■■草津音楽祭で、私のピアノ三重奏が初演されました■■
08.9.11 中村洋子
★群馬県草津町で、毎年『草津国際音楽祭』が開かれておりますが、
8月28日の演奏会「ドイツクラシック音楽」で、
私の曲が、初演されました。
★演奏曲目は、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第7番
作品30-2 サシコ・ガブリロフ(Vl)、フェレンツ・ボーグナー(Pf)
ベートーヴェンのチェロ・ソナタ 第5番 作品102-2
ヴォルフガング・ベッチャー(Vc)、ボーグナー(Pf)
ベートーヴェンのピアノ三重奏曲 第6番 作品70-2
ガブリロフ、ベッチャー、ボーグナー
★そして、アンコールとして、私の作品「荒城の月幻想」の
ピアノ三重奏版が、演奏されました。
実は、この三重奏版は、ベッチャー先生から、
演奏会の一週間前に、ご依頼されました。
チェロとピアノの二重奏版は、「ベッチャー日本を弾く」のCDに
録音されています。
★三重奏版では、ベッチャー先生のアイデアを入れました。
曲の後半は、主題から離れて完全4度のモティーフを
自由に展開して作曲していますが、
ここで、ヴァイオリンとチェロの対位法的処理と、
ヴァイオリンとチェロのユニゾンを使いました。
ベッチャー先生が、「ユニゾン」を提案されたとき、
「2オクターブはいかがでしょうか」と答えましたら、
先生も私も「Oh、ラヴェルのピアノトリオ」とおもわず、
同じ言葉が、口に衝いて出てきました。
★ラヴェルのピアノトリオでは、同じメロディーを、
2オクターブ離して奏するところがありますが、
これが、透明で懐かしい「ラヴェル・トーン」の
要素になっているのです。
この2オクターブを使うことにより、
弦楽四重奏のように、各楽器が調和して
ひとつの響きを作るのではなく、各楽器が独立して
その声部を明確にするという働きがあります。
★ピアノトリオという形式が、
“名人3人による形式にふさわしい”と言われる所以です。
ピアティゴルスキー、ハイフェッツ、ルービンシュタインの
「100万ドルトリオ」に見られるように、
火の出るような名人芸を発揮する半面、
各奏者間の関係が、非常にスリリングで危険すら伴う状況に
陥ることもあるのです。
★今回、3人のマエストロは、友情で結ばれ、お互いの尊敬に満ち、
とても和やかな雰囲気でした。
作品完成後、3人のマエストロによる
初見のリハーサルに、立ち会いました。
正直に申しまして、演奏していただく嬉しさより、
あまりに質の高い演奏に接し、世界の壁がいかに厚く高いか、
言葉を失うほど、圧倒されました。
★特に、この曲は、譜面上はとてもシンプルに見えますが、
非常に演奏は、高い技量を求められます。
ピアノの「箏」を模した32分音符の表現は、日本人でもなかなか困難です。
ボーグナー先生に、たった一言「ここは、日本の箏です」と申しましたら、
「よく分かる、故郷のハンガリーにも、同じ様な楽器があります、
弦が震えるような弾き方ですね」とおっしゃり、即座に、
溜息がでるほど繊細で、作曲家の意図を見抜いた演奏をされました。
“日本的な曲だから、日本人が弾ける”という訳ではないことが、
これほど、見事に証明されたのを、目の当たりにしたのは初めてです。
★ガブリロフ先生の、哀切で、しかし決して格調を失わない演奏も
特筆すべきものでした。
特に高い音域を、これだけ艶やかで、伸び伸びとした音で
聴いたのは初めてです。
ガブリロフ、ベッチャー両先生が、唯一、念入りに合わせた所は、
6度の重音で、両者が同じメロディーで動いていくところでした。
この6度音程の美しさといったら、ピアノで作られる平均律の6度ではない、
澄んだ秋の空のような音程でした。
★この演奏会には、天皇皇后両陛下もご出席の予定でしたが、
アフガニスタンでのNGO殺害を悼み、急遽、喪に服すため、
出席をキャンセルされました。
とても残念でしたが、アンコール後、
Hildegard Behrens ヒルデガルト・ベーレンス先生が、
わざわざ 「 I was so moved 」 と、祝福しに来てくださいました。
さらに、ベーレンス先生は「あなたの曲が終わったあと、
聴衆は暫く沈黙していました。それから、拍手がわき上がりましたね、
皆さん本当に感動していたのです。
あの曲は、私の心の中にも深く残りました」と、おっしゃいました。
ガブリロフ、ボーグナーの両先生からも、
「シェーン(美しい)」と評価していただきました。
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