■ インヴェンション 8番 は、“ イタリア協奏曲 ” ■
2011.8.20 中村洋子
★ 8月 22日(月)は、横浜みなとみらい・カワイでの、
J.S.Bach (1685 ~ 1750) Inventionen und Sinfonien
バッハ 『 インヴェンション・アナリーゼ講座 』です。
今回は、「 インヴェンション & シンフォニア 8番 ヘ長調 」。
バッハの自筆譜を、詳細に点検しています。
★インヴェンションの他の曲では、左手が、
ほとんど バス記号( ヘ音記号 )で、記載されていますが、
この 8番のバッハ自筆譜は、 「 アルト記号 」 で、
書かれている部分が、とても多く、
異彩を、放っています。
★結論を申しますと、8番は、
≪ 協奏曲を鍵盤楽器で演奏する楽しさを、追求した曲 ≫ です。
生徒やお弟子さんが、オーケストラ作品に興味をもって欲しい、
という、バッハ先生の親心かもしれません。
★この 「 インヴェンション 8番 ヘ長調 」 が、10数年後の、
1735年、 「イタリア協奏曲」 として、結実するのです。
★下声の記譜を、具体的に見ますと、( 1小節目は全休符 )、
・2小節目 ~ 10小節目の 2拍目までアルト記号
( 8小節と 四分音符2拍分 )、
・10小節目 3拍目 ~ 17小節の終わりまでバス記号
( 7小節と 四分音符1拍分 )、
・18小節 ~ 21小節 2拍目までアルト記号
( 3小節と 四分音符2拍分 )、
・21小節 3拍目 ~ 26小節最後までが、バス記号
( 5小節と 四分音1拍分 )
・27小節 ~ 28小節最後まで、アルト記号 ( 2小節 )、
・29小節 ~ 34小節が、バス記号 ( 6小節 )。
★以上の 34小節のうち、およそ半分の 15小節 1拍分が、
「 アルト記号 」 です。
「 アルト記号 」 で書かれた理由は、
「 バス記号 」 で記載するには、音域が高すぎるため、
加線を、たくさん使わなければならないためです。
アルト記号( 1点ハ音が、第 3線 ) ですと、
五線譜の範囲内に、音符が納まります。
★バッハのインヴェンションで、
≪ 下声が、アルト記号で記譜されている ≫ とき、
それは、実は ≪ テノール声部 ≫ を、
意図していることが、多いのです。
★インヴェンションは、二段譜で書かれていますが、
決して二声ではなく、どんな場合でも、基本的には、
四声体で、書かれていると見なければ、なりません。
★インヴェンションを弾く際、
≪ いま、自分がどの声部を弾いているか ≫ 、
それを絶えず、意識していることは 必須です。
★インヴェンション 8番の下声は、例えば、
5小節目を 「 テノール声部 」 と見た場合、
「 2点ハ音 」 の repeated notes があり、
やや、音域が高すぎます。
★ 4小節目の上声( ソプラノ記号 )には、
「 3点ハ音 」の、repeated notes があり、
ソプラノ声部としても、やや音域が高すぎます。
バッハは、そこで、
≪ フルートやヴァイオリンを、意識していた ≫ のでしょう。
★11小節目の下声 3拍目も、バッハでお馴染みの、
通常の市販譜とは、異なる書き方です。
「 g 」 ( かたかな ト音 ) の符尾は、下向き、
1オクターブ下の「 G 」 ( ひらがな と音 ) の符尾は、上向き。
それをつなぐ鈎(こう)は、 g から G へと、
左下から、右上に斜線が、引かれています。
この書き方は、ブランデンブルク協奏曲の、
低弦楽器による、カデンツの前などで、よく見られます。
★ 「 インヴェンション 8番 」 は、四声体和声が基本ですが、
もう一つ別の、見方をすると、さらに、視界が開けてきます。
★ ≪ オーケストラの作品を、鍵盤楽器で模倣している ≫ と、
意識しますと、色々な声部が、どんな楽器に対応しているか、
それがはっきりと、見えてくるのです。
「 ピアノという 1台の鍵盤楽器で、オーケストラを演奏できる喜び 」
★ ≪ ピアニストなので、ピアノ曲以外には興味がない ≫
という態度は、残念ながら、
バッハを、ひいては西洋音楽を、十分には理解できません。
≪ ショパンしか興味がない ピアニス ト ≫ には、
本当のショパンは、弾けないのです。
★ 「 ブランデンブルク協奏曲 」 を聴くことは、勿論のこと、
8番 が結実した 「 イタリア協奏曲 」 も是非、
この視点で、取り組んでください。
オーケストラ作品が、どう鍵盤楽器に移して書かれているか、
大変に勉強になり、8番がより豊かな曲として、
再認識できます。
★「 イタリア協奏曲 」 の上声は、インヴェンションのように、
ソプラノ記号ではなく、 「 ト音記号 (ヴァイオリン記号) 」 で、
書かれているのも、大きなヒントとなります。
★22日の講座では、面白い体験をしていただきます。
私が 「 インヴェンション 8番 」 に、編曲にも似た、
ある細工、操作をし、それを、聴いていただきます。
まるで、コンチェルトを聴いているかのような、
錯覚に、とらわれるかもしれません。
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■ 2011年 8月22日 ( 月 ) 午前10時~12時30分
■ 会場 : カワイミュージックスクール みなとみらい
( 要予約 ) Tel.045-261-7323 横浜事務所
Tel.045-227-1051 みなとみらい直通
■講師:作曲家 中村 洋子 東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。
2003年~ 05年:アリオン音楽財団《東京の夏音楽祭》で新作を発表。
07年:自作品「無伴奏チェロ組曲第 1番」などをチェロの巨匠W.ベッチャー氏が演奏したCD『 W.ベッチャー日本を弾く』を発表。
08年:CD「龍笛&ピアノのためのデュオ」、CD ソプラノとギターの「 星の林に月の船 」を発表。
08~09年 :「 バッハのインヴェンション・アナリーゼ講座 」全15回を開催。
09年10月:「 無伴奏チェロ組曲第 2番 」が、W.ベッチャー氏により、ドイツ・マンハイムで初演される。
10年:「 無伴奏チェロ組曲第 1番 」が、ベルリンのリース&エルラー社 Ries &Erler Berlin から出版される。
CD『 無伴奏チェロ組曲第3番、2番 』 W.ベッチャー演奏を発表。
「 レーゲンボーゲン・チェロトリオス( 虹のチェロ三重奏曲集)」が、ドイツ・ドルトムントのハウケハック社Musikverlag Hauke Hack社から出版される。スイス、ドイツ、トルコの音楽祭で、自作品が演奏される。
10年1月より:バッハ・平均律クラヴィーア曲集第 1巻の全曲アナリーゼ講座を、カワイ表参道で開催中。
2011年 4月 :「 10 Duette fur 2 Violoncelli チェロ二重奏のため の 10の曲集 」が、 ドイツの「 Ries & Erler Berlin 、リース&エアラー社 」から出版される。
※copyright ©Yoko Nakamura
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