音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■Bach の Fuga を弦四に編曲した Mozart、その相違点から滲み出る両天才の個性■

2013-11-09 21:59:06 | ■私のアナリーゼ講座■

■Bach の Fuga を弦四に編曲した Mozart、その相違点から滲み出る両天才の個性■
         ~ 平均律 第 2巻 9番・アナリーゼ講座 ~
                                    2013.11.9   中村洋子




       

11月12日 ( 火 )は、KAWAI 表参道で、

「 平均律 2巻 アナリーゼ講座 」を、開催いたします。

今回は、9番 E-Dur ホ長調 です。

9番の Fuga を、 Mozart が、弦楽四重奏に編曲しています。

KV 405 nach Johann Sebastian Bach, BWV 878 です。


★Bach の原曲と、 Mozart の編曲を比べますと、

たくさんの相違点が、見出されます。

これには、三つの理由が考えられます。

① Mozart の見た 平均律楽譜に、誤りがあった

② 弦楽四重奏の楽器の制約から、音を変更した

③ Mozart 自身の考えで変更した


★ ③ の場合は、 Mozart が Bach の校訂者となっており、

その良し悪しは別として、 Mozart の個性が色濃く現れています。


★これは、10日にKAWAI 「横浜みなとみらい」 で開催します

「 Chopin の見た平均律・アナリーゼ講座 」 で、毎回お話していることと、

よく似ています。


★ Chopin の場合、①と同様、

彼が持っていた平均律の楽譜は、
非常にミスが多かったため、

彼がそれを、丹念に訂正しております。


★問題は③なのですが、Chopin は Bach の自筆譜を見ていないと,

思われますので、フライング気味に訂正し過ぎていることは、

時々、あります。

しかし、現代の校訂者のように、

自筆譜を、いくらでも見る機会がありながら、

勝手に、改竄しているのとは、根本的に異なります。


★もう一つ、興味深いのは、

Bach の平均律にどっぷりと浸かった Chopin が、

自分の歌を歌い出し、音を替えているところです。

ここに、 Chopin の本当の個性を見ることができます。






★同様に、 Mozart も、いかにも Mozart という和音変更があり、

思わず、微笑んでしまうところがあります。


★例えば、34小節目 バスの 2拍目は、Bach は eis ( 嬰ホ音 ) と

していましたが、 Mozart モーツァルト はこれを、♯ の付かない

e ( ホ音 )に替えています。

Bach の場合、この eis は、 gis-Moll の ドッペルドミナント の

属七
ais - ciscis - eis - gis   の第 5音に相当します。


★これを、 Mozart のように、♯ が付かない  e( ホ音 )にしますと、

ais - ciscis - e - gis  となり、

この e ( ホ音 ) は、
ドッペルドミナント の 属七の

第 5音下行変質音となります。


★文字で説明しますと、イメージが湧きにくいと思いますが、

これを、是非、ピアノで音にして弾き比べてください。

まず、 ais - ciscis - eis - gis   を弾き、

次に、 ais - ciscis - e - gis  を弾きます。

そして、 平均律 9番 の Fuga の 34小節目 を、

原曲通りに、弾きます。

さらに、 Mozart モーツァルト が変更したように、

eis( 嬰ホ音 ) を、 e ( ホ音 ) に替えて弾いてください。


★まぎれもない、 Mozart が、そこに微笑んでいます。

Mozart の愛した 増 6度音程が、この  e - ciscis1  です。 

 





もう一つの例は、32小節目 バスの 1拍目は、

原曲では e( ホ音 )ですが、

Mozart は  cis  ( 嬰ハ音 ) に、替えています。

これは、4声体和声で見た場合、 e ( ホ音 )にしますと、

三和音 cis - e - gis  の  第 1転回形 となります。

しかし、アルトの部分に e1 が配置されていますので、

第 3音重複となり、

ややこの  e音 が、突出して聞こえます。


★和声の教科書では、このような配置を嫌う傾向があります。

Bach はこの曲で、何ヶ所か、意図的に、

この第 1転回形 の 第 3音重複 をしているのですが、

Mozart は、この 32小節目で、バスを根音の Cis と替えることにより、

穏やかな調和のとれた響きに、しています。


★ このように、 Mozart の編曲を見ることにより、

何気なく見落としてしまう Bach の個性が、

色濃く浮かび上がってくるのも、事実です。







★講座では、このほか、J.C.F.Fischer ヨハン・カスパル・フィッシャー

から、Bach への流れも、ご説明いたします。

この 9番 Fuga の主題と 第 1提示部は、

J.C.F.Fischer の Ariadne Musica E-Dur の Fuga と、

瓜二つです。


★しかし、テーマの 4番目( gis )と 5番目( fis ) の音を、

Fischerは全音符にしていますが、

Bach は、2分音符に変更しています。

Fischer の曲は、素朴で明るく、

のどかな合唱曲のような曲想ですが、

Bach のこの 「 一筆 」 により、

この Fugaが、一変し、

力漲る Countepoint 対位法の世界へと、変貌したのです。

新しい命が吹き込まれたのです。



 

★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 4、 5、 6番 」

Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、

 全国の主要CDショップや amazon でも、ご注文できます。



※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする