写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

大連風景

2004年12月29日 | 旅・スポット・行事
 今年の春、一度は行って見たいと思っていた、生まれ故郷の満州・大連に行った時の話である。

 父母から聞いていた通りの、広い電車通り・アカシヤ並木・レンガ作りの家並み・引き揚げた港を見ることが出来た。

 街を歩いてみると圧倒的に若い人が多く、雑踏の商店街では甲高い声が飛び交っている。高度成長を続けている13億人の熱い活力を肌で感じることが出来た。
 
 何よりも印象に残っていることは、歩いている人々の動きである。男女を問わず、視線は高く、腕を大きく振り、胸を張って大股でゆったりと歩いている。

 行けども行けども果てしない大地を、悠久の時の中で、進むべき未来をしっかり見据えて歩いているようにも見えた。

 私のようにこせこせしていなく、いかにも大陸的な光景であった。
   (写真は、大連の公園)

柱時計

2004年12月29日 | 生活・ニュース
 ある日、公園で開催されたフリーマーケットに行った。私のお目当ては、古い柱時計であるが、品数は少なかった。

 とある店で、箱の一部が欠けた埃だらけのものに、2500円と値が付けられていた。動くことを確認し、2000円にまけてもらった。

 大事に持ち帰り、早速、壊れている外箱を修理し、ペーパーをかけてニスを塗った。機械もばらして油を差した。

 ねじを巻いてダイニングの壁にかけると、不整脈もなくカチカチと規則正しい心音を響かせる。ボーンボーンと時も打ち見事蘇ってくれた。

 おとなしく、無口でまじめなクオーツ時計と違い、週に一度はネジを巻かなければ動いてくれない。進んだり遅れたりと世話を焼かせるが、今や我が家の時の支配人にのし上がった。

 そう言えば、この家の誰かさんも、週に一度くらいネジを巻かないと、簡単には動いてくれないと言われている。その人は、この家の被支配人に成り下がってはいるが結構頑張っている。と思う。 
   (写真は、蘇った柱時計)

とことん青空

2004年12月28日 | 季節・自然・植物
 今日は、今年最後のテニスの日だった。

 この一年、よくもまあやったものだ。毎週火曜はOBと、土曜はOB・現役入り乱れての、午前中3時間の死闘であった。

 勝っても負けても報酬は同じ。身体と心の健康、それと明日への活力を頂ける。これがあるから一週間にメリハリが出来る。

 皆の都合が付かず、3人しか来ない日もあった。変則で、シングルス・ダブルスと名付けた変な試合で汗をかいた。

 極め付きは、2人しか来ない日があったことだ。さすがに、2時間もやるとくたくたになり、無言で別れ家路に着いた。

 「とことんテニス」と銘打って、一日中監禁されてプレーしたこともあった。日ごろ体力を温存している分、OBの方が優勢な感がしないでもなかった。

 今日、遊び収めの手締めをして空を仰ぐと、雲ひとつない冬暖かな青空が、毛の薄い頭の上いっぱいに広がっていた。
   (写真は、色紙ではなく青空)

淡墨桜

2004年12月28日 | 旅・スポット・行事
 テニスのあと、郊外のレストランで昼食をとっての帰り道、国道をはずれ、通ったことのない山沿いの小道に入ってみた。

 この辺りだとは聞いていたが、岩国に住んでいながら、定かには知らなかった。

 辺りを窺いながらゆっくり走っていると、古い家並みの一軒の表札に「宇野千代」と書いてある。傍に「生誕の家」と札が立っている。

路地に車を止めて降りた。板塀越しに、南向きの広い庭を覗いてみた。すっかり葉を落とした紅葉の木の間に「淡墨桜」と札のかかった木が2本ひっそりと立っている。
 
 一重の淡白色の花が咲き、満開を過ぎると、淡墨をかけたようなやや暗い色感になるところから名づけられたと聞く。

 寒いこの時期、訪れる人もいない静かな庭には、宇野千代の奔放で華麗な男性遍歴をうかがい知るようなものは、何もない。
   (写真は、宇野千代の生家) 

脱ぎ忘れ

2004年12月28日 | 生活・ニュース
 朝、着替えをしながらトーストを食べ、慌しく出勤した。会社のロッカーで、いつものように作業着に着替えた。

 車から自転車に乗り換え、500m先の構内事務所に向かった。風のある少し冷たい朝だった。前かがみになってペダルをこいでいた。

 目を落とすと、作業ズボンの裾から、何か白っぽいものが見え隠れする。よく見るとパジャマのようだ。直ぐに自転車を降りて、見えないように折り曲げた。
 
 ロッカーで着替えたときには気がつかなかった。事務所に着くや、会議室に隠れ、そそくさと生暖かいパジャマを脱いで丸めた。
 
 家庭のことを、厳に会社に持ち込まない主義であったが、一番家庭的なものを持ち込んでしまった。こっぱずかしい、若き日の朝だった。

 歳をとると、脱ぎ忘れではなく、はき忘れしないように注意しよう。ズボンもはかずに街に出ては、見るほうが恥ずかしくなるだろうから。