音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■草津音楽祭で、私のピアノ三重奏が初演されました■

2008-09-12 00:23:31 | ■私の作品について■

■■草津音楽祭で、私のピアノ三重奏が初演されました■■
             08.9.11 中村洋子

★群馬県草津町で、毎年『草津国際音楽祭』が開かれておりますが、

8月28日の演奏会「ドイツクラシック音楽」で、

私の曲が、初演されました。


★演奏曲目は、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第7番
作品30-2 サシコ・ガブリロフ(Vl)、フェレンツ・ボーグナー(Pf)

ベートーヴェンのチェロ・ソナタ 第5番 作品102-2
 ヴォルフガング・ベッチャー(Vc)、ボーグナー(Pf)

ベートーヴェンのピアノ三重奏曲 第6番 作品70-2
 ガブリロフ、ベッチャー、ボーグナー


★そして、アンコールとして、私の作品「荒城の月幻想」の

ピアノ三重奏版が、演奏されました。

実は、この三重奏版は、ベッチャー先生から、

演奏会の一週間前に、ご依頼されました。

チェロとピアノの二重奏版は、「ベッチャー日本を弾く」のCDに

録音されています。


★三重奏版では、ベッチャー先生のアイデアを入れました。

曲の後半は、主題から離れて完全4度のモティーフを

自由に展開して作曲していますが、

ここで、ヴァイオリンとチェロの対位法的処理と、

ヴァイオリンとチェロのユニゾンを使いました。

ベッチャー先生が、「ユニゾン」を提案されたとき、
 
「2オクターブはいかがでしょうか」と答えましたら、

先生も私も「Oh、ラヴェルのピアノトリオ」とおもわず、

同じ言葉が、口に衝いて出てきました。


★ラヴェルのピアノトリオでは、同じメロディーを、

2オクターブ離して奏するところがありますが、

これが、透明で懐かしい「ラヴェル・トーン」の

要素になっているのです。

この2オクターブを使うことにより、

弦楽四重奏のように、各楽器が調和して

ひとつの響きを作るのではなく、各楽器が独立して

その声部を明確にするという働きがあります。


★ピアノトリオという形式が、

“名人3人による形式にふさわしい”と言われる所以です。

ピアティゴルスキー、ハイフェッツ、ルービンシュタインの

「100万ドルトリオ」に見られるように、

火の出るような名人芸を発揮する半面、

各奏者間の関係が、非常にスリリングで危険すら伴う状況に

陥ることもあるのです。


★今回、3人のマエストロは、友情で結ばれ、お互いの尊敬に満ち、

とても和やかな雰囲気でした。

作品完成後、3人のマエストロによる

初見のリハーサルに、立ち会いました。

正直に申しまして、演奏していただく嬉しさより、

あまりに質の高い演奏に接し、世界の壁がいかに厚く高いか、

言葉を失うほど、圧倒されました。


★特に、この曲は、譜面上はとてもシンプルに見えますが、

非常に演奏は、高い技量を求められます。

ピアノの「箏」を模した32分音符の表現は、日本人でもなかなか困難です。

ボーグナー先生に、たった一言「ここは、日本の箏です」と申しましたら、

「よく分かる、故郷のハンガリーにも、同じ様な楽器があります、

弦が震えるような弾き方ですね」とおっしゃり、即座に、

溜息がでるほど繊細で、作曲家の意図を見抜いた演奏をされました。

“日本的な曲だから、日本人が弾ける”という訳ではないことが、

これほど、見事に証明されたのを、目の当たりにしたのは初めてです。


★ガブリロフ先生の、哀切で、しかし決して格調を失わない演奏も

特筆すべきものでした。

特に高い音域を、これだけ艶やかで、伸び伸びとした音で

聴いたのは初めてです。

ガブリロフ、ベッチャー両先生が、唯一、念入りに合わせた所は、

6度の重音で、両者が同じメロディーで動いていくところでした。

この6度音程の美しさといったら、ピアノで作られる平均律の6度ではない、

澄んだ秋の空のような音程でした。


★この演奏会には、天皇皇后両陛下もご出席の予定でしたが、

アフガニスタンでのNGO殺害を悼み、急遽、喪に服すため、

出席をキャンセルされました。

とても残念でしたが、アンコール後、

Hildegard Behrens ヒルデガルト・ベーレンス先生が、

わざわざ 「 I was so moved 」 と、祝福しに来てくださいました。

さらに、ベーレンス先生は「あなたの曲が終わったあと、

聴衆は暫く沈黙していました。それから、拍手がわき上がりましたね、

皆さん本当に感動していたのです。

あの曲は、私の心の中にも深く残りました」と、おっしゃいました。

ガブリロフ、ボーグナーの両先生からも、

「シェーン(美しい)」と評価していただきました。



▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする