音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ Ravel の Sonatine は、一音一音すべてが Bach 由来 ■

2012-05-23 11:08:39 | ■私のアナリーゼ講座■

■ Ravel の Sonatine は、一音一音すべてが Bach 由来 ■
  ~平均律 23番には、溜息の出るような創意、仕掛けが・・・~
                      2012.5.23   中村洋子

 

 

 

Kawai表参道で24日、開催します 「 平均律クラヴィーア曲集 」

アナリーゼ講座は、 「 第 1巻 23番 」 です。

http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/e/0ec9737a09ff795c9b1cc1f1f2901926

汲めども尽きない Bach の自筆譜、さらに、

Maurice Ravel モーリス・ラヴェル(1875~1937)の 「 Sonatine 」 と、

Bartók Béla  バルトーク (1881~1945) 版 「 平均律 」 も、

併せて、勉強しています。


★Ravel の Sonatine は、Durand から、

1905年、30歳の時に出版されています。

ちょうど、 Claude  Debussy  クロード・ドビュッシー (1862~1918) が、

「 Children's Corner 子供の領分」 の作曲に、取りかかった頃です。

http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/d/20120518


Ravel の Sonatine 第 1楽章の冒頭 6小節だけをとってみましても、

その一音、一音すべてが、 Bach 由来であることに、驚愕します

講座では、 Sonatine を素材に、その源泉である 「 平均律 23番 」 へと、

辿っていきたいと思います。

 

 


★Johann Sebastian Bach  バッハ  ( 1685~1750 ) の平均律 23番は、

平均律全 24曲の 「 結論 」 ともいえる 「 24番 」 へと、昇り詰めていく

極めて、重要な曲です。

 「 結論 」 とは、どういう意味なのでしょうか?

それは、≪ 調性とは何か ≫ という問いに対する、

≪ 答え ≫ という、意味です。

 Bach は平均律で、 ≪ 調性の可能性を、極限まで追求した ≫ のです。 


★ドイツの哲学のように、≪ 答え ≫ に向かって、

第 1番から延々と、推敲に推敲を重ね、

組み立てていく、その 「 過程 」 から、導き出された答えが、

 ≪ 全音階 ≫ と、 ≪ 半音階 ≫ なのです


★講座では、この ≪ 半音階 ≫ が、いかに、

驚くべき 「 きっかけ 」 で、22番から導き出され、そして、

23番へとつながれ、最後の 24番に至るのかを、

ご説明いたします。


★≪ 全音階 ≫ につきましては、以下のような、

楽しい工夫も、凝らされています。

 
★Bach は、23番 前奏曲を、見開きの左側 1ページに、

きれいに全部を、収めています。

23番フーガは、見開きの右ページの最初から、書き始め、

そのページは、22小節目の前半までで終わり、

次のページは、22小節目後半から始まり、

4段目で、フーガは終わます。


Bach は、すぐその下の 5段目から、

 「 24番 前奏曲 」 を、書き始めています。

 ページを、改めてはいません。

平均律の掉尾を飾る、終曲ならば、

新しいページから始めたい ” と思うのが、

普通の心理でしょう。

やはり、そうしなかったことには、理由があるのです。
 

 

 「 24番 前奏曲 」 直前の、23番フーガには、

溜息が出るほどさまざまな、創意、仕掛けがあることが、

自筆譜から、読み取れます。

例えば、29小節目は、途中で切れています。

つまり、29小節目の前半は、2段目の最後に、

29小節目の後半は、3段目の最初に、記されています。


なぜ、1つの小節を、途中で切断したのでしょうか?

問題の 「 29小節目の前半 」 は、バス声部に、

≪ H から h までの、1オクターブの音階 ≫ が、記されています。


★一方、 「 23番フーガ 」 の直ぐ下段から始まる

 「 24番 前奏曲 」 の冒頭 1小節目バス声部にも、実は、

≪ H から h までの 1オクターブ音階 ≫ が、置かれています。


★これを、視覚的に分析しますと、

2段目の最後 ( 右端 ) に、「 29小節目の前半 」 を置き、そこには、

長音階の ≪ H から h までの、1オクターブ音階 ≫ が、

配置されている。

一方、5段目の最初 ( 左端 ) には、 「 24番 前奏曲 1小節目 」 の、

同じ開始音で始まる ≪ H から h までの 1オクターブ音階 ≫ が、

記されています。


これが、23番フーガ の 29小節目を、途中で切断した理由です。

23番フーガ のすぐ下に、 敢えて、24番前奏曲 を配置した理由です。

ページを開いた途端、否が応でも、

右上に、フーガの ≪ 長音階 ≫が、

斜め左下の端には、前奏曲の ≪ 短音階 ≫ が、

目に飛び込んでくるよう、仕掛けられているのです


 “  この両方を、対比しなさい ” と、親切な Bach 先生は、

分かりやすく、描いているのです。

平均律全 24曲は、いかに、各曲がお互い密接に結び付き、

切っても切れない関係にあるか・・・、ということが、

ここからも、如実に分かります。


★23番の Bach 自筆譜には、これ以外にも、さらに重要な、

驚くべき作曲技法の妙技が、散りばめられています。

講座で、詳しくお話いたします。

 

 


★「 Ravel の Sonatine が、 Bach 由来である 」 ことは、

 Ravel が、勉強し抜いて意図的に、

そのように作曲したのか、あるいは、

巧まずして無意識的に、出てきたのかは、

分かりません。

その両方が、微妙に交差しているのかもしれません。


ラヴェルは、この Bach の H-Dur  ( ♯ 5つの調号をもつ調 ) に、

極めて近い性質をもつ 「 fis を主音とするエオリア旋法 」 

( 調号としては ♯ 3つの fis-Moll  ) を、使用しています。

調号の性質が、極めて近い場合、名曲となる諸要素も、

ほとんど、一致してきます。

この 「 Bach 由来の諸要素 」 を、備えていることが、

傑作の条件である、といえるのは事実です。

 


                                  ※copyright © Yoko Nakamura
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

 

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