音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■シューマンは「予言の鳥」を、どのように演奏しながら作曲したか?■

2010-06-05 00:59:00 | ■私のアナリーゼ講座■
■シューマンは「予言の鳥」を、どのように演奏しながら作曲したか?■
               2010・6・5  中村洋子


★6月8日 (火) の、第5回カワイ表参道「平均律アナリーゼ講座」のため、

シューマンの「予言の鳥」を、直筆譜でじっくり勉強しています。

シューマンがどれだけ、バッハを深く学び、その結果として、

「予言の鳥」という傑作に、結実していったか、

それが、直筆譜を読み込むことで、

改めて確認でき、感動しています。


★シューマン ( 1810年6月8日~1856年7月29日 ) の、

ピアノ独奏曲のうち、傑作と呼ばれる作品群が、

その長くもない生涯のうちの、初期から中期の時期に、

集中していることから、

一部のピアニストの方々は、シューマンの後期の作品は、

初期中期と比べ、 " 天才的爆発力に欠けている "  とか、

" 創造力が枯渇していった " などと、

思い込んでいるようです。


★そのような誤解は、ピアノ作品のみに目を向け、

シューマンの他の作品への、勉強が欠けているからかもしれません。

例えば、クラシック音楽史上の最高傑作の一つといえる、晩年の

「チェロ・コンチェルト」 OP.129 (1850年作曲、54年出版)は、

「予言の鳥」のすこし後に書かれ、両者には、

深い相関関係が、あります。


★(余談ですが、1845年に作曲したピアノ独奏のための

「4つのフーガ」 Op. 72 =出版は1850年= は、

バッハとみまごうばかりのフーガ集で、

以前、G.フォーレ校訂の素晴らしい楽譜が、

デュラン社から、出版されていました)


★ピアノ作品として、「4つのフーガ」の次に書かれたのが、

「森の情景」 Op.82 (1848~49に作曲、出版は1850年)で、

その第 7番が「予言の鳥」です。


★この両曲集を、合わせて見ていくことにより、

バッハをどのように、吸収していったか、

それが、より確実に分かります。

この点については、講座で詳しくお話いたします。


★シューマンは、生前に多くの作品が出版されています。

バッハは、数少ない作品しか出版されていません。

シューマンの直筆譜を見る場合、その点を考慮する必要があります。

バッハは、出版を想定していないため、

直筆譜は、 実質的に、“ 出版して公表した楽譜 ”と、
  
見る必要が、あります。


★ショパンやシューマンは、確実に出版されることが、

分かっていたため、その直筆譜によって演奏されることは、

想定していません。


★このため、直筆譜は ≪ より本音に近い記譜 ≫が、なされています。

この事情は、ベートーヴェンも同じです。

それにより、彼らがどのように、演奏しながら作曲していったか、

あるいは、どのように、演奏してほしいと、思っていたか、

それが、よく分かってきます。


★一番、顕著な例は、スラーの位置です。

現在の実用譜では、スラーは、必ず、符頭から符頭へと、

掛けられていますが、シューマンやショパンは、必ずしも、

そのようには、スラーを付けていません。

決して、彼らが“投げやりな ” 書き方をした訳ではありません。

きちんと符頭から始めたり、終わったりしているものと、

そうではなく、意図的に、符頭からずらした位置に、

置いているものが、併存しています。


★その意味を読み込むためには、バッハを勉強し、それなりに、

音楽的力量がありませんと、難しいかもしれません。

( 「 ナショナル・エディション 」 と喧伝されている

「 エキエル校訂のショパンの楽譜 」 は、ショパンの意図を、

正しく読み込んでいないところが、多々見受けられます。

この点につきましては、以前のこのブログで、

実例を挙げておきました。)


★参考までに「 予言の鳥 」で、その一例を挙げます。

第 1小節目 4拍目の、上声のスラーは、

前打音 「 G 」 の少し前から始まり、

終わりは、4拍目の終わりの 「 Es 」では、

明確に閉じずに、空中にたなびいて、

あたかも舞っているかように、終わることがなく、

その次の小節線の近くまで、たなびいています。


★シューマンの記載したスラー通りに、演奏しますと、

大変に弾きやすく、納得させられます。

スラーの位置に限らず、このような実用譜との相違点は、

ほとんど、毎小節に見られます。

シューマンが書いたとおりに、虚心に弾いてみますと、

誰のレッスンを、受けることもなく、

「 素晴らしいシューマン 」 が、自然に弾けます。


★符尾の書き方も、バッハの筆跡と、とてもよく似ています。

それは、シューマンが、バッハの直筆譜をも研究したのか、

あるいは、天才同士が、同じような対位法による、

音の構築法をとりますと、記譜まで似てくるのか・・・、

不思議な、気持ちがします。


★平均律クラヴィーア曲集を、学ぶことにより、

シューマンが、より身近になる、ということを、

講座でお伝えしたいと、思います。

                ( シューマンのお誕生日を祝して:ピアノのケーキ )
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コメント (1)
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