■平均律の楽譜は、自筆譜と Chopin 、Bartók の校訂版でこと足りる■
2012.5.2 中村洋子
★一昨日の 「 Kawai 横浜みなとみらい 」 講座では、
Chopin が、平均律クラヴィーア曲集の楽譜に、書き込んだ
テンポ、ディナミーク、expresion 通りに、メトロノームも使って、
実際に、平均律 1巻 1番を弾いてみました。
多分、狭量なピアノの先生が聴きますと、目を剥いて、
お怒りになるような演奏かも、しれません。
例えば、フーガ 6小節目の 4拍目を sforzando とし、
7小節目 1拍目を、急に Piano とするところなどです。
★弾き終わった後、参加された皆さまから「ホ-」という、
感嘆とも溜息ともつかない、声が聞かれました。
そこにあるのは、 Bach に音を借りた、
まぎれもない Chopin の作品だったのです。
★Chopin が書き込みました fingering やアクセントを,
手掛かりに、この平均律 1巻 1番が、どんなに豊かな
counterpoint によって作曲された曲であるか、
さらに、 Chopin の作品も同じく、複雑に張り巡らされた、
counterpoint の宝庫であることが、
お分かり頂けたことと、思います。
★ Bach をこのようにアナリーゼし、演奏した音楽家
( 作曲家、ピアニストを含め ) は、 Chopin 唯一人でしょう。
Bach という大海から、天才にしか見つけることができない宝物を、
抽出し、自分の音楽を創り上げたのが Chopin でした。
★これを、私は 「 天才のリレー 」 と、名づけました。
Chopin から “ バトン ” を、受け取ったのは、
Claude Debussy クロード・ドビュッシー (1862~1918) です。
Debussy が校訂した Chopin ピアノ作品全集を見れば、
それは、一目瞭然です。
★4月 27日の表参道での 「 平均律クラヴィーア曲集 」 講座の後、
参加者の方から、「 Alfred Cortotアルフレッド・コルトー
(1877~1962)の、校訂した Chopin 作品の fingering は、
Debussy 校訂版と、そっくりですね 」、
「 こういうアナリーゼの授業を若いころ、音大で受けたかったです」
という、感想をいただきました。
★Johann Sebastian Bach バッハ ( 1685~1750 )の、
「 平均律クラヴィーア曲集 」 は、大作曲家の、
Bartók Béla バルトーク (1881~1945) も、校訂版を出しています。
「 横浜みなとみらい 」 での講座では、 1巻 1番 前奏曲を、
バルトーク校訂版の指示どおりでも、弾きました。
Chopin版とは、大きく異なっています。
にもかかわらず、その両者は、 Bach そのものであり、
その違いは個性の違いである、という、
不思議な体験を、されたことと思います。
★ Bach の平均律クラヴィーア曲集を、弾くには、
自筆譜ファクシミリと、上記 2種類の校訂版があれば、
その他の楽譜は、必要ないかもしれません。
★ Wolfgang Amadeus Mozart
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756~1791) の、
pianosonata ピアノソナタ全集でしたら、
Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー (1886 ~ 1960) 版と、
バルトーク校訂版で、十分かもしれません。
ただ、これらの版は、大変に古いもので、
明らかな間違いは、散見されます。
それをもって、楽譜の価値を否定される方も、
いらっしゃるようですが、枝葉末節にこだわり、
本当の宝物の価値が、分からないのでしょう。
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