写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

正月準備

2013年12月30日 | 季節・自然・植物

 28日、急きょ孫が駆けつけてきて餅をついたが、こんな年末でさえも塾があるといって、その晩に帰って行った。翌日の朝はことのほか寒かった。玄関アプローチに置いている水がめには厚さ1cmもの初氷が張っていた。庭に下りてみると、サクッサクッと小気味よい小さな音が靴底から聞こえてきた。霜柱だ。正月を前に、冬本番を迎えようとしている。

 その夜、そろそろ寝ようかと思っている11時過ぎ、「カッチ、カッチ」と拍子木を打つ音が、通りに面した窓から聞こえてきた。毎年ことながら、年の瀬の3日間、地区の消防団員が回ってくれる。外に出て感謝の言葉のひとつもかけようと思う内に、次に聞こえる拍子木の音はすでに遠い。

 晦日の今日、買ってきていた「安芸地方のしめ縄」を飾ろうとして袋から取り出すと、由来を書いた紙が出てきた。「大中小の輪からなり、大の輪は親の代、中の輪は子の代、小の輪は孫の代に相当し、代々の繁栄や、無病息災を願ったもの。付属しているものの内、橙(ダイダイ)は一家の繁栄と、家督を親子代々受け継ぐという意味。ウラジロは、裏の白い方を表に出して飾り、表裏のない真っ白い人間になるように。

 ユズリハ巻きは、ユズリハの中に松と藪柑子(ヤブコウジ)を包んだものを、しめ縄の首につける。ユズリハは春になると葉を落とし新しい葉に入れ換わるため、代が替わるという意味。松は末代まで栄えるという意味。藪柑子は、赤い実をつけて縁起の良いものとして、南天(難を転ずる)と共に使われていたが、藪柑子の方が地下茎で繁殖し勢力旺盛であるため、その地に根を張るという意味でよく用いられている」と書いてある。

 読んだ後、もう一度じっくりとしめ縄を眺めてみた。毎年これといった努力はしなくても、このしめ縄を飾りさえすれば、私の一代だけでなく孫子の代まで、ずっと栄え続けるような気がしていた。いやいや、そんなことはあるまい。子子孫孫までの弥栄は、今を生きている我々がまく種しだいに違いない。心して新しい年は、これまで以上に真摯に生きていきたいと、しめ縄をぎゅっと握りしめて玄関の上に飾り付けた。

 ♪ もういくつ寝ると お正月~~ ♪  みなさん 良いお年を 元気でお迎えください。


「くるとん」掲載

2013年12月26日 | エッセイ・本・映画・音楽・絵画

 先月の末、岩国エッセイサロンについて、地域情報雑誌「くるとん」の取材を受けた。2014年1、2月号に掲載されるという。朝から所用で出かけていて夕方帰って来たとき、郵便受けに発売されたその本が出版社から届けられていた。

 「雑誌 くるとん 特集 夢の花咲く町  室の木」と、表紙に大きな文字で書いてある。部屋に入り、ページをめくって読んでみた。「室の木」といっても結構広い。1000所帯くらいあるだろうか。長い間この町に住んでいて何でも知っているように思っていたが、まだ知らないことがあったり、ユニークな活動をしている人がいることを知った。

 障がい者の就労継続支援施設で、がんばっている若い人たち、住宅地の一角で病気をのりこえてパン屋さんを開いているお母さん、奇跡的に体調改善が図られた女性を指導したフィットネスやヨガのスタジオ、保健センターで離乳食教室を担当している栄養士の女性など、それぞれが仕事とはいいながら人の役に立ち、頼られる存在になっている姿が写真入りで紹介されている。

 ページをめくっていくと、見たことのある6人の笑顔の写真が出てきた。岩国エッセイサロンを紹介した記事である。2ページにわたる長い文章を読んでみた。

 まずは記事のタイトル。「暮らしを謳歌する投稿  新聞投稿の同好会・岩国エッセイサロン」とある。新聞に投稿するなんて堅物なご意見番か暗い人たちかと思ったが、わいわいがやがや、笑いありの楽しい雰囲気はまさに大学のサークルのようである、との会の評価になっているが、これはまあ的を射ている。

 集まった会員がこの同好会に入会した動機などが、それぞれ忠実に書いてある。最後に編集長がいいことを書いてくれていた。「今まで新聞の投稿欄など読んだことがなかったが、会員に出会ってからというもの、原稿書きに詰まると、投稿欄を開いて見るようになった。短い投稿エッセイを読んで驚いたり、共感したり、クスッと笑ったり、涙ぐんだり……」と。

 エッセイを書いて投稿するという活動は、まさにこの編集長が書いている通り、読む人に自分の思いを伝えたいという一心からである。今回の取材で、それを分かってもらえる人が確実に1人増えたということが大きな成果となった。この雑誌を読んだ人の中からも、そんな人が出てくれれば嬉しいと思いながら、もう一度この記事を読み返している。


年の瀬

2013年12月24日 | 季節・自然・植物

 今年も年の瀬となり、いよいよ押し詰まってきた。12月も半ばを過ぎると、この「押し詰まり感」、「切迫感」が強くなってくる。12月24日といえば、1年でいえば98%が過ぎた時点である。残り2%の鐘の音を聞くと、競輪の選手ならずとも慌ただしく駆け回る習性があるようだ。

 本来「瀬」とは「淵」の対義語で、歩いて渡れるほど浅いところを「瀬」と呼ぶ。また、川は浅いところほど流れが急なので、急流の意味もある。そこから転じて「立つ瀬がない」「浮かぶ瀬」「逢瀬」などと、場所、立場、拠り所、場合、機会の意味で「瀬」という言葉が使われるようにもなった。さらに、最後の拠り所ということを指す意味の「瀬」から、1年の最後を「年の瀬」と呼ぶようになったという。

 今年は年賀状も早々に書き終え投函した。早すぎたせいか、その後にも喪中欠礼の挨拶状が数通届いた。調べてみると、喪中のお宅に年賀状を出すことは、あながち失礼なことではないと書いてある。とはいえ、まだ悲しみが癒えていない内に、おめでたい年賀状が届くのは、やはりはばかれる。そんなことにはか拘わらず、出した賀状は先方に届けられる。

 昨年のこの時季、中庭のケヤキに巻き付けておいたイルミネーションを、11月の半ばから点滅させていたが、今年は例年になく12月に入っても葉が茂っていて灯りが見えにくくなっていた。何度か吹いた木枯らしのお陰でやっと葉が落ち、イルミネーションのきらめきを外から楽しめるようになっている。

 
光り輝く灯りを見ると、何がしかの元気が出てくる。そんな今日は、クリスマスイブ。これを書いているとき、ラジオから ♪  きっと君は来ない ひとりきりの クリスマス・イブ…… ♪ と、山下達郎の切ない声が聞こえてきた。青春時代、彼女と待ち合わせるようなことも、こんな歌もなかったクリスマス・イブをチラッと思い出す。

 穏やかな天気の今朝、墓参りも終えた。慌ただしく心せく季節であるが、来年に何の根拠も拠り所もない期待を込めながら、私の好きな年の瀬がいつものように過ぎていく。


サンキライ

2013年12月21日 | 季節・自然・植物

 夕方、薄暗くなりかけたころ、散歩途中で知り合った男性・Kさんが立ち寄ってくれた。見るとリュックを背負い、登山靴を履きストックまで持っていて、まさに山登りのスタイルである。片手には、ぐるぐると丸く輪にしたツルを握っている。

 「これいりませんか。よろしかったらどうぞ。トゲがあるから痛いですよ。気をつけて下さい」といいながら輪にしたものをくれた。見覚えのあるサルトリイバラのツルには、沢山の赤い実が飾りのようについている。

 Kさんは60数歳で、精悍な風貌の山男。現役時代にすでに、日本百名山を踏破した実績のある登山家でもある。体力を維持するために、夕方からでも岩国山や平家山など近くの山に、ウエイトを詰めたリュックを背負って体力作りやトレーニングに余念がない。

 その夕は、そんな途中で見つけたサルトリイバラを3本輪にして、クリスマスリースを作ってプレゼントしに来てくれたものであった。サルトリイバラは猿捕茨と書き、葉は円形で光沢があり、別名をサンキライ(山帰来)という。子どもの頃、母はこの葉を使ってサンキラ餅だと呼ぶ柏餅を作ってくれていたことを思い出す。

 Kさんが帰った後、皮手袋を持ち出して、単に丸めてあるだけのリースの形を私流に整えてみた。野にあれば、それほど目を引くほどのこともないサルトリイバラの赤い実が、リースにすると丸くつながって華やかなイルミネーションにも引けを取らないほどになった。

 早速今まで掛けてあった色あせたリースを下ろして掛け替えた。そういえば、昨年もこの時季、Kさんは同じようなものを持ってきてくれた。おかげで毎年、我が家はユニークなクリスマスリ-スを飾ることが出来ている。年の瀬の心慌ただしい中にあって、手作りのサルトリイバラのリースを眺めながら、幼いころ蒸篭でサンキラ餅を作ってくれた母の割烹着姿を思い出していた。


雑誌取材

2013年12月20日 | 生活・ニュース

 11月の昼過ぎ、パソコンで遊んでいるとき、チャイムが鳴った。出てみると、男性が2人、若い女性が1人立っていた。「雑誌 くるとんの者です。今日はこの辺りのことについて記事にするネタを探して歩いているところですが……」といって切り出した。

 たまたまわが家の前を通りかかり、ポストに貼ってある「岩国検定事務局」という掲示を見て、何かいい話が聞けるのではと思って訪ねてくれたものであった。「雑誌 くるとん」という本が定期刊行されていることは知っている。どこかに置いてあるものを手にとって読んだこともある。

 3人を応接間に招き入れて話を聞いた。改めて「雑誌 くるとん」とは何かを聞いてみた。「小さな楽しみ見つけるマガジンをコンセプトに、岩国近隣地域を盛り上げる月刊情報の誌で、『くるとん』とは、スープに浮かぶパンのカケラのこと。 小さくて飾りのようだけど、あるとワクワクする。そんな小さな楽しみを見つけて、あなたを幸せにする雑誌」。

 「岩国市を中心に大竹~周防大島・柳井地域の読者が対象で、日帰りで楽しめるコト(旅・人物・趣味・スポーツ・味・癒し等)を伝える。有名・メジャー・デッカイではなく、小さい・可愛い・知らないを見つけ、記者や体験者の個人的な視点や想い、ココロを大切にする。無料でサークル・クラブ・教室・イベント等の情報を載せる雑誌」だという。

 創刊は2007年4月、奇数月の1日に発行しており、現在37号を販売中。過去毎回、岩国市内の町を一つずつ取り上げて、その町に住むユニークな人や店や活動を紹介している。38号となる2014年1、2月号では、私の住んでいる「室の木」を取り上げるという。そのためのネタ探しであることを知った。

 ポストには怪しげな看板が、玄関や応接室の飾り棚にはさまざまな手作りの小さな置物が置いてある。それらを見て「茅野さんは一体なにをしている人なんですか?」と問われた。暇にまかせていろいろ雑談したが、中でも「岩国エッセイサロン」を開設していることに興味を持ってくれた。後日、数人の会員を集めた上で、取材してもらうことを約束してその日は終わった。

 1週間後、わが家に会員6人が集まって取材を受けた。さて、どんな記事となって紹介されることか。本は12月末に発売されるという。慌ただしい年の瀬、何かを待つという楽しみが一つ増えた。