■Bach の Fuga を弦四に編曲した Mozart、その相違点から滲み出る両天才の個性■
~ 平均律 第 2巻 9番・アナリーゼ講座 ~
2013.11.9 中村洋子
★11月12日 ( 火 )は、KAWAI 表参道で、
「 平均律 2巻 アナリーゼ講座 」を、開催いたします。
今回は、9番 E-Dur ホ長調 です。
9番の Fuga を、 Mozart が、弦楽四重奏に編曲しています。
KV 405 nach Johann Sebastian Bach, BWV 878 です。
★Bach の原曲と、 Mozart の編曲を比べますと、
たくさんの相違点が、見出されます。
これには、三つの理由が考えられます。
① Mozart の見た 平均律楽譜に、誤りがあった
② 弦楽四重奏の楽器の制約から、音を変更した
③ Mozart 自身の考えで変更した
★ ③ の場合は、 Mozart が Bach の校訂者となっており、
その良し悪しは別として、 Mozart の個性が色濃く現れています。
★これは、10日にKAWAI 「横浜みなとみらい」 で開催します
「 Chopin の見た平均律・アナリーゼ講座 」 で、毎回お話していることと、
よく似ています。
★ Chopin の場合、①と同様、
彼が持っていた平均律の楽譜は、非常にミスが多かったため、
彼がそれを、丹念に訂正しております。
★問題は③なのですが、Chopin は Bach の自筆譜を見ていないと,
思われますので、フライング気味に訂正し過ぎていることは、
時々、あります。
しかし、現代の校訂者のように、
自筆譜を、いくらでも見る機会がありながら、
勝手に、改竄しているのとは、根本的に異なります。
★もう一つ、興味深いのは、
Bach の平均律にどっぷりと浸かった Chopin が、
自分の歌を歌い出し、音を替えているところです。
ここに、 Chopin の本当の個性を見ることができます。
★同様に、 Mozart も、いかにも Mozart という和音変更があり、
思わず、微笑んでしまうところがあります。
★例えば、34小節目 バスの 2拍目は、Bach は eis ( 嬰ホ音 ) と
していましたが、 Mozart モーツァルト はこれを、♯ の付かない
e ( ホ音 )に替えています。
Bach の場合、この eis は、 gis-Moll の ドッペルドミナント の
属七 ais - ciscis - eis - gis の第 5音に相当します。
★これを、 Mozart のように、♯ が付かない e( ホ音 )にしますと、
ais - ciscis - e - gis となり、
この e ( ホ音 ) は、ドッペルドミナント の 属七の
第 5音下行変質音となります。
★文字で説明しますと、イメージが湧きにくいと思いますが、
これを、是非、ピアノで音にして弾き比べてください。
まず、 ais - ciscis - eis - gis を弾き、
次に、 ais - ciscis - e - gis を弾きます。
そして、 平均律 9番 の Fuga の 34小節目 を、
原曲通りに、弾きます。
さらに、 Mozart モーツァルト が変更したように、
eis( 嬰ホ音 ) を、 e ( ホ音 ) に替えて弾いてください。
★まぎれもない、 Mozart が、そこに微笑んでいます。
Mozart の愛した 増 6度音程が、この e - ciscis1 です。
★もう一つの例は、32小節目 バスの 1拍目は、
原曲では e( ホ音 )ですが、
Mozart は cis ( 嬰ハ音 ) に、替えています。
これは、4声体和声で見た場合、 e ( ホ音 )にしますと、
三和音 cis - e - gis の 第 1転回形 となります。
しかし、アルトの部分に e1 が配置されていますので、
第 3音重複となり、
ややこの e音 が、突出して聞こえます。
★和声の教科書では、このような配置を嫌う傾向があります。
Bach はこの曲で、何ヶ所か、意図的に、
この第 1転回形 の 第 3音重複 をしているのですが、
Mozart は、この 32小節目で、バスを根音の Cis と替えることにより、
穏やかな調和のとれた響きに、しています。
★ このように、 Mozart の編曲を見ることにより、
何気なく見落としてしまう Bach の個性が、
色濃く浮かび上がってくるのも、事実です。
★講座では、このほか、J.C.F.Fischer ヨハン・カスパル・フィッシャー
から、Bach への流れも、ご説明いたします。
この 9番 Fuga の主題と 第 1提示部は、
J.C.F.Fischer の Ariadne Musica E-Dur の Fuga と、
瓜二つです。
★しかし、テーマの 4番目( gis )と 5番目( fis ) の音を、
Fischerは全音符にしていますが、
Bach は、2分音符に変更しています。
Fischer の曲は、素朴で明るく、
のどかな合唱曲のような曲想ですが、
Bach のこの 「 一筆 」 により、
この Fugaが、一変し、
力漲る Countepoint 対位法の世界へと、変貌したのです。
新しい命が吹き込まれたのです。
★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 4、 5、 6番 」
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
全国の主要CDショップや amazon でも、ご注文できます。
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