■ Chopin の改変で生まれた美しい和音、平均律 2番前奏曲 ■
~Chopin の見た 「平均律クラヴィーア曲集」 アナリーゼ講座~
2012.5.26 中村洋子
★明日は、Chopin の見た 「平均律クラヴィーア曲集」 1巻 2番の、
アナリーゼ講座を、「Kawai 横浜みなとみらい」 で、開催します。
Chopin の書き込みと、Bartók の平均律校訂版を、比較しますと、
表現は異なるものの、この二人の天才が、 Bach から学んだことは、
実に、共通点が多いことに、驚かされます。
★ Chopin は、Praeludium 2番では、たった一か所、
27小節にのみ、Fingering を、記しています。
しかし、ここだけで、十分に彼が何を考えていたか、
汲み取ることが、できます。
★この箇所は、Bartók も全く同じ Figering を、付けています。
Bartók には、28、29、30、31、32、33 と続く 6小節にも、
詳細に Fingering を記していますので、
より明確に、彼の意図が伝わります。
それにより、 Chopin の考え方も裏付けできるのです。
★Chopin は、Praeludium 2番の 34小節目 Adagio の音を、
一音変更しています。
彼の所有していた平均律の楽譜は、誤りが多く、
Chopin はその一つ一つを、丁寧に鉛筆で訂正していますが、
勢い余って、 Bach が書いた正しい音まで、
直してしまったのです。
★しかし、それによって出現する和音が、じつに美しく、
Chopin が Bach を基に、自分オリジナルの作品を、
創っていったのと、同じ過程を見るようです。
★もう一つ、重要なことがあります。
前奏曲 2番の Bach 直筆譜は、3ページにわたって記譜され、
1ページ目の上 3段は、1番のFuga。
4段目から 前奏曲 2番が、始まります。
★2ページ目は、11小節から始まり、 30小節の 1拍目まで。
3ページ目の 1段目は、30小節の 2拍目から、
33小節の 1拍目まで、記譜されています。
33小節の 1拍目は、16分音符の 「 es1 - c2 - b1 - c2 」 と、
4つの音から成ります。
★ところが、現行の実用譜 Bärenreiter 、 Henle 、
Winer Urtext Edition は、すべて、
その3番目の音を、 「 h1 」 ( 1点ロ音 ) にし、
「 ♮ 」 が、付されています。
これは、 「 b1 」 ( 1点変ロ音 ) 、
即ち 「 シ♭」 が、正しいのです。
★「 h1 」 ( 1点ロ音 ) にしますと、 「 c2 」 に対する、
刺繍音 (auxiliary note 、 broderie ) となり、
大変に、分かり易くはなります。
★28小節から 33小節までの、 6小節に出現する、
「 h1 」 も 「 h 」 も、 「 シ 」 にはすべて 「 ♮ 」 が付きますので、
“ 1ヶ所だけ 「 ♮ 」 が付かない 「 b1 」 ( 1点変ロ音 )は、
おかしい、 Bach が書き忘れたのではないか ” と、
校訂者が考えたのも、頷けなくもありません。
★しかし、 Bach 本人の自筆譜 (ca.1720~1739 ) に加え、
Bach 本人と 、Anna Magdalena Bach (1701~1760 )、
Wilhelm Friedeman Bach (1710~1784 ) 、
お弟子さんの Agricola (1720~1774) の合作による、
写譜 (ca. 1740~1759) の平均律クラヴィーア曲集第 1巻でも、
この音に、 「 ♮ 」 は付いていません。
本人も含む、複数の人の手が入った楽譜で、
二度まで、同じミスをするものでしょうか。
★これは、(先ほど、 Chopin の和声感についても書きましたが)
「 b1 」 ( 1点変ロ音 )にすることにより、実は、
Bach の類稀な美しい和声が、出現するのです。
決して、書き落としではないのです。
★ 講座では、Bach の、元々のオリジナルの和音と、
Chopinが、1音改変したことによって形成される和音とを、
実際に、ピアノで音に出し、二人の天才の和音を、
味わってみたいと思います。
※copyright © Yoko Nakamura
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲