■2声のインヴェンションを終了後、3声に入るべきか?、そして練習の曲順■
09.11.13 中村洋子
★きょうも、「山茶花(さざんか)梅雨」の、静かな一日でした。
日本には、雨の季節を表現する四つの季語が、あります。
春先の「菜種梅雨」、六月ごろの「梅雨」、夏の終わりから初秋の「秋雨」、
そして、秋の終わりを告げる「山茶花梅雨」です。
★カワイの表参道、名古屋での、アナリーゼ講座で、
皆さまから、寄せられましたご質問に、少しずつ、
お答えしていきたいと、思います。
今回は≪2声のインヴェンションを終了後、3声に入るべきか?≫、
そして、≪練習の曲順≫です。
★まず、このブログでも、よくご紹介しています以下の「4曲集」について、
成立事情と、含まれている曲を分析します。
●「アンナ・マグダレーナ・バッハのためのクラヴィーア小曲集」、
第1巻(1722年と25年の日付)は、フランス組曲1番~5番までの初稿と、
舞曲などが含まれ、第2巻(1725年以降、1742年ころまで)は、
有名な多数の舞曲や、コラール、
ゴルドベルク変奏曲の主題(アリア)などが、含まれています。
●「ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハのためのクラヴィーア小曲集」は、
1720年の日付が記され、「インヴェンション」や、
「平均律第1巻」前奏曲の初稿などを、多数、含んでいます。
●「インヴェンションとシンフォニア」は、1723年の日付。
●「平均律クラヴィーア曲集第1巻」は、1722年の日付。
★これを見ますと、バッハの意図が、自ずと、分かってきます。
従来は、メヌエットやポロネーズなどの舞曲を数曲、練習した後、
「インヴェンション2声」を全部終え、その後、
「3声シンフォニア」全曲を、終了し、それから、
やっと、「平均律クラヴィーア曲集」に辿り着く、
という、硬直したルートが、一般的でした。
以前、当ブログで、書きましたように、
「インヴェンション」で挫折した場合、「平均律クラヴィーア曲集」に、
一生、出会わないという「不幸」な結果に、なってしまいます。
★4曲集の位置づけを、明確にしておきたいと、思います。
「インヴェンション」と、「平均律クラヴィーア曲集」は、
「芸術作品」として、完成された曲集です。
バッハは、子供の教育や、アンナ・マグダレーナの楽しみ、
家庭の団欒のために、以下の2曲集、
「アンナ・マグダレーナ・バッハのためのクラヴィーア小曲集」と、
「ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハのためのクラヴィーア小曲集」を、
編みました。
★教育目的で書かれた、「フリーデマン曲集」を見てみますと、
そこには、≪「インヴェンションとシンフォニア」のほぼ全曲の初稿≫、
さらに、≪「平均律第1巻」前奏曲の初稿11曲≫まで、含まれています。
これだけで、「フリーデマン曲集」の3分の2を、占めています。
★「2声のインヴェンション」は、「フリーデマン曲集」では、
≪プレアンブルム Praeambulum =前奏曲≫という、
名称が、付けられています。
ということは、バッハは、上記の「平均律1巻の前奏曲11曲」と、
「インヴェンションやシンフォニア」を、ほぼ同じ≪難易度≫として、
フリーデマンを教育した、と思われます。
その際、平均律の前奏曲を、フーガと切り離して、
練習させていたことが、分かります。
★もうお分かりと思いますが、「インヴェンションとシンフォニア」
のレッスンを終了する前に、≪平均律の前奏曲≫も、
積極的に取り上げても、いいのです。
「フリーデマン曲集」の、残り3分の1を占める、コラールや舞曲を、
取り混ぜて練習し、バッハの幅広い世界を楽しんではいかがでしょうか。
★バッハは、≪「2声」を全部終えないと、「3声」にいくべきでない≫、
とは、決して、考えてはいなかった、と思います。
以前にも書きましたように、先生が、2声と3声をひっくるめて、
できるだけ、たくさんの「インヴェンションとシンフォニア」、
「平均律の前奏曲」を、生徒に弾いて聴かせ、
練習する曲を、生徒に自由に、選ばせてよいのです。
★12月4日の「インヴェンション・アナリーゼ講座」では、
「練習の曲順」について、「平均律の前奏曲」も含めて、具体的に、
ご提示したいと、思います。
★また、「フリーデマン曲集」と「アンナ・マグダレーナ曲集」には、
「平均律1巻」1番前奏曲の≪初稿≫と、≪第2稿≫が、入っています。
バッハが、この美しく、短い曲をどれだけ愛し、何度も推敲し、
家族に弾かせながら、 彫琢していったかが、よく分かります。
そして、この曲が、「平均律全曲集」の「礎」となったと、同時に、
「フリーデマン曲集」での、「前奏曲」だけを集める考え方が、
ショパンの「練習曲集」と、「前奏曲集」、
ドビュッシーの「前奏曲集」という、音楽史の大きな流れの、
源泉とも、なっていくのです。
★来年1月26日に始まります、カワイ・表参道での、
私の「平均律クラヴィーア曲集・アナリーゼ講座」では、
≪インヴェンションの練習途中でも、こんなに楽しく、平均律を弾ける≫、
ということを、具体的に、お話していきたいと思います。
★「アンナ・マグダレーナ曲集」のなかには、
あの有名な、「ゴルトベルク変奏曲」の、
「主題」である「アリア」の初稿も、含まれています。
バッハが、この曲をとても愛し、妻と楽しんでいたことも、十分想像できます。
ただし、「平均律」の、先ほどの前奏曲にしましても、
一見、慎ましく、優美な小品が、各々の大作の主題を成し、
根幹であることに、驚かされると同時に、
バッハは、常に、あまたの長いプロセスを経て、
初めて、最終稿に辿り着いた、という努力の跡も、浮び上がってきます。
★以上は、バッハの作品を、レッスンや家庭で楽しむ際、
あまり、肩肘を張らず、自由になさっていいという、私の考えです。
しかし、昨今のコンサートやコマーシャルで、ポピュラー曲と同じ扱いで、
上記のバッハの曲を扱われているのを聞きますと、悲しくなります。
バッハの有名な「無伴奏チェロ組曲」1番の、前奏曲だけを、
ポピュラー曲と並べて、リサイタルをしたり、
コマーシャルに使うのにも、違和感を禁じ得ません。
(色づき始めた楓:「手向山(たむけやま)」 )
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲
09.11.13 中村洋子
★きょうも、「山茶花(さざんか)梅雨」の、静かな一日でした。
日本には、雨の季節を表現する四つの季語が、あります。
春先の「菜種梅雨」、六月ごろの「梅雨」、夏の終わりから初秋の「秋雨」、
そして、秋の終わりを告げる「山茶花梅雨」です。
★カワイの表参道、名古屋での、アナリーゼ講座で、
皆さまから、寄せられましたご質問に、少しずつ、
お答えしていきたいと、思います。
今回は≪2声のインヴェンションを終了後、3声に入るべきか?≫、
そして、≪練習の曲順≫です。
★まず、このブログでも、よくご紹介しています以下の「4曲集」について、
成立事情と、含まれている曲を分析します。
●「アンナ・マグダレーナ・バッハのためのクラヴィーア小曲集」、
第1巻(1722年と25年の日付)は、フランス組曲1番~5番までの初稿と、
舞曲などが含まれ、第2巻(1725年以降、1742年ころまで)は、
有名な多数の舞曲や、コラール、
ゴルドベルク変奏曲の主題(アリア)などが、含まれています。
●「ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハのためのクラヴィーア小曲集」は、
1720年の日付が記され、「インヴェンション」や、
「平均律第1巻」前奏曲の初稿などを、多数、含んでいます。
●「インヴェンションとシンフォニア」は、1723年の日付。
●「平均律クラヴィーア曲集第1巻」は、1722年の日付。
★これを見ますと、バッハの意図が、自ずと、分かってきます。
従来は、メヌエットやポロネーズなどの舞曲を数曲、練習した後、
「インヴェンション2声」を全部終え、その後、
「3声シンフォニア」全曲を、終了し、それから、
やっと、「平均律クラヴィーア曲集」に辿り着く、
という、硬直したルートが、一般的でした。
以前、当ブログで、書きましたように、
「インヴェンション」で挫折した場合、「平均律クラヴィーア曲集」に、
一生、出会わないという「不幸」な結果に、なってしまいます。
★4曲集の位置づけを、明確にしておきたいと、思います。
「インヴェンション」と、「平均律クラヴィーア曲集」は、
「芸術作品」として、完成された曲集です。
バッハは、子供の教育や、アンナ・マグダレーナの楽しみ、
家庭の団欒のために、以下の2曲集、
「アンナ・マグダレーナ・バッハのためのクラヴィーア小曲集」と、
「ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハのためのクラヴィーア小曲集」を、
編みました。
★教育目的で書かれた、「フリーデマン曲集」を見てみますと、
そこには、≪「インヴェンションとシンフォニア」のほぼ全曲の初稿≫、
さらに、≪「平均律第1巻」前奏曲の初稿11曲≫まで、含まれています。
これだけで、「フリーデマン曲集」の3分の2を、占めています。
★「2声のインヴェンション」は、「フリーデマン曲集」では、
≪プレアンブルム Praeambulum =前奏曲≫という、
名称が、付けられています。
ということは、バッハは、上記の「平均律1巻の前奏曲11曲」と、
「インヴェンションやシンフォニア」を、ほぼ同じ≪難易度≫として、
フリーデマンを教育した、と思われます。
その際、平均律の前奏曲を、フーガと切り離して、
練習させていたことが、分かります。
★もうお分かりと思いますが、「インヴェンションとシンフォニア」
のレッスンを終了する前に、≪平均律の前奏曲≫も、
積極的に取り上げても、いいのです。
「フリーデマン曲集」の、残り3分の1を占める、コラールや舞曲を、
取り混ぜて練習し、バッハの幅広い世界を楽しんではいかがでしょうか。
★バッハは、≪「2声」を全部終えないと、「3声」にいくべきでない≫、
とは、決して、考えてはいなかった、と思います。
以前にも書きましたように、先生が、2声と3声をひっくるめて、
できるだけ、たくさんの「インヴェンションとシンフォニア」、
「平均律の前奏曲」を、生徒に弾いて聴かせ、
練習する曲を、生徒に自由に、選ばせてよいのです。
★12月4日の「インヴェンション・アナリーゼ講座」では、
「練習の曲順」について、「平均律の前奏曲」も含めて、具体的に、
ご提示したいと、思います。
★また、「フリーデマン曲集」と「アンナ・マグダレーナ曲集」には、
「平均律1巻」1番前奏曲の≪初稿≫と、≪第2稿≫が、入っています。
バッハが、この美しく、短い曲をどれだけ愛し、何度も推敲し、
家族に弾かせながら、 彫琢していったかが、よく分かります。
そして、この曲が、「平均律全曲集」の「礎」となったと、同時に、
「フリーデマン曲集」での、「前奏曲」だけを集める考え方が、
ショパンの「練習曲集」と、「前奏曲集」、
ドビュッシーの「前奏曲集」という、音楽史の大きな流れの、
源泉とも、なっていくのです。
★来年1月26日に始まります、カワイ・表参道での、
私の「平均律クラヴィーア曲集・アナリーゼ講座」では、
≪インヴェンションの練習途中でも、こんなに楽しく、平均律を弾ける≫、
ということを、具体的に、お話していきたいと思います。
★「アンナ・マグダレーナ曲集」のなかには、
あの有名な、「ゴルトベルク変奏曲」の、
「主題」である「アリア」の初稿も、含まれています。
バッハが、この曲をとても愛し、妻と楽しんでいたことも、十分想像できます。
ただし、「平均律」の、先ほどの前奏曲にしましても、
一見、慎ましく、優美な小品が、各々の大作の主題を成し、
根幹であることに、驚かされると同時に、
バッハは、常に、あまたの長いプロセスを経て、
初めて、最終稿に辿り着いた、という努力の跡も、浮び上がってきます。
★以上は、バッハの作品を、レッスンや家庭で楽しむ際、
あまり、肩肘を張らず、自由になさっていいという、私の考えです。
しかし、昨今のコンサートやコマーシャルで、ポピュラー曲と同じ扱いで、
上記のバッハの曲を扱われているのを聞きますと、悲しくなります。
バッハの有名な「無伴奏チェロ組曲」1番の、前奏曲だけを、
ポピュラー曲と並べて、リサイタルをしたり、
コマーシャルに使うのにも、違和感を禁じ得ません。
(色づき始めた楓:「手向山(たむけやま)」 )
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲