音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■インヴェンションの難易度と、ご質問へのお答え■

2009-11-06 23:57:59 | ■私のアナリーゼ講座■
■インヴェンションの難易度と、ご質問へのお答え■
                    09.11.6 中村洋子


★10月は、21日が名古屋、29日が表参道で、

「インヴェンション・アナリーゼ講座」を、開催いたしました。


★両講座で、お受けしました幾つかのご質問に、お答えいたします。

≪インヴェンション15曲(2声)を終わってから、

シンフォニア(3声)へと、進んだほうがいいのかどうか≫、

≪どういう順番で、レッスンをしたらいいのか、

難易度は、あるのかどうか・・・≫という質問です。


★1720年の日付がある

「フリーデマン・バッハのためのクラヴィーア小品集」に、

「インヴェンション&シンフォニア」の、

ほとんどの初稿が、入っています。

ここでのバッハの目的は、長男・フリーデマンに対する、

作曲技法の教育にあったことは、間違いありません



★1723年の日付がある「インヴェンション&シンフォニア」は、

この時点で、長男への教育という視点から、

さらに大きく、芸術作品へと、発展しているように、思えます。


★このため、この曲集は、鍵盤楽器の演奏技法を習得するうえでの、

「難易度」順には、全く書かれていません。

「フリーデマンバッハの曲集」も、インヴェンションとは、

別の配列ですが、これも、以前に、当ブログでご説明しましたように、

「難易度」とは無関係に、配置されています。


★「インヴェンション&シンフォニア」全30曲で、最も難しい曲は?

逆説的かもしれませんが、ずばり、≪2声のインヴェンション1番≫です。


★講座にご参加されました皆さまは、この私の説に、納得されると思います。

12月の講座は、最終回ですので、全曲を振り返り、

なぜ、「1番」が、そんなに難しいのか、お話いたします。

しかし、実際のレッスンで、何番から始めるか、

それは、大問題でしょう。


★私の方法は、次のようです。

先生が、なるべくたくさんのインヴェンションを、実際に、

心を込めて弾き、それを生徒に聴かせます。

もし、時間が足りないようでしたら、冒頭の数小節でも構いません。


★そして、生徒に、どれを弾きたいか、

その曲を、自分で選ばせるのです。

私の経験では、生徒が思いがけない曲を選んだことに、

驚いたことが、あります。

その理由をききますと、子供らしい直感に満ちた、

納得させられる答えが、あったことも多く、

そこで、インヴェンションについて、あるいは、バッハについて、

お話したり、バッハの他の作品を弾いたりします。

そして、レッスンがより、充実し、

確実に、バッハファンが増えます。

ということは、本当のクラシック音楽の理解者が生まれる、

ということです。


★これを実行するには、先生にも次のようなことが、

求められます。

バッハの大きな設計図、全30曲がどのような構想のもとで、

≪大きな一曲≫に成っているか、

各曲のアナリーゼ、特に、和声、対位法を理解し、

さらに、一番大切なこととして、

「バッハの音楽が大好きで、愛している」ということです。


★先生がもし、バッハを恐れている場合、

生徒は、敏感にそれを感じ取り、バッハを苦手としてしまいます。

生徒が選んだ曲のなかのパッセージや、モティーフが、

インヴェンションの他の曲のなかにも、たくさん、

散りばめられていることを、実際に弾きながら、

あっさりと、ご説明ください。

子供は、手品を見たように、喜ぶはずです。

その喜びが、興味につながります。


★そのようにすれば、何番から弾こうと、問題ないのです。

12月4日(金)の、「インヴェンション&シンフォニア15番」の

アナリーゼ講座では、バッハが考えた「全30曲の構成」を、

お話する予定です。

さらに、そこから導き出される、具体的な≪練習の曲順≫も、

いくつか、ご提案してみたいと、思います。


★「インヴェンション&シンフォニア15番」は、

この曲集の最後を飾るとともに、実は、平均律クラヴィーア曲集の、

1番、2番とも、密接な関係をもっています。


★極端な例かもしれませんが、インヴェンションやシンフォニアを、

全曲、レッスンし終える前に、平均律クラヴィーア曲集のうちの、

幾つかの曲に入ることも、十分に可能であると、

私は、思います。


★それについても、講座でお話いたしますが、

その利点は、インヴェンションが終わる前に、

生徒が、平均律クラヴィーア曲集の楽譜に、

触れることができる、ということなのです。


★いろいろな事情で、不幸にも、インヴェンションを練習し終える前に、

ピアノのレッスンそのものを、辞めてしまう、ということもあります。

しかし、平均律の楽譜が、家に在りさえすれば、

この類稀な、美しい曲に、触れることができるからです。

特に、≪インヴェンション≫は、「フリーデマンの小品集」では、

≪プレアンブルム(前奏曲)≫と、書かれていました。


★私の講座の受講者の方でも、「平均律は、難しいのでは・・・」と、

思われている方も、いらっしゃるようですが、

平均律のプレリュードだけでも、是非、弾いてみてください。

「難易度」は、シンフォニアと大差ない「宝石のような前奏曲」が、

ひしめいています。

その世界を、ご自分の指で、自分の楽器で味わうことができるのは、

どんなに、素晴らしいことでしょう。


★ショパンの、≪エチュード≫は、バッハの平均律クラヴィーア曲集の、

プレリュードの、全面的影響の下に、作曲されています。


★平均律クラヴィーア曲集は、前奏曲とフーガを、

セットで勉強しなくてはならない、という思い込みから、

ご自分を解き放ち、自由になり、平均律クラヴィーア曲集という

“大宇宙”を、少しでも味わってみる、というのが、

音楽を勉強する“醍醐味”ではないでしょうか。



★「難易度」の話に戻りますが、私にとっては、

≪インヴェンション1番≫と≪平均律クラヴィーア曲集1巻1番前奏曲≫が、

バッハ以降、250年間のクラシック音楽の、礎になった曲であることを、

思えば思うほど、“なんとも難しい曲である”と、思われてなりません。


★難易度は、その人その人にとって、すべて異なります。

答えになっていないと思われますが、その答えを見つけようする

努力が、一生続く音楽の勉強である、と思います。


               (名古屋・亀末広:茶三昧、山本隆博:漆器)
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする