお手紙にも、
I also heard a young celloquartet in Jugend musiziert in Essen,
who played one of your Quartets; it was very nice.
という報告が、ありました。
★Hauke Hackさんは、この 「 Zehn Phantasien für Celloquartett 」 を、
出版された 「 Musikverlag Hauke Hack Dortmund 社 」 の、
オーナーで、ご自身も cellist チェリストです。
★ベルリンの リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から,
近く出版されます、私の ≪ 無伴奏チェロ組曲 2番と、4番 ≫ の、
校訂がほぼ終わり、 ≪ 5番 、 6番 ≫ の校訂へと移りました。
★今月は、16日 ( 月 ) が、 KAWAI 横浜・みなとみらいで、
「 Chopin が見た平均律 1巻・アナリーゼ講座 」 で、
19番 A-Dur イ長調 を、勉強いたします。
★6月 25日(水)は、 KAWAI 名古屋で、
第14回 「Bach Invention ・アナリーゼ講座」で、
第14番 B-Dur を、お話いたします。
★7月 3日 (木 ) は、 KAWAI 表参道で、
「 平均律 2巻・アナリーゼ講座 」第 16番 g-Moll Prelude & Fuga
を、ご一緒に勉強いたします。
★ Invention インヴェンションと、平均律 1巻、2巻を、
集中して勉強できることは、私にとりましても、
とてもよい機会です。
★そして、これら講座では、副題に掲げました、
Beethoven の 「 Klaviersonate Op. 101 A-Dur 」 と、
平均律 1巻・ 19番 A-Dur との関係。
Invention 第14番 B-Dur と、 「 Suite bergamasque
ベルガマスク組曲 」 との関係、そこから、
Debussy ドビュッシーの特徴的な和音が、実は、
Bach に多くを負っていることが、ここから、
よくお分かりになると思います。
★また、 Chopin の名作 「 Piano Concerto No.2 Op.21 」 が、
平均律 2巻 第 16番 g-Moll を学び尽した結果として、
生まれ出た、ということを考えることにより、
Bach、 Beethoven、 Chopin、 Debussy へと連なる天才の系譜から、
生きた音楽史を、辿ることができると思います。
★多忙な中で、Johannes Brahms ブラームス (1833~1897) の
≪ Variationen und Fuge über ein Thema von Händel op.24
ヘンデル・ヴァリエーション ≫ の自筆譜を読んで、楽しんでいます。
★Brahms が Clara Schumann クララ・シューマンに贈り、
現在は米国議会図書館に所蔵されている、
自筆譜のファクシミリ版です。
★贈り物にする楽譜ですから、丁寧に美しく書かれていますが、
それでも更に、鉛筆で書き込みや、推敲がなされていて、
なるほど! と、膝を打ちたくなるところもたくさんあります。
★例えば、4分の4拍子の Var.1、
第 1変奏の 13小節目 2拍目の左手部分は、
「 F - B 」 の 8分音符ですが、
これは鉛筆で、推敲されたものだったことを、
自筆譜を見て、発見しました。
★そうなる前は、 「 B 」 の 8分音符の後は、
「 b - f 」 の 16分音符だったのです。
★この変更により、何が変わったのでしょうか?
初稿の 「 B - b - f 」 ですと、この 2拍目の和音は、
≪ tonic トニック ≫ になります。
1拍目は、≪ dominant ドミナント ≫ です。
そして、2拍目は ≪ tonic トニック ≫ 、
更に続く 3拍目は、また ≪ dominant ドミナント ≫ ですから、
「 dominant - tonic - dominant 」 の順番で、
規則的で、お行儀のよい音楽になります。
★ 推敲後の、 ≪ F - B の 8分音符 ≫ になりますと、
この 2拍目は、拍の前半が、 属七の和音 ( dominant )です。
拍の後半は、主和音( tonic ) となりますが、
耳で聴きました印象は、1、 2、 3拍そして 4拍目の頭部まで、
属和音 ( dominant ) が、ずっと続く様に聴こえます。
≪ dominant ドミナント ≫ が続く、ということは、
≪ tonic トニック ≫ に、解決したいという、
強い方向性が、形作られます。
そして、1、2、3、4拍 の拍頭の音がすべて 「 F 」 ですので、
「 F - F - F - F 」 の ≪ repeated notes ≫ が生まれます。
この ≪ repeated notes ≫ は、あたかも、
保続音を4つに分割して、4回 「 F 」 を奏したように聴こえます。
4回 「 F 」 がありますと、急き立てられたような効果が生まれます。
★この ≪ repeated notes ≫ は、
Bach 平均律 2巻 16番 g-Moll の Fuga の、
主題の ≪ repeated notes ≫ と、
同じ性格を、宿しているともいえるのです。
★そして、4番目の repeated notes 「 F 」 が終わったところから、
素晴らしい 「 三声 の counterpoint 対位法 」 が、
始まるのです。
★弘法の一筆のような、この推敲で、
場面が劇的に変化し、
傑作となったのです。
★また、皆さまがお持ちの実用譜で、私が書き写した図の
左手部分を、見てください。
Brahmsは、左手を 「 二声 」 に、キチンと書き分けていますが、
皆さまの楽譜は、そうなっていないのではないでしょうか。
「 自筆譜 」 を読むことは、
作曲家の肉声にも譬えられる「 作曲意図 」 を、
手に取るように、読み取ることができる、
という醍醐味が、得られることです。
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■ 講師 : 作曲家 中村 洋子 Yoko Nakamura
東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。
2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。
07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。
08年:CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。
08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
Analysis インヴェンション・アナリーゼ講座 」
全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。
09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲第 3番 」が、
W.Boettcher 氏により、Mannheim ドイツ・マンハイム で、
初演される。
10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。
10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
「 Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集 」 を、
ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。
11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
チェロ二重奏のための 10の曲集 」 を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」を、
Musikverlag Hauke Hack Dortmund 社から出版。
13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」 を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
自作品が演奏される。
★上記の 楽譜 & CDは「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/
「アカデミア・ミュージック 」 https://www.academia-music.com/ で販売中
★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 4、 5、 6番 」
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
全国の主要 CDショップや amazon でも、ご注文できます。
★ disk Union クラシック館で、第1 ~ 6番を購入できます。
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