音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■平均律の楽譜は、自筆譜と Chopin 、Bartok の校訂版でこと足りる■

2012-05-02 23:58:14 | ■私のアナリーゼ講座■

■平均律の楽譜は、自筆譜と Chopin 、Bartók の校訂版でこと足りる■
                    2012.5.2    中村洋子

 

 

★一昨日の 「 Kawai 横浜みなとみらい 」 講座では、

Chopin が、平均律クラヴィーア曲集の楽譜に、書き込んだ

テンポ、ディナミーク、expresion 通りに、メトロノームも使って、

実際に、平均律 1巻 1番を弾いてみました。

多分、狭量なピアノの先生が聴きますと、目を剥いて、

お怒りになるような演奏かも、しれません。

例えば、フーガ 6小節目の 4拍目を sforzando とし、

7小節目 1拍目を、急に Piano とするところなどです。


★弾き終わった後、参加された皆さまから「ホ-」という、

感嘆とも溜息ともつかない、声が聞かれました。

そこにあるのは、 Bach に音を借りた、

まぎれもない Chopin の作品だったのです。


★Chopin が書き込みました fingering やアクセントを,

手掛かりに、この平均律 1巻 1番が、どんなに豊かな

counterpoint によって作曲された曲であるか、

さらに、 Chopin  の作品も同じく、複雑に張り巡らされた、

counterpoint の宝庫であることが、

お分かり頂けたことと、思います。

 

 


★ Bach をこのようにアナリーゼし、演奏した音楽家

( 作曲家、ピアニストを含め ) は、 Chopin  唯一人でしょう。

 Bach という大海から、天才にしか見つけることができない宝物を、

抽出し、自分の音楽を創り上げたのが Chopin  でした。


★これを、私は 「 天才のリレー 」 と、名づけました。

 Chopin から “ バトン ” を、受け取ったのは、

 Claude  Debussy  クロード・ドビュッシー (1862~1918) です。

 Debussy が校訂した Chopin ピアノ作品全集を見れば、

それは、一目瞭然です。


★4月 27日の表参道での 「 平均律クラヴィーア曲集 」 講座の後、

参加者の方から、「 Alfred Cortotアルフレッド・コルトー

(1877~1962)の、校訂した Chopin 作品の fingering は、

 Debussy 校訂版と、そっくりですね 」、

「 こういうアナリーゼの授業を若いころ、音大で受けたかったです」

という、感想をいただきました。

 

 


★Johann Sebastian Bach  バッハ  ( 1685~1750 )の、

「 平均律クラヴィーア曲集 」 は、大作曲家の、

Bartók Béla  バルトーク (1881~1945) も、校訂版を出しています。

「 横浜みなとみらい 」 での講座では、 1巻 1番 前奏曲を、

バルトーク校訂版の指示どおりでも、弾きました。

Chopin版とは、大きく異なっています。

にもかかわらず、その両者は、 Bach そのものであり、

その違いは個性の違いである、という、

不思議な体験を、されたことと思います。


★ Bach の平均律クラヴィーア曲集を、弾くには、

自筆譜ファクシミリと、上記 2種類の校訂版があれば、

その他の楽譜は、必要ないかもしれません。


Wolfgang Amadeus Mozart

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756~1791) の、

pianosonata ピアノソナタ全集でしたら、

Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー (1886 ~ 1960) 版と、

バルトーク校訂版で、十分かもしれません。

ただ、これらの版は、大変に古いもので、

明らかな間違いは、散見されます。

それをもって、楽譜の価値を否定される方も、

いらっしゃるようですが、枝葉末節にこだわり、

本当の宝物の価値が、分からないのでしょう。

 


              ※copyright © Yoko Nakamura
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